アセトアミノフェン中毒

執筆者:Gerald F. O’Malley, DO, Grand Strand Regional Medical Center;
Rika O’Malley, MD, Grand Strand Medical Center
レビュー/改訂 2020年 4月
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アセトアミノフェン中毒は,摂取から数時間以内に胃腸炎,および1~3日後に肝毒性を引き起こしうる。単回急性過剰摂取後の肝毒性の重症度は,血清アセトアミノフェン濃度から予測される。治療は,肝毒性を予防するかまたは最小限に抑えるN-アセチルシステインによる。

中毒の一般原則も参照のこと。)

アセトアミノフェンはOTC医薬品として販売されている100種類を超える製品に含まれている。製品には多数の小児用の液剤,錠剤,およびカプセル剤や,多数の鎮咳薬および感冒薬などがある。処方薬の多くもアセトアミノフェンを含む。したがって,アセトアミノフェン過剰摂取は一般的である。

病態生理

アセトアミノフェンの主要な代謝物であり毒性を有するN-アセチル-p-ベンゾキノンイミン(NAPQI)は,肝臓のチトクロムP450酵素系で生成され,肝臓に貯蔵されているグルタチオンにより解毒される。急性過剰摂取は肝臓のグルタチオン貯蔵を枯渇させる。その結果NAPQIが蓄積し,肝細胞壊死およびおそらく他の臓器(例,腎臓,膵臓)の傷害を引き起こす。肝酵素のプレコンディショニングはNAPQI生成を増加させる可能性があり,低栄養(これもアルコール依存症患者で一般的である)は肝臓のグルタチオン貯蔵を低下させるため,理論的には,アルコール性肝疾患または低栄養があると毒性のリスクが増大することになる。ただし,アルコール依存症患者への治療量のアセトアミノフェン投与が肝障害と関連することはない。

急性アセトアミノフェン中毒

毒性を生じるには,経口による急性過剰摂取量は24時間以内に合計で150mg/kg(成人で約7.5g)以上となる必要がある。

症状と徴候

軽度の中毒は症状を引き起こさない場合があり,症状がある場合は通常,摂取後48時間までは急性アセトアミノフェン中毒の症状は軽微である。症状は4段階で出現し(急性アセトアミノフェン中毒の病期の表を参照),食欲不振,悪心,嘔吐,右上腹部痛などがある。腎不全および膵炎が起こる場合があり,ときに肝不全を伴わない。5日目以降,肝毒性は消失するか,または致死的となりうる多臓器不全に進行する。

表&コラム

診断

  • 血清アセトアミノフェン濃度

  • Rumack-Matthewノモグラム

自殺企図の可能性がある非偶発的な摂取を行った患者および小児の摂取においては,アセトアミノフェン含有製剤がしばしば過剰摂取されるが報告されないため,全例でアセトアミノフェンの過剰摂取を考慮すべきである。また,アセトアミノフェンは早期段階ではほとんど症状がなく,致死的となる可能性もあるが治療可能であるため,偶発的摂取患者でも全例で摂取を考慮すべきである。

パール&ピットフォール

  • 摂取した全患者で潜在性のアセトアミノフェン中毒を考慮する。

急性摂取による肝毒性の可能性および重症度は,摂取量,またはより正確には血清アセトアミノフェン濃度に基づき予測可能である。急性摂取時刻が明らかな場合は,Rumack-Matthewノモグラム( see figure アセトアミノフェンの単回急性摂取のRumack-Matthewノモグラム)を用いて肝毒性の可能性を推測する;急性摂取時刻が不明な場合は,ノモグラムは利用できない。従来型アセトアミノフェンまたは急速放出型アセトアミノフェン(7~8分速く吸収される)の単回急性過剰摂取では,摂取後4時間以降に濃度を測定しノモグラムにプロットする。濃度が150μg/mL(990μmol/L)以下で毒性症状が認められない場合は,肝毒性の可能性が非常に低いことが示唆される。高濃度であれば肝毒性の可能性を示す。遅発放出型製剤のアセトアミノフェン(血清中濃度が約4時間の間隔を空けて2つのピークを示す)の単回急性過剰摂取では,摂取後4時間以降と,さらにその4時間後にアセトアミノフェン濃度を測定し,いずれかの濃度がRumack-Matthewの毒性ラインを上回った場合には治療が必要である。

アセトアミノフェンの単回急性摂取のRumack-Matthewノモグラム

血漿アセトアミノフェン濃度 vs 時間の半対数プロット。本ノモグラムの使用に関する注意事項:

  • 時間座標は摂取からの経過時間を示す。

  • 4時間以前に得られた血清中濃度はピーク濃度を示さないことがある。

  • 本ノモグラムは単回急性摂取に関してのみ使用すべきである。

  • アセトアミノフェン血漿アッセイおよび過剰摂取後の推定時間に関して生じうる誤差を考慮し,標準ノモグラムの25%下に実線を追加した。

Adapted from Rumack BH, Matthew H: Acetaminophen poisoning and toxicity. Pediatrics 55(6): 871–876, 1975; reproduced by permission of Pediatrics.

中毒が確定したかもしくは強く疑われる場合,または摂取時刻が不確かもしくは不明な場合,追加の検査が適応となる。肝機能検査を行い,重度の中毒が疑われる場合はプロトロンビン時間を測定する。アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)およびアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の検査結果は中毒の病期と相関する(急性アセトアミノフェン中毒の病期の表を参照)。1000IU/Lを超えるAST値は,アセトアミノフェン中毒よりも慢性肝炎またはアルコール性肝疾患に起因して生じる可能性が高い。中毒が重度の場合は,ビリルビンおよび国際標準化比も上昇することがある。

数日または数週間にわたり治療量のアセトアミノフェンを摂取している成人で,わずかなトランスアミナーゼの上昇(例,正常上限の2~3倍まで)が起こることがある。このような上昇は一過性であると考えられ,(アセトアミノフェンの使用を継続しても)消失または低下し,通常は臨床的に症状を伴わず,おそらく重要ではない。

アセトアミノフェン/システインタンパク質付加体が,アセトアミノフェンによる肝毒性の指標として新たに開発され市販されているバイオマーカーである。このバイオマーカーがアセトアミノフェンへの曝露を示す可能性はあるが,アセトアミノフェンによる肝毒性を確実に示すわけではない。マイクロRNAなどのその他のバイオマーカーは,研究段階にあるが,標準的な診断ツールではない。

予後

適切に治療した場合,死亡はまれである。

摂取後24~48時間の予後不良の指標には以下の全てが含まれる:

  • 十分な輸液後のpH < 7.3

  • 国際標準化比(INR)> 3

  • 血清クレアチニン > 2.6

  • 肝性脳症の昏睡度III(錯乱および傾眠)またはIV(昏迷および昏睡)

  • 低血糖

  • 血小板減少症

急性アセトアミノフェン中毒は肝硬変の素因にはならない。

治療

  • N-アセチルシステインの経口投与または静注

  • 場合によって活性炭

アセトアミノフェンが消化管に残存する可能性が高い場合は,活性炭を投与することがある。

N-アセチルシステインはアセトアミノフェン中毒に対する解毒剤である。本剤はグルタチオン前駆体であり,肝臓のグルタチオン貯蔵を増加させること,およびおそらくその他の機序によってアセトアミノフェンの毒性を低減する。また,毒性のあるアセトアミノフェン代謝物NAPQI(N-アセチル-p-ベンゾキノンイミン)が肝細胞を傷害する前にこれを不活化することにより,肝毒性の予防に役立つ。しかし,すでに生じた肝細胞の傷害を元に戻すことはない。

急性中毒では,アセトアミノフェンの摂取量または血清中濃度に基づき肝毒性の可能性が高い場合にN-アセチルシステインを投与する。これは,アセトアミノフェン摂取後8時間以内に投与した場合に,最も効果的である。24時間以降は解毒剤の便益は疑わしいが,依然投与すべきである。毒性の程度が不明の場合は,毒性が除外されるまでNアセチルシステインを投与すべきである。

N-アセチルシステインは,静注または経口投与で同等に効果的である。静注療法では,持続静注により投与する。負荷量150mg/kgを5%ブドウ糖溶液200mLで15分かけて投与し,続いて維持量50mg/kgを5%ブドウ糖溶液500mLで4時間かけて投与し,その後100mg/kgを5%ブドウ糖溶液1000mLにて16時間かけて投与する。小児では,注入する液体の総量を減らすよう用量を調節する必要があり,中毒情報センターへの相談が推奨される。

N-アセチルシステインの経口投与における負荷量は,140mg/kgである。続いて,70mg/kgの追加量を4時間毎に17回投与する。経口投与のアセチルシステインは味が悪く,炭酸飲料またはフルーツジュースで1:4で希釈して投与するが,それでも嘔吐を引き起こす場合がある。嘔吐する場合は制吐薬を用いてよい;投与後1時間以内に嘔吐した場合は投与を繰り返す。しかし,嘔吐が長引き経口での使用が制限される場合がある。アレルギー反応は一般的ではないが,経口および静注での使用で発生している。

肝不全は支持療法で治療する。劇症肝不全患者に対しては肝移植が必要になる場合がある。

要点

  • アセトアミノフェンは汎用されており,過剰摂取の初期は無症状で治療可能であるため,中毒の可能性のある全患者でその毒性を考慮する。

  • 摂取時刻が明らかな場合は,Rumack-Matthewノモグラムを用いて,血清アセトアミノフェン濃度に基づき肝毒性のリスクを予測する。

  • 肝毒性の可能性が高い場合は,N-アセチルシステインを経口投与または静注する。

  • アセトアミノフェンが依然消化管にあると考えられる場合は,活性炭を投与する。

  • 毒性の程度が不明の場合,より確実で決定的な情報が得られるまで,N-アセチルシステインの経口投与または静注を開始する。

慢性アセトアミノフェン中毒

少数の患者では,慢性的な過剰使用または頻回の過剰摂取が肝毒性を引き起こす。通常,慢性的な過剰摂取は自傷行為ではなく,疼痛の治療のために不適切な高用量を摂取した結果生じる。症状がみられない場合もあり,急性過剰摂取で発生する症状のいずれかを伴う場合もある。

診断

  • アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST),アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT),および血清アセトアミノフェン濃度

Rumack-Matthewノモグラムは利用できないが,臨床的に重大な肝毒性の可能性は,AST,ALT,および血清アセトアミノフェン濃度に基づいて推測できる。

  • ASTおよびALT値が正常値(50IU/L[0.83μkat/L]未満)でアセトアミノフェン濃度が10μg/mL(66μmol/L)未満の場合,重大な肝毒性の可能性は非常に低い。

  • ASTおよびALT値が正常値であるがアセトアミノフェン濃度が10μg/mL(66μmol/L)以上の場合は,重大な肝毒性の可能性があり,24時間後にASTおよびALT値を再度測定する。このときのASTおよびALT値が正常値の場合は顕著な肝毒性の可能性が低く,高値の場合は顕著な肝毒性が想定される。

  • 初回のASTおよびALTが高値の場合は,アセトアミノフェン濃度に関係なく,顕著な肝毒性が想定される。

治療

  • ときにN-アセチルシステイン

N-アセチルシステインについて,慢性アセトアミノフェン中毒の治療における役割,または確立した急性肝毒性がある場合の役割は不明である。理論的には,摂取後24時間以上経っていても,残存する(代謝されていない)アセトアミノフェンが存在すればいくらかの便益がありうる。以下のアプローチは効果的であるとは証明されていないが,用いられることがある:

  • 肝毒性の可能性がある場合(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[AST]およびアラニンアミノトランスフェラーゼ[ALT]値が正常でアセトアミノフェン濃度が初期に増加した場合),N-アセチルシステインを負荷量140mg/kgの経口投与に続き最初の24時間に4時間毎に70mg/kgを経口投与する。繰り返し測定した(24時間後)ASTおよびALT値が正常値の場合は,N-アセチルシステイン投与を中止し,高値の場合には毎日測定し,正常値が得られるまでN-アセチルシステイン投与を継続する。

  • 肝毒性の可能性が高い場合(特に初回のASTおよびALT値が高値の場合)は,N-アセチルシステイン1コースを最後まで投与する。

予後因子は急性アセトアミノフェン中毒の場合と同様である。

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