輸液蘇生(fluid resuscitation)

執筆者:Levi D. Procter, MD, Virginia Commonwealth University School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 10月
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ほぼ全ての循環ショック状態では,重度の血管内容量減少(例,下痢または熱中症による)と同様に,大量の輸液が必要となる。血管内容量の欠乏は血管収縮によって強力に代償され,それに続いて,数時間に及ぶ血管外から血管内への体液移動があり,体内総水分量を費やして循環体液量が維持される。しかしながら,大量に体液が喪失されると,この代償機構では追いつかない。

維持輸液の必要量については,水代謝を,軽度の脱水については,小児における脱水および輸液療法を参照のこと。

輸液蘇生時の輸液製剤

輸液蘇生時の輸液製剤の選択は体液不足の原因に左右される。

出血

赤血球の喪失は酸素運搬能を低下させる。しかしながら,身体は酸素運搬能(DO2)を維持するために心拍出量を上昇させ,酸素摂取率を高める。これらの要因により,安静時の酸素必要量の約9倍のゆとりが生まれる。したがって,軽度から中等度の失血では,血管内容量を回復させるために非酸素供給液(例,電解質輸液製剤またはコロイド輸液製剤)を使用する。しかしながら,重度の出血性ショックでは,血液製剤が必要となる。早期の血漿および血小板の投与は,大量出血に伴う希釈性または消耗性の凝固障害を最小化するのに役立つと考えられる。赤血球製剤1単位および血小板製剤1単位に対し各々血漿製剤1単位という比率が現在推奨されている(1)。患者の状態が安定しており,心血管または脳血管疾患がない状態で,一度でもヘモグロビンが7g/dL(70g/L)未満となることがあれば,酸素運搬能は輸血(または,将来的には血液代用剤)によって回復させるべきである。活動性の冠血管もしくは脳血管疾患,または進行性の出血がある患者では,ヘモグロビンが10g/dL(100g/L)未満になると輸血が必要となる。

血管内容量補充のための電解質輸液製剤は,通常,等張性である(例,生理食塩水または乳酸リンゲル液)。水は血管外へ自由に移動するので,血管内には等張液の10%しか残らない。低張液(例,0.45%食塩水)は,さらにわずかな量しか血管内に残らないので,蘇生には使用されない。生理食塩水と乳酸リンゲル液の効果は同等である;乳酸リンゲル液はアシドーシスをいくぶん軽減し,高クロール血症を引き起こさないため,出血性ショックでは好まれることがある。急性脳損傷の患者には,生理食塩水が望ましい。高張食塩水は,等張液と比較して転帰に差がないことを示唆するエビデンスがあるため,蘇生には推奨されない。

コロイド輸液(例,ヒドロキシエチルスターチ,アルブミン,デキストラン)もまた,大出血における体液補充に効果的である。しかし,コロイド輸液は電解質輸液と比べて大きな利点はなく,ヒドロキシエチルデンプンは腎障害のリスクを高め,アルブミンは外傷性脳損傷の患者では転帰の悪化と関連付けられている。デキストランおよびヒドロキシエチルスターチはいずれも,1.5Lを超えて投与されれば,凝固に悪影響を及ぼすことがある(2)。

血液は一般的に赤血球製剤として投与され,交差適合試験を行うべきであるが,緊急事態においては,1~2単位のO型Rh陰性赤血球を代用することが許容される。1~2単位を超える量を輸血する場合(例,重度外傷において)は,血液を37℃に温めるべきである。6単位を超える輸血を受ける患者は,新鮮凍結血漿またはクリオプレシピテートによる凝固因子の補充および血小板輸血を要することがある(血液製剤も参照)。

血液代用剤はヘモグロビンを基にした,またはパーフルオロカーボンの酸素運搬液である。ヘモグロビンを基にした輸液は,腎排泄および腎毒性を制限するためにリポソームに被包された,または修飾された(例,表面の修飾または他の分子との架橋結合による)遊離ヘモグロビンを含むことがある。抗原が結合する赤血球膜が存在しないため,これらの物質は交差適合試験を行う必要がない。また,1年間を超えて保存可能であるため,保存血よりも安定した供給源となりうる。パーフルオロカーボンは,大量の酸素を運搬する静注用のフッ化炭素系乳濁液である。しかしながら,血液代用剤により生存率が改善されたことが証明されたことはまだなく,重大な有害作用(例,低血圧)を引き起こしたものもある。現在のところ,商業利用が可能な血液代用剤はない。

非出血性循環血液量減少

ショックおよび循環血液量減少時,血管内容量の補充のため通常は等張の電解質輸液が行われる。コロイド輸液は一般的には行われない。脱水があるが十分な循環血液量を保持している患者は,一般的に自由水不足であり,低張液(例,5%ブドウ糖溶液および0.45%食塩水の併用)が使用される。

輸液に関する参考文献

  1. 1.Holcomb JB, Tilley BC, Baraniuk S, et al: Transfusion of plasma, platelets, and red blood cells in a 1:1:1 vs a 1:1:2 ratio and mortality in patients with severe trauma: The PROPPR randomized clinical trial.JAMA 313(5):471-482, 2015.doi:10.1001/jama.2015.12.

  2. 2.Myburgh JA, Finfer S, Bellomo R, et al: Hydroxyethyl starch or saline for fluid resuscitation in intensive care.N Engl J Med 367(20): 1901-1911, 2012.doi: 10.1056/NEJMoa1209759.

投与経路および投与速度

口径の太い(例,14~16G)標準的な末梢静脈カテーテルはほとんどの場合,輸液蘇生(fluid resuscitation)に適している。このサイズのカテーテルでは,注入ポンプを使用すれば通常10~15分間で電解質輸液1L,20分間で赤血球製剤1単位の投与が可能である。失血のリスクのある患者に対しては,太い(例,8.5Fr)中心静脈カテーテルを用いることで,より速い速度で投与できる;加圧注入デバイスにより1単位の赤血球製剤を5分未満で注入できる。

典型的なショック患者というものは,一般に最大速度の輸液を必要とするし,最大速度の輸液に耐えられる。成人に電解質輸液1L(小児には20mL/kg)後,または出血性ショックでは5~10mL/kgのコロイド輸液製剤もしくは赤血球製剤を投与後,再評価する。例外として,心原性ショックの患者は一般に大量の輸液投与を必要としない。

血管内容量減少があるがショックを伴わない患者には,輸液速度を控えめにして(通常500mL/時)投与する。小児では水分欠乏量を計算すべきであり,補液は24時間かけて投与すべきである(最初の8時間で半分)。

エンドポイントとモニタリング

ショックにおける輸液療法の真のエンドポイントは組織灌流の最適化である。しかしながら,このパラメータは直接測定できない。代替のエンドポイントとして,末梢臓器への灌流を示す臨床的指標および前負荷の測定などがある。

末梢臓器への十分な灌流があることを示す最良の指標は,尿量が0.5~1mL/kg/時を超えることである。心拍数,精神状態,および毛細血管再充満は基礎疾患の経過に影響を受ける場合があり,マーカーとしての信頼性はより低い。代償性の血管収縮があるため,平均動脈圧(MAP)はおおよその指針にすぎない;一見正常な値にもかかわらず,臓器灌流の低下が存在することがある。動脈血中の乳酸濃度の上昇は低灌流および/または内因性カテコールアミン産生による交感神経系優位の持続を反映する可能性がある;しかしながら,蘇生が成功した後も数時間経過しないと乳酸濃度は低下しない。塩基欠乏の傾向は,蘇生が十分に行われているか否かの指標として役に立つことがある。舌下二酸化炭素測定または近赤外線分光法による皮膚組織の酸素化測定といった他の検査方法も考慮されることがある。

中心静脈圧

尿量は分刻みの指標にはならないため,重症(critically ill)患者に対する輸液蘇生を進める上での指針として,前負荷の測定が役に立つことがある。中心静脈圧(CVP)は上大静脈の平均圧で,右室拡張末期圧つまり前負荷を反映している。正常なCVPの範囲は2~7mmHg(3~9cmH2O)である。疾患または外傷の患者のCVPが3mmHg未満の場合,体液量不足と推定され,比較的安全に輸液を投与できるといって差し支えない。CVPが正常範囲内であっても体液量減少は除外できず,100~200mLのボーラス投与に対する反応を評価すべきである;輸液投与に反応してCVPが適度に上昇すれば,一般に循環血液量減少が示唆される。100mL輸液のボーラス投与に反応して3~5mmHgを超える上昇があれば,心予備能が限られていることを示唆する。CVPが12~15mmHgを超える場合,循環血液量減少が灌流低下の単独の病因とは考えにくく,輸液投与は体液量過剰を引き起こすリスクがある。

CVPは,体液量の状態または左室機能を評価する上では必ずしも信頼できないので,初期治療後に心血管系の改善がなければ,診断のためまたは輸液療法をより正確に調節するため,肺動脈カテーテル法が考慮されることがある。機械的人工換気を受けている患者では,左室充満圧の解釈に注意が必要で,10cmH2Oを超える呼気終末陽圧(PEEP)が用いられている場合,または呼吸窮迫患者で胸腔内圧が大幅に変動している場合は特に気をつけなければならない。測定は呼気終末に行い,トランスデューサーは心房の0点(心房中央の高さ)を基準とし,慎重にキャリブレーションを行う。

下大静脈および右室の超音波検査により,循環血液量の状態および心機能全般に関する情報が得られる。ただし,画像の解釈は機器の使用者に大きく依存し,弁機能障害があったり陽圧換気を使用していたりすると複雑になる可能性がある。大量輸液のガイドとして超音波検査を広く用いるためには,さらなる研究が必要である。

外傷による出血性ショック

外傷による出血性ショックの患者では,やや異なったアプローチを必要とする場合がある。実験的および臨床的エビデンスにより,蘇生によりMAPが正常または正常を上回るまで回復すると,内出血(例,内臓または血管の破裂または挫滅による)が悪化しうることが示唆されている。そのため,このような患者では,十分な脳灌流を保つのにより高い圧が必要な場合を除き,外科的に出血のコントロールが行われるまでの蘇生のエンドポイントとして収縮期血圧80~90mmHgを主張する医師もいる。

失血をコントロールした後,さらなる輸血が必要であるかどうかの指標にはヘモグロビンが用いられる。血液製剤の使用を最小限にするため,ヘモグロビン値8~9g/dL(80~90g/L)を指標とすることが提案されている。中等度の貧血に耐えられない患者(例,冠動脈または脳動脈疾患の患者)は,ヘマトクリットが30%を上回るように維持される。ヘマトクリットをさらに高くしても転帰は改善せず,血液粘稠度が上昇し,毛細血管床の灌流が障害されうる。

輸液蘇生(fluid resuscitation)の合併症

どのような種類の輸液であっても,過度に急速な投与は肺水腫急性呼吸窮迫症候群,またはコンパートメント症候群(例,腹部コンパートメント症候群,四肢コンパートメント症候群)さえも引き起こしうる。

電解質輸液製剤の投与による血液希釈はそれ自体に害はないが,輸血が必要な値に達したかどうかヘマトクリットをモニタリングしなければならない。

赤血球輸血は感染症の直接的伝播のリスクは低いものの,重症(critically ill)患者では院内感染症の率をわずかに高めるようである。採血から12日未満の血液を用いることで感染リスクを最小化できる;採血から12日未満の赤血球はより可塑性があり,微小血管系で凝集を起こす可能性が低い。大量輸血の他の合併症については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。

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