ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症

執筆者:Edward R. Cachay, MD, MAS, University of California, San Diego School of Medicine
レビュー/改訂 2021年 4月
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やさしくわかる病気事典

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症とは、ある種の白血球を次第に破壊し、後天性免疫不全症候群(エイズ)を引き起こすことのあるウイルス感染症です。

  • HIVは、ウイルスやウイルスに感染した細胞を含む体液(血液、精液、腟分泌液)と濃厚に接触することで感染します。

  • HIVはある種の白血球を破壊し、感染症やがんに対する体の防御機能を低下させます。

  • 初感染時には、発熱、発疹、リンパ節の腫れ、疲労といった症状が数日から数週間続くことがあります。

  • 感染して10年以上経っても発病しない人もたくさんいます。

  • 未治療の患者の半数ほどが、約10年以内に体調を崩しエイズを発症します(エイズの発症は重篤な感染症やがんの発生により定義されます)。

  • 治療しなければ、最終的にほとんどの人がエイズを発症します。

  • 診断の確定は、HIVの抗体とHIVのウイルス自体の量を調べる血液検査により可能です。

  • HIV治療薬(抗レトロウイルス薬)は、2つ、3つ、または4つ以上の薬を組み合わせて使用します。それらの薬は、HIVの増殖を防ぎ、免疫系の機能を強化して感染症にかかりにくくしますが、不活性状態で潜伏しているHIVを根絶することはできません。

小児におけるHIV感染症も参照のこと。)

HIV感染症を引き起こすのは、2種類のレトロウイルス(HIV-1とHIV-2)のいずれかです。世界的には、HIV-1がほとんどのHIV感染症の原因になっているのに対し、西アフリカではHIV-2が多くのHIV感染症の原因となっています。

レトロウイルスとは

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)はレトロウイルスの一種で、他の多くのウイルスと同様に、遺伝情報をDNA(他の大半の生物はDNAを利用します)としてではなく、RNAとして蓄えています。

HIVが人の細胞に侵入すると、RNAを放出し、逆転写酵素と呼ばれる酵素により、HIVのRNAからDNAの複製を作ります。こうしてできたHIVのDNAは、感染した細胞のDNAに組み込まれます。この過程は、人の細胞が利用する、DNAからRNAの複製を作るものとは逆のものです。このためにHIVは、この逆向きの過程を指して、レトロウイルスと呼ばれています。

ポリオウイルス、インフルエンザウイルス、はしか(麻疹)ウイルスといった他のRNAウイルスは、レトロウイルスとは異なり、細胞に侵入した後にDNAの複製を作ることはありません。これらのウイルスは、単に元のRNAからRNAの複製を作るだけです。

HIVが感染した細胞では、細胞分裂が起きるたびに、細胞自身のDNAに加えて、組み込まれたHIVのDNAも新たに複製されます。HIVのDNAの複製は以下のいずれかの状態になります。

  • 不活性(潜伏)状態:ウイルスは存在しますが、害を及ぼしません。

  • 活性化状態:ウイルスが感染細胞の機能を支配し、HIVの新たな複製を大量に作って放出させ、それらが他の細胞に侵入していきます。

HIVは、CD4+陽性リンパ球と呼ばれる特定の白血球を徐々に破壊します。リンパ球は、体外から侵入してきた細胞や感染性微生物、がんなどから体を守っています。このため、HIVによりCD4+陽性リンパ球が破壊されると、他の多くの感染性微生物による攻撃を受けやすくなります。死に至ることもあるHIV感染症の合併症の多くは通常、HIVの感染自体ではなく、それ以外の病原体の感染によって生じます。

HIV-1の出現は、20世紀前半に中央アフリカで、チンパンジーにみられる近縁種のウイルスが初めて人間に感染したときにさかのぼります。HIV-1は1970年代後半に世界的に拡大し、エイズが初めて発見されたのは1981年のことです。

2019年時点で、全世界のHIV感染者数は約3800万人で、そのうち180万人は15歳未満の小児でした。全世界でのエイズ関連疾患による死亡者数は、2004年には190万人、2010年には140万人であったのに対して、2019年は約690,000人でした。HIVの新規感染者数は、1996年には340万人であったのに対して、2019年は約170万人で、そのうち150,000人が小児でした。

大半の感染(86%)が発展途上国で発生していて、半数以上がサハラ以南アフリカの女性です。しかし、サハラ以南アフリカの多くの国では、治療と予防戦略を提供する国際的な取り組みの効果もあって、新規HIV感染数が大幅に減少しました。

2018年の米国では、13歳以上の121万人以上の人々がHIVに感染していると推定されました。そのうち14%は自分がHIVに感染していることを把握していません。2018年の感染者数は、2008年と比べて22%、2014年と比べて7%減少していました。それらの新規症例の3分の2以上が男性と性行為をする男性で発生しています。それらの男性の中では、黒人/アフリカ系アメリカ人男性での発生が最も多く(9400人)、ヒスパニック/ラテン系の男性(8000人)と白人男性(5700人)がそれに続いています。

後天性免疫不全症候群(エイズ)

エイズとは、HIVによる感染症が最も重症化した病態のことです。HIV感染症は、重篤な合併症が少なくとも1つ生じたり、CD4陽性リンパ球数が大きく減少した場合にエイズとみなされます。

HIVに感染している人が特定の病気になると、エイズと診断されます。こうした病気はエイズ指標疾患と呼ばれ、具体的には以下のものがあります。

HIVの感染経路

HIVは、HIVのウイルスやHIVに感染した細胞を含む体液に触れない限り、感染しません。HIVは、ほぼあらゆる体液中に存在しますが、感染が起こるのは主に血液、精液、腟分泌液、母乳を通じてです。涙、尿、唾液(だえき)の中にも少量のHIVが含まれていることがありますが、これらの体液から感染することは、あるとしても非常にまれです。

HIVは職場、学校、家庭で、触ったり、抱き合ったり、軽いキスをするなどの軽い接触では感染することはなく、密接な接触でも、性的なものでなければ感染は起こりません。感染者のせきやくしゃみから、または蚊に刺されてHIVに感染した例は報告されていません。感染した医師や歯科医師から患者が感染するケースも極めてまれです。

通常のHIVの感染経路には以下のものがあります。

  • 感染者との性的接触(無防備な性交中などに、口、腟、陰茎、直腸の粘膜にHIVを含んだ精液や腟分泌液などの体液が付着する場合)

  • 汚染された血液の注射(注射針の共用や、医療従事者がHIVで汚染された注射針を誤って刺してしまう事故などで発生)

  • 感染した母親から子への感染(出産前や分娩中、または出産後に母乳を通じて発生)

  • 医学的処置(HIVを含む血液の輸血、滅菌が不十分な器具を用いた処置、感染した臓器や組織の移植など)

ごく小さなものであっても、皮膚や粘膜に裂傷や損傷があると、HIV感染の可能性が高まります。

米国、欧州、オーストラリアでは、HIVは主に男性と性行為をする男性や注射針の共用(使い回し)をする薬物常習者の間で広まってきましたが、最近では異性間の性行為による感染が全体の約4分の1を占めています。アフリカ、カリブ海諸国、アジアでは、HIV感染は主に異性間で起こり、男女に差はありません。米国では成人HIV感染者のうち、女性の割合は25%未満です。1992年以前は、米国の女性感染者の大半は汚染された注射針で薬物を注射したことで感染していましたが、現在ではほとんどの感染が異性間の性行為により生じています。

最も多い感染経路である性行為や注射針の共用による感染は、ほぼ完全に予防可能です。

知っていますか?

  • HIVが、せきやくしゃみ、また蚊に刺されることで感染したという例はありません。

性行為による感染

HIV感染のリスクが最も高くなる状況は、コンドームを使用しないか誤った方法で使用して、腟または肛門性交を行う場合です。オーラルセックスでもHIV感染の可能性はありますが、腟や肛門での性交に比べると確率は低くなります。

精液や腟分泌液に多量のHIVが含まれている場合や、性器、口、直腸の皮膚や粘膜に小さなものでも裂傷やびらんがある場合に、HIV感染のリスクが増大します。そのため、次のような状況では感染の可能性が非常に高くなります。

  • 感染から数週間しか経っていない感染者に接触する場合(この時期の感染者の血液や体液には、多量のHIVが含まれているため)

  • 激しい性行為のために性器、口、直腸の皮膚や粘膜が損傷している場合

  • 性交する人のいずれかが、ヘルペス感染症や梅毒などの性感染症(STI)にかかっていて、皮膚のびらんや裂傷、または性器の炎症が生じている可能性がある場合

HIVの薬(抗レトロウイルス薬)には、精液や腟分泌液に含まれるHIVの量を減らす効果があります。そのため、この種の薬によるHIV感染症の治療は、感染の可能性を大きく低下させることができます。

性器、口腔、または直腸の粘膜が傷つく可能性のある性行為としては、フィスティング(直腸または腟に手の全体または大部分を挿入する行為)や性具の使用などがあります。

異性間の性交中にHIVに感染するリスクは、若者で高く、その理由の1つとして若者は衝動のコントロールがあまりできず、そのため危険な性行動(複数のセックスパートナーをもつ、コンドームを使用しないなど)をする可能性が高いことが挙げられます。

最近の科学的根拠から、抗レトロウイルス療法によりウイルス量が現在の検出可能なレベルを下回る(ウイルス学的に抑制されている)HIV感染者は、性行為を介してパートナーにウイルスを感染させないことが示されています。

注射針やその他の器具を介した感染

医療従事者がHIVに汚染された注射針を誤って刺した場合、その後できるだけ早急に処置を行わなければ、およそ300分の1の確率で感染が生じます。処置を行った場合は、感染の起きる確率が1500分の1に下がります。針が深く刺さってしまった場合や、中空の針の中にHIVで汚染された血液が入っている場合(採血または違法薬物の注射に使用された針など)は、外側に血液が付着しているだけの場合(切り傷を縫い合わせる針など)よりもリスクが高くなります。

ウイルスで汚染された体液が口や眼に入った場合に感染が起きる確率は、1000分の1未満です。

母から子への感染

妊娠可能年齢の多くの女性がHIVに感染した結果として、小児のHIV感染者が増加しています。

HIV感染症は、次の経路を介して感染者の母親からその子どもに伝染する可能性があります。

  • 胎盤を通じて胎児に感染

  • 分娩時、産道を通過する際に胎児に感染

  • 出生後の授乳で乳児に感染

感染した母親が治療を受けていない場合は、子の約25~35%が出生時に感染している可能性があり、そうした母親が授乳する場合、さらに10~15%の新生児が感染する可能性があります。

感染した女性をHIV薬で治療すると、その人から感染が広がるリスクを大幅に下げることができます。感染した妊婦は、第2および第3トリメスター【訳注:第2トリメスターは日本でいう妊娠中期に、第3トリメスターは妊娠後期にほぼ相当】、分娩時、授乳期間に治療を受ける必要があります。帝王切開で出産し、その後数週間にわたって新生児に治療を行うことでもリスクは低下します。

母親が感染している場合、人工乳による授乳を安全かつ妥当な価格で行える国に住んでいるのであれば、母乳による授乳は避けるべきです。しかし、感染症と低栄養が乳児の死因の上位を占め、また安全で妥当な価格の乳児用人工乳が手に入らない国については、世界保健機関(WHO)は母乳による授乳を勧めています。このような状況では、母乳を授乳することで、死に至る感染症を予防できれば、HIVの感染リスクが相殺される可能性があります。

HIV感染者の妊婦の多くがHIV感染症を予防するための治療や薬剤投与を受けているため、エイズになる小児の数は多くの国で減少しています。

輸血や臓器移植による感染

現在では、輸血や臓器移植でHIVに感染することはまれになっています。

1985年以降は、ほとんどの先進国で、HIV感染のリスクをなくすために、輸血用に採血されたすべての血液についてHIV検査が行われ、血液製剤も可能な限り加熱されるようになりました。現在、米国において1回の輸血(HIVなどの血液媒介ウイルスの存在に対して注意深くスクリーニング検査が行われています)でHIVに感染するリスクは、およそ200万回に1回未満といわれています。しかし、多くの発展途上国では、血液や血液製剤に対するHIVのスクリーニングが行われていなかったり厳密でなかったりします。そうした地域では、今でも大きなリスクがあります。

感染した提供者の臓器(腎臓、肝臓、心臓、膵臓、骨、皮膚)が感染の事実に気づかれないまま移植に用いられ、HIV感染が広がることもあります。角膜や特別に扱われる特定の組織(骨など)の移植によって、HIVに感染することはめったにありません。

人為的な精子注入

感染している提供者の精液を用いて女性を受精させる場合にも、HIV感染が起きる可能性があります。米国では、このリスクを減らす対策がとられています。現在では、採取した直後の精液は使用されていません。提供者から採取した精液は6カ月以上、凍結保存します。その後、精子を使用する前に、提供者がHIVに感染していないか改めて検査します。

精子ドナーがHIVに感染していることが分かっている場合は、精子の洗浄が精子からHIVを除去するのに効果的です。

HIV感染のメカニズム

HIVは体内に入った後、数種類の白血球に付着しますが、特に重要なのがある種のヘルパーTリンパ球(T細胞)です。ヘルパーTリンパ球は、免疫系の様々な細胞を活性化させ、その働きを調整します。また、その表面にはCD4と呼ばれる受容体があり、これによりHIVが付着することが可能になります。このため、こうしたリンパ球はCD4+陽性と呼ばれます。

HIVはレトロウイルスの一種です。つまり、HIVは自身の遺伝情報をRNA(リボ核酸)として蓄えています。このウイルスがCD4陽性リンパ球の中に入ると、逆転写酵素と呼ばれる酵素を使って自身のRNAをDNA(デオキシリボ核酸)として複製します。逆転写酵素はHIVのRNAをDNAに変換する過程でエラーを起こしやすいため、HIVはこの時点で容易に突然変異を起こします。これらの突然変異はHIVの制御をさらに難しくします。なぜなら、突然変異が多く起こると、人の免疫系や抗レトロウイルス薬による攻撃に耐性をもつHIVの出現確率が高くなるためです。

複製されたHIVのDNAは、感染したリンパ球のDNAに組み込まれ、そのリンパ球の遺伝機構によりHIVが(複製されて)増殖します。最終的に、そのリンパ球は破壊されます。感染したリンパ球毎に何千もの新しいウイルスが複製され、それらのウイルスがまた別のリンパ球に感染し、破壊を行います。こうして数日から数週間のうちに、血液や性器の分泌物の中に非常に大量のHIVが含まれるようになり、CD4陽性リンパ球の数が大きく減ります。HIVへの感染直後に血液中と性器の分泌液中のHIV数が急増するため、感染直後の人は他者にHIVを非常に広めやすい状態になっています。

単純化したヒト免疫不全ウイルスのライフサイクル

ウイルス全般と同様に、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)も感染した細胞(通常はCD4陽性リンパ球)の遺伝機構を利用して増殖します。

  1. HIVは、まず標的とする細胞に付着して侵入します。

  2. HIVはウイルスの遺伝情報であるRNAを細胞内に放出します。このウイルスが増殖するには、自身のRNAをDNAに変換しなければなりません。RNAは逆転写酵素と呼ばれる酵素(HIVにより作られる)によって変換されます。逆転写酵素はHIVのRNAをDNAに変換する過程でエラーを起こしやすいため、HIVはこの時点で容易に突然変異を起こします。

  3. ウイルスDNAが細胞核に入り込みます。

  4. ウイルスDNAは、インテグラーゼという酵素(同じくHIVにより作られます)の助けを借りて細胞のDNAに組み込まれます。

  5. この段階で感染細胞のDNAは、ウイルスのRNAと新しいHIVの組み立てに必要なタンパク質を作り出せるようになっています。

  6. RNAと短いタンパク質から、新しいウイルスが組み立てられます。

  7. ウイルスが細胞膜から出芽し、細胞膜の断片に包まれて、感染細胞からくびれ出るように分離します。

  8. 出芽したウイルスは、成熟するまでは他の細胞に感染できません。HIVプロテアーゼと呼ばれるHIVの別の酵素がウイルス内の構造タンパク質を切断し、それらを並べ替えることで、HIVは成熟します。

HIV感染症を治療するための薬は、HIVのライフサイクルに基づいて開発されました。このような薬は、ウイルスが増殖したり、細胞に付着して侵入したりする際に使われる3つの酵素(逆転写酵素、インテグラーゼ、プロテアーゼ)を阻害します。

HIV感染によってCD4陽性リンパ球が破壊されると、様々な感染症やがんから身を守る免疫機能が低下します。いったん感染したHIVを体から排除できない理由の一部は、この免疫機能の低下です。ただし、免疫系もある程度の反応はできるため、感染から1~2カ月以内に体はリンパ球と抗体を作り、血液中のHIV量を減らして感染を制御します。このためHIV感染症は、治療を行わなくても、症状のない状態または軽い症状が少しみられる状態が平均で約10年続きます(人によって2~15年以上と幅があります)。

HIVは、皮膚、脳、生殖器、心臓、腎臓の細胞などの他の細胞にも感染し、これらの臓器に異常をもたらします。

CD4陽性細胞数

血液中のCD4陽性リンパ球の数(CD4陽性細胞数)は、次のことを判定する際に役立ちます。

  • 免疫系が感染症を阻止する能力の強さ

  • HIVが体に及ぼしている悪影響の大きさ

健康な人の大半では、CD4陽性細胞の数は血液1マイクロリットル当たりおよそ500~1000個です。感染が起こると、通常は最初の数カ月でCD4陽性リンパ球の数が減少します。3~6カ月ほどするとCD4陽性細胞数は安定しますが、治療を行わない限り、緩やかな場合から急速な場合まで、様々な速度で減少し続けるのが通常です。

CD4陽性細胞数が血液1マイクロリットル当たり約200個を下回ると、ニューモシスチス肺炎など、ある種の感染症に対して免疫系が抵抗できなくなります。これらの感染症の大半は、健康な人にはめったにみられません。しかし、免疫機能が低下している人ではよく発生する病気です。そうした感染症は、免疫機能の低下に乗じて発症するため、日和見感染症と呼ばれています。

CD4数が血液1マイクロリットル当たり50個を下回ると、重度の体重減少や失明を急速に引き起こす日和見感染症がさらに発生することがあり、死に至ることが一般的なため、特に危険です。そのような感染症には次のようなものがあります。

ウイルス量

血液中のHIVの量(具体的にはHIVのRNAの複製数)をウイルス量と呼びます。

ウイルス量は、HIVが増殖する速さを反映します。初期感染時に、ウイルス量は急速に増加します。その後、3~6カ月ほど経過すると、治療をしない場合でさえ、ある程度のところまで低下し、しばらくそのレベルにとどまります(このレベルはセットポイントと呼ばれます)。この量は個人差が大きく、血液1マイクロリットルにつき数百程度の場合もあれば、100万を超える場合もあります。

ウイルス量は、以下の項目の指標にもなります。

  • 感染症の伝染しやすさ

  • 予想されるCD4陽性細胞数の減少速度

  • 症状が現れると予想される時期

ウイルス量のセットポイントが高いほど、CD4陽性細胞数はより速やかに低値(200未満)に下がり、症状の有無にかかわらず、日和見感染症のリスクが高くなります。

治療がうまくいっていれば、ウイルス量は非常に低くなるか、検出できないレベルまで下がります(血液1マイクロリットルにつき約20~40未満)。ただし、不活性(潜伏)状態のHIVはなおも細胞内に存在しており、治療を中止すれば再び増殖し始めて、ウイルス量も増加します。

治療中にウイルス量が増加した場合は、以下のいずれかに該当する可能性があります。

  • HIVが薬物療法への耐性を獲得した。

  • 患者が処方された薬を服用していない。

  • 両方。

知っていますか?

  • HIVに感染した人の一部では、症状が何年も現れないことがあります。

HIV感染症の症状

感染初期

多くの人では、感染してすぐの時期に症状はみられません。しかし、1~4週間以内に発熱、発疹、のどの痛み、リンパ節の腫れ、疲労や、様々な一般的でない症状が現れる人もいます。初期(急性)HIV感染症の症状は、通常3~14日にわたって続きます。

軽症または無症状期

初期症状が治まると、ほとんどの感染者では、たとえ治療を受けなくても、症状がみられなくなるか、ときおり軽い症状がいくつか現れるのみとなります。こうした症状がほとんどみられない期間は2~15年続きます。この期間によくみられる症状としては、以下のものがあります。

  • 首、わきの下、鼠径部(そけいぶ)に痛みを伴わない小さなしこりとして感じられる、リンパ節の腫れ

  • カンジダ症(真菌感染症の一種)により口の中にできる白い斑点(鵞口瘡[がこうそう])

  • 帯状疱疹(たいじょうほうしん)

  • 下痢

  • 疲労

  • 発熱、ときに発汗

  • 進行性の体重減少

  • 貧血

次第に体重が減少し、軽度の発熱や下痢がみられることもあります。

これらの症状はHIV感染症それ自体によって生じる場合もあれば、HIVの影響で免疫機能が低下したことで日和見感染症が発生した結果生じる場合もあります。

より重度の症状

ときには、最初にエイズの症状が現れることもあります。

エイズは、非常に重篤な日和見感染症やがんが発生することと定義され、これらは通常、血液1マイクロリットル当たりのCD4陽性細胞数が200個未満の人にのみ発生します。

発症した日和見感染症やがんによって、様々な症状が引き起こされます。HIV感染症の患者では、そうでない人より、こうした感染症が頻繁に起きたり重症化したりします。例えば、カンジダ(Candida)という種類の真菌による感染症では、口の中に白い斑点ができたり(鵞口瘡)、腟からカッテージチーズに似たネバネバした白い分泌物が出たり(腟の真菌感染症)することがあります。帯状疱疹で痛みと発疹が生じることもあります。

重篤な日和見感染症では、以下のように臓器に応じた様々な症状が起こることがあります。

  • 肺:発熱、せき、息切れ

  • 脳:頭痛、筋力低下、協調運動障害、精神機能低下

  • 消化管:痛み、下痢、出血

さらにHIVは、以下のような臓器に直接感染して損傷を与え、症状を引き起こすこともあります。

  • 脳:脳の損傷に伴い、記憶障害、思考力や集中力の低下、またはその両方が生じ、HIV感染症の治療が行われない場合、やがては認知症のほか、筋力低下、振戦(ふるえ)、歩行困難が起こります

  • 腎臓:腎不全に伴い、脚と顔のむくみ、疲労、排尿の変化(白人より黒人でより一般的)が現れますが、感染症が重症化するまではあまり生じません

  • 心臓:心不全に伴い、息切れ、せき、喘鳴(ぜんめい)、まれに疲労がみられます

  • 性器:性ホルモンが減少し、男性では疲労と性機能障害がみられることがあります

一部の感染者で著しい体重減少(エイズるいそう)がみられますが、これはおそらく、HIVが直接的な原因と考えられます。エイズの人におけるるいそうは、一連の感染症や、長期にわたる消化器感染症が未治療のままであることによっても生じます。

HIV感染者によくみられるがん

カポジ肉腫は、性行為によって感染するヘルペスウイルスが原因となって発生するがんで、皮膚に痛みのない赤や紫色の盛り上がった斑点が現れます。このがんは、男性と性行為をする男性に多くみられます。

免疫系のがん(リンパ腫、一般的には非ホジキンリンパ腫)が発生することがあり、ときに脳に最初に現れます。脳がリンパ腫に侵された場合、腕や脚の筋力低下、頭痛、錯乱、人格の変化が現れます。

エイズにかかるとその他のがんのリスクも高まります。子宮頸部、肛門、精巣、肺などのがんや、黒色腫などの皮膚がんが該当します。男性と性行為をする男性では、女性に子宮頸がんを引き起こすヒトパピローマウイルス(HPV)による直腸がんが発生しやすくなります。

死亡の原因

死亡は通常、日和見感染症やがん、るいそう、認知症の累積的な影響によって起こります。

HIV感染症の診断

  • 血液や唾液のサンプル中にHIVのウイルス自体に対する抗体が含まれるかどうかを調べる検査

  • 血液サンプル中にHIV RNAが含まれるかどうかを調べる検査

HIV感染症を早期に診断することは、早期の治療が可能になることから重要です。早期に治療を行えば、感染者はより健康に長く生きることができ、他者にHIVを感染させる可能性が低くなります。

医師は通常、HIV感染症の危険因子(職場での曝露の可能性、リスクの高い性行為、違法薬物の注射など)と症状(疲労、発疹、体重減少など)について尋ねます。

医師はまた、リンパ節の腫れや口の中の白斑(鵞口瘡を示す)などの日和見感染症の徴候や、皮膚または口に現れるカポジ肉腫の徴候がないか、身体診察を行って調べます。

スクリーニング検査と診断検査

HIVの感染が疑われる場合は、スクリーニング検査を行って、HIVの有無を調べます。医師はまた、すべての成人と青年(特に妊婦)に対し、どのようなリスクがあるかにかかわらず、スクリーニング検査を受けることを推奨しています。HIVに感染しているかどうかが心配であれば、誰でも検査を受けることができます。検査の秘密は守られ、しばしば無料で受けられます。

現在の(第4世代)複合的なスクリーニング検査では、HIV感染症を示唆する以下の2つの項目が調べられます。

  • HIVに対する抗体

  • HIV抗原(p24抗原)

抗体とは、HIVのような特定の異物による攻撃から体を守るために免疫系が作り出すタンパク質です。抗原とは、免疫応答の引き金になる異物のことです。

検査で検出されるだけの量の抗体が体内で作られるには数週間かかるため、ウイルスが体内に侵入してから数週間は、抗体検査を行っても結果が陰性になります(急性HIV感染症の「ウインドウピリオド」と呼ばれます)。しかし、p24抗原検査の結果は、初感染から2週間後には陽性になる可能性があります。この2つを組み合わせた検査は検査室で行われ、速やかに結果が出ます。また、これらをまとめた検査を診療所で行うことも可能です(ベッドサイド検査と呼ばれます)。結果が陽性であれば、HIV-1とHIV-2を区別するための検査と、血液中のHIV RNAの量(ウイルス量)を検出するための検査を行います。

新しい複合的スクリーニング検査では、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を用いてHIV抗体を検出し、ウェスタンブロット法などのより正確な別の検査を用いて陽性であることを確認しますが、この方法は従来のスクリーニング検査よりも簡便で、速やかに結果が出ます。

ほかにも、比較的古いものの迅速に行えるベッドサイド検査があります。それらの検査は、血液や唾液のサンプルで行うことができます。これらの迅速スクリーニング検査の結果が陽性であれば、ELISA(ウェスタンブロット法を併用する場合もあります)による検査か少なくとも1つの他の迅速検査を繰り返すことで結果を確認します。

低リスクで検査結果が陰性の人は、リスク状態が変化しない限り、再度のスクリーニング検査は行いません。リスクが非常に高く検査結果が陰性の人(特に、性的に活動的な人、複数のセックスパートナーがいる人、安全な性行為を心がけていない人)は、6~12カ月毎に繰り返し検査を受ける必要があります。

HIV RNA検査では、抗体検査が陽性の場合にその結果を確定したり、抗体検査が陰性の場合にHIV感染の証拠を検出したりすることができます。HIV RNA検査では、生物の遺伝物質のコピーを数多く作り出す手法(核酸増幅法)をよく用います。これらの検査は血液中に含まれる非常に微量のHIV RNAを検出でき、非常に正確です。

モニタリング

HIV感染症と診断された場合は、定期的に血液検査を行い、以下の項目を測定する必要があります。

  • CD4陽性細胞数

  • ウイルス量

CD4陽性細胞数が少ない場合は、重篤な感染症を発症しやすく、特定のがんなどHIVの他の合併症にもかかりやすい状態です。ウイルス量は、今後数年間でCD4陽性細胞数が低下する早さを予測するのに役立ちます。

これら2つの測定値は、医師が次のことを判断する際に役立ちます。

  • 抗レトロウイルス薬をどれだけ速やかに開始するか

  • 治療によって、どのような効果が得られそうか

  • 感染症の合併を予防するために他の薬が必要か

治療が成功すれば、ウイルス量は数週間のうちに非常に低い濃度まで下がり、CD4陽性細胞数もゆっくり正常値まで回復します。

エイズの診断

CD4陽性細胞数が血液1マイクロリットル当たり200個を下回った場合、極端な体重減少がみられる場合、ある種の重篤な日和見感染症やがんを発症した場合にはエイズと診断されます。

HIV関連疾患の診断

HIV感染症に合併する可能性のある病気がないか確認するために、様々な検査が行われることがあります。具体的には以下の検査があります。

  • 骨髄穿刺と生検:リンパ腫、がん、日和見感染症などによって起こる血球数の減少(貧血を含む)がないか確認するため

  • 造影CT検査またはMRI検査:脳または脊髄の損傷がないか確認するため

HIV感染症の予防

現在、HIVの感染を予防する効果的なHIVワクチンや、エイズへの進行を遅らせるHIVワクチンはありません。しかし、HIV感染者を治療することで、他の人に感染が広がるリスクは低下します。

最も多い感染経路である性行為や注射針の共用による感染は、ほぼ完全に予防可能です。しかし、予防に欠かせない対策(性行為を控えるかコンドームを常に使用することと、清潔な注射針を使用すること)が個人的に歓迎されなかったり、社会的に普及していない場合があります。薬物依存や性行為の習慣を変えることは難しいことが多いため、多くの人がHIV感染のリスクに身をさらし続けます。また安全な性行為を行っていれば万全というわけでもなく、例えばコンドームは漏れたり破れたりすることがあります。

HIV感染の予防対策

  • 性行為を控える。

  • 感染者またはHIVが陽性か陰性か不明なパートナーと性行為をするときには、毎回必ずラテックス製のコンドームを使用する(腟の殺精子剤や避妊用スポンジはHIV感染予防の役割を果たさない)。

  • オーラルセックスを行う男性は、射精の前に口から陰茎を抜く。

  • 男性は包皮切除を受ける(包皮の切除は、感染した女性と腟性交を行う男性のHIV感染リスクを低下させる)。

  • 新婚の夫婦の場合は、避妊なしでの性交を始める前に、HIV感染症など各種の性感染症(STI)の検査を受ける。

  • 注射器や注射針は決して使い回さない。

  • 自分以外の人の体液に触れるときは、ゴム製(できればラテックス製)の手袋を着用する。

  • 誤ってHIVを含む体液にさらされた場合(例えば注射針を刺したときなど)は、感染予防のために抗レトロウイルス薬による治療を受ける。

ラテックス製のコンドームはHIV(および他の一般的な性感染症)に対する優れた保護手段ですが、万全というわけではありません。油性の潤滑剤(ワセリンなど)はラテックスを溶かしてコンドームの有効性を低下させるおそれがあるため、使用しないでください。

助けになる手段はほかにもあります。男性の場合は、費用の安い安全な対策である包皮の環状切除術により、感染した女性との腟性交でHIVに感染するリスクが約半分に低下します。包皮切除を受けることで、他の状況でのHIV感染リスクが低下するかどうかは分かっていません。包皮切除は、HIV感染に対して部分的な保護にしかならないため、あわせて他の予防手段も講じるべきです。例えば、パートナーのいずれかが性感染症やHIV感染症にかかっている場合は、治療を受け、正しい方法で常にコンドームを使用することが必要です。

普遍的な予防策

血液や他の体液を取り扱う仕事に従事している場合は、ラテックス製の手袋、マスク、保護眼鏡などの防護用品を着用すべきです。これらの予防策は、HIV感染者に限らずあらゆる人の体液を扱うときも心がけるべき対策であるため、普遍的な予防策と呼ばれます。普遍的な予防策を講じる理由には、次の2つがあります。

  • 自身がHIVに感染していることに気づいていない人がいるため。

  • 他の重篤な病気(B型肝炎やC型肝炎など)を引き起こすウイルスが体液を介して伝染することがあるため。

HIVは加熱したり、過酸化水素やアルコールなどの一般的な消毒薬を使うことで活性がなくなるため、HIVに汚染された環境表面は簡単に洗浄、消毒することができます。

HIVは空気感染せず、触る、抱く、軽くキスするなどの軽い接触でも感染しないため、別の感染力の高い感染症にかかっていない限り、病院や診療所でHIV感染者の隔離を行うことはありません。

輸血と臓器移植による感染の予防

米国では、以下の対策により、臓器移植や輸血によるHIV感染がほとんど発生しなくなっています。

  • 臓器または血液の提供者に対してHIV感染の危険因子に関するスクリーニングを行う

  • 提供された血液に対してHIV感染のスクリーニングを行う

HIVの検査結果にかかわらず、HIV感染の危険因子をもつ人に移植用の血液や臓器を提供しないようにしてもらうことで、リスクはさらに低下します。

しかし、発展途上国では感度の高いHIVスクリーニング検査が普及しておらず、提供者の制限も行われていません。そのため、こうした経路からの感染が現在も問題になっています。

母親から新生児への感染の予防

HIVに感染した妊婦から新生児にウイルスが伝染することがあります。

母親から新生児へのHIV感染を予防するには、以下の方法が役立ちます。

  • 妊婦がHIVに感染していないかどうかを調べる検査を行う

  • 妊婦が感染している場合は、妊娠中と分娩時に抗レトロウイルス薬で治療する(分娩中の治療が特に重要)

  • 経腟分娩ではなく、帝王切開で出産する

  • 出産後、新生児にジドブジンを6週間静脈内に投与して治療する

  • 可能であれば、母乳ではなく人工乳を使用する(HIVは母乳を介して感染することがある)

HIVにさらされる前の予防的治療

HIVにさらされる前に抗レトロウイルス薬を投与することで、HIV感染のリスクを減らすことができます。このような予防的治療は、曝露前予防(PrEP)と呼ばれます。しかし、PrEPは高価な上に、毎日薬を服用しなければ効果が得られません。したがって、HIVに感染しているパートナーがいる人など、感染リスクが非常に高い人にしか勧められません。

PrEPは、次のようなリスクの高い性行為を行っている人に勧められることもあります。

  • コンドームを使用せずに男性と肛門性交をする男性

  • HIVの感染状況が不明だがHIV感染のリスクが高いパートナーとコンドームを使用せずに性交している異性愛者の男性と女性

PrEPを行う人は、それだけでなく、常にコンドームを使用し、注射針の共用をしないなど、他のHIV感染の予防法も行う必要があります。

曝露後の予防的治療

飛び散った血液が体にかかったり、針を刺したり、性的接触をしたことによってHIVにさらされた場合には、抗レトロウイルス薬を4週間服用すると感染の可能性を減らすことができます。このような薬の投与は感染の危険にさらされた後、できるだけ早く開始すると、より効果的です。現在推奨されているのは、2つ以上の薬を服用することです。

医師と感染の危険にさらされた(曝露した)人は通常、これらの予防薬を使用するかどうかを共同で決定します。その決定は、感染の推定リスクと薬の想定される副作用に基づいて下します。曝露源がHIVに感染しているかどうか不明な場合は、曝露源が感染している可能性がどのくらいかを考慮します。ただし、たとえ曝露源がHIVに感染していると分かっていても、どのように曝露したかにより感染リスクは異なります。例えば、血液の飛沫がかかった場合のリスクは、針が刺さった場合よりも小さくなります。

HIVへの曝露直後に行うべき対策は、どのような接触であったかによって異なります。

  • 皮膚に曝露した場合は、石けんと水で洗います。

  • 針を刺した場合は、刺し傷を消毒剤で消毒します。

  • 粘膜に曝露した場合は、その部分を大量の水で洗います。

予防接種

HIVに感染している人は以下のワクチン接種を受けるべきです(詳細については、CDCによる予防接種の推奨[CDC immunization recommendations]を参照)。

  • 結合型肺炎球菌ワクチン(PCV13)と多糖体肺炎球菌ワクチン(PPSV23):これらの接種を受けたことのない場合(まずPCV13を接種し、8週間以上の間隔を空けてPPSV23を接種)

  • 毎年のインフルエンザワクチン

  • B型肝炎ワクチン:接種を受けたことがないか、全3回の接種を完了していない場合

  • A型肝炎ワクチン:A型肝炎のリスクが高いか、A型肝炎の感染予防を希望する場合

  • ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン:HPVに関連する口とのど、子宮頸部、陰茎、および肛門のがんを予防するため(推奨年齢の女性と男性が対象)

  • 髄膜炎菌ワクチン:成人でこのワクチンを接種したことがない場合(2カ月以上の間隔を空けて接種)

  • 破傷風・ジフテリアワクチン(Td)と10年毎の追加接種破傷風・ジフテリアワクチン3回以上の初回接種を受けていないか完了していない人は、一連の接種を開始または完了するべきであり、破傷風・ジフテリア・百日ぜきワクチン(Tdap)の接種を受けたことがない場合は、Tdの追加接種の1回をTdapに置き換えるべきです。一連の初回接種を完了したものの、過去にTdapの接種を受けたことがない人は、Tdの次の追加接種としてTdapの接種を受けるべきです。

帯状疱疹ワクチンが有用な場合もあります。ただし、免疫機能が低下している人や、血液1マイクロリットル当たりのCD4陽性細胞数が200個未満の人には、初期の弱毒生帯状疱疹ワクチンの接種は行われません。しかし、HIV感染者に対する新しい組換え帯状疱疹ワクチンの使用に関する推奨はまだなされていません。

HIV感染症の治療

  • 抗レトロウイルス薬

  • 日和見感染症の予防薬

  • 症状を緩和する薬

HIV感染症の薬物治療も参照のこと。)

HIV感染に対して治療を行わなければ重篤な合併症が生じることがあり、新たに毒性の低い薬が開発されているため、ほぼすべてのHIV感染者に対し、抗レトロウイルス薬による治療が勧められます。ほとんどの場合、早期の治療が最良の結果につながります。研究の結果、抗レトロウイルス薬による治療を迅速に受けた人の方が、エイズ関連の合併症を発症する可能性も、合併症によって死亡する可能性も低いことが分かりました。

多くの場合、治療により血液などの体液や組織に含まれるHIVの量が検出不能なレベルまで減少しますが、ウイルスを体内から完全に排除することはできません。治療の目標は以下の通りです。

  • HIVレベルを検出不能な量まで下げる

  • CD4陽性細胞数を正常値に回復させる

治療を中止すれば、HIVのレベルが増加し、CD4陽性細胞数が低下し始めます。したがって、患者は生涯にわたって抗レトロウイルス薬を服用する必要があります。

治療を開始する前に、患者は以下の点の必要性について説明を受けます。

  • 指示通りに薬を飲むこと

  • 毎回必ず服用すること

  • 残りの生涯にわたって薬を服用すること

生涯にわたって指示通りに服薬することは簡単ではありません。患者の中には(休薬期間と称して)服用を抜かしたり中止したりする人もいます。こうした行動は、HIVが薬への耐性を獲得する一因になり危険です。

また、HIV治療薬は不規則に服用すると薬剤耐性が発生することが多いため、医療従事者は、患者が自分の意志で確実に治療計画に従うことが可能かどうか、確認するように努めます。投薬スケジュールを分かりやすくして、指示通りに薬を飲みやすくするために、医師は1つの錠剤に複数の薬を入れ、1日1回飲めば済むようにして処方することがよくあります。

HIV感染症の予後(経過の見通し)

HIVにさらされても必ず感染するわけではなく、長年にわたって何度もHIVにさらされながら感染しない人もいます。さらに、HIV感染から10年以上経過しても発病しない人も少なくありません。HIVに感染し、治療を受けていないのに、20年以上発病しない人も非常に少数ながら存在します。発症までの期間に大きな個人差がある理由は完全には分かっていませんが、いくつかの遺伝的要因が感染の起こりやすさや感染後のエイズへの進行に影響しているようです。

感染した人が治療を受けない場合、ほとんどの人がエイズを発症します。CD4陽性細胞数がどのくらいの速さで減少するか、HIV感染症がいつエイズに進行するかは、人によって大きく異なります。総合的にみて、治療しない場合に感染者がエイズを発症する割合を専門家は次のように推定しています。

  • 感染後最初の数年間:毎年1~2%

  • その後毎年:5~6%

  • 10~11年以内:50%

  • それ以降:95%以上、高齢まで生きれば全員の可能性もあり

こうした予測はあるものの、効果的な治療を受けて、HIV RNAの値を検出不可能なレベルにまで下げ、CD4陽性細胞数を劇的に増やすことで、感染者は生産的で活動的な生活を続けることができます。病気や死亡のリスクは低下しますが、HIVに感染していない同年代の人に比べるとリスクは高いままです。また、感染者が薬の副作用に耐えられない場合や着実な服用を続けられない場合は、HIV感染症と免疫不全が進行し、重篤な症状と合併症が起こります。

通常は、HIV感染症が直接の死因になることはありません。代わりに、HIV感染症によって大幅な体重減少(るいそう)、日和見感染症、がん、その他の病気が起こり、それらが死につながります。

治癒は今のところ不可能と考えられていますが、感染者からすべての潜伏状態のHIVを取り除く方法が精力的に研究されています。

終末期の問題

エイズ患者が突然死亡することはまれですので、患者は通常、自身の状態が悪化したときに受ける医療の種類について、時間をかけて計画を立てることができます。とはいえ、そうした計画は早めに法的文書に記録し、希望するケアの種類について明確な指示を残しておくべきです(事前指示書といいます)。委任状や遺言書などの他の法的文書も作成しておくべきです。そうした文書は法的な認定のないパートナー、愛する人、または介護者がいる患者では特に重要で、そのような状況では、パートナーなどの愛する人が患者に面会できない、意思決定に関与できない、葬儀や埋葬の希望を果たすことができない、遺産(場合によっては家族の家を含みます)の相続から除外されるなど、非常に不幸な結果につながる可能性があります。

人生の最期が近づいてくると、多くの患者では痛みや他の悩ましい症状(興奮など)がみられ、通常は食欲不振に陥ります。ホスピスプログラムは、特にそうした問題に対処するための取り組みです。主に患者の症状を管理し、死を目前にした人の自立を支え、介護者の支援を行うために、包括的なサポートとケアを提供します。

HIV感染症に関するさらなる情報

以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. HIVinfo:HIV関連の用語集や薬剤データベースを含めた、米国国立衛生研究所(NIH)が公開している情報

  2. 米国疾病予防管理センター(CDC)2020年予防接種スケジュール(Centers for Disease Control and Prevention (CDC) 2020 Immunization Schedule):対象疾患別およびその他の適応別の推奨される成人向け予防接種スケジュール

  3. CDC:曝露後予防(CDC: Post-Exposure Prophylaxis):HIV感染を予防するための高リスク事象発生後の抗レトロウイルス薬の使用に関する情報源

  4. 米国エイズ研究財団(The American Foundation for AIDS Research):エイズ研究の支援、HIV感染予防、治療教育、および啓蒙に関する情報源

  5. 米国性的健康協会(American Sexual Health Association):性的な健康に関する情報

  6. 米国疾病予防管理センター(CDC):HIV/エイズ(Centers for Disease Control and Prevention (CDC): HIV/AIDS):自宅検査やリスク低減手段に関する情報を含めたHIV/エイズに関する一般的な情報

  7. ゲイ男性の健康危機(Gay Men's Health Crisis):HIV検査を含めた男性の健康に関する一般的な情報

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