Msd マニュアル

Please confirm that you are not located inside the Russian Federation

honeypot link

失認

執筆者:

Juebin Huang

, MD, PhD, Department of Neurology, University of Mississippi Medical Center

レビュー/改訂 2021年 12月
プロフェッショナル版を見る

失認とは、1つまたは複数の感覚で物体を識別する能力が失われる障害です。

  • 具体的な症状は、損傷を受けた部位によって異なります。

  • 失認の有無を判定するには、患者が視覚、触覚、その他の感覚を使ってよくある物体を識別できるか確かめるほか、身体診察、脳機能の検査、画像検査を行います。

  • 可能であれば原因に対する治療を行うほか、言語療法や作業療法が役に立つこともあります。

失認は比較的まれです。通常は1つの感覚だけが侵されます。

失認の原因

失認は、頭頂葉、側頭葉、または後頭葉の損傷が原因で起こります。これらの領域は、よく知っている物体の使い方や重要性、また光景や音などに関する情報が保存されていて、記憶を知覚情報と統合し、記憶からそれが何であるかを判断するプロセスを担っています。

失認は、しばしば 頭部外傷 頭部外傷の概要 脳が関与する頭部外傷は特に懸念されます。 頭部外傷の一般的な原因には、転倒や転落、自動車事故、暴行、スポーツやレクリエーション活動中の事故などがあります。 軽症の頭部外傷では頭痛やめまいが起こることがあります。 重症の頭部外傷では、意識を失ったり、脳機能障害の症状が現れたりすることがあります。... さらに読む 脳卒中 脳卒中の概要 脳卒中は、脳に向かう動脈が詰まったり破裂したりして、血流の途絶により脳組織の一部が壊死し(脳梗塞)、突然症状が現れる病気です。 脳卒中のほとんどは虚血性(通常は動脈の閉塞によるもの)ですが、出血性(動脈の破裂によるもの)もあります。 一過性脳虚血発作は虚血性脳卒中と似ていますが、虚血性脳卒中と異なり、恒久的な脳損傷が起こらず、症状は1時間... さらに読む の発生後に突然起こります。失認のその他の原因としては、 脳腫瘍 脳腫瘍の概要 脳腫瘍は脳内で増殖する組織で、がんの場合(悪性)と、がんでない場合(良性)があります。脳内で発生するものと、体の別の部位から脳に転移してきたものとがあります。 症状としては、頭痛、人格の変化(抑うつ、不安、自制がきかなくなるなど)、脱力、異常感覚、平衡感覚の消失、集中力の低下、けいれん発作、協調運動障害などがみられます。 脳腫瘍は画像検査で発見できますが、しばしば確認のために腫瘍の生検が必要になります。... さらに読む 脳膿瘍 脳膿瘍 脳膿瘍とは、脳の中に膿がたまった状態のことです。 脳膿瘍は、脳以外の頭部もしくは血流に生じた感染から、または傷を介して、細菌が脳に侵入することで形成されます。 頭痛、眠気、吐き気、体の片側の筋力低下、けいれん発作が起こることがあります。 頭部の画像検査を行う必要があります。 抗菌薬を投与し、通常は針で膿瘍をドレナージするか、手術で切除します。 さらに読む (膿がたまった空洞)、脳の特定の領域が進行性に変性する病気(例えば アルツハイマー病 アルツハイマー病 アルツハイマー病は、精神機能が次第に失われていく病気であり、神経細胞の消失、ベータアミロイドと呼ばれる異常タンパク質の蓄積、神経原線維変化といった、脳組織の変性を特徴とします。 最近の出来事を忘れるのが初期の徴候で、続いて錯乱が強くなっていき、記憶以外の精神機能も障害され、言語の使用と理解や日常生活行為にも問題が生じるようになります。 症状が進行すると普段の生活が送れなくなり、他者に完全に依存するようになります。... さらに読む )などがあります。

失認の症状

失認の症状は、損傷を受けた脳の領域によって異なります。

失認では以下のいずれかの感覚が影響を受けます。

  • 聴覚(聴覚失認):音に基づいて物体を識別することができません。例えば、電話の呼び出し音は聞こえるのに、それが電話であると特定できません。このタイプの失認は、 側頭葉 大脳 大脳 の損傷に起因します。

  • 味覚(味覚失認):味を感じることはできますが、その味を特定することができません。このタイプは側頭葉の損傷に起因します。

  • 嗅覚(嗅覚失認):味覚失認と同様、その匂いを感じることはできるのに、それが何であるか特定することができません。嗅覚失認は、側頭葉の前部の損傷に起因することがあります。

  • 触覚(体性感覚失認):例えば、手の上に置かれたありふれた物体(鍵や安全ピンなど)を特定しにくくなります。しかし、実際に眼で見れば、直ちに識別してそれが何であるか特定することができます。このタイプの失認は、 頭頂葉 大脳 大脳 の損傷に起因します。

  • 視覚(視覚失認):スプーンや鉛筆などのありふれた物体を、眼では見ることができるにもかかわらず、認識することができませんが、手で触れるとそれが何であるか認識できます。視覚失認は、 後頭葉 大脳 大脳 の損傷に起因します。

典型的には、1つの感覚だけが影響を受けます。

失認のタイプによっては、ある感覚の特定のプロセスだけが影響を受けることもあります。具体的には以下のものがあります。

  • 相貌失認: 慣れ親しんだ顔を認識できません。

  • 環境失認: なじみのある場所を認識できません。

  • 色覚異常: 色盲になります。

  • 病態失認:どこにも異常はないと言い張ったり、この問題に無頓着であったりする場合があり、体の左右半分が麻痺しているのにそのような態度をとる人さえいます。

  • 同時失認: 一度に複数の物体や複数の部分を見ることができません。食べものや様々な食器が置かれた食卓を見ると、スプーンだけが見えるといった現象です。

失認の診断

  • 医師による評価

  • 神経心理学的検査

  • CT検査やMRI検査などの画像検査

診断の過程では、視覚、触覚、またはその他の感覚を用いて、ありふれた物体を識別するように求められます。医師はまた、身体診察を行い、症状が別の原因(眼の病気や聴覚障害など)によるものかどうかを判定します。

脳機能を評価するための標準化された検査(神経心理学的検査)を行うこともあります。標準化とは、すべての人に同じ方法で検査を行い、毎回同じ方法で採点することを意味します。その点数を、条件が類似している健康な人の点数と比較します。この検査により、脳の様々な領域がどの程度機能しているかが分かります。医師は、知能、問題を解決し計画を立てて行動を開始する能力(遂行機能)、注意力、記憶力、言語、意欲、気分や感情、生活の質、性格などを問う質問をします。

腫瘍や脳卒中など、脳損傷を引き起こす異常がないか確認するために、CT検査やMRI検査などの画像検査が行われます。疑われる原因に応じて、その他の検査を行うこともあります。例えば、機能的MRI(fMRI)検査では、読む、書く、記憶する、計算する、手足を動かすなど、特定の課題をしているときに活性化する脳の領域が分かります。PET検査では、脳の様々な領域がどの程度活動しているかが分かります。しかし、これら2つの検査を使用できるのは主に研究施設に限られます。

失認の予後(経過の見通し)

どの程度の回復が得られるかは、以下の要因に影響されます。

  • 損傷の種類、大きさ、部位

  • 障害の程度(例えば、物体の認識がどれくらい困難か)

  • 患者の年齢

  • 治療の有効性

損傷の原因がなくなれば、大部分の人は最初の3カ月の間に回復し始め、最長で1年間はいくらかの回復が続く可能性があります。

失認の治療

  • 原因の治療

  • 言語療法と作業療法

可能であれば、失認の原因に対する治療を行います。例えば、膿瘍が原因であれば、抗菌薬を使用したり、手術で膿を排出したりすることがあります。

失認に特有の治療法はありません。

失認のみられる人には、その障害を補う方法を学ぶ上で言語療法や作業療法が役に立つ場合があります。これらの療法士は、失認のある患者に対して、見当識を保つ方法、注意力を維持する方法、物体を認識する方法、作業の手順を計画する方法、日常的な問題を解決する方法、他の人とより効果的に交流する方法を教えることで、コミュニケーション能力の向上を助けます。

プロフェッショナル版を見る
プロフェッショナル版を見る
quiz link

医学知識 クイズにチャレンジ

Take a Quiz! 
ANDROID iOS
ANDROID iOS
ANDROID iOS
TOP