息切れや失神、発熱、体重減少がみられる場合があります。
診断は心エコー検査で確定されます。
手術で粘液腫を切除する必要があります。
原発性(心臓から発生した) 心臓腫瘍 心臓腫瘍の概要 腫瘍(しゅよう)という用語は、それががんであるか(悪性)、がんではないか(良性)に関係なく、異常に増殖する組織のことを指します。心臓の腫瘍は以下のように分けられます。 原発性(良性または悪性) 転移性(常に悪性) 原発性心臓腫瘍とは、心臓で発生した腫瘍のことです。原発性心臓腫瘍はまれな病気で、その頻度は2000人に1人を下回ります。原発性... さらに読む の半数が粘液腫です。粘液腫の4分の3は左心房(肺から出た酸素を豊富に含む血液が流れ込む心腔)に発生します。粘液腫は女性に多く、典型的には40~60歳の女性に発生します。
一部のまれな粘液腫は家族内で遺伝します。そのような遺伝性の粘液腫(様々な良性腫瘍が発生するカーニー症候群の一部)は、通常は20代半ばの若い男性で発生し、4つある心腔(心房と心室)の複数に発生することもあります。
粘液腫が心臓内の血流を遮断する仕組み
左心房内にできた粘液腫は、しばしば細い茎状の根元部分から成長し、血流によって自由に揺れ動きます。粘液腫はこうした動きに伴い、その近くにある僧帽弁(左心房から左心室に向けて開く弁)を出入りします。このように揺れ動くことで、弁が閉塞と開通を何度も繰り返すため、血流は停止と再開を断続的に繰り返します。 |
左心房にできた粘液腫は、しばしば細い茎状の根元部分から成長し、テザーボール(柱の上端からひもでぶら下がっている球)のように血流によって自由に揺れ動きます。粘液腫はこうした動きに伴い、その近くにある僧帽弁(左心房から左心室に向けて開く弁)を出入りします。このように揺れ動くことで、弁が閉塞と開通を何度も繰り返すため、血流は停止と再開を断続的に繰り返します。
粘液腫の症状
左心房に粘液腫のある人は、立ち上がった際に息切れを感じたり、失神したりします。立っている状態では、重力により粘液腫が僧帽弁の開口部に引き込まれるため、心臓内を通る血流が遮断されます。この遮断により、心臓から送り出せる血液の量が減少することで、血圧が一時的に低下します。横になると、粘液腫が僧帽弁から離れるため、典型的には症状が軽くなります。
粘液腫のその他の症状としては以下のものがあります。
発熱
体重減少
関節痛
粘液腫の合併症
粘液腫の破片や粘液腫の表面に形成された血栓が剥がれて血流に乗り、他の臓器まで移動して、そこの動脈を詰まらせる可能性があります(塞栓)。それによって生じる症状は、どの動脈が遮断されるかによって異なります。例えば、左心房の粘液腫から発生した腫瘍塞栓によって脳内の動脈が詰まれば、 脳卒中 脳卒中の概要 脳卒中は、脳に向かう動脈が詰まったり破裂したりして、血流の途絶により脳組織の一部が壊死し(脳梗塞)、突然症状が現れる病気です。 脳卒中のほとんどは虚血性(通常は動脈の閉塞によるもの)ですが、出血性(動脈の破裂によるもの)もあります。 一過性脳虚血発作は虚血性脳卒中と似ていますが、虚血性脳卒中と異なり、恒久的な脳損傷が起こらず、症状は1時間... さらに読む が起こり、右心房の粘液腫から発生した塞栓によって肺の中の動脈が詰まれば、胸痛や喀血(かっけつ)がみられます。塞栓は粘液腫で最もよくみられる合併症です。
血液に特定の異常がみられる合併症もあります。赤血球が減少すると(貧血 貧血の概要 貧血とは、赤血球の数が少ない状態をいいます。 赤血球には、肺から酸素を運び、全身の組織に届けることを可能にしているヘモグロビンというタンパク質が含まれています。赤血球数が減少すると、血液は酸素を十分に供給できなくなります。組織に酸素が十分に供給されないと、貧血の症状が現れます。... さらに読む )、疲労感、脱力、蒼白(顔が青白くなる症状)がみられるようになります。血小板数が減少すると、 血液凝固 血栓について 止血とは、傷ついた血管からの出血を止めようとする体の働きです。止血の過程では、血液の凝固が起こります。 凝固の働きが弱すぎると、軽いけがでも、大量の出血が起きるようになります。 凝固の働きが強すぎると、出血が起きていない血管がふさがれてしまうことがあります。 そのため、人の体には、血液の凝固を抑制し、必要なくなった血のかたまりを溶かすため... さらに読む に障害が起こり、皮膚に赤い斑点(点状出血)やあざができやすくなります。
粘液腫の診断
医師による評価
画像検査
粘液腫の症状の多くは、他の多くの病気でもみられることから、診断を下すには多くの検査が必要になる場合があります。
血液検査では、白血球数の増加(炎症を意味します)、貧血、血小板数の減少がみられることがあります。ただし、これらの検査結果は決定的なものではありません。
診断は 心エコー検査 心エコー検査とその他の超音波検査 超音波検査では、周波数の高い超音波を内部の構造に当てて跳ね返ってきた反射波を利用して動画を生成します。この検査ではX線を使いません。心臓の超音波検査(心エコー検査)は、優れた画像が得られることに加えて、以下の理由から、心疾患の診断に最もよく用いられる検査法の1つになっています。 非侵襲的である 害がない 比較的安価である 広く利用できる さらに読む で確定されます。ときに CT検査 心臓のCT検査 CT検査は、心臓や心膜(心臓を包んでいる袋状の膜)、主要な血管、肺、胸部の支持組織などの構造的な異常を検出するために行われることがあります。 非常に高速なCT装置であるマルチスライスCTでは、1回の拍動の間に撮影を行うことができます。そのような高速で行うCT検査(CT冠動脈造影検査)は、心臓に血液を供給する冠動脈を評価するために用いられることがあります。一般的には、 造影剤(X線画像に写る物質)が静脈内に注射されます。検査を受ける人は、... さらに読む や MRI検査 心臓のMRI検査 MRI検査では、強力な磁場と電磁波を用いて心臓と胸部の詳細な画像を描き出します。この高価で複雑な検査法は、主に複雑な先天性の心疾患の診断や正常組織と異常組織の識別のために用いられます。 MRI検査には短所もあります。MRI検査は CT検査や 心エコー検査よりも画像の生成に時間がかかります。また心臓の拍動による影響を受けやすいため、MRI画像はCT画像よりも不鮮明になります。ただし、新しい方式のMRI検査(心電図同期MRI)では、心電図の... さらに読む など、他の画像検査が必要になる場合もあります。
粘液腫の治療
手術
通常、粘液腫は外科的切除で根治できます。手術後は5年ほど定期的に心エコー検査を行い、粘液腫の再発がないことを確認します。