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ウェルニッケ脳症

(Wernicke脳症)

執筆者:

Gerald F. O’Malley

, DO, Grand Strand Regional Medical Center;


Rika O’Malley

, MD, Grand Strand Medical Center

レビュー/改訂 2020年 5月
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ウェルニッケ脳症は, チアミン欠乏 チアミン欠乏症 チアミン欠乏症(脚気を引き起こす)は,白米または高度に精製された炭水化物を常食としている発展途上国の人,およびアルコール依存症患者で最もよくみられる。症状としては,びまん性の多発神経障害,高拍出性心不全,ウェルニッケ-コルサコフ症候群などがある。欠乏症の診断および治療を補助するために,チアミンが投与される。 チアミンは食事から,特に全粒穀類,肉(特に豚肉およびレバー),栄養強化シリアル製品,ナッツ類,豆類,およびイモ類(... さらに読む による錯乱,眼振,部分的眼筋麻痺,および運動失調の急性発症を特徴とする。診断は主として臨床的に行う。本障害は治療により寛解することもあれば,持続することもあり,また悪化して コルサコフ精神病 コルサコフ精神病 コルサコフ精神病は,持続的なウェルニッケ脳症の晩期合併症であり,記憶障害,錯乱,および行動変化を引き起こす。 コルサコフ精神病は, ウェルニッケ脳症の未治療患者の80%に発生し,重度の アルコール依存症が基礎にあるのが一般的である。コルサコフ精神病が一部のウェルニッケ脳症患者にのみ発現する理由は不明である。最初に典型的なウェルニッケ脳症の発作が生じるか否かにかかわらず,アルコール離脱に関連する... さらに読む を呈することもある。治療はチアミン療法と支持療法から成る。

ウェルニッケ脳症は,長期の低栄養またはビタミン欠乏症の原因となる他の疾患によっても起こることがある(例,反復透析,悪阻,飢餓,胃縫縮術,がん,AIDS)。チアミン欠乏症患者における炭水化物負荷(すなわち,飢餓後の再栄養補給または高リスク患者に対するブドウ糖溶液の静注)はウェルニッケ脳症を誘発する可能性がある。

チアミン欠乏症のアルコール乱用者全員がウェルニッケ脳症を生じるわけではないため,他の因子の関与が示唆される。チアミン処理酵素であるトランスケトラーゼの欠損型を生じる遺伝子異常が関与している可能性がある。

特徴として,中枢神経系病変が第3脳室,中脳水道,および第4脳室の辺りに対称性に分布している。乳頭体,視床背内側部,青斑核,中脳水道周囲灰白質,眼球運動核,および前庭神経核の変化がよくみられる。

症状と徴候

ウェルニッケ脳症の患者では,臨床的な変化は突然生じる。

難聴のない前庭機能障害がよくみられ,前庭眼反射が障害されることがある。前庭障害,小脳機能障害,および/または多発神経障害の結果,歩行失調が起こることがあり,歩幅は狭く開脚歩行で緩慢である。

全般的な錯乱状態がしばしば認められ,これは著明な見当識障害,無関心,不注意,眠気,または昏迷を特徴としている。末梢神経の痛覚閾値がしばしば上昇し,多くの患者が交感神経の活動亢進(例,振戦,激越)または活動低下(例,低体温,起立性低血圧,失神)を特徴とする重度の自律神経機能障害を発現する。未治療の患者では,昏迷から昏睡へと進行し,さらには死に至ることもある。

診断

  • 臨床的評価

特異的な診断検査はない。ウェルニッケ脳症の診断は臨床的に行い,基礎にある低栄養またはビタミン欠乏症の認識に基づく。髄液,誘発電位,脳画像検査,または脳波に特徴的な異常は認められない。しかしながら,これらの検査と臨床検査(例,血液検査,グルコース,血算,肝機能検査,動脈血ガス検査,薬毒物スクリーニング)は,他の病因を除外するために一般的に行うべきである。血清チアミン濃度は必ずしも髄液中濃度を反映せず,正常な血清中濃度であっても診断は除外されないため,チアミンの濃度はルーチンには測定しない。

予後

予後はウェルニッケ脳症の診断が適時になされたかどうかによる。適切な時期に治療を始めれば,異常は全て修正される可能性がある。眼症状は通常,チアミン早期投与後24時間以内に消退し始める。運動失調と錯乱は数日から数カ月続くことがある。記憶障害と学習障害は完全に消失することがある。無治療では障害は進行し,死亡率は10~20%である。生存患者のうち,80%が コルサコフ精神病 コルサコフ精神病 コルサコフ精神病は,持続的なウェルニッケ脳症の晩期合併症であり,記憶障害,錯乱,および行動変化を引き起こす。 コルサコフ精神病は, ウェルニッケ脳症の未治療患者の80%に発生し,重度の アルコール依存症が基礎にあるのが一般的である。コルサコフ精神病が一部のウェルニッケ脳症患者にのみ発現する理由は不明である。最初に典型的なウェルニッケ脳症の発作が生じるか否かにかかわらず,アルコール離脱に関連する... さらに読む を生じ,ウェルニッケ脳症と併せてウェルニッケ-コルサコフ症候群と呼ばれる。

治療

  • チアミン注射

  • マグネシウム注射

ウェルニッケ脳症の治療はチアミン100mgの即時静注または筋注を行い,少なくとも3~5日間毎日継続する。マグネシウムはチアミン依存性代謝に必要な補因子であり,低マグネシウム血症は硫酸マグネシウム1~2g,筋注もしくは静注,6~8時間毎,または酸化マグネシウム400~800mg,1日1回経口投与により補正すべきである。支持療法には,水分補給,電解質異常の是正,総合ビタミン剤といった全身栄養療法などがある。病状が進行した患者は入院が必要である。断酒は必須である。

ウェルニッケ脳症は予防可能であるため,低栄養の患者には,全例で(特にブドウ糖溶液の静注が必要な場合には)チアミン注射(典型的には100mg,筋注から初めて,その後は50mg,経口,1日1回)に加え,ビタミンB12と葉酸(ともに1mg,経口,1日1回)を投与する必要がある。またチアミンは,意識レベルの低下により受診した患者の治療を始める前に投与するのが賢明である。低栄養の患者には,外来でチアミン投与を続ける必要がある。

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