外傷患者へのアプローチ

執筆者:Jaime Jordan, MD, UCLA School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 9月
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外傷は1~44歳の年齢層における死亡原因の第1位である。米国では2017年には外傷による死亡が243,039件あり,およそ70%が事故によるものであった。故意の外傷による死亡のうち,70%以上は自傷行為によるものであった。死亡以外でも,外傷により年間約4320万人が救急外来を受診し,280万人が入院している。

重篤であるが直ちに死に至らない外傷患者には,指定を受けた外傷センターや,重症患者に直ちに対応できる特別なスタッフやプロトコルを備えた病院での治療が最も有益である。そうした指定の基準(およびセンターへ搬送する必要性の基準)は州により異なるが,通常はAmerican College of Surgeons’ Committee on Traumaのガイドラインに従って行われている。

様々な外傷性損傷については,本マニュアルの別の箇所でも考察されている:

病因

無数にある受傷のパターンのうち,ほとんどの外傷は鈍的損傷または穿通性損傷に分類できる。鈍的損傷は,強い衝撃(例,殴打,蹴り,物体との衝突,転倒,自動車衝突,爆風)が関与する。穿通性損傷では,物体(例,ナイフ,割れたガラス)または弾丸のような発射物(例,銃弾,爆発物から生じる金属片)により皮膚が裂けて損傷が生じる。

その他の外傷の種類としては,熱および化学物質による熱傷,毒物の吸入または経口摂取,放射線障害が挙げられる。

病態生理

全ての外傷は,外力による直接的な組織損傷として定義づけられるが,その性質および範囲は,外傷の解剖学的部位,受傷機転,および外力の大きさにより異なる。重要な臓器(例,心臓,脳,脊髄)に対する重度の直接的な組織損傷が,外傷による即死の原因の大部分を占める。

さらに,最初の損傷で生存した患者でも,損傷による間接的な影響が現れることがある。血管損傷は,出血を引き起こすが,外出血(すなわち可視的)の場合もあれば,挫傷または血腫として臓器内で内出血を起こす場合や,体区画内(例,腹腔内,胸腔内)へ流出する場合もある。出血が少量であれば(すなわち,血液量の10%未満),大多数の患者は十分耐えられる。それよりも大量であると,血圧および臓器血流が進行性に低下し(ショック),細胞機能障害,臓器不全につながり,最終的には死に至る。出血性ショックおよび脳損傷が超早期(すなわち,数時間以内)死亡の主要な原因であり,ショックが長引くことによる多臓器不全が短期(すなわち,最初の14日間)死亡の主要な原因である。他の短期死亡は,正常な解剖学的障壁の崩壊および免疫系の機能障害による感染により生じる。

評価と治療

  • Primary survey:気道(Airway),呼吸(Breathing),循環(Circulation),神経学的障害(Disability),全身観察/環境管理(Exposure/Environmental control)のA,B,C,D,Eの評価および安定化

  • Secondary survey:初期の安定化後に行う全身の診察

  • CTおよびその他の画像検査の選択的な使用

ここでは,事故現場で行われる救急治療ではなく,救急医療機関における診療について考える。評価と治療は同時進行で行われ,損傷を受けた場合に最も短時間に生命を脅かす器官系から開始される。直ちに生命を脅かすものを評価する前に,目立つが致命的ではない損傷(例,下肢の開放骨折,手指の切断)に対処すると,致死的なミスにつながる。役に立つ記憶法は,気道(Airway),呼吸(Breathing),循環(Circulation),神経学的障害(Disability),全身観察/環境管理(Exposure/Environmental control)のA,B,C,D,Eである。重篤な異常について全身をすばやく診察し(primary survey),患者の安定化後により詳細な診察(secondary survey)を行う。

パール&ピットフォール

  • 直ちに生命を脅かすものを評価する前に,目立つが致命的ではない損傷(例,下肢の開放骨折,指の切断)に対処すると,致死的なミスにつながる。

気道

中咽頭の凝血塊,歯,または異物;意識障害による軟部組織の弛緩と舌根の沈下(例,頭部損傷,ショック,中毒による);および直接的な頸部外傷による浮腫または血腫により,気道の開通性が脅かされる。これらの閉塞は口腔内または頸部の視診で容易に視認できる;患者に話をさせることで,気道が差し迫った危険に直面している可能性が低いことが迅速に確認できる。

血液や異物は,吸引により,または用手的に除去する。気道の開通性,気道の防御機構,酸素化,または換気が疑わしい意識障害患者と重大な中咽頭の損傷がある患者には気管挿管が必要であり,通常は挿管を行う前に,鎮静および麻酔を目的として薬剤を投与する。声門上気道器具(extraglottic device),気道用のブジー,ビデオ喉頭鏡検査など,気道管理を支援する多数のツールが利用できる。二酸化炭素の比色計,または可能であればカプノグラフィーが,気管内チューブの正しい留置位置の確認に役立つ。

人工気道を必要とするが気管挿管ができない(例,熱傷による気道の浮腫のため)または禁忌(例,重度の顎顔面外傷のため)の患者は,外科的または経皮的輪状甲状間膜切開が適応となる。注:気道の評価または処置時には,診察,画像検査,またはその両方で頸椎損傷が除外されるまで,頸椎を固定した状態に(例,硬性カラー,正中固定法により)維持すべきである。

呼吸

中枢の呼吸ドライブの低下(通常は頭部損傷,中毒,またはほぼ致死的なショックに起因),または胸部損傷(例,血胸または気胸,多発性肋骨骨折,肺挫傷)があると,換気が脅かされる。

胸壁を全て露出して,十分な胸壁拡大がみられるか,外傷の外部徴候,および動揺胸郭を示す胸壁の奇異運動(すなわち,吸気時の胸壁の陥没)があるかどうかを検索する。胸壁を触診して,肋骨骨折および皮下気腫(ときに気胸の唯一の所見である)がないか確認する。

換気が十分かどうかは,通常は聴診で明らかになる。緊張性気胸,単純気胸,または血胸では,患側の呼吸音が減弱することがある。緊張性気胸では頸静脈が怒張することもある;低血圧と対側への気管偏位は,後期の所見である。

気胸は胸腔ドレーンによって減圧する(胸腔ドレナージを参照)。気胸に合致する所見のある患者では,陽圧換気を始める前に胸部X線またはベッドサイドでの超音波検査を行うべきである。陽圧換気は単純気胸を悪化させ,緊張性気胸に至らしめることがある。緊張性気胸が疑われる例に対して,胸腔ドレーンを直ちに挿入できない場合は,胸腔穿刺による脱気減圧(例,14ゲージの針を中腋窩線上第5肋間に挿入)を行うことで,患者の状態を安定化させることができる。換気が不十分な場合は,気管挿管を行って機械的人工換気により治療する。開放性気胸に対しては,3辺を付着させた閉鎖性ドレッシングで覆い,もう1辺は圧力を解放するために(圧力が高まり緊張性気胸を引き起こす可能性がある),テープでの固定を行わないでおく。

循環

顕著な外出血は,どの主要血管からも起こりうるが,常に視認可能である。生命を脅かす内出血は,あまり明らかでないことが多い。しかしながら,生命を脅かす量の出血が起こりうる体区画は限られる:すなわち胸部,腹部,後腹膜,および骨盤または大腿の軟部組織(例,骨盤骨折や大腿骨骨折による)である。

脈拍および血圧を評価し,ショックの徴候に注意する(例,頻呼吸,暗褐色の皮膚,発汗,精神状態の変化,毛細血管再充満の不良)。腹部の膨隆および圧痛,骨盤の不安定性,ならびに大腿の変形および不安定性を確認するが,これらの所見は内出血が生命を脅かすほど大量である場合にしばしば認められる。

外出血は,直接圧迫することでコントールできる。大きいゲージ(例,14または16ゲージ)の2本の針で生理食塩水または乳酸リンゲル液の静注を開始し,ショックや循環血液量減少の徴候がみられる場合は1L(小児では20mL/kg)を急速に点滴する。その後,血液成分の早期投与を考慮すべきである。ベッドサイドでの乳酸または動脈血ガスの測定(およびbase excess[過剰塩基]の算出)は,組織灌流低下およびショックの重症度を示すのに役立ち,輸液療法の方針の決定にも役立つ可能性がある。大量の血液製剤を必要とする患者に対するプロトコルが作成されており(大量輸血プロトコル),これには,トロンボエラストグラフィ(TEM)またはローテーショントロンボエラストグラフィ(ROTEM)(利用できる場合)による凝固の評価および早期のトラネキサム酸投与が含まれる。重篤な腹腔内出血が強く疑われる場合は,迅速な開腹術が必要である。大動脈遮断バルーン(resuscitative balloon for occlusion of the aorta)の留置は,手術前の患者を安定させるのに役立つことがある。大量の胸腔内出血のある患者には,直ちに開胸術が必要であり,胸腔ドレナージで回収した血液の返血が必要となることもある。

パール&ピットフォール

  • 単独の頭部外傷ではショックは起こらないため,外見上頭部外傷単独に見える患者で循環血液量減少性ショックの徴候がみられた場合には,直ちに腹腔内出血などの内出血について再評価すべきである。

身体障害(神経機能障害)

神経機能を評価し,脳および脊髄が関与する重篤な障害がないか確認する。グラスゴーコーマスケール(Glasgow Coma Scale[GCS];グラスゴーコーマスケールおよび乳児・小児用改変グラスゴーコーマスケールの表を参照)ならびに瞳孔の対光反応が,意識レベルおよび頭蓋内損傷の重症度の評価に用いられる。

全体的な運動器の動きおよび四肢の感覚に基づき,重篤な脊髄損傷をスクリーニングする。頸椎を触診して,圧痛や変形がないか確認し,頸椎損傷が除外されるまで,硬性カラーで安定化する。頭頸部を慎重に用手的に安定化させれば,丸太をころがす要領で患者を側臥位にすることにより,胸椎および腰椎の触診,背部の視診,ならびに適応があれば直腸診が可能になるため,筋緊張(筋緊張の低下は脊髄損傷の可能性を示す),前立腺(前立腺高位は尿道または骨盤の損傷を示唆する),また血液の有無を評価できる。

米国では,救急車で到着する患者の大部分は,円滑な搬送と脊椎の安定化のため,長く硬いボードに乗せられて固定される。ボードは非常に不快であり,数時間で褥瘡が生じる可能性があるため,できるだけ早く患者からボードを外すべきである。

表&コラム
表&コラム

重度の外傷性脳損傷(GCS < 8)の患者には,気道確保のための気管挿管,脳の画像検査,神経学的評価,および二次性脳損傷を予防するための治療(例,血圧および酸素化の最適化,痙攣発作の予防,頭蓋内圧亢進の治療,ときに差し迫った脳ヘルニアの徴候のある患者に対する一過性の過換気)が必要である。

全身観察/環境管理

損傷を確実に見落とさないために,患者を完全に脱衣させ(衣類を切断して),体表面全体を診察して,隠れた外傷の徴候がないか確認する。患者を温かく保ち(例,温めた毛布,温めた輸液を用いる),低体温症を予防する。

Secondary survey

直ちに生命を脅かすものを評価して,患者の状態が安定したら,さらに徹底的な評価を行い,焦点をしぼって病歴を聴取する。わずかでも会話が可能であれば,以下の「AMPLE」に沿った病歴聴取により重要な情報が得られる:

  • アレルギー歴(Allergies)

  • 服用薬(Medications)

  • 既往歴(Past medical history)

  • 最終の食事(Last meal)

  • 受傷機転(Events of the injury)

患者を完全に脱衣させた後,診察は一般に頭から足先に向かって進め,一般にあらゆる開口部を診察し,さらに最初のサーベイにおいて診察した部位を詳しく診察する。全ての軟部組織を外表から視診して病変や腫脹がないか確認し,全ての骨を触診して圧痛がないか確認し,関節可動域を評価する(明らかな骨折または変形がない場合)。

重篤な損傷を受けて意識障害がある患者には,尿道損傷の所見(例,尿道の出血,会陰部の斑状出血)がなければ,通常は尿道カテーテルを留置する。重篤な損傷を受けて挿管されている患者には,しばしば経鼻胃管も挿入される。

開放創は無菌の創傷被覆材で覆うが,洗浄および修復は,より重篤な損傷の評価および治療が完了するまで後回しにする。著明な変形または神経血管損傷を伴う,重篤で臨床的に明らかな脱臼は,生命を脅かすものに対処し次第,直ちに画像検査を行い整復する。

骨折が明らかであるか疑われる場合は,重篤な損傷の十分な評価と適切な画像検査を行っている間,副子で固定しておく。臨床的に明らかに不安定な骨盤骨折は,骨盤の隙間を閉じ出血の減少に役立てるためにシートまたは市販の安定化装置を用いて,安定化させる;重症の出血では血管造影による緊急の塞栓術,外科的固定,または直接の外科的止血が必要になる場合がある。

妊娠している外傷患者では,患者の安定化が最優先であり,これが胎児の安定性を確保する最善の方法である。満期近くの女性を仰臥位で固定すると,子宮・胎児・胎盤が下大静脈を圧迫し,血液の還流を妨げ低血圧を引き起こすことがある。その場合,子宮を用手的に左側に押すか,バックボードごと左に傾けることで,圧迫を緩和できる。妊娠20週を過ぎている場合は,胎児モニタリングを行い,少なくとも4~6時間継続する。重篤な外傷または妊娠合併症の徴候(例,胎児心拍異常,性器出血,収縮)のある患者については,早期に産科医へのコンサルテーションを行うべきである。軽微な外傷であっても,その後Rh陰性の女性には全てRh0(D)免疫グロブリンを投与する。心停止して蘇生できない妊婦には,妊娠24週(子宮底が臍上約4cmにある時期に相当する)を過ぎていれば,死戦期帝王切開(心停止時の帝王切開)を施行できる。

検査

画像検査と臨床検査は臨床的な評価を補助するものである。穿通性外傷の患者は,典型的には局所性損傷を示し,画像検査により明らかな受傷部位を限定できる。鈍的外傷は,特に強い減速が関与する場合には(例,重篤な転倒,自動車衝突),体のあらゆる部位に影響を及ぼす可能性があり,画像検査がより広範に使用される。以前はほとんどの鈍的外傷患者に対し,頸部,胸部,および骨盤のX線撮影またはCTがルーチンに行われていた。しかし,現在ではほとんどの外傷センターは受傷機転および診察所見により適応となった画像検査のみを行っている。

中毒がなく,局所的な神経学的所見がなく,頸椎の正中線上の圧痛もなく,痛みのために注意をそらす外傷(例,大腿骨骨折)もなく,意識清明な患者では,頸椎画像検査を延期できる。それ以外の全患者に対して,頸椎の画像検査を施行すべきであり,CTを用いるのが望ましい。

胸部X線では,気道異常,肺損傷,血胸,および気胸を診断できる;胸部大動脈損傷が(例,縦隔拡大によって)示唆されることもある。しかし,胸部CTの方がほとんどの胸腔内損傷に対して感度がより高いため,選択されることが多い。現在では,胸部画像検査としては一般に,ベッドサイドで超音波を用いたE-FAST(extended focused assessment with sonography in trauma[外傷の拡大迅速簡易超音波検査])が行われる(特に患者が不安定な場合)。気胸,血胸,および心膜血腫が同定できる。

重度かつ多発性の鈍的外傷後に画像検査を必要とする患者には,しばしば胸部,腹部,骨盤,脊椎,頭部のCTを単独または組み合わせて施行する。

腹腔内損傷の検討は非常に重要である。かつては,腹腔内出血の評価に診断的腹腔洗浄(DPL)が使用されていた。DPLでは,腹壁を通して腹膜透析カテーテルを腹腔内に挿入する。血液の吸引量が10mLを超える場合は,緊急開腹の適応となる。血液が吸引されない場合,カテーテルから1Lの生理食塩水を注入して排出し,排出液の分析を管理の指針として用いる。しかしながら,設備の不十分な施設を除き,DPLの多くはベッドサイドの超音波検査(E-FAST)に取って代わられている(特に状態が不安定な患者で);E-FASTは大量の腹腔内出血に対して感度が高く,そのため緊急開腹の必要性を鋭敏に検出できる。患者の状態が安定している場合は,CTが望ましい検査である;CTは極めて正確であり,後腹膜の構造と骨の画像検査を可能にし,出血の量を評価でき,ときに出血源が明らかになる。

骨盤骨折が疑われる場合には,骨盤CTを施行する;単純X線撮影より正確である。

精神状態の変化がみられる患者,神経学的な巣症状がみられる患者,および短時間に収まらない意識消失があった患者では,一般に頭部CTが施行される。短時間(5秒未満)の意識消失や一過性の健忘または見当識障害がみられたものの,診察時には覚醒していてGCSが15の患者については,CTが不要であることを示唆したエビデンスもある。持続性の頭痛,嘔吐,健忘,痙攣発作,薬物中毒またはアルコール中毒がある患者,60歳以上の患者,および抗凝固薬または抗血小板薬を服用中の患者では,より適応を広げて画像検査を施行する。頭部CTを撮影すべき患者の判定に役立つ臨床決定ルールが開発されている(1)。このルールは,臨床判断の補助材料となるが,その代わりとして使用すべきではない。

頭部損傷のある小児については,Pediatric Emergency Care Applied Research Network(PECARN)が,頭部CTによる放射線曝露の制限に役立つアルゴリズムを開発している;すでにどこかでCT検査を受けている小児では臨床的な観察で経過をみる。

頭部損傷のある0~2歳の小児の評価

* 興奮,傾眠,質問の反復,会話における遅い反応を含む。

† 車外への放出,他の乗客の死亡,または転覆があった自動車衝突事故,歩行者またはヘルメットをかぶっていない自転車運転者と自動車との衝突,2歳未満の小児の0.9mを超える落下,衝撃の強い物体による頭部への強打など。

‡ 生後3カ月以上の小児で,意識障害,頭痛,嘔吐,特定の頭皮血腫など,外傷性脳損傷を示唆する所見のみがみられ,他の所見がみられない。

ED = 救急部(救急医療機関),GCS = グラスゴーコーマスケール,LOC = 意識消失。

Adapted from Kupperman N, Holmes JF, Dayton PS, et al for the Pediatric Emergency Care Applied Research Network: Identification of children at very low risk of clinically-important brain injuries after head trauma: A prospective cohort study.Lancet 374: 1160-1170, 2009. doi:10.1016/S0140-6736(09)61558-0

頭部損傷のある2歳以上の小児の評価

* 興奮,傾眠,質問の反復,会話における遅い反応を含む。

† 患者の車外への放出,他の乗客の死亡,または転覆があった自動車衝突事故,歩行者またはヘルメットをかぶっていない自転車運転者と自動車との衝突,2歳以上の小児で1.5mを超える落下,衝撃の強い物体による頭部への強打など。

‡ 生後3カ月以上の小児で,意識障害,頭痛,嘔吐,特定の頭皮血腫など,外傷性脳損傷を示唆する所見のみがみられ,他の所見がみられない。

ED = 救急部(救急医療機関),GCS = グラスゴーコーマスケール,LOC = 意識消失。

Adapted from Kupperman N, Holmes JF, Dayton PS, et al for the Pediatric Emergency Care Applied Research Network: Identification of children at very low risk of clinically-important brain injuries after head trauma: A prospective cohort study.Lancet 374: 1160-1170, 2009. doi:10.1016/S0140-6736(09)61558-0

胸部の重度の減速損傷またはこれを示唆する徴候(例,脈拍欠損または血圧の左右差,末端の血流障害,胸部X線上の示唆的な所見)を認める患者では大動脈損傷を考慮すべきであり,CT血管造影または他の大動脈の画像検査が必要になる場合もある(大動脈破裂(外傷性)を参照)。外傷性大動脈損傷患者の心拍数および血圧をコントロールするために,短時間作用型β遮断薬が使用できる。

胸部の重大な鈍的損傷が疑われる患者は全て,心筋損傷および不整脈を検出するために,心電図モニタリングおよび12誘導心電図検査を行うべきである。心電図に異常のみられる患者では,通常,血中の心筋マーカー濃度を測定し,心挫傷の可能性を評価するためにときに心エコー検査も実施する。

頭頸部に外傷のある患者,特に片側性の神経学的所見,頸部のシートベルトの痕(シートベルトによる直線的な斑状出血),または血管損傷を伴いやすい損傷(例,C1,C2,またはC3骨折,亜脱臼を伴う他の頸椎骨折,首吊り)のある患者では,頸部および脊椎の血管損傷を考慮すべきである。このような患者では一般にCT血管造影を施行すべきである。

骨折および脱臼が疑われる部位は,全て単純X線検査を行う。その他の画像検査は,具体的な適応がある場合に実施する(例,血管損傷を診断し,ときに塞栓療法を行うための血管造影;脊椎,骨盤,または複雑な関節の骨折をより正確に描出するためのCT)。

有用な可能性がある臨床検査としては以下のものがある:

  • ヘモグロビンの連続測定(出血の評価)

  • 酸素分圧,二酸化炭素分圧,および塩基欠乏(BEの評価)に関する血液ガス測定

  • 血尿の検査

  • 血算(進行中の出血のモニタリングのためのベースラインの確立)

  • 血糖測定(低血糖の評価)

  • 血液型判定と交差適合試験(輸血に備えて)

  • 凝固検査

出血性ショックを早期に評価するために,あるいはある程度治療した患者の評価に役立てるために,組織灌流の評価(血清乳酸濃度,動脈血ガス測定での代謝性アシドーシスの評価,および中心静脈カテーテル留置患者での中心静脈血酸素飽和度)が行われる。その他の一般検査(例,電解質およびその他の生化学検査)は,関連する病歴(例,腎機能不全,利尿薬の使用)がみられない限り,役立つことは少ない。

薬毒物スクリーニング(例,血中アルコール濃度,尿中薬物スクリーニング)がしばしば実施されるが,それらの検査結果によって緊急の処置が変更されることはめったにないが,損傷の原因となった物質使用障害の同定に役立つことがあり,引き続いて起こる外傷を予防する手段を明らかにすることができる。

妊娠中の外傷患者ではDダイマー,フィブリノーゲン,およびフィブリンの分解産物を測定する場合がある。常位胎盤早期剥離患者で検査結果が異常なことがあるが,これらの検査は感度および特異性が高いわけではなく,診断を確定したり除外することはできない。

評価と治療に関する参考文献

  1. Bouida W, Marghli S, Souissi S, et al: Prediction value of the Canadian CT head rule and the New Orleans criteria for positive head CT scan and acute neurosurgical procedures in minor head trauma: A multicenter external validation study.Ann Emerg Med 61(5): 521-527, 2013. doi: 10.1016/j.annemergmed.2012.07.016

より詳細な情報

以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. American College of Surgeons' Statement on Trauma Center Designation Based Upon System Need

  2. Pediatric Emergency Care Applied Research Network (PECARN): Information about research on the prevention and management of acute illnesses and injuries in children

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