チロシン代謝異常症

執筆者:Matt Demczko, MD, Mitochondrial Medicine, Children's Hospital of Philadelphia
レビュー/改訂 2020年 4月
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    チロシンは,いくつかの神経伝達物質(例,ドパミン,ノルアドレナリン,アドレナリン),ホルモン(例,サイロキシン),およびメラニンの前駆物質となるアミノ酸であり,その代謝に関与する酵素の異常により様々な症候群が引き起こされる。

    フェニルアラニンおよびチロシンの代謝異常には数多くの疾患がある(を参照)。遺伝性代謝疾患が疑われる患者へのアプローチおよび遺伝性代謝疾患が疑われる場合の検査も参照のこと。

    表&コラム

    新生児一過性チロシン血症

    代謝酵素(特に4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ)の一過性の未成熟によりときに血漿中チロシン濃度の上昇に至ることがあり(通常は早産児で,特に高タンパク質食を与えられている場合にみられる),その代謝物がルーチンに行われるフェニルケトン尿症(PKU)の新生児スクリーニングで検出されることもある。

    乳児の大半は無症状であるが,嗜眠および哺乳不良を呈することがある。

    チロシン血症は,血漿中チロシン高値によってPKUと鑑別される。

    ほとんどの症例は自然に治癒する。症状がみられる患児には,食事でのチロシンの摂取制限(2g/kg/日)を行うとともに,ビタミンCを200~400mg,経口,1日1回で投与すべきである。

    チロシン血症I型

    この疾患は常染色体劣性形質で,チロシン代謝に重要な酵素であるフマリルアセト酢酸ヒドラーゼの欠乏に起因する。

    本疾患は,新生児期における劇症肝不全として,または乳児期後期および小児期における緩徐進行性かつ不顕性の肝炎,有痛性の末梢神経障害,および尿細管疾患(例,アニオンギャップ正常の代謝性アシドーシス低リン血症ビタミンD抵抗性くる病)として現れることがある。乳児期に合併する肝不全による死亡を免れた患児では,肝癌の発生リスクが著しく高い。

    チロシン血症I型の診断は,血漿中チロシン高値によって示唆され,遺伝子検査または,血漿中もしくは尿中サクシニルアセトン高値および血球もしくは肝生検検体におけるフマリルアセト酢酸ヒドラーゼの活性低下によって確定される。ニチシノン(NTBC)による治療は急性エピソードに効果的であり,進行を遅らせる。

    フェニルアラニンおよびチロシンの含量が低い食事が推奨される。肝移植が効果的である。

    チロシン血症II型

    このまれな常染色体劣性遺伝疾患はチロシンアミノ基転移酵素の欠損によって引き起こされる。

    チロシンの蓄積により皮膚潰瘍および角膜潰瘍を来す。無治療の場合,フェニルアラニンの二次的な濃度上昇により,軽度ではあるが精神神経異常を来すことがある。

    チロシン血症II型は,血漿中チロシンが高く,血漿または尿検体でサクシニルアセトンが検出されないことに加え,遺伝子検査によって診断される;一般に,肝生検検体を用いて酵素活性の低下を確認する必要はない。

    本疾患は,フェニルアラニンおよびチロシンの軽度から中等度の摂取制限で容易に治療できる。

    アルカプトン尿症

    このまれな常染色体劣性遺伝疾患は,ホモゲンチジン酸酸化酵素の欠損によって引き起こされ,ホモゲンチジン酸の酸化産物が皮膚に蓄積して皮膚を黒変させ,さらに関節内に結晶が析出する。

    この病態は成人で診断されるのが通常で,黒ずんだ皮膚色素沈着(組織黒変症)および関節炎が発生する。尿が空気に曝露すると,ホモゲンチジン酸の酸化生成物が生じて黒変する。アルカプトン尿症の診断は,尿中ホモゲンチジン酸の上昇を確認することによる(4~8g/24時間以上)。

    アルカプトン尿症に効果的な治療法はないが,アスコルビン酸1gの1日1回経口投与によってホモゲンチジン酸の腎排泄を増加させることにより,色素沈着を減弱できる場合がある。

    チロシナーゼの欠損は皮膚および網膜への色素沈着の欠如につながり,結果として皮膚悪性腫瘍および重大な視力障害のリスクを大幅に高める。しばしば眼振がみられ,羞明がよくみられる。

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