血管炎の概要

執筆者:Alexandra Villa-Forte, MD, MPH, Cleveland Clinic
レビュー/改訂 2022年 5月
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やさしくわかる病気事典

血管炎疾患は、血管の炎症(血管炎)を原因とする病気です。

  • 血管炎は、特定の感染症や薬によって引き起こされる場合もあれば、原因不明の場合もあります。

  • 発熱や疲労などの全身症状がみられることがあり、その後、侵された臓器に応じて他の症状がみられます。

  • 診断を確定するために、患部の臓器の組織から採取したサンプルの生検を行い、血管の炎症を確認します。

  • 炎症を抑え症状を軽減するために、コルチコステロイドやその他の免疫抑制薬がよく用いられます。

血管炎はあらゆる年齢の人に生じる可能性がありますが、特定の年齢層によくみられるタイプもあります。

血管炎は、動脈(大型、中型、または小型)、毛細血管、静脈、またはこれらの複数を侵します。1つの血管全体が侵される場合も、その一部だけが侵される場合もあります。頭部、神経や皮膚など、体の1つの部分に血液を供給する血管に起こることもあれば、多くの異なる臓器に血液を供給する血管に起こることもあります(全身性血管炎と呼ばれます)。どの器官系も侵される可能性があります。ときに血管炎は、皮膚に生じて他の臓器を侵さないこともあります(皮膚血管炎)。

皮膚血管炎
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この画像では、脚に紫色のあざ(斑状出血)やしみ(紫斑)が複数みられます。
© Springer Science+Business Media

血管炎の原因

通常、血管炎のきっかけは不明です。その場合の血管炎を原発性の血管炎といいます。ただし、血管炎が、感染症、毒性物質、特定のウイルス(特に肝炎ウイルス)、薬によって誘発されることがあり、その場合は二次性の血管炎といいます。

血管炎はがんやその他の炎症を起こす病気の結果として生じることもあります。おそらく、免疫系が誤って自分の血管や血管の一部を異物と認識し、これらを攻撃することで炎症が起こるものと考えられます。炎症を起こす免疫系の細胞が、病変血管を取り囲んでその中に入り込み(浸潤)、血管を傷つけます。傷ついた血管は漏れやすくなったり、狭窄したり、詰まったりすることがあります。そうなると、その傷ついた血管によって血液が供給されていた組織への血流が途絶えます。血流が途絶えた組織(虚血領域)は、永続的な損傷を受けたり、壊死したりすることがあります。

血管炎の症状

血管炎の症状は、血管への直接的な損傷によって起こる場合と、神経や臓器など、血流が途絶えたり減少したりした(虚血)組織への間接的な損傷によって起こる場合があります。

症状は、侵された血管の太さや位置、侵された臓器の損傷の程度によって異なります。例として、次のような症状が現れることがあります。

  • 皮膚:青紫色の斑点(出血)やあざ(紫斑)、じんま疹、小さな隆起(小結節)、小さな斑点(点状出血)、表層の血管が拡張することによる斑状の変色(網状皮斑)、膝より下の潰瘍

  • 末梢神経:侵された腕や脚のしびれ、ピリピリ感、または筋力低下

  • 脳:錯乱、けいれん発作、脳卒中

  • 消化管:腹痛、下痢、吐き気、嘔吐、血便

  • 心臓:狭心症、心臓発作

  • 腎臓:高血圧、体液貯留(浮腫)、腎機能障害

  • 関節:関節の痛みや腫れ

網状皮斑
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この写真には、皮膚に生じたレース状の赤色の斑が映っています。これは網状皮斑に典型的なものです。
© Springer Science+Business Media

炎症により、発熱、寝汗、疲労、筋肉痛、食欲不振、体重減少などの全身症状が生じることもあります。

血管炎が、直ちに治療が必要になる重篤な合併症を引き起こすことがあります。例えば、肺や脳などの臓器の損傷した血管から出血することがあります。腎臓への影響が急速に進行して、腎不全に至ることがあります。眼に起こる問題の結果、失明する可能性があります。

血管炎の診断

  • 医師による評価

  • 血液と尿の検査

  • 組織生検(診断を確定するため)

  • ときに画像検査

血管炎はまれにしか起こらず、その症状の大部分は他の病気が原因であることがはるかに多いため、最初に症状が出たときに血管炎が疑われることはあまりありません。それでも、特定の組合せで症状がみられたり、症状が持続したりすると、医師は、最終的に血管炎を疑います。

通常は以下の血液と尿の検査を行います。

  • 血算血管炎では、血液中の赤血球が少ない(貧血)、血小板が多すぎる、白血球が多すぎる、特定の種類の白血球の割合が大きい、などの異常が起こることがありますが、これらは他の多くの病気でもみられます。血管炎によって、体内の赤血球の生産が低下するか、または内出血が引き起こされて、貧血が起こることがあります。

  • 生化学検査:この血液検査では、値が異常な場合に腎臓や肝臓の著しい損傷を示していることがある物質を測定します。腎臓と肝臓は、様々な種類の血管炎で侵される臓器です。

  • 抗体検査:疑われる病気に応じて、血液を分析し、特定の抗体(例えば抗好中球細胞質抗体)や補体タンパク質がないか確認します。例えば、多発血管炎性肉芽腫症や顕微鏡的多発血管炎の患者では、通常、抗好中球細胞質抗体がみられます。

  • 感染症検査:血液検査をして、血管炎の誘因になった可能性がある感染症(例えば、B型肝炎C型肝炎)の有無を調べる場合もあります。

  • 炎症の検査:炎症(血管炎によって通常は引き起こされる)の程度を推定するための血液検査を行います。例えば、赤血球が試験管の底に沈む速度(赤血球沈降速度、赤沈)を測定します。この速度が速ければ、炎症が起きていることが示唆されます。C反応性タンパク質(全身の炎症に反応して肝臓で生成される)の値が高い場合も、炎症が示唆されます。しかし、炎症には血管炎以外に多くの原因があります。

  • 尿検査:尿サンプルを検査して、赤血球とタンパク質の有無を調べます。この検査の結果は、腎臓が侵されているかどうかを判定するのに役立ちます。腎臓の炎症は、症状が出ないうちに重度の損傷を引き起こすことがあるため、この情報は重要です。

血液検査と尿検査の結果は診断に役立つことがありますが、通常はそれだけで結論は出ません。通常、確認のために、侵された臓器から組織のサンプルを採取し、顕微鏡で血管炎の徴候がないかどうかを調べます(生検)。採取部位の感覚をなくすために麻酔が使われ(局所麻酔)、また、生検はしばしば入院せずに行うことができます。

ときとして、血管の生検の代わりに血管の画像検査(動脈造影CT血管造影MRアンギオグラフィーなど)が行われることもあります。その他の画像検査が必要になることもあります。例えば、肺に異常があると思われる場合、胸部のX線検査を行い、さらにCT検査を行うこともあります。

同様の症状を引き起こす他の病気を否定するために、いくつかの検査を行うことがあります。

血管炎の予後(経過の見通し)

予後は、血管炎のタイプや重症度と、侵された臓器により異なります。腎臓や心臓が侵されると、予後が悪くなる傾向があります。

血管炎の治療

  • 血管炎の明らかな原因の治療(特定の薬の中止など)

  • コルチコステロイドとその他の免疫抑制薬

原因が明らかな場合は、それを治療します。例えば、血管炎が感染症によって起こっている場合は、感染症を治療することが血管炎の治療になります。血管炎の原因になっている薬は使用を中止します。その他の治療は、血管炎のタイプや重症度と、侵された臓器により異なります。一般的に、そのような治療は、免疫系が血管に損傷を与え続けないようにすることを目的とします。

重要臓器(肺、心臓、脳、腎臓など)が侵されている場合は、しばしば、病院での早急な治療が必要です。ときに、専門医(炎症、肺疾患、腎疾患などの分野の専門医など)のチームによる治療が必要になることがあります。一般的な治療法としては、高用量のコルチコステロイドや、その他の免疫抑制薬(シクロホスファミドやリツキシマブなど)などがあります。

皮膚のみに影響を及ぼすものなど、軽いタイプの血管炎には、ほとんど治療が必要ないことがあり、綿密なモニタリングか症状の治療だけでよい場合もあります。

コルチコステロイド

ほとんどのタイプの血管炎では、炎症を抑えるために、通常、最初にコルチコステロイド(通常はプレドニゾン[日本ではプレドニゾロン])を使用します。ときには、免疫抑制薬(例えば、アザチオプリン、シクロホスファミド、メトトレキサート、またはリツキシマブ)をコルチコステロイドと併用します。血管炎の治療に用いる薬は、副作用が生じる可能性があります。したがって、炎症が抑えられるにつれて、薬の量を徐々に減らすことがあり、コルチコステロイドは中止することがあり、あまり強くない免疫抑制薬を使用します。用量は、症状を抑えることができる最小限にします。

いったん炎症が抑えられると(寛解と呼ばれます)、すべての薬の投与を中止することもあります。一部の患者では、そのまま寛解状態がずっと続きます。何度か症状を繰り返す(再発と呼ばれます)患者もいます。頻繁に再発する場合は、免疫抑制薬を無期限に服用し続けなければならないことがあります。一部の患者は、コルチコステロイドを長期間服用しなければなりません。

コルチコステロイドを長期間服用すると、例えば、骨密度の低下(骨粗しょう症)、感染症のリスクの増加、白内障、高血圧、体重増加、糖尿病などの副作用が起こりやすくなります。骨密度の低下を予防するために、カルシウムとビタミンDのサプリメントを摂取することが推奨され、骨密度の上昇を助けるビスホスホネート系薬剤(例えば、アレンドロン酸やリセドロン酸、イバンドロン酸など)がしばしば投与されます。骨密度は定期的に測定します。

その他の免疫抑制薬

免疫抑制薬は免疫の働きを弱めるため、重篤な感染症やその他の副作用が起きるリスクを高めます。例えば、強力な免疫抑制薬の1つであるシクロホスファミドは、膀胱刺激症状や血尿のほか、ときに使用が長期に及ぶと膀胱がんをも引き起こすことがあります。シクロホスファミドを静脈内投与する場合は、シクロホスファミドのもつ膀胱への毒性作用の一部を化学的に打ち消す、メスナという薬も投与します。強い免疫抑制薬を使用する患者には、血算を頻繁に(ときには週1回)行います。免疫抑制薬は、血球数を減少させることがあります。

そのような免疫抑制薬による治療を受ける患者については、全員に対して日和見感染症などの感染症がないか患者の状態をモニタリングするべきです。結核とB型肝炎の過去の感染に対する検査も考慮します。どちらも免疫抑制薬によって再活性化する可能性があるためです。一般に行われる予防接種(例えば、インフルエンザ肺炎の予防接種)が、免疫抑制薬を服用する患者には極めて重要で、推奨されます。

患者は、主要な症状が現れたら速やかに医師に報告できるように、できるだけ自分の病気について知っておくべきです。使用されている薬の副作用についても、知ることが重要です。たとえ寛解状態であっても、寛解期がどのくらい続くかは予測できないため、医師との関係は保っておくべきです。

さらなる情報

以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 血管炎財団(Vasculitis Foundation):医師の見つけ方、研究についての学び方、患者擁護団体への参加方法など、血管炎に関する患者向けの情報を提供しています。

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