眼の熱傷

執筆者:Ann P. Murchison, MD, MPH, Wills Eye Hospital
レビュー/改訂 2020年 9月
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眼の熱傷は,熱または化学物質による損傷に続発することがあり,恒久的な失明をはじめとする重篤な合併症を引き起こす恐れがある。

眼外傷の概要も参照のこと。)

温熱による熱傷

通常,人は温刺激を受けると瞬目反射により閉眼する。そのため,温熱による熱傷では結膜または角膜よりも眼瞼を受傷しやすい。眼瞼の熱傷では,滅菌等張食塩水で徹底的に洗浄した後に,抗菌薬眼軟膏(例,バシトラシン,1日2回)を塗布すべきである。結膜または角膜に及ぶ温熱による熱傷のほとんどは軽度で,重大な後遺症を残さず治癒する。これらの治療は,経口鎮痛薬(オキシコドン併用または非併用のアセトアミノフェン),調節麻痺・散瞳薬(例,5%ホマトロピン,1日4回),および抗菌薬の眼科用剤(例,バシトラシン/ポリミキシンB軟膏または0.3%シプロフロキサシン軟膏,1日4回,3~5日間)による。

化学熱傷

角膜および結膜の化学熱傷は,眼外傷の11~22%を占め,特に強酸または強アルカリによる場合,重篤になりうる。アルカリによる熱傷は酸による熱傷よりも重篤な傾向にある。

パール&ピットフォール

  • 角膜および結膜の化学熱傷は真の緊急事態である;直ちに治療を始めなければならない。

化学熱傷は,可及的速やかに大量の水での洗浄を行うべきである。0.5%プロパラカイン1滴の点眼により眼を麻酔してもよいが,洗浄を遅らせてはならず,少なくとも30分間は洗浄を続けるべきである。ホウ酸緩衝液は,よく使用されるその他の洗浄液と比べて眼内pHの是正効果が高い可能性があるが,平衡塩溶液(balanced saline solution:BSS)(pH7.4の滅菌等張液)の方が忍容性が高く,より長時間の洗浄が可能になる。ただし,洗浄を直ちに開始するためであればどのような食塩水や水でも使用できる。眼瞼の裏側にイリゲーション補助具(irrigating lens)を挿入することで,洗浄が容易になる可能性があるが,補助具を使用しない洗浄に比べて刺激を感じる患者もいる。酸やアルカリによる熱傷では,1~2Lの洗浄液の使用を推奨する専門家もいる;ほとんどの専門家は,(大きなpH試験紙を用いて)結膜のpHが正常化するまで洗浄することを提案している。

洗浄後,結膜円蓋を調べて組織内に化学物質が侵入していないか確認するとともに,スワブで拭き取って残留物を除去すべきである。眼瞼を二重反転させる(すなわち,まず眼瞼を反転させた後,反転させた眼瞼の内側にスワブを挿入し,さらに円蓋が見えるまで眼瞼を反転させる)ことにより上結膜円蓋を露出させる。

軽度の化学熱傷は一般に,眼局所用抗菌薬の1日4回の塗布(例,エリスロマイシン軟膏0.5%)と,必要に応じて調節麻痺薬(例,シクロペントレート)で治療する。コルチコステロイドの局所薬は,化学熱傷に用いると角膜穿孔を引き起こしうるため,投与する場合は必ず眼科医によるべきである。初回洗浄後の表面麻酔薬は避けるべきである;重度の疼痛の治療には,アセトアミノフェンを単独またはオキシコドンとの併用で用いる場合がある。腎機能が障害されていない患者では,経口ビタミンC(成人では2g,1日4回)によりコラーゲンの合成を助けることができる。コラーゲンを安定化するため,適切な患者で経口ドキシサイクリンを用いることも可能であるが,いずれの治療法も眼科医と相談して用いるべきである。タンパク質分解活性を低下させるためのクエン酸点眼や,多血小板血漿の点眼も治癒に役立つ可能性があり,これらも投与に当たっては必ず眼科医に相談すべきである。

重度の化学熱傷では,視力を温存して,角膜瘢痕化,眼球穿孔,および眼瞼変形などの合併症を予防するため,眼科医による治療が必要である;内科的治療に加えて,重度の化学熱傷には外科的処置が必要となることがある。重度の視力障害,結膜の無血管野,またはフルオレセイン染色で証明される結膜上皮もしくは角膜上皮の欠損のある患者は,可能な限り早急に,どんなに遅くとも曝露後24時間以内に眼科医による診察を受けるべきである。

化学物質による虹彩炎は,化学熱傷後数時間または数日で羞明(光への曝露による深部眼痛)が認められる患者で疑われ,細隙灯顕微鏡検査で前房にフレアまたは白血球を認めることで診断される。化学物質による虹彩炎の治療は,長時間作用型調節麻痺薬の点眼(例,2%もしくは5%ホマトロピン,または0.25%スコポラミン溶液の単回投与)による。

要点

  • 温熱による熱傷は眼瞼を,化学熱傷は眼瞼,結膜および角膜を損傷する傾向がある。

  • 温熱による熱傷は,抗菌薬の外用,調節麻痺・散瞳薬(結膜または角膜に損傷がある場合),および経口鎮痛薬によって治療する。

  • 化学熱傷は,大量の洗浄液による迅速な洗浄が不可欠である;ホウ酸緩衝液または平衡塩溶液(balanced saline solution:BSS)を用いるのが最適であるが,滅菌生理食塩水または水であればどのような種類のものでも使用できる。

  • 化学熱傷には,洗浄後,外用の抗菌薬および調節麻痺・散瞳薬を処方する。

  • 中等度または重度の熱傷の場合,さらなる治療を考慮すべきかどうか眼科医に相談する。

より詳細な情報

  1. Sharma N, Kaur M, Agarwal T, et al: Treatment of acute ocular chemical burns. Surv Ophthalmol 63(2):214-235, 2018.doi:10.1016/j.survophthal.2017.09.005

  2. Baradaran-Rafii A, Eslani M, Haq Z, Shirzadeh E, et al: Current and upcoming therapies for ocular surface chemical injuries. Ocul Surf 15(1):48-64, 2017.doi:10.1016/j.jtos.2016.09.002

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