プリオン病の概要

(伝達性海綿状脳症)

執筆者:Brian Appleby, MD, Case Western Reserve University
レビュー/改訂 2022年 11月
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プリオン病は、現在のところ治療法がなく、最終的には死に至る、まれな進行性の脳(およびまれに他の臓器)の変性疾患であり、プリオンと呼ばれるタンパク質が異常な形態に変化することで発生します。

プリオンが発見されるまでは、クロイツフェルト-ヤコブ病などの海綿状脳症はウイルスが原因と考えられていました。プリオンはウイルスよりはるかに小さく、また、遺伝物質をまったくもたないため、ウイルスでも細菌でもなく、生きているどの細胞とも異なります。

プリオン病では、細胞性プリオンタンパク質(PrPC)と呼ばれる正常なタンパク質が変形して(異常な形に折りたたまれ)、異常なプリオンになります。この異常タンパク質分子は、スクレイピープリオンタンパク質(PrPSc)(または異常プリオン)と呼ばれます。(スクレイピーとは、最初にヒツジで見つかったプリオン病の名前です)。スクレイピーはヒツジのプリオン病で、病気のヒツジが自分の体を木や柵柱などにこすりつけて(scrape[スクレイプ])羊毛をちぎるような動作をするため、この名前がつけられています。この病気にかかったヒツジでは、ほかにも奇妙な行動がみられ、最終的には死に至ります。

新しく形成された異常プリオンの一部は、脳内の酵素で分解されず、徐々に蓄積していきます。異常プリオンは、近くにある別の正常なプリオン(PrPC)を異常プリオンに変化させ、この現象が連鎖的に続きます。そして異常プリオンが一定の数に達すると、プリオン病が発症します。異常プリオンが正常なPrPCに戻ることは決してありません。

PrPCは体のあらゆる細胞に存在し、脳には特に高濃度で存在します。そのため、ほとんどのプリオン病は神経系に優位に、あるいは神経系だけに影響を及ぼします。異常プリオンによって生じる最も一般的な変化として、脳細胞内に微小な泡が形成され、脳に極めて小さな穴がたくさんあくことが挙げられます。異常プリオンに侵された脳組織のサンプルを顕微鏡で観察すると、スイスチーズやスポンジのように見えます(「海綿状」という用語はこれに由来します)。一定の期間が経過すると(長さは様々です)、侵された細胞が機能を停止し、死滅します。

プリオン病には以下の種類があります。

  • 孤発性:明らかな理由なく自然発生的に起こるもの(最も多い)

  • 家族性:家族内で発生するもの

  • 獲得性:汚染された物質を介して感染するもの(まれ)

孤発性プリオン病

孤発性プリオン病は、人間のプリオン病の中で最も多く、全症例の85~90%を占めます。

孤発性プリオン病には3つの病型があります。

孤発性クロイツフェルト-ヤコブ病は、最も一般的な孤発性プリオン病です。全世界で見ると、毎年約100万人当たり1~2例のペースで孤発性クロイツフェルト-ヤコブ病の発生が確認されています。

孤発性プリオン病では、最初のプリオンがどのように形成されるのかが明らかにされていません。しかし、細胞のプロセス(細胞代謝)にエラーが生じ、このエラーによってPrPCの形に自然に変化が生じるのではないかと考えられています。

家族性プリオン病

家族性プリオン病には、PrPCの遺伝子変異が関わっていて、この変異が遺伝します。このような遺伝子変異があると、PrPCが異常プリオンに変化しやすくなります。50種類以上の遺伝子変異があり、遺伝子変異の種類毎に異なるプリオン病が生じる可能性があります。家族性プリオン病は、ほぼ常に常染色体優性遺伝疾患です。これはつまり、遺伝子変異が性染色体(XまたはY染色体)に存在するものではないということと、この疾患につながる変異遺伝子が1つ(父親と母親の一方から受け継いだもの)あるだけで発症するということを意味します。

家族性プリオン病には主に3つの病型があります。

新たに発見された別の家族性プリオン病は、脳の機能不全の症状が現れる何年も前から、下痢を引き起こし、体中の神経細胞を侵していくという点において、他のプリオン病と異なっています。これは下痢および自律神経性ニューロパチーを伴うプリオン病(prion disease associated with diarrhea and autonomic neuropathy)と呼ばれています。

獲得性プリオン病

獲得性プリオン病はまれな病気で、以下の場合に発生します。

  • 異常プリオンに感染したウシの肉を食べたとき(人間の「狂牛病」と呼ばれることもある変異型クロイツフェルト-ヤコブ病の症例など)

  • 異常プリオンに汚染された臓器または組織を移植されたとき

  • 異常プリオンに汚染された物質(ホルモンなど)を注射されたとき

  • 異常プリオンに汚染された器具で脳の手術を受けたとき

  • まれに、異常プリオンに汚染された血液製剤を輸血されたとき

クールーも獲得性プリオン病の1つです。この病気はかつて、人肉を食べる儀式を行っていたパプアニューギニアの原住民の間で発生していました。

プリオン病を有する人との日常的な接触を介して、プリオン病が広がったという報告はありません。

動物のプリオン病

プリオン病は、ヒツジ、ヤギ、ウシのほか、ヘラジカ、シカ、ミンク、ネコなどの動物に発生します。具体的な病気の種類によって異なりますが、プリオン病は以下のような状況で動物の種を越えて伝染することがあります。

  • 感染した動物を捕食したとき

  • 感染した動物の体液や排泄物に触れたとき

  • 感染した動物によって汚染された土に触れたとき

  • 感染した動物と同じ建物で飼育されたとき

人間のクロイツフェルト-ヤコブ病と同様に、動物のプリオン病でも徐々に筋肉の協調運動が損なわれ、異常な振る舞いがみられるようになり、続いて認知症の症状が現れます。

スクレイピーはヒツジのプリオン病で、病気のヒツジが自分の体を柵柱などにこすりつけて(scrape[スクレイプ])羊毛をちぎるような動作をするため、この名前がつけられています。

ヘラジカやシカにおけるプリオン病は、慢性消耗病と呼ばれています。米国の大半の州と韓国、カナダ、ノルウェー、フィンランド、スウェーデンでは、慢性消耗病にかかった動物を狩猟した人、精肉した人、その肉を食べた人に、この病気が伝染する可能性が懸念されています。しかし、慢性消耗病またはヒツジのスクレイピーが人間にプリオン病を引き起こしたという報告は今のところありません。慢性消耗病が人間に感染するかどうかについては研究が続けられています。

狂牛病(ウシ海綿状脳症)という病名は、この病気にかかったウシが著しく興奮することからつけられました。この病気は当初、スクレイピーに感染したヒツジの組織がウシに飼料として与えられたことで、ヒツジからウシに伝染した可能性が高いと考えられています。

汚染された牛肉やそれから作られた加工食品を食べた人の少数に、ある種のクロイツフェルト-ヤコブ病が発生することもあります。この病型は1996年に初めて報告されて以来、変異型クロイツフェルト-ヤコブ病と呼ばれています(人間の「狂牛病」と呼ばれることもあります)。変異型クロイツフェルト-ヤコブ病は、他のクロイツフェルト-ヤコブ病とは多くの点で異なります。

  • 変異型クロイツフェルト-ヤコブ病の患者の脳組織を顕微鏡下で観察すると、他の病型とは異なる変化がみられます。

  • 他のクロイツフェルト-ヤコブ病の初発症状は記憶障害や協調運動障害である一方、変異型クロイツフェルト-ヤコブ病では最初に(不安や抑うつなどの)精神症状がみられる傾向があります。

変異型クロイツフェルト-ヤコブ病は非常にまれで、最も多かった時期でさえごく少数でした。2022年5月7日までに、英国で178例、その他の国で55例、全世界で計233例が発生しています。英国において、新しい症例が最も多く報告されたのは2000年でした。それ以降、新たな症例の数は着実に減少しています。米国では、今までに4人の患者がこの診断を下されています。いずれもおそらく外国で感染した症例と考えられます。

プリオン病の治療

  • 症状の軽減と不快感の軽減

プリオン病には根治的な治療法がなく、常に致死的であり、通常は症状が現れて数カ月から1~2年で死に至ります。治療では、症状の緩和と不快感の軽減に重点が置かれます。

プリオン病患者の介護者が、プリオン病による認知症に対処する際に役立つ方策がいくつかあります(コラム「認知症患者に適した環境を作る」を参照)。

可能であれば、プリオン病と診断された患者は、終末期にどのような治療を望むかを記した事前指示書を作成しておくべきです。

家族の中に遺伝性のプリオン病を発症した人がいる場合は、遺伝カウンセリングを受けるとよいでしょう。

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