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呼吸停止の概要

執筆者:

Vanessa Moll

, MD, DESA, Emory University School of Medicine, Department of Anesthesiology, Division of Critical Care Medicine

レビュー/改訂 2020年 4月
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呼吸停止と 心停止 心停止 【訳注:最新の情報については,2020 American Heart Association's guidelines for CPR and emergency cardiovascular careを,感染症を考慮した対応については,American Heart Association's... さらに読む は異なるものであるが,無治療の場合,一方により必ず他方も引き起こされる。(呼吸不全 呼吸不全の概要 急性呼吸不全は,酸素化障害,二酸化炭素排出障害,または両方の障害であり,生命を脅かす病態である。呼吸不全の原因は,ガス交換の障害,換気の減少,またはその両方がありうる。一般的な症候には呼吸困難,呼吸補助筋の使用,頻呼吸,頻脈,発汗,チアノーゼ,意識変容などがあり,無治療の場合最終的には意識障害,呼吸停止,および死に至る。診断は臨床的に行わ... さらに読む 呼吸困難 呼吸困難 呼吸困難とは,不快または苦しさを感じる呼吸である。患者による呼吸困難の感じ方および訴え方は原因によって異なる。 呼吸困難は比較的頻度の高い症状であるが,呼吸に伴う不快感の病態生理はほとんど解明されていない。他の種類の有害な刺激に対する受容器とは異なり,呼吸困難に特化した受容器は存在しない(ただし,MRIを用いた研究では,呼吸困難の知覚を仲... さらに読む ,および 低酸素症 急性低酸素血症性呼吸不全 (AHRF,ARDS) 急性低酸素血症性呼吸不全は,酸素投与に反応しない重症の動脈血低酸素血症である。これは,気腔への体液貯留または虚脱(例,左室不全による肺水腫,急性呼吸窮迫症候群)に起因する血液の肺内短絡,または血液を右から左へ循環させる心内短絡によって引き起こされる。所見には呼吸困難および頻呼吸などがある。診断は動脈血ガス測定および胸部X線による。通常,治... さらに読む 急性低酸素血症性呼吸不全 (AHRF,ARDS) も参照のこと。)

肺のガス交換が5分を超えて途絶すると,重要臓器,特に脳が不可逆的に損傷を受ける可能性がある。呼吸機能が直ちに回復しない限り,心停止がほぼ必ず続発する。しかしながら,心停止前後およびその他の心拍出量の低い状況では特に,過度の換気もまた血行動態学的に悪影響をもたらす可能性がある。多くの場合,最終目標は,心血管系の暫定的な容態をさらに悪化させることなく,十分な換気および酸素化を回復することである。

呼吸停止の病因

呼吸停止(および呼吸停止に進行しうる呼吸障害)は以下によって引き起こされる:

  • 気道閉塞

  • 呼吸努力の低下

  • 呼吸筋の筋力低下

気道閉塞

閉塞は以下の部位で起こる:

  • 上気道

  • 下気道

通常,生後3カ月未満の乳児は鼻呼吸を行うため,鼻閉塞に伴って上気道閉塞が起きる可能性がある。全ての年齢層において,意識低下に伴って筋緊張が消失すると,舌根が中咽頭に落ち込み,上気道が閉塞されることがある。上気道閉塞のその他の原因としては,血液,粘液,吐物,異物,声帯の痙攣または浮腫,咽頭・喉頭・気管の炎症(例, 喉頭蓋炎 喉頭蓋炎 喉頭蓋炎は喉頭蓋および周辺組織において急速に進行する細菌感染症であり,突然の気道閉塞および死亡に至ることもある。症状としては,重度の咽頭痛,嚥下困難,高熱,流涎,吸気性喘鳴などがある。診断には声門上部構造の直接観察が必要であるが,これは十分な呼吸補助が可能になるまで行うべきではない。治療には気道の保護および抗菌薬などがある。... さらに読む 喉頭蓋炎 クループ クループ クループは上下気道の急性炎症であり, 1型パラインフルエンザウイルスの感染によって引き起こされることが最も多い。金属音様で犬吠様の咳嗽と吸気性喘鳴(stridor)を特徴とする。診断は通常臨床的に明白であるが,頸部X線の前後像によっても診断可能である。治療では,解熱薬,水分,霧状のラセミ体アドレナリン,およびコルチコステロイドを投与する。... さらに読む クループ ),腫瘍,外傷などがある。先天性で発育性の障害がある患者はしばしば上気道に異常があり,より容易に閉塞する。

下気道閉塞は,誤嚥,気管支攣縮,気腔への体液貯留(例, 肺炎 肺炎の概要 肺炎は,感染によって引き起こされる肺の急性炎症である。初期診断は通常,胸部X線および臨床所見に基づいて行う。 原因,症状,治療,予防策,および予後は,その感染が細菌性,抗酸菌性,ウイルス性,真菌性,寄生虫性のいずれであるか,市中または院内のいずれで発生したか,機械的人工換気による治療を受けている患者に発生したかどうか,ならびに患者が免疫能... さらに読む 肺水腫 肺水腫 肺水腫は,肺静脈性肺高血圧と肺胞内の液貯留(alveolar flooding)を伴った重度の急性左室不全である。所見は,重度の呼吸困難,発汗,喘鳴,ときに泡沫状の血痰である。診断は臨床的に行われ,胸部X線による。治療には酸素,硝酸薬静注,利尿薬のほか,ときにモルヒネを使用するとともに,駆出率が低下した心不全患者には,短期間の陽性変力薬の... さらに読む 肺水腫 ,肺出血),および 溺水 溺水 溺水は液体への水没に起因する呼吸障害である。非致死性(以前はnear drowningと呼ばれた)の場合と致死性の場合がある。溺水により低酸素症が生じ,複数の臓器,特に脳が損傷する可能性がある。治療は,呼吸停止,心停止,低酸素症,低換気,および低体温からの回復を含めた支持療法による。... さらに読む によって起こる。

呼吸努力の低下

呼吸努力の低下は,以下のいずれかによる中枢神経系の障害を反映する:

  • 中枢神経系疾患

  • 薬物有害作用

  • 代謝性疾患

呼吸努力を低下させる薬剤にはオピオイドおよび催眠鎮静薬(例,バルビツール酸系薬剤,アルコール,より頻度は低いがベンゾジアゼピン系)などがある。これらの薬剤の併用は呼吸抑制のリスクをさらに高める(1 病因論に関する参考文献 呼吸停止と 心停止は異なるものであるが,無治療の場合,一方により必ず他方も引き起こされる。( 呼吸不全, 呼吸困難,および 低酸素症も参照のこと。) 肺のガス交換が5分を超えて途絶すると,重要臓器,特に脳が不可逆的に損傷を受ける可能性がある。呼吸機能が直ちに回復しない限り,心停止がほぼ必ず続発する。しかしながら,心停止前後およびその他の心... さらに読む )。通常は過量投与(医原性,故意,または過失による)が原因であるが,その薬の効果により感受性の高い患者(例,高齢患者,身体機能が低下した患者,慢性呼吸機能不全の患者,閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者)では,より低用量でも呼吸努力が低下することがある。オピオイド誘発性呼吸抑制(opioid-induced respiratory depression:OIRD)のリスクは,手術直後の回復期に最もよくみられるが,入院期間中およびそれ以降も持続する。OIRDは,重度の脳障害や死亡などの不幸な転帰につながる可能性がある。(2 病因論に関する参考文献 呼吸停止と 心停止は異なるものであるが,無治療の場合,一方により必ず他方も引き起こされる。( 呼吸不全, 呼吸困難,および 低酸素症も参照のこと。) 肺のガス交換が5分を超えて途絶すると,重要臓器,特に脳が不可逆的に損傷を受ける可能性がある。呼吸機能が直ちに回復しない限り,心停止がほぼ必ず続発する。しかしながら,心停止前後およびその他の心... さらに読む

2019年12月,米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)は,中枢神経系を抑制するオピオイドおよびその他の薬剤を使用している患者, 慢性閉塞性肺疾患 慢性閉塞性肺疾患(COPD) 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,毒素の吸入(しばしばタバコ煙)に対する炎症反応によって引き起こされる気流制限である。比較的まれな原因として,非喫煙者におけるα1-アンチトリプシン欠乏症および様々な職業曝露がある。症状は数年かけて発現する湿性咳嗽および呼吸困難であり,一般的な徴候には呼吸音の減少,呼気相の延長,および喘鳴などがある。重症例で... さらに読む 慢性閉塞性肺疾患(COPD) (COPD)患者など基礎に呼吸障害を有する患者,または高齢患者において,ガバペンノイド(ガバペンチン,プレガバリン)が重篤な呼吸困難を引き起こす可能性があるという警告を発出した。

重度の低血糖または低血圧により中枢神経系が抑制された場合,最終的には呼吸努力が低下する。

呼吸筋の筋力低下

筋力低下は以下により生じうる:

  • 神経筋疾患

  • 疲労

神経筋の異常による原因には,脊髄損傷,神経筋疾患(例, 重症筋無力症 重症筋無力症 重症筋無力症は,自己抗体および細胞性の機序を介したアセチルコリン受容体の破壊に起因する,反復発作性の筋力低下および易疲労性である。若年女性と高齢男性で多くみられるが,あらゆる年齢の男女に起こりうる。症状は筋の活動により悪化し,安静により軽減する。診断は,血清抗アセチルコリン受容体(AChR)抗体値,筋電図検査,およびときにエドロホニウム静... さらに読む ボツリヌス症 ボツリヌス症 ボツリヌス症は,ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)の毒素による中毒であり,末梢神経が侵される。毒素を摂取,注射,または吸入すると,感染が成立せずともボツリヌス症を発症する可能性がある。症状は対称性で下行性の筋力低下と弛緩性麻痺を伴う対称性の脳神経麻痺であり,感覚障害はみられない。診断は臨床所見と検査室... さらに読む ポリオ ポリオ ポリオは,ポリオウイルス(エンテロウイルスの一種)によって引き起こされる急性感染症である。臨床像としては,非特異的な軽症疾患(不全型ポリオ),ときに麻痺のない無菌性髄膜炎(非麻痺型ポリオ),より頻度は低いが様々な筋群の弛緩性脱力(麻痺型ポリオ)がある。診断は臨床的に行うが,臨床検査による診断も可能である。治療は支持療法による。... さらに読む ギラン-バレー症候群 ギラン-バレー症候群 (GBS) ギラン-バレー症候群は,急性で,通常は急速に進行するが自然治癒する炎症性多発神経障害であり,筋力低下および軽度の遠位部感覚消失を特徴とする。原因は自己免疫性であると考えられている。診断は臨床的に行う。治療法としては,免疫グロブリン静注療法,血漿交換などがあり,重症例では機械的人工換気も行う。... さらに読む ),神経筋遮断薬の使用などがある。

病因論に関する参考文献

  • 1.Izrailtyan I, Qiu J, Overdyk FJ, et al: Risk factors for cardiopulmonary and respiratory arrest in medical and surgical hospital patients on opioid analgesics and sedatives.PLoS One Mar 22;13(3):e019455, 2018. doi: 10.1371/journal.pone.0194553

  • 2.Lee LA, Caplan RA, Stephens LS, et al: Postoperative opioid-induced respiratory depression: A closed claims analysis.Anesthesiology 122: 659–665, 2015.doi: 10.1097/ALN.0000000000000564

呼吸停止の症状と徴候

呼吸が停止すると,患者は意識を失うか,または意識が低下する。

低酸素血症の患者はチアノーゼを呈しうるが,貧血や一酸化炭素中毒またはシアン化物中毒があるとチアノーゼはマスクされることがある。高流量酸素により治療されている患者は,呼吸停止後も数分経過するまで低酸素血症にならず,よってチアノーゼまたは酸素飽和度の低下を来さないことがある。逆に,慢性肺疾患および赤血球増多のある患者は,呼吸が停止していなくてもチアノーゼを呈することがある。呼吸停止が是正されなければ,低酸素血症,高炭酸ガス血症,またはその両方の発生から数分以内に心停止が起こる。

切迫した呼吸停止

呼吸が完全に停止する前,神経機能が正常の患者は,興奮,錯乱し,呼吸しようともがくことがある。頻脈および発汗がみられる;肋間または胸骨や鎖骨上部の陥没がみられる場合もある。中枢神経系の障害または呼吸筋の筋力低下を有する患者は,微弱な,喘ぐような,または不規則な呼吸,および奇異性呼吸運動を呈する。気道に異物がある患者は,息が詰まって喉を指し示したり,吸気性喘鳴を呈することがあるが,いずれの所見もみられないことがある。代償不全に陥っている患者では,呼気終末二酸化炭素濃度をモニターすることで,呼吸停止が切迫していることを気づくことができる。

乳児,特に生後3カ月未満の場合は,激烈な感染症,代謝性疾患,または呼吸筋疲労に続いて,前触れなく急性の無呼吸を発症する場合がある。

呼吸停止の診断

呼吸停止の治療

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