気管挿管

執筆者:Vanessa Moll, MD, DESA, Emory University School of Medicine, Department of Anesthesiology, Division of Critical Care Medicine
レビュー/改訂 2020年 4月
意見 同じトピックページ はこちら

人工エアウェイを必要とする患者の多くは,以下のような気管挿管による管理が可能である:

  • 経口気管挿管(口腔から管を挿入する)

  • 経鼻気管挿管(鼻から管を挿入する)

ほとんどの場合,経鼻気管挿管よりも経口気管挿管が望ましく,喉頭直達鏡またはビデオ喉頭鏡により施行される(ビデオ喉頭鏡を用いた経口気管挿管を参照)。経口気管挿管は,経鼻気管挿管よりも通常手早く施行できるため無呼吸および重症(critically ill)の患者で選択され,経鼻気管挿管は意識があり自発呼吸を行っている患者または経口挿管を避けるべき状況にのみ用いられる。上咽頭経由の挿管の重篤な合併症は鼻出血である。気道内の血液によって喉頭鏡による観察が不明瞭となり,挿管が複雑になる。

呼吸停止の概要および気道確保および管理も参照のこと。)

挿管の前に

気管挿管を試みる前には常に,気道開通性を確保し,患者を換気および酸素化する操作が必要である。挿管を決定した場合,以下の準備処置を行う:

健康な患者では,100%酸素による換気で脱窒素化され,無呼吸耐容時間(safe apneic time)が有意に長くなる(心肺の重症疾患をもつ患者では,効果は小さくなる)。

喉頭鏡による観察の難しさを予測する手段(例,Mallampati分類,オトガイ部と甲状切痕の距離の測定)の緊急時における有用性は限られている。喉頭鏡での観察がうまくいかない場合に代用の手技(例,ラリンジアルマスクバッグバルブマスク換気外科的気道確保)を実施できるよう,常に備えておくべきである。

心停止時には,挿管を試みるために胸骨圧迫を中断すべきではない。胸骨圧迫の施行中(または胸骨圧迫をする人員の交代時の短い小休止の間)に挿管ができなければ,代替の気道確保法を用いるべきである。

気道からの分泌物などの物質を除去するため,先端が硬質の咽頭用吸引器具をすぐに使用できるようにしておくべきである。

受動的逆流を予防するため,以前は挿管前と挿管中に輪状軟骨圧迫(Sellick操作)が推奨されていた。しかしながら,この操作はかつて考えられていたより効果がなく,喉頭鏡による観察中に喉頭部の視野を悪化させる可能性がある。

鎮静薬,筋弛緩薬,およびときに迷走神経抑制薬などの挿管を助ける薬剤は,一般的には意識があるまたは半意識の患者で喉頭鏡による観察を行う前に投与する。

チューブの選択および挿管の準備

大抵の成人には,内径が 8mmのチューブを使用できる;この径のチューブは,以下の点で細いチューブよりも望ましい:

  • 気流抵抗が小さい(呼吸仕事量を減らす)

  • 分泌物の吸引が容易である

  • 気管支鏡を通すことができる

  • 機械的人工呼吸からの離脱の助けとなる可能性がある

乳児および1歳以上の小児では,カフなしチューブのサイズは(患者の年齢 + 16)÷ 4の式で計算される;すなわち,4歳の小児の場合は(4 + 16)÷ 4 = 5mmの気管内チューブで挿管すべきである。カフ付きチューブを使用する場合には,この式で求めたチューブサイズから0.5(チューブサイズ1段階)引くべきである。一覧表(小児の蘇生のためのガイド―体重等に基づくの表を参照)または小児蘇生用テープ(Broselowテープ)やPedi-Wheelといった器具を用いることで,乳児や小児に対する適切なサイズの喉頭鏡ブレードと気管内チューブを迅速に特定することができる。

成人では(ときに小児でも),硬いスタイレットをチューブの中に入れるが,気管内チューブの遠位端より1~2cm手前でスタイレットを止め,チューブの先端が柔らかい状態を維持するように気をつけるべきである。その後,スタイレットを使ってチューブが遠位のカフ開始部まで一直線になるようにすべきである;そこからはホッケースティックの形を作るようにチューブを上に35°曲げる。カフまで一直線になるように形づくることで,チューブが導入しやすくなり,チューブ通過時に声帯が見えなくなるのを回避できる。バルーンの確認のために気管内チューブ遠位のカフをルーチンに空気で満たす必要はないが,この手技を用いる場合は,チューブ挿入前に注意深く空気を全て抜いておかなければならない。

挿管の手技

最初の試行で挿管を成功させることが重要である。繰り返し喉頭鏡を使用(3回以上の試行)することは,有意な低酸素血症,誤嚥,および心停止の発生率の上昇と関連している。挿管を成功させるには,正しい姿勢をとらせることに加え,いくつかの原則が極めて重要である:

  • 喉頭蓋が見えるようにする

  • 喉頭後部の構造(理想的には声帯)が見えるようにする

  • 確実に気管へ挿入できる状態でなければ,チューブを通過させない

喉頭鏡は左手に保持し,ブレードを口に挿入して開口器として使用し,下顎および舌を術者とは反対方向へ押し上げ,咽頭後壁を露出する。切歯との接触を避け,喉頭の構造物に過度の圧力をかけないことが重要である。

喉頭蓋を同定することの重要性はいかに強調してもし過ぎることはない。喉頭蓋を同定することにより気道内の重要なランドマークを認識でき,喉頭鏡のブレードを正しい位置に定めることができる。喉頭蓋は咽頭後壁にかかっていることがあり,そこでピンク色の粘膜に迷入したり,心停止の患者の気道には例外なく存在する分泌液のたまりの中に見失ったりする。

喉頭蓋が見つかれば,術者は以下の2つのうちいずれかの方法で喉頭蓋を挙上する:

  • 典型的な直型ブレードによるアプローチ:術者は喉頭鏡のブレードの先端で喉頭蓋を持ち上げる

  • 典型的な曲型ブレードによるアプローチ:術者は間接的に喉頭蓋を持ち上げ,ブレードを喉頭蓋谷に進め,舌骨喉頭蓋靱帯に押し付けることにより,チューブを挿入する経路から喉頭蓋が外れるようにする。

曲型ブレードによるアプローチの成功の可否は,ブレードの先端を喉頭蓋谷に適切に置くこと,および正しい方向に力をかけて挙上することにかかっている(両手による喉頭鏡操作の図を参照)。いずれの手技でも,喉頭蓋を挙上すると,喉頭後部の構造(披裂軟骨,披裂間切痕),声門,および声帯が見える。もしブレードの先端が深すぎれば,喉頭のランドマークを完全に見過ごしてしまい,食道の暗く丸い穴を声門の入り口と誤ることがある。

構造の同定が難しければ,前頸部に右手を置いて喉頭を操作することで(右手と左手を同時にうまく使う),喉頭の視野が非常に良くなることがある(両手による喉頭鏡操作の図を参照)。他の方法として,頭を高くし(環椎後頭関節を伸展させるのでなく,後頭部を持ち上げる),顎をそらすことで,視界が良くなる。頭部挙上は,頸髄損傷の可能性がある患者では推奨されず,重度肥満の患者(あらかじめ傾斜位もしくは頭部を挙上した状態にしておかなければならない)では難しい。

視野が最適な状態では,声帯がはっきり見える。声帯が見えていない場合でも,少なくとも喉頭後部のランドマークは見えていなければならず,チューブの先端が披裂間切痕と後部の軟骨を越えるのを確認しなければならない。致死的となりうる食道挿管を避けるためにも,喉頭のランドマークははっきりと同定しなければならない。チューブが気管の中に入っている自信がなければ,チューブを挿入すべきではない。

理想的な視野が得られれば,右手でチューブを喉頭に通して気管に挿入する(右手で前喉頭部を圧迫している場合は,介助者が圧迫を続けるべきである)。チューブが簡単に通過しなければ,チューブを時計回りに90°回すことで,前方の気管軟骨輪をスムーズに通過できることがある。喉頭鏡を抜く前に,チューブが声帯の間を通過していることを確認するべきである。適切なチューブの深さは成人では通常21~23cmで,小児では気管内チューブの径の3倍(4mm径の気管内チューブであれば12cm,5.5mm径の気管内チューブであれば16.5cm)である。成人では,チューブを不注意に進めると,一般的には右主気管支に入ってしまう。

両手による喉頭鏡操作

喉頭鏡を持ち上げるのとは反対の方向に,頸部に圧迫を加える。矢印は,喉頭鏡の挙上方向と前頸部の圧迫方向を示している。

その他の挿管器具

喉頭鏡による挿管が失敗した場合の手段や最初の挿管手段として,いくつかの器具と手技がよく用いられるようになっている。器具には以下のものがある:

  • ビデオ喉頭鏡

  • 間接喉頭鏡

  • 気管挿管のための管付きのラリンジアルマスク(LMA)

  • ファイバースコープおよび光ガイド付きスタイレット(optical stylet)

  • チューブイントロデューサー

それぞれの器具には微妙な違いがあり,たとえ標準的な喉頭鏡挿管技術のスキルがある術者でも,それぞれの器具に十分に慣れていなければ,それらの器具を使用できると(特に筋弛緩薬の投与後は)思い込まない方がよい。

ビデオ喉頭鏡および間接喉頭鏡では,術者は舌の弯曲を越えて見ることができ,非常に良好な喉頭の視野を得られる。しなしながら,舌を越えるためにチューブを曲げる角度を過剰にする必要があり,そのためチューブの操作や挿入がより難しくなることがある。

気管挿管のための管がついているラリンジアルマスクもある。ラリンジアルマスクを通して気管内チューブを挿入するためには,喉頭の入り口へのカフの最適な置き方を理解しなければならない;気管内チューブを通す際にはときに物理的困難を伴う。

軟性ファイバースコープおよび光ガイド付きスタイレット(optical stylet)は非常に操作しやすく,解剖学的異常のある患者でも使える。しかしながら,ファイバーの画像上で喉頭のランドマークを認識するのに慣れる必要がある。ビデオ喉頭鏡および間接喉頭鏡と比較し,ファイバースコープは使いこなすのが難しく,血液および分泌物が問題となりやすい;また,組織を分離したり分割したりしないかわりに,開いた経路を通して動かさなければならない。

チューブイントロデューサー(一般的にはガムエラスティックブジーと呼ばれる)は半硬性のスタイレットで,喉頭の見え方が準最適なとき(例,喉頭蓋は見えているが喉頭の入り口が見えていないとき)に使用できる。そのような場合,イントロデューサーを喉頭蓋下面に沿って通過させる;この位置からは,気管に入る可能性が高い。気管に入ったことは手に伝わってくる感覚でわかり,先端が気管軟骨輪を弾んで越えるのがわかる。そしてイントロデューサーに沿って,気管内チューブを進める。チューブイントロデューサーもしくは気管支鏡を通過させるときに,チューブの先端がときに右披裂喉頭蓋ひだにひっかかる。チューブを90°反時計回りに回転させることで気管内チューブの先端が外れ,スムーズに通過させられる。

挿入後

スタイレットを抜去し,10mLシリンジを用いてバルーンカフを空気で膨らませる;圧力計を使用してバルーン圧が30cmH2O未満であることを確認する。適切な径の気管内チューブに適切な圧をかけるには,10mLよりかなり少ない量の空気で十分なことがある。

バルーンを膨らませた後は,チューブの位置を様々な手段で確認すべきであり,その方法としては以下のものがある:

  • 視診および聴診

  • 二酸化炭素の検出

  • 食道挿管検知器

  • ときに胸部X線検査

チューブが正しい位置にある場合,用手的換気によって胸部が左右対称に挙上し,両肺で正常な呼吸音が聴取され,上腹部でゴボゴボ音が聞かれない。

呼気には二酸化炭素が多く含まれており,胃内の空気は含まれていないはずであるため,呼気終末二酸化炭素濃度を色で表示する器具やカプノグラムの波形で二酸化炭素を検出することにより,気管に入っていることを確認できる。ただし,心停止(つまり,代謝活動がほとんどまたは全くない状態)が長時間続いている状況では,チューブが正しく気管内にあったとしても二酸化炭素を検出できないことがある。そのような場合は,食道挿管検知器を使用してもよい。この器具では,可膨張バルブまたは大きなシリンジを用いて気管内チューブに陰圧をかける。食道はたわみやすいため虚脱し,器具の中に空気がほとんどまたは全く流入しない一方,気管は硬いため虚脱せず,その結果生じる気流により気管に入っていることを確かめる。

心停止ではない場合,チューブの位置は通常胸部X線写真でも確認する。

正しい位置にあることを確かめたら,チューブを市販の器具または粘着テープで固定する。アダプターで気管内チューブを蘇生バッグ,加湿し酸素を供給するT-ピース,または人工呼吸器に接続する。

蘇生時の混乱している状況では特に,気管内チューブは位置が変わってしまうことがあるので,チューブの位置は頻回に再確認するべきである。もし呼吸音が左で聞こえなければ,おそらく左緊張性気胸よりも右主気管支への片肺挿管の方が可能性は高いが,両者を考慮すべきである。

経鼻気管挿管

もし患者に自発呼吸があり,特定の緊急事態(例えば,口腔や頸部に重度の病態[例,外傷,浮腫,可動域制限]があり,喉頭鏡の使用が難しい場合)に経鼻気管挿管を行うことがある経鼻挿管は,中顔面骨折のある患者か,頭蓋底骨折があることがわかっている,または疑われる患者では絶対的禁忌である。従来は,筋弛緩薬が使用できないか禁止されている場合(例,病院到着前,一部の救急医療施設)や,頻呼吸および過呼吸があって座位をとる患者(例,心不全患者)が文字通りチューブを吸い込むような場合にも,経鼻挿管が使用されてきた。しかし,非侵襲的な換気方法(例,二相性陽圧換気[BiPAP])が使えるようになり,挿管に際し併用する薬剤が使いやすくなり,スタッフもその使用法について訓練されるようになった上,より新しい気道確保器具が登場してきたことで,経鼻挿管を行う機会は大幅に減少した。さらに懸念すべきことに,副鼻腔炎(3日目以降で一般的)など経鼻挿管に随伴する問題があり,また気管支鏡検査ができるほど大きなチューブ(例,8mm以上)では経鼻気管挿管はめったにできない。

経鼻気管挿管を行う場合,出血および防御反射を防ぐために,血管収縮薬(例,フェニレフリン)および表面麻酔(例,ベンゾカイン,リドカイン)を鼻粘膜および喉頭に用いなければならない。一部の患者には鎮静薬,オピオイド,または解離性麻酔薬の静注を要することがある。鼻粘膜の処置ができたら,選択した鼻腔を十分に開存させるため,また表面麻酔薬を咽頭・喉頭に通す導管として用いるために,柔らかい経鼻エアウェイを挿入すべきである。経鼻エアウェイの留置時には,通常の潤滑剤または麻酔薬(例,リドカイン)入りの潤滑剤を使用することがある。咽頭粘膜へスプレーした後,経鼻エアウェイを取り除く。

それから経鼻気管チューブを14cmの深さ(ほとんどの成人では喉頭の入り口の直上)まで挿入する;この時点では,空気の出入りが聴取できるはずである。患者が息を吸い込み,声帯が開く際に,チューブを迅速に気管へ通す。初回の挿入で失敗すると,患者を刺激し,しばしば咳をさせてしまう。この事象は予想しておくべきであり,咳により広く開いた声門にチューブを通す2度目の機会が得られる。先端を操作できるより柔らかい気管内チューブを使うことで,成功率があがる。出血リスクを下げ挿入しやすくするため,チューブを温水に浸して柔らかくする術者もいる。小さな市販の笛をチューブの近位のコネクターにつけることもでき,チューブが喉頭の上かつ気管内の正しい位置にあれば,空気の出入りする音がこれにより強調されて聴こえる。

気管挿管の合併症

合併症としては以下のものがある:

  • 直接的な外傷

  • 食道挿管

  • 気管のびらん,狭窄

喉頭鏡は,唇,歯,舌,および声門上領域,声門下領域を損傷することがある。

食道挿管は,気づかれなければ換気ができなくなり,死亡または低酸素性障害につながる。食道に入ったチューブに空気を入れると,逆流による誤嚥を招き,再度挿管を試みる際に視野が悪くなり,その後もバッグバルブマスクによる換気がうまくできない。

いかなるチューブも喉頭を通過するものは多少とも声帯を傷害する;ときに潰瘍形成,虚血,および遷延性の声帯麻痺が起こる。声門下狭窄は後になって(通常,3~4週間後に)起こることがある。

気管のびらんは,まれである。しかし,カフ圧が過剰に高いと起こりやすくなる。まれに,主要血管(例,腕頭動脈)からの出血,瘻(特に気管食道瘻),および気管狭窄が起こる。高容量,低圧カフ付きの適切なサイズのチューブを用い,カフ圧を頻繁(8時間毎)に計測して30cmH2O未満に維持することで,圧迫による虚血性壊死のリスクは低下する;ただし,ショック状態,心拍出量低下,あるいは敗血症の患者では,そのリスクが残る。

quizzes_lightbulb_red
Test your KnowledgeTake a Quiz!
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS