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亜急性および慢性髄膜炎

執筆者:

John E. Greenlee

, MD, University of Utah Health

レビュー/改訂 2022年 11月
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亜急性慢性髄膜炎は、髄膜(脳と脊髄を覆う組織層)とくも膜下腔(髄膜と髄膜の間の空間)に数日から数週間で炎症が起きる病気です。慢性髄膜炎は、緩やかに進行する髄膜炎が4週間以上にわたり続く場合です。

  • 炎症を引き起こす多くの感染症や病気が、慢性髄膜炎の原因になる可能性があります。

  • 免疫機能が低下していると、慢性髄膜炎のリスクが高まります。

  • 症状は通常、急性細菌性髄膜炎のもの(頭痛、発熱、項部硬直)に似ていますが、それ以外に錯乱、難聴、複視がみられることもあります。

  • 慢性髄膜炎の診断には、頭部の画像検査(CT検査やMRI検査など)を行った後、腰椎穿刺で髄液を採取し分析します。

  • 原因に対する治療が行われます。

脳と脊髄は、3層の組織層(髄膜)で覆われています。くも膜下腔は、脳や脊髄を覆う髄膜のうち、中間層と最内層の間にある空間です。この空間は髄液で満たされています。髄液は髄膜の間を流れるほか、脳の内部も満たしており、脳と脊髄のクッションとして機能します。

のうおおっている組織そしき

頭蓋骨ずがいこつなかで、のう髄膜ずいまくという3そう組織そしきにおおわれています。

脳のうを覆おおっている組織そしき

亜急性髄膜炎は、急性髄膜炎よりは時間をかけて発生し、慢性髄膜炎よりは短期間で(すなわち、数日から数週間で)発生するものをいいます。原因や症状、診断方法、治療は慢性髄膜炎と同様です。細菌性髄膜炎は急性ではなく亜急性のこともあります。

慢性髄膜炎は、何週間もかけてゆっくり発生し、何カ月あるいは何年も続くことがあります。まれですが、慢性髄膜炎が軽度の症状しか引き起こさず、自然に消失することもあります。

亜急性および慢性髄膜炎の原因

亜急性または慢性髄膜炎は通常、感染症が原因です。亜急性または慢性髄膜炎を引き起こす微生物には多くの種類があります。なかでも特に重要なのが以下の微生物です。

結核の原因菌は、結核性髄膜炎と呼ばれる慢性髄膜炎を引き起こします。結核性髄膜炎は、急速に発生することもあれば、徐々に発生することもあります。髄膜炎は最初の感染時に発生する場合もあれば、不活性状態で体内に潜伏している細菌が後に再活性化して髄膜炎を引き起こす場合もあります。免疫系を抑制する薬(インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ、セルトリズマブ、エタネルセプトなどの腫瘍壊死因子阻害薬など)による治療を受けると、細菌が再活性化することがあります。

ライム病の小児患者の最大8%と、一部の成人患者は髄膜炎を発症します。ライム病による髄膜炎には急性のものと慢性のものがあります。通常、急性ウイルス性髄膜炎よりゆっくり始まります。

西半球で最も一般的な慢性髄膜炎の原因は以下のものです。

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症とは、ある種の白血球を次第に破壊し、後天性免疫不全症候群(エイズ)を引き起こすことのあるウイルス感染症です。 HIVは、ウイルスやウイルスに感染した細胞を含む体液(血液、精液、腟分泌液)と濃厚に接触することで感染します。 HIVはある種の白血球を破壊し、感染症やがんに対する体の防御機能を低下させます。... さらに読む ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症 やエイズ、免疫系を抑制する薬などによって 免疫機能が低下 免疫不全疾患の概要 免疫不全疾患では、免疫系が正常に働かないことにより、通常に比べて感染症を頻繁に発症したり、繰り返したり、感染症が重症化したり、長引いたりします。 免疫不全疾患は通常、薬の使用や、がんなどの長期間に及ぶ重篤な病気が原因で発症しますが、遺伝性の場合もあります。 この病気になると感染症を繰り返すだけでなく、普通の人がかからないような感染症が起き... さらに読む している人では、この真菌による髄膜炎が起きやすくなります。クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)による髄膜炎の症状は、最初は軽微でゆっくりと進行し、消えたり現れたりします。

あまり一般的ではありませんが、以下によって慢性髄膜炎が引き起こされることもあります。

慢性髄膜炎はHIV感染者でよくみられます。髄膜炎はHIV感染が原因であることがありますが、HIV感染者では、他の様々な微生物(クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、いくつかの真菌など)も慢性髄膜炎を引き起こす可能性もあります。

また、感染症以外の病気が慢性髄膜炎の原因になることもあります。具体的には以下のものがあります。

数年前には、坐骨神経痛などの治療として腰髄の周りにメチルプレドニゾロン(コルチコステロイドの一種)の注射(硬膜外注射)を受けた人において、少数ながら慢性真菌性髄膜炎が発生しました。いずれの症例でも、処置に使用された薬剤に滅菌処理が施されていませんでした。症状としては、頭痛、錯乱、吐き気、発熱などがあります。項部硬直もよくみられますが、3分の1の患者にはみられません。症状は最長で注射後6カ月が経過してから発生する可能性があります。背中にコルチコステロイドの注射を受けた後、数週間から数カ月以内にこれらの症状が現れた場合は、主治医に電話で相談してください。

ときに、慢性髄膜炎が数カ月さらには数年にわたり続くものの、微生物が特定されず、死に至らない場合もあります。このような髄膜炎は慢性特発性髄膜炎と呼ばれます。抗真菌薬またはコルチコステロイドによる治療は効果がありません。しかし、慢性特発性髄膜炎患者の中には、最終的に治療を受けずに回復する人もいます。

亜急性および慢性髄膜炎の症状

頭痛、錯乱、項部硬直、背部痛がよくみられます。歩行が困難になる場合もあります。筋力低下、チクチクする感覚、しびれ、顔面の麻痺、複視も一般的です。髄膜炎が 脳神経 脳神経の概要 脳神経は12対の神経で構成され、脳から直接出て頭部、頸部、体幹の様々な部位へと伸びています。脳神経には、特殊な感覚(視覚、聴覚、味覚など)を担うものと、顔の筋肉を制御したり腺を調節したりするものがあります。脳神経は、それぞれの位置に応じて、脳の前から後ろに向かって番号と名前が付けられています。... さらに読む (脳から直接頭、首、体幹の様々な部位へ伸びている神経)に波及すると、顔面の麻痺、複視、難聴が発生します。

結核 結核 結核は、空気感染する細菌である結核菌(Mycobacterium tuberculosis)によって引き起こされる、感染力の強い慢性感染症です。結核は肺を侵しますが、ほぼすべての臓器に影響が及ぼす可能性があります。 結核に感染するのは、主に活動性結核の患者によって汚染された空気を吸い込んだ場合です。... さらに読む 結核 菌による髄膜炎は、通常、かなり急速に(数日から数週間で)悪化しますが、これよりもっと速いことも遅いこともあります。結核性髄膜炎は深刻な影響をもたらす可能性があります。頭蓋内の圧力が上昇することがあります。血管は炎症を起こし、ときに脳卒中を招くことがあります。視覚、聴覚、顔面筋、平衡感覚が障害されることがあります。

亜急性および慢性髄膜炎の診断

  • 腰椎穿刺と髄液の分析

髄液の分析

この髄液は検査室に送られ、そこで分析されます。髄膜炎では、髄液中の白血球が正常より増加しています。その結果により、通常は慢性髄膜炎と急性髄膜炎を区別することができます。クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)という真菌など、慢性髄膜炎の原因になる微生物の中には、顕微鏡で確認できるものもありますが、結核菌を含め多くの微生物は見つけることが困難です。

髄液の培養検査も行われます。微生物が髄液中に存在すれば、培養によって増殖するため、特定できるようになります。しかし、培養検査には何週間もかかることがあります。真菌や結核菌、梅毒の原因菌を特定するには、より迅速に結果が分かる特殊な技術を用いることもできます。例えば、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)が放出するタンパク質を検出する検査(抗原検査と呼ばれます)を行うことがあります。

遺伝子のコピーを大量に増幅するPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法を用いると、結核菌に固有のDNAを特定できることがあります。髄液のサンプル中に含まれる結核菌の遺伝物質(DNA)を検出するために、結核性髄膜炎の診断のために世界保健機関(WHO)が推奨するXpert MTB / RIFと呼ばれる全自動検査が用いられることもあります。過去に結核の原因菌にさらされたことを確認するため、髄液のサンプルで他の検査を行うこともあります。胸部X線検査または胸部CT検査により、過去または現在の結核を示す証拠が見つかることがあります。

疑われる病気に応じて、その他の髄液検査が行われることもあります。例えば、がんが疑われる場合は、髄液中にがん細胞がないか確認することがあります。

慢性髄膜炎の原因は特定が困難なこともありますが、その理由の1つに、髄液中の微生物を見つけるのが難しいことが挙げられます。そのため、腰椎穿刺を繰り返し、できるだけ多くの髄液を採取して培養検査を行うことがあります。可能であれば、広範囲に及ぶ遺伝物質を迅速に分析できる検査を使用して、他の検査では特定できない髄液中の微生物を特定します。

その他の検査

原因の特定のために、血液および尿サンプルの培養検査のほか、髄膜やその他の感染組織(MRI検査やCT検査で特定したもの)の生検が必要になることもあります。症状の原因がはっきりしない場合、ときにMRIまたはCT検査を行います。

広範な検査を行っても、原因が特定されないことはしばしばあります。

亜急性および慢性髄膜炎の予後(経過の見通し)

亜急性または慢性髄膜炎患者の予後は、以下の要因に左右されます。

  • 原因が何であるか

  • 多くの場合、患者の免疫系の強さ

梅毒とライム病は治療をすれば通常は治癒します。真菌または寄生虫感染症による髄膜炎はより難治で再発しやすく、HIV感染症患者では特にこの傾向が強くなります。

髄膜炎の原因が白血病、リンパ腫、またはがんである場合、予後はたいてい不良です。このようなケースでは、髄膜炎から死に至る可能性もあります。

亜急性および慢性髄膜炎の治療

  • 原因の治療

医師は原因の治療に重点を置きます。原因に応じて、以下の治療が行われます。

クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)による慢性髄膜炎は、一般にアムホテリシンBと、フルシトシンまたはフルコナゾールの併用で治療されます。真菌感染症が特に難治であれば、ときに、オンマヤリザーバーを使って、アムホテリシンBを髄液中に直接注射することがあります。オンマヤリザーバーとは、頭皮の下に留置する装置です。リザーバーの中には、大量の薬剤がストックされていて、リザーバーから脳内の空間へのびる細いチューブを介し、数日または数週間かけてゆっくりと薬剤が投与されます。

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