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コカイン

(クラック)

執筆者:

Gerald F. O’Malley

, DO, Grand Strand Regional Medical Center;


Rika O’Malley

, MD, Grand Strand Medical Center

レビュー/改訂 2020年 5月
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コカインは,中枢刺激作用と多幸作用がある交感神経刺激薬である。高用量の使用は,パニック,統合失調症様症状,痙攣発作,高体温,高血圧,不整脈,脳卒中,大動脈解離,腸管虚血,および心筋梗塞を引き起こすことがある。中毒の管理は,(激越,高血圧,および痙攣発作に対する)静注ベンゾジアゼピン系薬剤や(高体温に対する)冷却法などの支持療法により行う。離脱症状は,主に抑うつ,集中困難,および傾眠(コカインウォッシュアウト症候群)として現れる。

ほとんどのコカイン使用者は,一時的な娯楽目的の使用者である。しかしながら,使用者の約25%(以上)は乱用または依存の基準に適合する。青年における使用は最近減少している。クラックコカインのような生物学的活性の高いコカインが入手可能になったことで,コカイン依存の問題は悪化している。米国における大半のコカインの純度は約45~60%であり,多様な賦形剤,混ぜ物,および夾雑物が含まれている可能性がある。

米国ではほとんどのコカインが揮発および吸入により摂取されるが,鼻からの吸引や静脈内注射により摂取されることもある。吸入するため,塩酸塩粉末は一般に炭酸水素ナトリウム,水,および熱を加えることによって,より揮発性の高いものに変換される。生成した沈殿物(クラックコカイン)は,熱で揮発されて(燃焼ではない)吸入される。作用は急速に出現し,高揚感の程度は静脈内注射に伴うものに匹敵する。コカインは耐性(tolerance)が生じ,大量使用からの離脱の特徴には傾眠,集中困難,食欲亢進,および抑うつがある。離脱後もコカインを使用し続ける傾向が強い。

病態生理

植物のコカの葉に含まれるアルカロイドであるコカインは,中枢および末梢神経系でノルアドレナリン,ドパミン,およびセロトニンの活性を高める。

目的とするコカインの効果はドパミン活性の亢進によるものである可能性が高く,それによる強化は乱用と依存の発生に寄与する。

ノルアドレナリン活性は,頻脈,高血圧,散瞳,発汗,および高体温といった交感神経刺激作用の原因となる。

またコカインはナトリウムチャネルを遮断し,局所麻酔薬としての作用の原因となる。コカインは血管収縮を引き起こすため,ほぼ全ての臓器に影響を及ぼしうる。続発症として,心筋梗塞,脳虚血および脳出血,大動脈解離,腸管虚血,および腎虚血が起こりうる。

コカインの作用の発現は以下の通り使用方法に依存する:

  • 静脈内注射および喫煙:作用は直ちに発現し,約3~5分後にピークに達し,15~20分間持続する

  • 鼻腔内使用:作用は約3~5分後に発現し,20~30分でピークに達し,約45~90分間持続する

  • 経口使用:作用は約10分後に発現し,約60分でピークに達し,約90分間持続する

コカインは作用時間が非常に短いため,大量使用者は10~15分毎に繰り返し注射または喫煙吸入することがある。

妊娠

妊娠中のコカインの使用 コカイン アルコールおよび違法薬物は,胎盤と発育中の胎児に有毒であり,先天性症候群や離脱症状を引き起こす可能性がある。処方薬も胎児に対する有害作用を有する可能性がある( Professional.see table 妊娠中に有害作用を示す主な薬物)。 胎児性アルコール症候群および 胎児への喫煙の影響は別の章で考察している。 子宮内で薬物に曝露した胎児(fetuses exposed to... さらに読む は胎児に影響を及ぼすことがあり, 常位胎盤早期剥離 常位胎盤早期剥離 常位胎盤早期剥離とは,正常に付着した胎盤が,通常20週以降に子宮から時期尚早に分離することである。産科的緊急事態となりうる。症状として,性器出血,子宮の疼痛ならびに圧痛,出血性ショック,および播種性血管内凝固症候群を含むことがある。診断は臨床的に行い,ときに超音波検査を用いる。治療は症状が軽度の場合には安静(modified... さらに読む 自然流産 自然流産 自然流産は,妊娠20週より前に起きる,誘発によらない胎芽もしくは胎児の死亡,または受胎産物の排出である。切迫流産は,この時期に起こる頸管開大を伴わない性器出血で,生存可能な胎児の子宮内妊娠が確認された女性において自然流産が起こる可能性を示唆するものである。診断は臨床基準および超音波検査による。治療は通常,切迫流産に対しては待機的観察であり,自然流産が生じた,または不可避と思われる場合は,観察または子宮内容除去術を行う。... さらに読む の発生率が高まる。

症状と徴候

急性効果

コカインを喫煙する使用者では 気胸 気胸 気胸は胸腔内に空気が存在することであり,部分的または完全な肺虚脱を引き起こす。気胸は,自然に起こることもあれば,外傷または医療行為が原因で起こることもある。診断は,臨床基準および胸部X線に基づく。ほとんどの気胸は経カテーテル的吸引または胸腔ドレナージを必要とする。 原発性自然気胸は,肺の基礎疾患がなく,典型的には,背が高く痩身の10代および20代の若年男性に発生する。原発性自然気胸は,喫煙によって生じた,または患者が遺伝的にもつ,胸膜下... さらに読む 気胸 縦隔気腫 縦隔気腫 縦隔気腫は縦隔内の空気である。 縦隔気腫の主な原因は以下の通りである: 肺胞破裂により肺間質へ侵入した空気の縦隔への移動 食道穿孔 食道または腸管破裂による,頸部または腹部から縦隔への空気の侵入 さらに読む 縦隔気腫 が発生することがあり,これらは胸痛,呼吸困難,またはその両方を引き起こす。コカイン使用による心筋虚血も胸痛(「コカイン胸痛」)を引き起こすが,コカインは心筋虚血が認められない場合でも胸痛を引き起こすことがあり,その機序はよくわかっていない。不整脈と伝導異常が起こる可能性がある。心臓への影響により突然死に至ることがある。狂騒(binge)(数日にわたることも多い)の末に消耗症候群または「ウォッシュアウト」症候群に至り,激しく疲労し睡眠を必要とする。

中毒または過剰摂取

過剰摂取は,重度の不安,パニック,激越,攻撃性,不眠,幻覚,偏執性妄想,判断力の低下,振戦,痙攣発作,およびせん妄を生じることがある。散瞳と発汗が明らかに認められ,心拍数と血圧が増加する。心筋梗塞や不整脈により死亡することもある。

重度の過剰摂取は,急性精神病(例,統合失調症様症状),高血圧,高体温,横紋筋融解症,凝固障害,腎不全,および痙攣発作を引き起こす。極めて強い臨床毒性を示す患者は,コカインのクリアランスに必要な酵素である(異型)血清コリンエステラーゼが遺伝的に少ないことがある。

コカインを吸入する患者は,急性の肺症候群(crack lung)を生じ,発熱,喀血,および低酸素症(呼吸不全に進行しうる)を伴うことがある。

コカインとアルコールを同時に使用すると,刺激特性をもち中毒の原因となりうる,縮合物コカエチレンが生じる。

慢性効果

コカインの強迫的な大量使用者では,重度の中毒作用が生じる。心筋線維症,左室肥大,および 心筋症 心筋症の概要 心筋症は心筋の原発性疾患である。冠動脈疾患や弁膜症,先天性心疾患といった構造的心疾患とは明確に異なる疾患概念である。心筋症は病理学的特徴に基づき,以下に示す3つの主な病型に分類される( 心筋症の病型の図を参照): 拡張型 肥大型 拘束型 虚血性心筋症という用語は,重症 冠動脈疾患の患者で(梗塞領域の有無にかかわらず)発生することがある,心... さらに読む が発生することがある。まれに,反復経鼻吸引により,局所虚血による 鼻中隔穿孔 鼻中隔弯曲症および穿孔 発育異常または外傷による鼻中隔弯曲症は,一般的であるが,多くの場合無症状であり,治療を必要としない。症状を伴う鼻中隔弯曲症は鼻閉を引き起こし,患者は副鼻腔炎(特に弯曲により副鼻腔開口部が閉塞された場合)および乾燥した空気の流れによる鼻出血を起こしやすくなる。他の症状としては,顔面痛,頭痛,夜間の大きな音の呼吸などがある。 通常,鼻中隔弯曲症は診察で明白であるが,前鼻孔のペンライトおよび診察では不十分な場合がある。... さらに読む 鼻中隔弯曲症および穿孔 が生じることがある。大量使用者の一部では認知障害(注意および言語性記憶の障害を含む)が起こる。コカインを注射する使用者は,典型的な 感染性合併症 感染因子 より迅速なもしくは強力な効果またはこれらの両方を得るため,いくつかの乱用薬物が注射によって投与される。薬物は一般に静脈内注射されるが,皮下,筋肉内,または舌下にさえ注射されることもある。使用者は一般に末梢静脈内に注射するが,慢性使用によりこれらが硬化してしまった場合には,太い中心静脈(例,内頸静脈,大腿静脈,腋窩静脈)内に注射することを覚える者もいる。 違法薬物を注射する者は,薬物の有害な薬力学的効果のリスクだけでなく,薬物とともに注射... さらに読む に罹患する。

離脱

コカイン使用の主な症状は,抑うつ,集中困難,および傾眠(コカインウォッシュアウト症候群)である。食欲が亢進する。

診断

治療

  • 静注ベンゾジアゼピン系薬剤

  • β遮断薬の使用は避ける

  • 必要に応じて高体温に対する冷却

中毒または過剰摂取

コカインの作用時間は極端に短いため,軽度コカイン中毒は通常治療を必要としない。中枢神経系興奮および痙攣発作,頻脈,高血圧などの大半の中毒作用の初期治療には,ベンゾジアゼピン系薬剤の使用が望ましい。ロラゼパム2~3mgの5分毎の静脈内投与(効果に応じて調整)が用いられる場合がある。高用量と持続注入が必要になることがある。抵抗性の症例にはプロポフォールの注入と 機械的人工換気 機械的人工換気の概要 機械的人工換気には以下の種類がある: 非侵襲的,様々な種類のフェイスマスクを使用する 侵襲的, 気管挿管を伴う 適切な手法の選択および使用には呼吸力学の理解が必要である。 気管挿管および機械的人工換気の適応は極めて多彩であるが( 気道管理が必要となる状況の表を参照),一般には,気道の確保または十分な酸素化もしくは換気の維持が困難であることを示す徴候が臨床的または臨床検査により認められる場合に,機械的人工換気を考慮すべきである。 さらに読む が用いられる可能性がある。

高血圧がベンゾジアゼピン系薬剤に反応しない場合は,静注硝酸薬(例,ニトロプルシド)またはフェントラミンにより治療する;β遮断薬はαアドレナリン受容体刺激の持続が可能なため,使用は推奨されない。

高体温は生命を脅かすことがあるため,鎮静薬に加え,気化冷却,氷嚢,および生理食塩水の静注による血管内容量と尿量の維持を用いて,積極的に管理すべきである。

フェノチアジン系薬剤は発作の閾値がより低く,その抗コリン作用が冷却を妨げることがあるため,鎮静目的の使用は望ましくない。

ときに重度の激越がみられる患者は,アシドーシス,横紋筋融解症,または多臓器不全を改善するため,薬剤により麻痺させて人工換気を施行しなければならない。

コカインに関連して胸痛がみられる場合は,胸部X線,一連の心電図検査,および血清心筋マーカーを用いて,心筋虚血または大動脈解離の可能性がある他の症例でないかについて評価する。上述の通り,β遮断薬は禁忌であり,ベンゾジアゼピン系薬剤が第1選択薬である。ベンゾジアゼピン系薬剤の投与後に冠動脈拡張が必要となった場合は,硝酸薬を使用するか,またはフェントラミン1~5mgの緩徐な静脈内投与を考慮してもよい。

乱用

コカインの大量使用者とコカインを静注または喫煙する人は,最も依存になりやすい。少量使用者とコカインを経鼻吸引または経口摂取する人は,依存になるリスクが低めである。長期使用を中止するには相当な支援が必要であり,抑うつに陥った場合には綿密な監視と治療が必要である。

支援団体,自助グループおよびコカインホットラインなど,多くの外来療法がある。入院療法は,重篤な身体的または精神的併存症に対して必要な場合や,外来療法が何度も失敗に終わった場合に主に用いられる。

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