予防手段は数多く、主に次の手段があります。
シートベルトの着用、健康的な食事、十分な運動、日焼け止めの使用、禁煙などにより、健康的な生活習慣を確立する。
特定の病気(動脈硬化など)の発生リスクが高い人やすでに患っている人は、病気の発症や悪化を予防するために推奨される薬剤を使用する(予防的な薬物療法、または化学予防)。
予防的な薬物療法には、アテローム動脈硬化を予防するコレステロール降下薬、心臓発作や脳卒中を予防するアスピリン、乳がんのリスクが高い女性において乳がんを予防するタモキシフェン、血圧を下げて脳卒中を予防する降圧薬などがあります。
健康的な生活習慣
生活習慣と病気は明らかに関連があります。例えば、不健康な 食事 食事 アテローム性動脈硬化とは、太い動脈や中型の動脈の壁の中に主に脂肪で構成されるまだら状の沈着物(アテロームあるいはアテローム性プラーク)が形成され、それにより血流が減少ないし遮断される病気です。 アテローム性動脈硬化は、動脈の壁が繰り返し損傷を受けることによって引き起こされます。... さらに読む (カロリーが高く、飽和脂肪やトランス脂肪酸を多く含むもの)をとり、定期的な運動の習慣がなく、喫煙していると、心疾患やがん、脳卒中といった米国の三大死因である病気が発生するリスクが高くなります。不健康な生活習慣を改めることは、特定の病気の予防に役立ち、健康状態や生活の質の向上につながります。よい判断を下し、健康的な習慣を確立するために、医師や他の医療従事者と話し合うとよいでしょう。しかし、健康的な生活習慣の確立と維持は、本人の取り組みにかかっています。健康的な食生活と十分な運動を継続することは、多くの人にとって容易ではありませんが、実行できれば深刻な病気にかかるリスクが低下し、たいていは快調でいきいきと過ごせるようになります。
健康的な食生活 食事 冠動脈疾患とは、心臓の筋肉(心筋)への血液供給が部分的または完全に遮断されることで起きる病気です。 心筋は酸素を豊富に含んだ血液を絶えず必要とします。その血液を心臓に送る血管は、大動脈が心臓から出たところで枝分かれする 冠動脈です。この血管が狭くなる冠動脈疾患では、血流が遮断されて、... さらに読む は、高血圧、心疾患、糖尿病、骨粗しょう症、一部のがんなどの病気の予防やコントロールに役立ちます。推奨される食生活は次の通りです。
低脂肪の乳製品を選ぶ、皮を取り除いた鶏肉や脂肪の少ない肉を使うなど、食事に含まれる脂肪の量を制限する
カロリーを制限し、推奨体重を維持する(BMI(ボディマスインデックス) BMI(ボディマスインデックス) )
塩の摂取量を制限する
十分なカルシウムとビタミンDをとる(食事やサプリメントで)
身体活動と運動 運動の効果 定期的な運動をすると心臓が強くなり、肺の調子もよくなります。これにより、心血管系が1回の心拍で運ぶ酸素の量が増加し、肺に取り込むことのできる最大酸素量が増えます。運動には以下のような効果があることも示されています。 血圧を低下させる 総コレステロール値と、低比重リポタンパク質(LDL)コレステロール(悪玉コレステロール)値をいくぶん低下させる 高比重リポタンパク質(HDL)コレステロール(善玉コレステロール)値を上昇させる... さらに読む は、肥満、高血圧、心疾患、脳卒中、糖尿病、一部のがん、便秘、転倒などの健康上の問題の予防に役立ちます。最善の習慣として、合計で週150分程度の適度な身体活動を行うか、または週75分程度の活発な有酸素運動を行うことが挙げられます。最低10分間は運動を継続するようにし、1週間の中でまんべんなく運動を行うのが理想的です。しかし、少しの運動でも、まったくしないよりはずっとよいでしょう。週に数回、10分ずつしか運動の時間がとれないとしても、かなりの効果があり、運動が活発なものであれば特に効果的です。ウォーキングは、多くの人が楽しんでいる簡単で効果的な運動です。また、特定の問題にねらいを定めて行う運動もあります。例えばストレッチは、柔軟性を改善し、転倒の予防に役立てることができます。また、有酸素運動は心臓発作や狭心症のリスクを低下させます。
禁煙 治療 禁煙は非常に困難なことが多いですが、喫煙者が自分の健康のためにできる最も重要なことの1つです。 禁煙はすぐに健康上の便益をもたらし、便益は時間の経過とともに大きくなります。 禁煙する人は、イライラし、不安で、悲しく、落ち着きのない状態になることがありますが、これらの症状は時間の経過とともに軽減します。 禁煙は周囲の人々にも健康上の便益をもたらします。 ほとんどの喫煙者は禁煙したいと願い、禁煙を試みていますが、失敗に終わっています。 さらに読む は、健康的な生活習慣に欠かせません。医師は禁煙を促し、禁煙を成功させるために、ニコチン置換療法や、ブプロピオンやバレニクリンといった禁煙補助薬(喫煙の欲求を抑える薬)などについて説明と推奨を行います。
安全な性行為 避妊の概要 避妊とは、妊娠を防止することを目的として、精子と卵子の 受精や受精卵の子宮内膜(子宮の内側を覆っている組織)への 着床を阻止することをいいます。 避妊法は妊娠を予防するために用いられます。避妊法には一時的なもの(経口避妊薬や子宮内避妊器具など)と、 恒久的なもの(永久的に妊娠を避けることを意図したもので、... さらに読む も重要です。安全な性行為のキーポイントは、危険なセックスパートナーを避け、互いにパートナーを1人だけにすることです。複数のセックスパートナーがいる人は、毎回のセックスでラテックス製コンドームを正しく使用すると、性感染症のリスクを大きく減らすことができます(予防 予防 性感染症(性病)とは、例外はあるものの、一般的には性的接触によって人から人に感染する病気のことです。 性感染症を引き起こす病原体の種類としては、細菌、ウイルス、原虫などがあります。 キスや濃厚な体の接触を介して広がる感染症もあります。 感染が体の他の部分に広がり、ときには深刻な結果に至る場合もあります。... さらに読む )。ラテックスにアレルギーのある人は、他の種類のコンドームを使用するとよいでしょう。
飲酒の制限 飲酒 アルコール(エタノール)は、中枢神経系の機能を抑制します(脳と神経系の働きを遅くします)。急激または定期的に大量の飲酒をすると、臓器の損傷、昏睡、死亡などの健康上の問題を引き起こす可能性があります。 アルコール関連障害の発症には遺伝的な特性や個人的な性質が関与している場合があります。 アルコールを飲みすぎると、眠くなったり攻撃的になり、運動協調や精神機能が損なわれたり、仕事、家族関係、その他の活動が妨げられたりします。... さらに読む も重要です。少量のアルコール、特に赤ワインは健康によい面もありますが、中程度(例えば1日に1~2ドリンク、女性はより少量の可能性もあります)以上の飲酒は、しばしば有害です。ここでの1ドリンクとは、ビールなら約360ミリリットル、ワインなら約150ミリリットル、ウイスキーのようなさらにアルコール度数の高い酒類なら約45ミリリットルです。
けがの予防は、健康的な生活習慣の維持に大きな役割を果たしています。適切な保護具を着用するなどの特定の注意を払って、けがのリスクを低下させることができます。
十分な睡眠 睡眠の概要 睡眠は生存と健康に欠かせませんが、睡眠がなぜ必要で、正確にはどのような効果があるのか、まだ完全には解明されていません。睡眠による効果の1つは、日中の作業効率を回復させることです。 必要な睡眠時間は人によって大きく異なりますが、通常は1日6~10時間です。ほとんどの人は夜に眠ります。しかし、勤務形態に合わせるため昼間に睡眠をとらなければなら... さらに読む も、特に気分や精神状態に影響するため、健康的な生活習慣に欠かせません。睡眠不足はけがの危険因子です。
ワクチン接種
これまでに各種の ワクチン 小児期の予防接種 ワクチンの接種によって多くの感染症から小児を守ることができます。ワクチンには、細菌やウイルスの感染力のない成分が入っているか、感染症を引き起こさないように弱毒化された細菌やウイルスそのものが入っています。ワクチンを(通常は注射で)接種すると、体の免疫系が刺激されて、対象の感染症に抵抗するようになります。ワクチン接種は、免疫をつけて病気を予... さらに読む が多大な成果を上げてきました。ジフテリア、百日ぜき、破傷風、流行性耳下腺炎(ムンプス)、はしか(麻疹)、風疹、ポリオ(小児麻痺)など、危険で死に至ることもある感染症は、ピーク時から99%以上減少しました。これは、効果的で安全なワクチンが開発され、普及したおかげです。さらに米国では、予防接種に1ドル使うたびに約16ドルの医療費を節約する効果があるといわれています。
ワクチンが原因で起こる副反応には、たくさんのものがあります(小児期の予防接種に関する懸念 小児期の予防接種に関する懸念 米国ではワクチンの安全性を確保するための強固な制度が整備されているにもかかわらず、一部の親たちは依然として、小児へのワクチンの使用や スケジュールについて懸念を抱いています。そうした懸念が一部の親たちの間でワクチン忌避につながる可能性があります。ワクチン忌避とは、ワクチンが利用可能であるにもかかわらず、親が推奨されているワクチンの一部またはすべてを子どもに受けさせるのを遅らせたり、受けさせなかったりすることです。親がワクチン接種を拒否し... さらに読む を参照)。実際に生じる副反応はワクチンによって異なりますが、よく起こる副反応は通常は軽く、腫れや痛み、また注射部位のアレルギー反応などのほか、発熱や悪寒がみられることがあります。より重篤な副反応が起こることもあります。自己免疫反応(一時的な筋力低下や麻痺が生じるギラン-バレー症候群など)はその一例です。しかしながら、ワクチンが適正に接種されれば、重篤な副反応が起こることは非常にまれです。
これまでに、系統的かつ広範な研究によって、ワクチンと他の重篤な副反応(自閉症など)との関連が確認されたことはありません。ワクチンがエイズや不妊症を引き起こすという報告は、事実無根の都市伝説です。副反応を避けるためにワクチン接種を拒否することは、感染症になるリスクを高め、懸念されるワクチン接種の副反応よりはるかに大きな悪影響を健康に及ぼします。
ワクチンで予防できる感染症に最もかかりやすいのは、小児や青年、高齢者、免疫系に障害のある人々です。また彼らは、このような感染症による重篤な症状を最も起こしやすい人々でもあります。例えば、百日ぜきでは乳児に重度の症状がみられることがよくありますが、より年長の健康な人であれば、百日ぜきにかかっても普通のかぜ程度の軽い症状で済むでしょう。感染症になりやすい人にワクチンを接種することが最も重要ですが、それ以外の人に対するワクチン接種も大切です。そうすることで、接種を受けた人の病気を予防できるのに加えて、その地域で発症する可能性がある人の数が減ることで、免疫力が弱くなった人に感染症が広がる機会が少なくなります。そのため、できる限り多くの人々に予防接種をすることで、その地域社会で発生する死亡や重篤な合併症が減少します。この効果は集団免疫と呼ばれています。
スクリーニング
スクリーニングとは、病気のリスクはあるものの症状の現れていない人を検査することです(検査に関する決定、スクリーニング検査 スクリーニング検査 多くの様々な病気で同じような症状が現れることがあるため、原因を特定するのはかかりつけ医などの医師にとって困難な場合があります。医師はまず、問診と診察によって基本的な情報を集めます。たいていの場合、診断を下すにはこれだけで十分です。少なくとも、基本的な情報によって、可能性のある診断のリストを絞り込み、行う必要のある検査の数を減らすことができます。可能性のある診断のリストをまず絞り込む前に検査を行った場合、費用がかかったり、誤った診断のリス... さらに読む も参照)。スクリーニングによって、早期発見が可能になります。早期発見によって、早期の治療が可能になり、ときには病気が命にかかわるほど悪化しないよう維持できる場合もあります。例えば子宮頸部や結腸の異常は、がん化する前に診断し、治療することができます。
スクリーニングにより、一部の病気による死亡者数は大きく減少しました。例えばアメリカ人女性のがんで最も死亡者数の多かった子宮頸がんは、1955年以来、死亡者数が75%減少しています。スクリーニングでは、根治はできないものの治療可能な疾患(高血圧など)を、健康に様々な害が生じる前に診断することもできます。
スクリーニングの推奨事項は通常、政府や専門家組織によって、その時点で得られる最善の研究結果に基づいて提供されます。ただし、組織によって、ときに推奨事項が異なります。これにはいくつかの理由があります。例えば、最善の研究結果であっても常に決定的なものとは限りません。また、スクリーニングの推奨事項では、どの程度のリスクや費用をスクリーニングを受ける人が許容できるのかを考慮すべきですが、これらを確実に知ることはできません。したがって、個々の懸念を考慮し、個々の状況に合うよう、スクリーニングについて主治医と相談する必要があります。
重篤な病気を診断できる検査なら、なんでも受けるべきだと思うかもしれません。しかし、これは正しい考えではありません。スクリーニング検査には多大な有益性がありますが、問題を引き起こすこともあるのです。例えば、実際は病気を患っていないのに検査結果が陽性になることがあります。その後、そうした結果が出た人の一部が不必要なフォローアップ検査や治療を受けて、しばしば費用がかさんだり、場合によっては痛みや危険にさらされたりします。
ときにはスクリーニング検査によって、治療が不可能な異常や治療の必要がない異常が見つかる場合もあります。一例を挙げると、 前立腺がん 前立腺がん 前立腺がんは、男性だけにある臓器である前立腺の小さな領域で発生します。 前立腺がんのリスクは年齢とともに高くなります。 排尿困難、頻尿や急な尿意、血尿などの症状は通常、がんが進行するまで現れません。 この種のがんは転移する可能性があり、最も転移しやすい部位は骨とリンパ節です。 症状のない男性で前立腺がんの可能性をチェックするために、医師が手袋をはめた指で直腸内から前立腺を診察する直腸指診や血液検査(PSA)を行うことがあります。 さらに読む は極めてゆっくり増殖するため、高齢の男性であれば、他の原因で死に至るまでにがんが健康に害を及ぼす可能性は低くなります。そのようなケースでは、病気より治療の方が悪いということにもなります。他の例として、がんのスクリーニングで、皆に全身のCT検査を行うことが挙げられます。この検査には、リスク(放射線曝露が原因となるがんなどの病気)を上回る利益(救命など)がないため、推奨されません。加えて、重篤な疾患にかかっているかもしれないと告げられると人は不安になり、そのせいで健康を害することもあります。
こうした問題から、スクリーニング検査が推奨されるのは以下のような場合に限られます。
ある程度、病気が発生するリスクが存在する。
スクリーニング検査が正確である。
症状が現れる前に対象の病気を診断できれば、より効果的に治療できる。
適切なスクリーニングによる医療上の利益が、比較的費用効果に優れている。
一部のスクリーニング検査(子宮頸がんや大腸がんの検査など)は、特定の年齢や性別の全員に推奨されます。リスクが高くなる他の要因がある人には、さらに早い年齢での検査やもっと短い間隔での検査、あるいは追加の検査が勧められる場合があります。例えば大腸がんの家族歴がある人や、潰瘍性大腸炎のような大腸がんを発病する確率が高くなる疾患のある人には、平均的なリスクの人よりも頻繁に大腸内視鏡によるスクリーニング検査を受けることが勧められます。乳がんの濃厚な家族歴がある女性には、マンモグラフィー(乳房撮影)に加え、MRI検査による乳がんのスクリーニング検査がよく勧められます。
特定の疾患のある人に勧められるスクリーニング検査もあります。例えば糖尿病患者は、足に発赤や潰瘍がないか1日1回はチェックするべきです。これを見すごしてしまうと重度の感染症を起こし、最終的に足の切断に至るおそれがあります。
予防的な薬物療法
予防的な薬物療法(化学予防とも呼ばれています)とは、病気の予防のために薬を使うことです。この治療法が推奨されるには、予防しようとする病気のリスクを患者が有しており、検討されている薬による副作用のリスクが低くなければなりません。
予防的な薬物療法は、例えば、ある病気(エイズなど)の患者における感染症の予防、片頭痛の患者における頭痛の予防などのほか、多数の特定の状況で明らかに役立ちます。予防的な薬物療法は特定の状況でのみ効果がありますが、そのような状況の中には頻繁に起こるものもあるため、多くの人に有用です。例えば、冠動脈疾患や脳卒中のリスクのある成人には、通常はアスピリンが推奨されます。新生児には、眼の淋菌感染予防のため、日常的に点眼薬を投与します。乳がんのリスクが高い女性は、予防的な薬物療法(例えばタモキシフェン)が有益な場合があります。