理学療法

執筆者:Alex Moroz, MD, New York University School of Medicine
レビュー/改訂 2017年 6月 | 修正済み 2017年 7月
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    理学療法の目的は関節および筋肉の機能(例,可動域,筋力)を向上させることであり,そのため理学療法により起立,平衡,歩行,階段昇降の能力が改善される。例えば,理学療法は通常,下肢切断患者の訓練に用いられる。一方,作業療法はセルフケア活動,および筋肉や関節の微細な協調運動(特に上肢)の回復に主眼をおいている。

    リハビリテーションの概要も参照のこと。)

    可動域

    可動域に制限があると,機能が損なわれ,疼痛を来たしたり,褥瘡が生じやすくなる傾向がある。可動域の評価には,ゴニオメーターを用い,治療の開始前,およびそれ以後も定期的に行うべきである(正常値については, see table 関節可動域の正常値*)。

    関節可動域訓練では硬直した関節のストレッチを行う。ストレッチは通常,組織の温度が約43℃になったときに最も効果があり,痛みも少ない( see page 温熱)。ストレッチにはいくつかの種類がある:

    • 自動的:この種類のストレッチは,補助なしで患者が運動できるときに用いられ,患者は自力で四肢を動かさなくてはならない。

    • 自動介助的:この種類のストレッチは,筋力が低下している場合,または関節運動に不快感を伴う場合に用いられる;患者は四肢を動かさなければならないが,療法士がそれを補助する。

    • 他動的:この種類のストレッチは,患者が能動的に運動に参加できない場合に用いられ,患者は努力を一切要求されない。

    表&コラム

    筋力および調整訓練

    多くの運動は筋力の増強を目的とする(筋力等級については, see table 筋力等級)。筋力は漸増抵抗運動によって増大する。筋力が非常に低下している場合には,重力だけでも十分な抵抗になる。筋力がある程度ついてくると,手または器具(例,ウェイト,ばね)によりさらなる抵抗を追加する。

    全身調整訓練は,衰弱,長期臥床,不動状態の影響を治療するために様々な運動と組み合わせて用いられる。目標は血流バランスの回復,心肺能力と持久力の増強,関節可動域と筋力の維持である。

    高齢者においてこれらの運動を行う目的は,正常に機能するために必要な筋力をつけること,および可能であればその年齢での正常な筋力を取り戻すことである。

    表&コラム

    固有受容性神経筋促通法

    この手技は,痙縮を伴う上位運動ニューロン損傷がある患者の神経筋活動を促すのに役立つ;この手技により,患者は筋肉の収縮を感じることができ,罹患関節の可動域を維持するのに役立つ。例えば,右側麻痺がある患者の左側の肘の屈筋(上腕二頭筋)に強い抵抗を与えると,麻痺している右側の上腕二頭筋が収縮して右肘が曲がる。

    協調運動訓練

    これは作業指向の訓練であり,複数の関節と筋肉を同時に使う動作を繰り返す(例,物を拾う,体の一部に触る)ことにより,運動技能を向上させる。

    歩行訓練

    歩行訓練を始める前に,患者は立位でバランスをとれなければならない。平衡運動は通常,療法士が患者の前またはすぐ後ろに立って平行棒を使用しながら行う。患者は平行棒に捕まりながら,片側からもう片側へ,そして前から後ろへ体重移動を行う。患者が安全にバランスをとれるようになれば,歩行訓練へ移行できる。

    歩行時の患者の支え方

    介助者が片方の腕を患者の腕の下へ入れて支え,前腕を愛護的に把持して患者の腋窩の下のところで腕をしっかり固定する。そうして,患者が転倒しそうになれば介助者は患者の肩を支えるようにする。患者がウエストにベルトを装着している場合は,介助者は空いている方の手でそのベルトをつかんでおく。

    歩行はしばしばリハビリテーションの主な目標である。個々の筋力が低下しているか痙性がある場合は,装具(例,ブレース)が用いられる。歩行訓練はまず平行棒を用いて開始することが多く,患者の進歩に応じて歩行器,松葉杖,または杖を使用し,それから器具なしでの歩行に移行する。患者によっては補助ベルトを装着することがあり,療法士がベルトを把持して転倒を防ぐのに役立てる。患者の歩行を介助する者は正しい補助の方法を習得すべきである( see figure 歩行時の患者の支え方)。

    水平な場所を安全に歩けるようになれば,必要に応じて,階段昇降訓練や縁石を越える訓練をすぐに始めることができる。歩行器を使用する患者は,階段昇降や縁石を越えるための特殊な技術を学ばなければならない。階段昇降では,昇るときは健側の下肢から,降りるときは患側の下肢から踏み出す(すなわち,上へは良い方が先,下へは悪い方が先)。患者が退院する前に,ソーシャルワーカーまたは理学療法士は,患者の家の階段全てに手すりが取り付けられるよう手配すべきである。

    移動訓練

    ベッドから椅子へ,椅子から室内便器へ,あるいは椅子から立位への移動が1人でできない患者は,通常24時間付き添いが必要である。室内便器や椅子の高さを調節することは役に立つ。ときに補助器具が有用である;例,座位から立ち上がるのが困難な人は,座面が高い椅子や自動的に座面が昇降する椅子が有益な場合がある。

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