酸素飽和度の低下

(低酸素症)

執筆者:Cherisse Berry, MD, New York University School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 11月
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呼吸器疾患がないICU患者(およびその他の患者)が,入院中に低酸素症(酸素飽和度が90%未満)を発症することがある。呼吸器疾患がある患者の低酸素症については,それぞれの呼吸器疾患の箇所で考察している。

酸素飽和度低下の病因

数多くの疾患が低酸素血症(例,呼吸困難呼吸不全酸素飽和度低下の主な原因の表を参照)を引き起こす;しかしながら,呼吸器疾患がない入院患者に発生する急性低酸素症の原因は,通常はより限られている。その原因は以下の2つに分類できる:

  • 換気障害

  • 酸素化障害

表&コラム

酸素飽和度低下の評価

体液量過剰を鑑別するため,入院期間中,および特に直前24時間の総輸液投与量を確認すべきである。鎮静薬の投与および用量について薬歴を確認すべきである。著しい低酸素症(酸素飽和度が85%未満)では,評価と同時に治療を開始する。

病歴

突然発症の呼吸困難および低酸素血症は,肺塞栓症(PE)または気胸(主に陽圧換気を受けている患者において)を示唆する。発熱,悪寒,湿性咳嗽(つまり,分泌物の増加)は,肺炎を示唆する。循環器または呼吸器疾患の既往(例,喘息慢性閉塞性肺疾患心不全)は,その疾患の増悪を示唆する場合もある。心筋梗塞の症状および徴候は,急性の弁閉鎖不全,肺水腫,または心原性ショックを示唆する。片側肢の痛みは深部静脈血栓症(DVT),したがってPEの可能性を示唆する。本格的な蘇生を要する重度外傷または敗血症が先行する場合,急性呼吸窮迫症候群が示唆される。先行する胸部外傷は肺挫傷を示唆する。

身体診察

気道の開通性および強く十分な呼吸があるかを直ちに評価すべきである。機械的人工換気を受けている患者では,気管内チューブが閉塞またはずれていないか確認するのが重要である。以下のような所見は示唆的である:

  • 片側の呼吸音が減弱し肺野の透過性が亢進している場合,気胸または右主気管支への挿管が示唆される;断続性ラ音(crackle)および発熱を伴う場合は肺炎の可能性がより高い。

  • 両肺性断続性ラ音を伴う頸静脈の怒張は,肺水腫,心原性ショック,心タンポナーデ(しばしば断続性ラ音を伴わない),または急性弁閉鎖不全を伴う体液量過剰を示唆する。

  • 頸静脈の怒張に,肺野の透過性亢進,片側呼吸音の減弱および気管偏位を伴う場合,緊張性気胸が示唆される。

  • 両下肢の浮腫は心不全を示唆するが,片側の浮腫はDVT,ゆえにPEの可能性を示唆する。

  • 喘鳴は気管支攣縮を意味する(一般的には喘息またはアレルギー反応であるが,まれにPEまたは心不全に伴って起こる)。

  • 意識レベルの低下は低換気を示唆する。

検査

低酸素症は,最初は通常パルスオキシメトリーにより発見される。患者は以下の検査を受けるべきである:

  • 胸部X線(例,肺炎,胸水貯留,気胸,または無気肺の評価のため)

  • 心電図(不整脈または虚血の評価のため)

  • 動脈血ガス(低酸素血症を確認し,十分な換気が行われているか評価するため)

系統的な心エコー検査が施行できるようになるまで,血行動態に影響を与えうる心嚢液貯留または全左室あるいは右室機能低下の評価のため,集中治療医によるベッドサイドでの心エコー検査が行われることがある。脳性(B型)ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の血清中濃度の上昇は,心不全を他の低酸素症の原因と鑑別するのに役に立つことがある。こうした検査を行っても診断がまだ不明確な場合,PEの検査を考慮すべきである。挿管された患者において気管気管支の塞栓を除外(および除去)するため,気管支鏡検査が行われる場合がある。

酸素飽和度低下の治療

原因が判明すれば,本マニュアルの別の箇所で論じているように治療する。もし低換気が持続するならば,非侵襲的陽圧換気または気管挿管による機械的人工換気が必要となる。持続的な低酸素症は酸素投与を必要とする。

酸素療法

酸素毒性をもたらさずにPaO2を60~80mmHg(すなわち,飽和度92~100%)に保つため,動脈血ガスまたはパルスオキシメトリーの測定値を参考にしながら酸素投与量を調節する。このレベルに保たれていれば組織へ十分な酸素が供給される;酸素解離曲線がS字状となることから,PaO2を>80mmHgに上昇させても運搬される酸素はほとんど増加しないため,この値より上昇させる必要はない。許容可能なPaO2を維持できる,最低の吸入気酸素分画(FIO2)を用いるべきである。酸素毒性は以下に依存する:

  • 濃度に依存

  • 時間に依存

FIO2の上昇が>60%のまま維持されると,炎症性変化,肺胞浸潤を来し,最終的には肺線維症に至る。60%を超えるFIO2は,患者の生存に必要でない限り避けるべきである。60%未満のFIO2は,長期にわたって十分に許容される。

40%未満のFIO2は,鼻カニューレまたはフェイスマスクによって投与できる。鼻カニューレでは1~6L/分の酸素流量を選択する。6L/分は上咽頭を満たすのに十分な量であるため,流量をさらに上げることに便益はない。リークおよび口呼吸が原因で,酸素が室内空気とともに様々な割合で混入することがあるため,単純なフェイスマスクおよび鼻カニューレにより投与されるFIO2の濃度は正確なものではない。しかしながら,ベンチュリーマスクでは非常に正確な酸素濃度での投与ができる。

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40%を超えるFIO2を得るには,供給装置からの酸素により膨らむリザーバー付きの酸素マスクを使用する必要がある。典型的な非再呼吸式マスクでは,患者は100%の酸素をリザーバーから吸入するが,呼出するときはゴム製のフラップ弁が呼気を外部に放出し,二酸化炭素と水蒸気が吸気の酸素と混合するのを防ぐ。しかしながら,リークがあるため,こういったマスクでも最高で80~90%のFIO2での投与となる。

難治性低酸素血症には,神経筋遮断薬,リクルートメント手技,腹臥位換気,または体外式膜型人工肺(ECMO)が必要になることがある。

酸素飽和度の低下の要点

  • 低酸素症は換気障害または/かつ酸素化障害により引き起こされ,通常初めはパルスオキシメトリーによって認識される。

  • 患者は胸部X線,心電図,動脈血ガス検査を受けるべきである(低酸素血症を確認し,十分な換気が行われているかを評価するため);それでも診断が明確にならない場合,肺塞栓症の検査を考慮する。

  • PaO2を60~80mmHg(すなわち酸素飽和度92~100%)に保つのに必要な酸素を投与し,原因を治療する。

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