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エボラウイルス感染症とマールブルグウイルス感染症

執筆者:

Thomas M. Yuill

, PhD, University of Wisconsin-Madison

レビュー/改訂 2021年 8月
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やさしくわかる病気事典

マールブルグウイルス感染症とエボラウイルス感染症は、出血と臓器不全を引き起こします。これらの感染症の患者は、多くの場合、死亡します。

  • マールブルグウイルス感染症とエボラウイルス感染症は、感染した動物またはその死骸を扱ったり、症状が出ている感染者またはその遺体の皮膚や体液に触れたりすることで広がります。

  • 症状は、最初に発熱、筋肉や全身の痛み、頭痛、せき、のどの痛みが起こり、次いで嘔吐や下痢、さらに口、鼻、内臓からの出血などが生じます。

  • 血液検査と尿検査を行って、診断を確定します。

  • 感染の拡大を予防するには、厳重な隔離と衛生面の対策(さらに医療従事者には防護服の着用)が必要です。

  • 治療では、静脈からの輸液と身体機能を維持するための処置などを行います。

中央アフリカと西アフリカを起点として、エボラウイルス感染症とマールブルグウイルス感染症が流行しました。おそらく、この地域に生息する野生動物にこれらの感染症が流行していることが原因です。このような流行はまれであり、起きたとしても、かつては周囲と隔絶した農村地域で発生していたため、そこまで広範囲に及ぶものではありませんでした。しかし現在では、これらの地域を訪れた旅行者が隣接する地域にこの感染症を運び、まれにアフリカの外にも広がることがあります。

2013年12月、ギニア(西アフリカ)の農村地域からエボラウイルスの大規模な流行が発生し、ギニア都市部の人口密集地域に広がった後、隣接するリベリアやシエラレオネに拡大しました。この流行が最初に認識されたのは2014年3月でした。複数回の流行によって、数千人がエボラウイルスに感染し、感染者の約59%が死亡しました。ごく少数の感染した旅行者(帰国した医療従事者を含む)を介して、欧州と北米でもエボラウイルスの感染拡大が発生しました。さらに、欧州や北米で感染者の治療にあたった医療従事者も、数人が感染しました。シエラレオネ、ギニア、リベリアでは2016年にエボラの終息が宣言されました。

2017年にコンゴ民主共和国でもエボラウイルス感染症の流行がみられましたが、すぐに封じ込められました。2018年5月にコンゴで別の流行が確認され、ワクチンの助けを借りて2020年6月に終息しました。それ以降では、北キブ州とギニアで小規模な流行が発生しています。

エボラウイルスとマールブルグウイルスの感染経路

エボラウイルスとマールブルグウイルスは感染力の強いウイルスです。

これらのウイルスは動物に感染することが多く、限られた場合にしか人間に感染しません。これらのウイルスの感染源となった元の動物はまだ正確に特定できていないため、流行の発端となる最初の人間にウイルスがどう感染するかは分かっていません。しかし、専門家の間では、最初に人がフルーツコウモリや霊長類(類人猿やサル)などの感染した動物を取り扱うか食べるかして感染すると考えられています。マールブルグウイルス感染症は、鉱山や洞窟などでコウモリに接触した人に発生しています。

いったん人間に感染した後は、感染者の皮膚や体液(唾液、血液、吐瀉物、尿、便、汗、母乳、精液)に直接触れることで、人から人へと感染が広がります。感染者は症状が出るまでに他者に感染を広めることはなく、これを裏付ける科学的根拠もあります。一方で、死者の体液から感染が広がることは多く、特に死体を運んで埋葬の準備をするときにそうした感染が起こりがちです。さらには、死体に触れるだけでも感染する場合があります。

エボラウイルスは、空気を介しては(例えばせきやくしゃみで飛び散った飛沫などで)感染しないと考えられています。仮にそうした感染が起こるとしても、おそらく、ごくまれでしょう。

回復した人の中には、やがて体内からエボラウイルスが完全に排除され、それ以降は他者に感染させる可能性がなくなる人もいれば、ウイルスが 免疫系 免疫系の概要 人間の体には、異物や危険な侵入物から体を守る仕組みとして、免疫系が備わっています。侵入物としては以下のものがあります。 微生物( 細菌、 ウイルス、 真菌など) 寄生虫(蠕虫[ぜんちゅう]など) がん細胞 移植された臓器や組織 さらに読む による攻撃を受けない体の部位(眼や精液など)にしばらく残る人もいます。エボラウイルスの遺伝物質は、男性に症状がなくなってから1年以上精液中に残ることがあります。

マールブルグウイルスは、男性が症状を示さなくなってから最長で7週間、精液中に残ることがあります。

エボラウイルス感染症とマールブルグウイルス感染症の症状

ウイルスにさらされてから2~20日後に、最初の症状が現れます。初期の症状は、それほど危険ではない他のウイルス感染症に似ています。筋肉痛や頭痛、のどの痛み、せきなどがみられます。また、光に対して過敏になったり、白眼の部分が赤くなったりすることもあります。

数日以内に、以下ようなより深刻な症状が発生します。

嘔吐と下痢は 脱水 脱水 脱水は体内の水分が不足している状態です。 嘔吐、下痢、大量発汗、熱傷(やけど)、腎不全、利尿薬の使用により、脱水になる場合があります。 脱水が進むとのどの渇きを感じ、発汗や排尿も少なくなります。 脱水がひどくなると、錯乱やめまいを感じるようになります。 水を飲むか、場合によっては水分を静脈内投与して、失われた水分と血液中に溶けているナトリウムやカリウムなどの無機塩(電解質)を補給する治療が行われます。 さらに読む を引き起こし、治療せずにいると、低血圧(ショック ショック ショックとは、臓器に向かう血流が減少することで、酸素の供給量が低下し、それにより臓器不全やときに死にもつながる、生命を脅かす状態です。通常、血圧は低下しています。 ( 低血圧も参照のこと。) ショックの原因には血液量の減少、心臓のポンプ機能の障害、血管の過度の拡張などがあります。 血液量の減少または心臓のポンプ機能の障害によってショックが起きると、脱力感、眠気、錯乱が生じ、皮膚が冷たく湿っぽくなり、皮膚の色が青白くなります。... さらに読む )、 不整脈 不整脈の概要 不整脈とは、一連の心拍が不規則、速すぎる(頻脈)、遅すぎる(徐脈)、あるいは心臓内で電気刺激が異常な経路で伝わるなど、心拍リズムの異常のことをいいます。 不整脈の最も一般的な原因は心臓の病気(心疾患)です。 自分で心拍リズムの異常に気づくこともありますが、ほとんどの人は、脱力感や失神などの症状が起きるまで不整脈を自覚しません。... さらに読む 不整脈の概要 、死亡につながります。

出血は最初の数日のうちに始まります。皮下出血は紫色の点や斑点(あざ)として見え、歯ぐき、鼻、内臓の出血や下血がみられることがあり、採血や輸液などで刺し傷ができればそこからも出血します。

およそ5日後に、主に体幹に発疹が現れます。

症状が起きて2週目に、発熱が治まり回復し始めるか、そうでなければ臓器の機能に問題が生じます(臓器不全)。主に受けられる医療のレベルに応じて、感染者の25~90%が死亡します。マールブルグウイルス感染症より、エボラの方が死に至る可能性が高く、平均の死亡率は59%です。回復にはかなりの時間がかかります。

エボラウイルス感染症とマールブルグウイルス感染症の診断

  • 血液と尿の検査

エボラの早期症状(発熱など)は、より一般的な感染症でもみられるため、感染して数日しか経っていない人がエボラにかかっていると特定するのは困難です。しかし、エボラウイルス感染症の発生地域にいる人や旅行した人にそれらの症状がみられる場合、医師はエボラを疑います。米国疾病予防管理センター(CDC)は医療従事者向けに、エボラ発生地域から戻った旅行者の評価ガイドラインを提供しています。

エボラが疑われる場合は、対象者から血液と尿のサンプルを採取し、検査を行って感染を確定します。

マールブルグウイルス感染症が疑われる場合にも、同様の対応が行われます。

エボラウイルス感染症またはマールブルグウイルス感染症が診断された場合、公衆衛生当局に報告されます。

エボラウイルス感染症とマールブルグウイルス感染症の予防

数種類のワクチンと抗ウイルス薬が開発されています。2016年以来、西アフリカでの流行中に限定的に使用されてきたエボラワクチンが、2019年12月に米国食品医薬品局(FDA)によって18歳以上の人を対象として承認されました。コンゴ民主共和国では2つの エボラワクチン エボラワクチン rVSV-ZEBOVは、ザイールエボラウイルス Zaire ebolavirusによって引き起こされる エボラウイルス感染症の予防のために米国食品医薬品局(FDA)が米国での使用を承認している唯一のワクチンです。ザイールエボラウイルス Zaire ebolavirusに対してのみ予防効果があり、これ以外の種のエボラウイルスやマールブルグウイルスに対しては、効果がありません。... さらに読む が広く使用されています。

感染の拡大を防ぐため、厳重な隔離が必要になります。エボラウイルスやマールブルグウイルスによる感染症が疑われる症状の患者を隔離する場合は、専用の施設を利用することが望まれます。こうした施設は感染した体液を安全に取り扱うことができます。感染者と接触したことがある人は、ワクチン接種を受けるべきです。

エボラ患者のケアを行うスタッフは、防護服を着用し、呼吸用マスク付きの頭部保護具も装着して、完全に体を覆う必要があります。これらの感染症は空気を介して感染しないと考えられていますが、そうした感染に対する予防策も講じておきます。また、防護服を脱ぐときに、他のスタッフがそれを補助できるようにしておく必要があります。

汚染されている可能性のある作業台や器具を徹底的に洗浄し殺菌することと、体液(血液、汗、吐瀉物、便、尿など)を安全に取り扱うことが極めて重要です。

エボラの流行地域に旅行する人や、そうした地域に住んでいる人には、以下の行動が推奨されます。

  • 石けんと水、またはアルコール系の消毒液で手を洗い、他の人の血液や体液を触らないようにするなど、衛生管理をしっかり行う

  • 感染者の血液や体液に接触した可能性のあるもの(衣服、寝具、注射針、医療器具など)を手で扱わないようにする

  • エボラ患者の遺体に触れることが必要な葬儀や埋葬には参加しない

  • コウモリや霊長類(類人猿やサルなど)に接触したり、これらの動物の肉を生でまたは十分に加熱せずに食べたりしない

  • エボラ患者が治療を受けている西アフリカの施設を利用しない

  • 帰国後、21日間は健康状態をモニタリングし、エボラを疑わせる症状がみられた場合はすぐに受診する

回復中の人が性交や授乳を行うことで感染が生じた例は報告されていませんが、調査された人数は少数です。したがって、無防備な性交や授乳、または濃厚な対人接触を控えるべき期間について、確実な指針は存在していません。しかしながら、世界保健機関(WHO)の医師らは、安全のため、男性は回復後少なくとも7週間は性交を控えるよう勧めています。7週間が経過する前に性交を行う場合は、コンドームを使用すべきです。

エボラウイルス感染症とマールブルグウイルス感染症の治療

  • 支持療法

  • 抗ウイルス薬による治療

以下のような支持療法が行われます。

ザイールエボラウイルスによって引き起こされるエボラウイルス感染症の治療には、現在2つのモノクローナル抗体(REGN-EB3とmAb-114)が使用できます。どちらの治療法も、コンゴ民主共和国で2018年から2020年にかけて発生したエボラウイルス感染症の流行中に試験され、そこで非常に高い効果を示し、感染後数日以内に投与すれば約90%の患者が治癒します。

これらの新薬はマールブルグウイルス感染症の患者では試験されていないため、マールブルグウイルス感染症に対する効果的な治療法はまだありません。

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