薬物有害反応

(薬物有害作用)

執筆者:Daphne E. Smith Marsh, PharmD, BC-ADM, CDCES, University of Illinois at Chicago College of Pharmacy
レビュー/改訂 2018年 7月
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薬物有害反応(adverse drug reaction[ADR];または薬物有害作用[adverse drug effect])は,ある薬物が示す可能性のある,望ましくない,不快な,または危険な作用を指す広義の用語である。

薬物有害反応は毒性の一形態とみなすことができるが,毒性(toxicity)という用語は,過剰摂取(偶発的または意図的なもの)の影響や,適正な使用中に生じる血中濃度の上昇ないし作用の増強(例,疾患や他の薬物によって薬物代謝が一時的に阻害された場合)に適用されるのが最も一般的である。特定の薬物の毒性に関する情報については,特定の毒物の症状と治療法の表を参照のこと。副作用(side effect)は不明確な用語であり,治療域の範囲内で薬物が示す意図しない作用に対して用いられる場合が多い。

全ての薬物に薬物有害反応の可能性があるため,薬剤を処方する際は必ずリスク-ベネフィット分析(ベネフィットが得られる可能性をADRのリスクと比べて分析すること)が必要である。

米国では,全ての入院のうち3~7%が薬物有害反応に起因するものである。入院期間中10~20%でADRが生じ,そのうち約10~20%は重度である。それらの統計には,外来患者および介護施設の患者に発生したADRは含まれていない。ADRは,正確な数がはっきりとわかっていないものの,重大な公衆衛生上の問題の1つであり,ほとんどが予防可能である(1)

薬物有害反応の発生率および重症度は,患者背景(例,年齢,性別,民族,併存疾患,遺伝的または地理的要因)と薬物側の因子(例,薬物の種類,投与経路,投与期間,用量,生物学的利用能)により異なる。発生率は高齢およびポリファーマシーに伴い高くなる。年齢自体は一次的な原因ではないと考えられるが,高齢者ではADRがより重度となる( see page 高齢者における薬物関連の問題)。処方やアドヒアランスのエラーがADRの発生率に及ぼす影響は不明である。

パール&ピットフォール

  • 入院例の10~20%で薬物有害反応が発生する。

  • そのうち約10~20%は重度である。

総論の参考文献

  1. Weiss AJ, Freeman WJ, Heslin KC, et al: Adverse drug events in U.S. hospitals, 2010 versus 2014.Agency for Healthcare Research and Quality.January 2018.

病因

ほとんどの薬物有害反応が用量に依存して生じるが,アレルギー性の反応や特異体質性の反応もある。用量に依存するADRは通常予測できるが,用量に依存しないADRは通常予測できない。

用量依存性のADRは,使用する薬物の治療係数が狭い場合に特に懸念される(例,経口抗凝固薬による出血)。腎または肝機能障害がある患者での薬物クリアランスの低下や薬物間相互作用の結果として,ADRが生じることがある。

アレルギー性のADRは,用量に依存せず,事前の曝露が必要条件となる。薬物が抗原またはアレルゲンとして挙動した場合にアレルギーが発生する。患者が感作されると,その後に同じ薬物に曝露することで,数種類のアレルギー反応のいずれかが発生する。病歴聴取と適切な皮膚テストが,ときにアレルギー性ADRの予測に役立つことがある。

特異体質性のADRは,用量依存性でもアレルギー性でもない予測不能のADRである。その薬物を投与された患者のごく一部だけに発生する。特異体質(idiosyncrasy)とは,薬物に対する遺伝的に規定された異常な反応と定義されてきた不明確な用語であり,全ての特異体質反応に薬理遺伝学的な原因があるわけではない。ADRの具体的な機序が明らかになるにつれ,この用語は廃れていくであろう。

症状と徴候

薬物有害反応は通常,軽度,中等度,重度,致死的に分類される(薬物有害反応[ADR]の分類の表を参照)。重度のADRと致死的なADRは,製薬会社が提供する添付文書に黒枠警告で明確に言及される場合がある。

症状や徴候は,初回投与の直後に現れる場合もあれば,長期間使用して初めて現れる場合もある。薬剤の使用が原因と明らかに判断できる場合もあれば,あまりにも微妙で薬物に関連するものと特定できない場合もある。高齢者では,軽微なADRによって機能の低下,精神状態の変化,虚弱(failure to thrive),食欲減退,混乱,抑うつなどが生じることがある。

表&コラム

アレルギー性のADRは,通常は服用の直後に現れるが,一般に初回投与の後に生じることはなく,初回曝露の後にその薬物を再び投与した際に生じる。症状としては,そう痒,発疹,固定薬疹,呼吸困難を伴う上気道または下気道の浮腫,低血圧などがある。

特異体質性のADRでは,ほぼ全ての症状または徴候が現れる可能性があり,通常は予測不能である。

診断

  • 再投与の考慮

  • 疑わしいADRをMedWatchに報告(日本ではPMDAの副作用・副反応・感染症・不具合報告https://www.pmda.go.jp/safety/reports/hcp/0001.html)

薬物を服用した直後に生じる症状は,安易に薬物使用に関連づけられることが多い。しかし,薬物の長期使用による症状を診断するには,かなりのレベルの疑いが必要であり,複雑なことが多い。薬物投与の中止がときに必要であるが,その薬物が不可欠で,容認できる代替薬がない場合には,それは困難である。薬物と症状の関連性を示す証明が重要な場合,重篤なアレルギー反応を除き,再投薬を考慮すべきである。

米国の医師は,薬物有害反応と疑われる反応の大半を早期警告システムであるMedWatch(Food and Drug Administration[FDA:米国食品医薬品局]のADRモニタリングプログラム)に報告すべきである。このような報告を通じてのみ,未知のADRを特定して調査することが可能になる。MedWatchはまた,ADRの性質および頻度における変化もモニタリングしている。ADRのオンラインでの報告が推奨されている。ADRを報告する書式およびADR報告に関する情報は,Physicians’ Desk ReferenceやFDA News Daily Drug Bulletinのほか,www.fda.gov/Safety/MedWatch/default.htmでも入手でき,書式は800-FDA-1088に電話することでも入手できる。看護師,薬剤師,その他の医療従事者もADRをMedWatchに報告すべきである。FDAの有害事象報告システム(FAERS)は,薬物有害反応に関するデータへのアクセスを改善した検索ツールである(1)

重度または致死的な薬物有害反応の発生率は非常に低く(一般に1/1000未満),臨床試験(一般的には発生率の低いADRに対して十分な検出力がない)の過程で明らかにならない可能性がある。そのため,これらのADRは,その薬物が一般社会で市販され,広範に使用されるようになるまで検出されない可能性がある。臨床医は,薬物が市販されているからといって,そのADRが全て判明していると考えてはならない。発生率の低いADRを追跡する上で市販後調査が極めて重要である。<注> PMDAの副作用・副反応・感染症・不具合報告https://www.pmda.go.jp/safety/reports/hcp/0001.html

診断に関する参考文献

  1. FDA Adverse Event Reporting System (FAERS).Questions and Answers on FDA's Adverse Event Reporting System (FAERS).

治療

  • 用法・用量の変更

  • 必要であれば薬物の中止

  • 別の薬物への切替え

用量依存性の薬物有害反応については,用量の変更または誘発因子の排除もしくは削減で十分なことがある。薬物の排泄速度を高める処置がまれに必要である。アレルギー性または特異体質性のADRについては,通常はその薬物を中止すべきであり,再投与を試みるべきではない。アレルギー性のADRには,しばしば別の薬物クラスへの変更が必要になり,ときに用量依存性のADRにも薬物クラスの変更が必要になることがある。

予防

薬物有害反応を予防するには,その薬物とその薬物で起こりうる反応に精通している必要がある。薬物相互作用の可能性をチェックするには,コンピュータ解析を用いるべきであり,薬物を変更または追加する際には,必ず解析を繰り返すべきである。高齢者に対しては,使用する薬剤と開始用量を注意深く選択する必要がある( see page 薬物関連の問題の原因)。患者に非特異的な症状が現れた場合は,対症療法を開始する前に必ずADRの可能性を考慮すべきである。

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