雷撃傷

執筆者:Daniel P. Runde, MD, MME, University of Iowa Hospitals and Clinics
レビュー/改訂 2020年 1月
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雷撃傷では,心停止,意識消失,および一時的または永続的な神経脱落症状などが起こる;重篤な熱傷および内部組織の損傷はまれである。診断は臨床的に行う;評価には心電図および心臓モニタリングが必要である。治療は支持療法による。

落雷による損傷および死亡はこの50年間に著しく減少しているが,依然米国では年間約30例の死亡と数百例の損傷が落雷により起こっている。雷は,樹木,塔,避難所,旗竿,屋根のない外野席,フェンスなどの高くて孤立した物体に落ちる傾向がある。開けた場所では,人間が一番高い物体になる可能性がある。金属の物体および水は雷を引き寄せることはないが,雷が落ちると電気が容易に流れる。雷が人に直接落ちることもあれば,地面または近くの物体を介して電流が人へ流れることもある。雷は,たとえ空が晴れた地域であっても,嵐から10マイル以上離れた地点に落ちたことが観察されており,予期せぬ危険性につながっている(1)。雷はまた,屋外の電線または送電線から屋内の電気機器または電話線へ伝わることもある。落雷の力により人が数メートルもはねとばされることがある。

雷撃傷の物理は作り出された電気エネルギーによるものとは異なるため,家庭用電流または高電圧への曝露の作用に関する知識から雷撃傷を推定することはできない。例えば,雷撃傷による損傷は電圧やアンペア数で決定されることはない。雷電流は大量のエネルギーを含むが,流れるのは極めて短時間である(1/10,000~1/1000秒)。作り出された電源に由来する高電圧および大電流の電撃傷と異なり,重篤な皮膚創傷は生じたとしてもまれであり,横紋筋融解症または重篤な内部組織の損傷はめったに起こらない。二次損傷またはまれに雷そのものによって,頭蓋内出血が生じることがある。

雷は心臓にも作用しうるが,主に神経系に作用して,脳,自律神経系,および末梢神経を損傷する。

パール&ピットフォール

  • 人工的に作り出された高電圧および大電流の電撃傷と異なり,雷が重篤な皮膚創傷を引き起こすことはあったとしてもまれであり,横紋筋融解症または重篤な内部組織の損傷はほとんど生じない。

総論の参考文献

  1. Davis C, Engeln A, Johnson EL: Wilderness Medical Society practice guidelines for the prevention and treatment of lightning injuries: 2014 Update Wilderness Environ Med 25(4 Suppl):S86-S95, 2014.doi: 10.1016/j.wem.2014.08.011.

症状と徴候

電荷によって心静止または他の不整脈を起こしたり,意識消失,錯乱,または健忘など,脳機能障害の症状を起こす可能性がある。

雷撃麻痺(keraunoparalysis)は,下肢およびときに上肢に起こる麻痺で,斑点形成,冷え,および脈拍消失が起こり感覚障害を伴う;原因は交感神経系の損傷である可能性が高い。雷撃麻痺はよくみられ,通常は数時間以内に消失するが,ときにある程度の永続的な麻痺が生じる。電撃傷のその他の臨床像としては,以下のものがある:

  • 点状または羽毛状で樹枝状の紋様となる軽度の皮膚熱傷

  • 鼓膜穿孔

  • 白内障(数日以内に起こる)

神経学的な問題としては,錯乱,認知障害,末梢神経障害などがある。神経心理学的な問題(例,睡眠障害,注意障害,記憶障害)が起こることがある。

落雷時の心肺停止が,最も一般的な死因である(心停止および呼吸停止の概要を参照)。認知障害,疼痛症候群,および交感神経系の損傷が,最も多くみられる長期的な続発症である。

診断

  • 心臓および脳の合併症の認識

雷撃傷は目撃されることもされないこともある。嵐の間またはその後に屋外で発見された人に健忘または意識消失がみられる場合は,目撃されなかった損傷を疑うべきである。落雷に遭った患者は全て外傷を評価すべきである。

重度の損傷の場合は心電図検査を行うことがある。以下がみられる患者では心筋逸脱酵素を測定する:

  • 胸痛

  • 心電図異常

  • 精神状態の変化

精神状態が初期から異常であるか悪化した患者,または脳病変に一致する局所神経脱落症状を伴う患者に対しては,頭部CTまたはMRIが必要である。

治療

  • 支持療法

心停止もしくは呼吸停止,またはその両方がある場合は,心肺蘇生(CPR)を開始する。自動体外式除細動器がある場合,心停止の際には使用すべきである。他の種類の外傷による心停止状態の患者と異なり,落雷後に心停止になった患者は,蘇生すれば予後が極めて良好なことが多い。したがって,典型的に多数の死傷者が発生するような出来事とは異なり(この場合はトリアージで心停止患者の優先度が低くなる),落雷により多くの被災者が出た場合ではそのような患者は優先度が高い。

支持療法を行う。脳浮腫の可能性を最小限に抑えるため,輸液は通常制限する。雷によって受傷した患者のほとんどは,心臓への影響や脳病変が疑われない限り,安全に退院できる。

予防

ほとんどの雷撃傷は,落雷に関する安全指針を遵守することで防ぐことができる。天気予報を確認し,より安全な場所(理想的には大きな,居住に適した建物)への避難を含む避難計画を用意しておくべきである。嵐が近づいた場合に避難計画を実行できるように,屋外では天候に気をつけるべきである。雷鳴が聞こえる頃にはすでに危険な状態になっており,避難所(例,建物,完全に閉鎖された金属製の乗り物)を探すべきである。東屋などの小さな開放されている構造物は安全ではない。最後に稲妻が見えるか雷鳴が聞こえてから30分後までは屋外に出るべきではない。

雷雨のときに室内にいる場合,水回りおよび電気器具は避け,窓およびドアから離れ,有線電話,ゲーム機器,またはコンピュータは使用しないようにすべきである。携帯電話やその他の携帯用機器およびラップトップコンピュータは,バッテリー電源のみによる使用であれば雷を引き付けないので安全である。

要点

  • 人工的に作り出された電源に由来し,皮膚熱傷および内部組織損傷を引き起こす傾向のある電撃傷と異なり,雷撃傷は,不整脈および脳機能障害を引き起こす傾向がある。

  • 患者が嵐の後に屋外で意識消失または健忘の状態で発見された場合,雷撃傷を疑う。

  • 患者の評価時に,外傷,不整脈,ならびに脳および心臓の損傷を考慮する。

  • 支持療法を行う。

  • ほとんどの雷撃傷は,落雷に関する安全指針を遵守することで防ぐことができる。

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