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心停止

執筆者:

Robert E. O’Connor

, MD, MPH, University of Virginia School of Medicine

レビュー/改訂 2019年 12月
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【訳注:最新の情報については,2020 American Heart Association's guidelines for CPR and emergency cardiovascular careを,感染症を考慮した対応については,American Heart Association's COVID-19 Resuscitation Algorithmsを参照のこと。】心停止は心臓の機械的活動の停止であり,その結果,循環が途絶する。心停止が起こると血液が重要な臓器に流れなくなり,臓器が酸素欠乏に陥り,未治療のまま放置すると死に至る。突然の心停止とは,発症期間の短い(ときに前兆を伴わない)予期せぬ循環停止である。米国では,病院外での突然の心停止が毎年350,000人以上に生じており,そのうち90%が死亡している。

呼吸停止 呼吸停止の概要 呼吸停止と 心停止は異なるものであるが,無治療の場合,一方により必ず他方も引き起こされる。( 呼吸不全, 呼吸困難,および 低酸素症も参照のこと。) 肺のガス交換が5分を超えて途絶すると,重要臓器,特に脳が不可逆的に損傷を受ける可能性がある。呼吸機能が直ちに回復しない限り,心停止がほぼ必ず続発する。しかしながら,心停止前後およびその他の心... さらに読む と心停止は異なるものであるが,無治療の場合一方は必ず他方を引き起こす。(呼吸不全 急性低酸素血症性呼吸不全 (AHRF,ARDS) 急性低酸素血症性呼吸不全は,酸素投与に反応しない重症の動脈血低酸素血症である。これは,気腔への体液貯留または虚脱(例,左室不全による肺水腫,急性呼吸窮迫症候群)に起因する血液の肺内短絡,または血液を右から左へ循環させる心内短絡によって引き起こされる。所見には呼吸困難および頻呼吸などがある。診断は動脈血ガス測定および胸部X線による。通常,治... さらに読む 急性低酸素血症性呼吸不全 (AHRF,ARDS) 呼吸困難 呼吸困難 呼吸困難とは,不快または苦しさを感じる呼吸である。患者による呼吸困難の感じ方および訴え方は原因によって異なる。 呼吸困難は比較的頻度の高い症状であるが,呼吸に伴う不快感の病態生理はほとんど解明されていない。他の種類の有害な刺激に対する受容器とは異なり,呼吸困難に特化した受容器は存在しない(ただし,MRIを用いた研究では,呼吸困難の知覚を仲... さらに読む ,および 低酸素症 酸素飽和度の低下 呼吸器疾患がないICU患者(およびその他の患者)が,入院中に低酸素症(酸素飽和度が90%未満)を発症することがある。呼吸器疾患がある患者の低酸素症については,それぞれの呼吸器疾患の箇所で考察している。 数多くの疾患が低酸素血症(例, 呼吸困難, 呼吸不全― 酸素飽和度低下の主な原因の表を参照)を引き起こす;しかしながら,呼吸器疾患がない入... さらに読む 酸素飽和度の低下 も参照のこと。)

(院外および院内心停止については,American Heart Associationによる心疾患および脳卒中統計の2018 updateも参照のこと。)

心停止の病因

成人では,突然の心停止の原因は主に心疾患(あらゆる種類,特に 冠動脈疾患 冠動脈疾患の概要 冠動脈疾患では,冠動脈の血流が障害され,そのほとんどがアテロームに起因する。臨床像としては,無症候性心筋虚血, 狭心症, 急性冠症候群( 不安定狭心症, 心筋梗塞), 心臓突然死などがある。診断は症状,心電図検査,負荷試験,ときに冠動脈造影による。予防法は可逆的な危険因子(例,高コレステロール血症,高血圧,運動不足,肥満,糖尿病,喫煙)の... さらに読む 冠動脈疾患の概要 )である。かなりの割合の患者で,突然の心停止が心疾患の初発症状である。心停止のその他の原因としては,心疾患以外(特に 肺塞栓症 肺塞栓症(PE) 肺塞栓症とは,典型的には下肢または骨盤の太い静脈など,他の場所で形成された血栓による肺動脈の閉塞である。肺塞栓症の危険因子は,静脈還流を障害する状態,血管内皮の障害または機能不全を引き起こす状態,および基礎にある凝固亢進状態である。肺塞栓症の症状は非特異的であり,呼吸困難,胸膜性胸痛などに加え,より重症例では,ふらつき,失神前状態,失神,... さらに読む 肺塞栓症(PE) 消化管出血 消化管出血の概要 消化管出血は,口腔から肛門までのいずれの部位でも発生する可能性があり,顕性の場合と不顕性の場合がある。臨床像は出血部位および出血速度によって異なる。( 静脈瘤および 消化管の血管性病変も参照のこと。) 吐血は,鮮紅色の血液を吐出する症状であり,上部消化管出血を示唆し,その出血源は通常,... さらに読む ,外傷)による循環性ショック,換気不全,代謝障害(薬物過量服用を含む)などがある。

心停止の病態生理

心停止は広範囲の虚血を引き起こし,その結果細胞レベルで起こった異常が蘇生後臓器機能に有害作用を及ぼす。主な結果として,直接細胞損傷および浮腫形成がある。浮腫は,膨張する空間がほとんどない脳では特に有害であり,蘇生後にしばしば頭蓋内圧亢進およびそれに伴う脳灌流の低下を引き起こす。蘇生が成功した患者の多くに,意識レベルの変化(中等度の錯乱から昏睡まで),痙攣発作,または両方を症状とする,短期または長期の脳機能障害が生じる。

アデノシン三リン酸(ATP)の産生が低下することで細胞膜が損傷し,カリウムの流出とナトリウムおよびカルシウムの流入が起こる。ナトリウム過剰は細胞浮腫を引き起こす。過剰なカルシウムはミトコンドリアを損傷し(ATP産生を抑制),一酸化窒素産生を促進し(有害なフリーラジカルの産生につながる),特定の状況においては,細胞にさらなる損傷を与えるプロテアーゼを活性化させる。

イオンの異常な流れはニューロンの脱分極を引き起こし,神経伝達物質を放出させ,その一部は有害な作用をもたらす(例,グルタミン酸は特定のカルシウムチャネルを活性化し,細胞内のカルシウム過剰を助長する)。

炎症メディエーター(例,インターロイキン1B,TNF-α[腫瘍壊死因子α])が合成される;その一部は,微小血管血栓症および血管損傷を引き起こし,さらなる浮腫をもたらす。一部のメディエーターはアポトーシスを惹起し,細胞死を加速させる。

心停止の症状と徴候

重症(critically ill)患者または終末期の患者では,心停止が起こる前に,速く浅い呼吸,動脈圧低下,および進行性の意識レベルの低下など臨床症状が悪化する時期がしばしば存在する。突然の心停止では前触れもなく虚脱が起こり,ときに短時間(5秒未満)の痙攣発作を伴う。

心停止の診断

  • 臨床的評価

  • 心モニタリングと心電図

  • ときに原因の検査(例,心エコー検査,胸部X線検査,または胸部超音波検査)

心停止の診断は,臨床所見としての無呼吸,脈拍消失,意識消失を認めることによる。動脈圧は測定不能である。数分後には瞳孔は散大し,対光反射がなくなる。

治療可能な潜在的原因がないか評価する;有用な記憶法は「HとT」である:

残念ながら,原因の多くは心肺蘇生(CPR)中には同定できない。身体診察,胸部超音波検査,および胸部X線検査により 緊張性気胸 診断 緊張性気胸は圧力下での胸腔内に空気が貯留した状態のことであり,肺を圧迫し,心臓への静脈還流量を減少させる。 ( 胸部外傷の概要も参照のこと。) 肺または胸壁の損傷が,空気が胸腔に入ることが可能でも出ていくことができない損傷(一方向弁)である場合に,緊張性気胸が発生する。その結果,空気が貯留して肺を圧迫し,最終的に縦隔を偏移させ,対側肺が圧... さらに読む 診断 を発見できる。心臓超音波検査により,心収縮を検出でき, 心タンポナーデ 診断 心タンポナーデは,心室充満を障害するほどの量および圧力の,心嚢における血液の貯留である。一般的には,低血圧,心音減弱,および頸静脈怒張がみられる。診断は臨床的に行い,しばしばベッドサイドの心エコー検査による。治療は,速やかな心嚢穿刺または心膜切開である。 ( 胸部外傷の概要も参照のこと。)... さらに読む ,極度の循環血液量減少(empty heart),肺塞栓を示唆する右室負荷, 心筋梗塞 急性心筋梗塞 急性心筋梗塞は,冠動脈の急性閉塞により心筋壊死が引き起こされる疾患である。症状としては胸部不快感がみられ,それに呼吸困難,悪心,発汗を伴う場合がある。診断は心電図検査と血清マーカーの有無による。治療法は抗血小板薬,抗凝固薬,硝酸薬,β遮断薬,スタチン系薬剤,および再灌流療法である。ST上昇型心筋梗塞に対しては,血栓溶解薬,経皮的冠動脈イン... さらに読む 急性心筋梗塞 を示唆する局所的な壁運動異常を認識できる。ベッドサイドでの迅速血液検査によりカリウムや血糖値の異常を検出できる。家族や救急隊員から聴取した病歴から,薬物などの過量服用が示唆される場合がある。

心停止の予後

生存退院,特に神経学的後遺症のない生存は,単なる自己心拍再開よりも転帰として意味がある。

生存率には大きなばらつきがある;予後良好因子としては以下のものがある:

多くの予後因子が良好であれば(例,ICUまたは救急部門で目撃されたVF),成人の約50%が生存退院可能である。病院内での心停止(VT/VFおよび心静止/PEA)からの生存率は全体で約25%である。

良好な予後因子がなければ(例,病院外で目撃なしの心停止を起こし,心静止となった),生存の可能性は低い。病院外で心停止を起こした場合の生存率(報告されたもの)は全体で約10%である。

心停止を起こして生還した全患者のうち,退院時に中枢神経系の機能が良好であるのは約10%に過ぎない。

予後に関する参考文献

心停止の治療

  • CPR

  • 可能なら直接的な原因を治療する

  • 蘇生後管理

迅速な治療が不可欠である。

(CPRおよび心血管救急処置に関するAmerican Heart Associationのガイドラインも参照のこと。)

心肺蘇生(CPR 成人における心肺蘇生(CPR) 【訳注:最新の情報については,2020 American Heart Association's guidelines for CPR and emergency cardiovascular careを,感染症を考慮した対応については,American Heart Association's... さらに読む )は,心停止に対する系統立てられた一連の対応であり,胸骨圧迫(「強く早く圧迫」)を直ちに開始して【訳注:COVID19を意識した蘇生では,安易に胸骨圧迫から開始することを避ける】途切れなく行うことと,VFまたはVT(成人により多い)を起こした患者に対する早期の除細動が成功への鍵となる。

小児では心停止の原因として窒息が最も多く,典型的な最初のリズムは徐脈性不整脈であり,次いで心静止になる。しかしながら,小児の約15~20%(特に,突然の心停止に呼吸器症状が先行していないとき)はVTやVFを呈するため,やはり迅速な除細動を必要とする。12歳以上の小児では,最初に記録されるリズムとしてVFの発生率が増加する。

心停止の原因を速やかに治療しなければならない。治療可能な症状が存在せず,心臓の動きが検出されるか脈がドプラによって検出される場合,重度の循環性ショックとみなされ,輸液(例,失血に対し,1Lの生理食塩水,全血,またはその組合せ)が行われる。輸液に対する反応が不十分な場合,多くの医師は1種類または複数種類の昇圧薬(例,ノルアドレナリン,アドレナリン,ドパミン,バソプレシン)を投与する;しかしながら,これらの昇圧薬が生存率を改善するという明らかな証拠はない。

治療に関する参考文献

心停止についてのより詳細な情報

  • American Heart Association's 2018 update of heart disease and stroke statistics

  • American Heart Association's guidelines for CPR and emergency cardiovascular care

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