Msd マニュアル

Please confirm that you are a health care professional

honeypot link

遺伝学の概要

執筆者:

David N. Finegold

, MD, University of Pittsburgh

レビュー/改訂 2019年 9月
ここをクリックすると、 家庭版の同じトピックのページに移動します
本ページのリソース

遺伝の基本単位である遺伝子は,ポリペプチド(タンパク質)の合成に必要な全ての情報が格納された一塊のDNAである。身体の構造および機能は,突き詰めると,その大部分がタンパク質の合成,折り畳み,ならびに3次および4次構造によって規定されている。

構造

ヒトの遺伝子の数は,遺伝子をどのように定義するかに応じて,約20,000~23,000個である。遺伝子は細胞核の染色体およびミトコンドリアに格納されている。ヒトでは,体細胞(生殖細胞以外)の核内に正常では23対,計46本の染色体が存在する。個々のペアは,母親由来の1本と父親由来の1本から構成される。このうち22対(1~22番染色体)は常染色体で,正常では相同(大きさ,形,遺伝子の位置と数が同じ)である。23番目の1対は性染色体(XおよびY)であり,性別を決定するとともに,その他の機能遺伝子も含まれている。女性では全ての体細胞の核内に2本のX染色体が存在し(これらは相同である),男性ではX染色体とY染色体(これらは相同ではない)が1本ずつ存在する。

X染色体には多数の遺伝形質に対応する遺伝子が含まれており,より小さいY染色体には男性への性分化を誘導する遺伝子とその他少数の遺伝子が含まれている。X染色体はY染色体よりはるかに多くの遺伝子を含んでいるため,男性ではX染色体上の遺伝子の多くが対を成しておらず,男性と女性で遺伝物質のバランスを保つため,女性のX染色体の片方はランダムに不活化されている(ライオニゼーション リオンの仮説(X染色体の不活化) 性染色体異常には性染色体の異数性,部分欠失,または重複が関与し,モザイクの場合もある。 ( 染色体異常症の概要も参照のこと。) 性染色体異常はよくみられ,様々な先天奇形や発育異常を合併する症候群の原因となっている。その大多数は出生前から疑われることはないが,母体年齢が高いなどの他の理由で実施された核型分析の際に偶然発見されることがある。出... さらに読む )。核型とは,1人の個人の細胞に格納されている一連の染色体のフルセットを示したものである。

生殖細胞(卵子および精子)は,減数分裂で分かれることにより,染色体数を体細胞の半分の23本まで減らしている。減数分裂では,母親と父親から受け継がれた遺伝情報が交叉(相同染色体間の交換)により組み換えられる。受胎時に卵子と精子の間で受精が起きると,染色体数は通常の46本に戻る。

遺伝子は染色体のDNA上に直線的に配置されている。個々の遺伝子は特定の位置(遺伝子座)に存在し,その位置は典型的には2本の相同染色体で同じである。1対の各染色体上の同じ座位を占める遺伝子(1つは母親由来,1つは父親由来)は,アレル(対立遺伝子)と呼ばれる。各遺伝子は特定のDNA配列で構成され,2つのアレルはDNA配列がわずかに異なる場合もあれば,全く同じの場合もある。ある特定の遺伝子について同じアレルのペアを有することをホモ接合性,異なるアレルのペアを有することをヘテロ接合性という。一部の遺伝子には複数のコピーがあり,それらは隣接している場合もあれば,同一または異なる染色体上の別の位置に存在する場合もある。

DNAの構造

DNAは細胞の遺伝物質であり,細胞核の染色体およびミトコンドリアに格納されている。

体細胞(生殖細胞以外)の核内に正常では23対,計46本の染色体が存在する。1本の染色体に多数の遺伝子が含まれている。遺伝の基本単位である遺伝子は,ポリペプチド(タンパク質)の合成に必要な全ての情報が格納された一塊のDNAである。

DNA分子は,糖(デオキシリボース)とリン酸から成る2本の分子鎖が4種類のヌクレオチド(塩基)のペアでつながれた,長いコイル状の二重らせん構造をとる。ヌクレオチドのうち,アデニン(A)はチミン(T)と,グアニン(G)はシトシン(C)とペアを作る。ヌクレオチドのペア同士は水素結合でつながっている。DNA内のコードは,4種類あるヌクレオチドの3つで構成されるトリプレットによって記録されている。特定のアミノ酸は特定のトリプレットによりコードされる。

DNAの構造

遺伝子の機能

遺伝子はDNAで構成される。遺伝子の長さが,その遺伝子でコードされるタンパク質の長さを決定する。DNAはヌクレオチド(塩基)のペアで構成される二重らせん構造をとる:

  • アデニン(A)はチミン(T)とペアを作る。

  • グアニン(G)はシトシン(C)とペアを作る。

タンパク質の合成時にはDNAが転写されるが,その過程では片方のDNA鎖を鋳型として,メッセンジャーRNA(mRNA)が合成される。RNAもDNAと同じく塩基対を形成するが,チミン(T)の代わりにウラシル(U)が使用される。mRNAの一部は核から細胞質へ出た後,リボソームに移動して,そこでタンパク質の合成が開始される。個々のアミノ酸は転移RNA(tRNA)によってリボソームに運ばれ,そこでmRNAにより決定された配列順に伸長しているポリペプチド鎖に付加される。構築されたアミノ酸鎖は,付近にあるシャペロン分子の影響下で折り畳まれて,複雑な3次元構造をとるようになる。

DNA内のコードは,4種類あるヌクレオチドの3つで構成されるトリプレットによって記録されている。特定のアミノ酸は特定のトリプレットによりコードされる。ヌクレオチドは4種類あるため,可能なトリプレットの数は43(64個)である。アミノ酸は20種類しかないため,トリプレットには重複した(余分な)組合せがある。すなわち,一部のトリプレットは他のトリプレットと同じアミノ酸をコードする。この他にも,タンパク質の合成の開始または停止の指示やアミノ酸の結合および組立ての順序などの要素をコードするトリプレットもある。

遺伝子はエクソンとイントロンから構成される。エクソンには,最終的なタンパク質を構成するアミノ酸要素がコードされる。イントロンには,タンパク質の合成の制御や速度に影響を及ぼす他の情報が含まれる。エクソンとイントロンはともにmRNAに転写されるが,イントロンから転写された部分は後に切り出される。mRNAに転写されないDNA鎖から合成されるアンチセンスRNAも含めて,数多くの因子が転写を制御している。DNAの他にも,染色体にはヒストンや遺伝子発現に影響を及ぼす他のタンパク質(特定の遺伝子からどのタンパク質を,どれだけ合成するか)が含まれている。

遺伝子型とは,特定の遺伝子の構成および配列を指し,産生のためにコードされているタンパク質を規定するものである。

ゲノムとは,半数体(一本鎖)の全染色体を構成する要素全体のことを指し,それらに格納されている全ての遺伝子が含まれる。

表現型とは,個人の身体的,生化学的,および生理的な構成全体,すなわち細胞(ひいては身体)がどのように機能するかを表すものである。表現型は,実際に合成されるタンパク質の種類と量,すなわち,その遺伝子が実際にどのように発現するかによって決定される。特定の遺伝子型が表現型とよく相関する場合もあれば,相関しない場合もある。

発現とは,遺伝子にコードされた情報に従って分子(通常はタンパク質またはRNA)の構築が制御される過程のことである。遺伝子発現は,形質が優性か劣性か,遺伝子の浸透度と表現度( Professional.see page 遺伝子発現に影響を及ぼす因子 遺伝子発現に影響を及ぼす因子 数多くの因子が遺伝子発現に影響を及ぼしうる。いくつかの原因により,形質の発現がメンデル遺伝で予想される形式から逸脱する場合がある。 ( 遺伝学の概要も参照のこと。) 浸透度とは,ある遺伝子がどの程度の頻度で発現するかを指す。ある遺伝子を保有する個人のうち対応する表現型が出現した個人の割合と定義される(... さらに読む ),組織分化の程度(組織型と年齢で規定される),環境因子,発現が限性であるか染色体不活化またはゲノムインプリンティングの対象か,その他不明の因子など,複数の因子に依存する。

エピジェネティック因子

ゲノム配列を変えることなく遺伝子発現に影響を及ぼす因子は,エピジェネティック因子と呼ばれる。

遺伝子発現を媒介する多くの生化学的機序に関する知識が急速に増加している。そのような機序の1つがイントロンスプライシングの変動性である(選択的スプライシングとも呼ばれる)。イントロンが切り出されるのに伴い,エクソンも切り出され,それにより様々な組合せのエクソンが構築される結果,類似するが異なるタンパク質をコードできる多様なmRNAが産生される。ヒトゲノムには約20,000強の遺伝子しか存在しないにもかかわらず,ヒトが合成することのできるタンパク質の数は100,000を超えている。

遺伝子発現を媒介するその他の機序として,DNAのメチル化や,メチル化やアセチル化などのヒストンの相互作用がある。DNAのメチル化は遺伝子の機能を停止させる傾向がある。ヒストンのタンパク質はDNAが巻きついた糸巻きに似ている。メチル化などのヒストンの修飾は,特定の遺伝子から合成されるタンパク質の量の増減につながる可能性がある。ヒストンのアセチル化は遺伝子発現の減少と関連する。mRNAに転写されないDNA鎖は,反対側のDNA鎖の転写を制御するRNAを合成するための鋳型として利用される場合がある。

もう1つの重要な機序としてマイクロRNA(miRNA)がある。miRNAはヘアピン構造(ヘアピン構造とはRNA配列が互いに結合するような形状を指す)由来の短いRNAで,転写後に標的遺伝子の発現を抑制するものである。転写されるタンパク質の60%もの調節に関与している可能性がある。

形質および遺伝パターン

形質には,眼の色のように単純なものもあれば,糖尿病に対する感受性のように複雑なものもある。1つの形質の発現には1つの遺伝子が関わる場合もあれば,多数の遺伝子が関わる場合もある。 単一遺伝子の異常 単一遺伝子の異常 単一の遺伝子によって規定される遺伝性疾患(メンデル遺伝病)は,最も解析が容易で,最も詳細に解明されている。形質の発現に1コピーの遺伝子(1つのアレル)のみを必要とする場合,その形質は優性とみなされる。形質の発現に2コピーの遺伝子(2つのアレル)を必要とする場合,その形質は劣性とみなされる。例外の1つはX連鎖疾患である。男性では通常,X染色... さらに読む が複数の組織で異常を引き起こすことがあり,このような効果は多面発現と呼ばれる。例えば, 骨形成不全症 骨形成不全症 骨形成不全症は,骨のびまん性の異常な脆弱性を生じる遺伝性のコラーゲンの障害であり,ときに感音難聴,青色強膜,象牙質形成不全,関節の過可動性を伴う。診断は,通常,臨床的に行う。治療には,一部の病型に対して成長ホルモン,およびビスホスホネートが含まれる。 骨形成不全症には4つの主な病型がある:... さらに読む 骨形成不全症 (単一のコラーゲン遺伝子の異常によってしばしば引き起こされる結合組織疾患)では,骨の脆弱性,難聴,青色強膜,歯の形成不全,関節の過可動性,および心臓弁異常が引き起こされることがある。

家系図の作成

家系図は遺伝パターンを図示するために用いられる。家系図は遺伝カウンセリングでよく用いられる。家系図では,個々の家系員と家系員の重要な健康情報を表す定められたシンボルを使用する( Professional.see figure 家系図作成のための記号 家系図作成のための記号 家系図作成のための記号 )。表現型が同じ家族性疾患に複数の遺伝パターンが認められる場合もある。

家系図作成のためのシンボル

家系図では,家系の古い世代を上に,最も新しい世代を最も下に配置して,各世代のシンボルを1列に並べ,ローマ数字で番号を付ける。各世代内では,各個人に左から右へアラビア数字で番号を付ける。同胞は通常,年齢が高い順に左から右に並べる。これにより,家系図の各個人を2つの数字(例,II,4)で特定することができる。配偶者にも識別番号を割り当てる。

家系図作成のためのシンボル

要点

  • 表現型は遺伝子発現と遺伝子型によって規定される。

  • 遺伝子発現を調節する機序が解明されつつあり,具体的にはイントロンスプライシング,DNAのメチル化,ヒストンの反応,マイクロRNAなどがある。

ここをクリックすると、 家庭版の同じトピックのページに移動します
家庭版を見る
quiz link

Test your knowledge

Take a Quiz! 
ANDROID iOS
ANDROID iOS
ANDROID iOS
TOP