二分脊椎

執筆者:Stephen J. Falchek, MD, Nemours/Alfred I. duPont Hospital for Children
レビュー/改訂 2018年 12月
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二分脊椎とは,脊柱の閉鎖に欠陥が生じた状態のことである。原因は不明であるが,妊娠中の葉酸低値によりリスクが増大する。無症状の患児もいるが,病変より下位に重度の神経機能障害を呈する患児もいる。開放性二分脊椎は,超音波検査による出生前診断が可能であり,母体血清中または羊水中α-フェトプロテイン濃度の高値からも示唆される。典型例では,出生後に背部に病変を見ることができる。通常,治療法は手術である。

二分脊椎は長期生存が可能な神経管閉鎖不全の中では最も重篤なものの1つである。この障害は先天奇形全般でも頻度の高いものの1つであり,米国での発生率は約1/1500である。二分脊椎は下位胸椎,腰椎部,または仙椎部で最も多くみられ,通常は3~6個の椎体にまたがっている。重症度は様々であり,明らかな異常を欠く潜在性のものから,嚢胞が突出するもの(嚢胞性二分脊椎),完全に脊椎が開放して(脊椎披裂)重度の神経機能不全を呈し,死に至るものまである。

潜在性脊椎癒合不全(OSD)では,下背部(典型的には腰仙部)の皮膚に奇形が発生するが,具体的には,皮膚洞(底部が見えないもの,尾仙部より上位で発生するもの,正中部にみられないもの),色素沈着部,非対称の殿裂(上縁が一側に偏位している),多毛部などがある。しばしば病変下の脊髄部分にも脂肪腫や係留(この場合は脊髄に異常な付着物がみられる―二分脊椎の病型の図を参照)などの異常がみられる。

嚢胞性二分脊椎では,嚢状に突出した組織の中に髄膜(髄膜瘤),脊髄(脊髄瘤),またはその両方(脊髄髄膜瘤)が含まれていることがある。脊髄髄膜瘤では通常,嚢は中枢神経系のneural plaqueを伴う髄膜で構成されている。皮膚で十分に覆われていない場合は,嚢が破裂しやすいため,髄膜炎のリスクが高くなる。

二分脊椎の病型

潜在性脊椎癒合不全では,単一または複数の椎体が正常に形成されず,脊髄および髄膜も障害される。嚢胞性二分脊椎では,嚢状に突出した組織の中に髄膜(髄膜瘤),脊髄(脊髄瘤),またはその両方(脊髄髄膜瘤)が含まれていることがある。

多くの患児にキアリII型奇形がみられるため,水頭症の頻度が高い。

脊髄空洞症(正常では小さく液体で満たされている脊髄中心管が拡大した状態)と,その他の先天奇形および脊髄周囲の軟部組織腫瘤がみられることがある。

病因

二分脊椎の原因は多因子性とみられている。葉酸の欠乏が有意な因子であり,遺伝性の要素もあると考えられる。その他の危険因子としては,母親による特定の薬剤の使用(例,バルプロ酸)や母体糖尿病などがある。

症状と徴候

欠損口が小さい患児の多くは無症状である。

神経系

脊髄または腰仙部神経根が侵されている場合は,通常の場合と同様,病変より下位にある全ての筋に様々な程度の麻痺と感覚障害が生じる。直腸の緊張は通常低下している。

水頭症によって,頭蓋内圧亢進症の軽微な症候が生じることがある。脳幹が障害された場合には,吸気性喘鳴,嚥下困難,間欠的な無呼吸などの臨床像を呈することがある。

筋骨格系

筋の神経支配が欠如すると,下肢の萎縮が生じる。胎児期から麻痺が発生するため,出生時から整形外科的問題(例,内反足下肢の関節拘縮症股関節脱臼)が認められることがある。

ときに脊柱後弯症がみられ,外科的閉鎖が困難になったり,仰臥位が取れなくなったりすることがある。脊柱側弯症が後から発生することがあり,高位(L3以上)病変のある患児でよくみられる。

泌尿器系

麻痺により膀胱機能も障害され,ときに神経因性膀胱やその結果として尿逆流が生じるが,これにより水腎症や頻回の尿路感染症,さらに最終的には腎損傷を来すことがある。

診断

  • 超音波検査またはMRI

潜在性脊椎癒合不全の患児では超音波検査またはMRIによる脊髄の画像検査が不可欠であり,わずかな皮膚所見しかない患児でも,基礎に脊椎の異常が存在する可能性がある(明らかな異常がある患児では,解剖が判明しているため脊髄画像検査は必要ない)。脊椎,股関節,および(奇形がある場合は)下肢の単純X線撮影を施行する。水頭症および脊髄空洞症を検索するため,超音波検査,CT,またはMRIによる頭部画像検査を行う。

二分脊椎の診断後は泌尿器系の評価が必須であり,尿検査,尿培養,BUNおよびクレアチニン測定,超音波検査などを行う。尿が尿道に流出する際の膀胱容量および膀胱圧を測定することにより,予後の推定と介入の決定が可能となる。それまでの所見と合併奇形によっては,尿流動態検査や排尿時膀胱尿道造影などの追加検査が必要となる。

スクリーニング

胎児超音波検査と理想的には妊娠16~18週時点での母体血清α-フェトプロテイン濃度(神経管閉鎖不全に対する母体血清スクリーニングを参照)の測定により出生前スクリーニングを行うことができる;過去の検査でリスクの増大が示唆されていた場合は,羊水検体での測定も可能である。測定値の上昇は,嚢胞性二分脊椎のリスク増大を示唆する(潜在性脊椎癒合不全では上昇はまれである)。

予後

予後は侵された脊髄のレベルと合併奇形の数および重症度によって変化する。高位脊髄(例,胸髄)に病変がある患者と,脊柱後弯症,水頭症,早期の水腎症,および他の先天奇形がみられる患者では,予後は比較的不良である。しかしながら,適切な治療により大半の患児が良好に経過する。通常,年長の小児における死因は腎機能低下と脳室シャント術の合併症である。

治療

  • 脊髄病変の外科的修復

  • ときに脳室シャント術

  • 筋骨格系および泌尿器系の合併症に対する様々な処置

潜在性脊椎癒合不全で早期に外科的治療を行わない場合には,神経損傷が進行する可能性がある。全ての二分脊椎の治療には複数の専門科の協力が必要であり,脳神経外科,泌尿器科,整形外科,小児科,精神科/心理士,ソーシャルサービスなどの各方面から評価を行うことが重要である。病型,脊椎分節,病変の範囲,患児の健康状態,および合併奇形について評価することが重要である。家族との話合いにより,家族の力,希望,および資源ならびに社会的資源(継続的ケアの利用可能性など)について確認しておくべきである。

出生時に同定された脊髄髄膜瘤は,滅菌包帯で直接覆うようにする。脊髄髄膜瘤から髄液が漏出している場合は,髄膜炎を予防するために抗菌薬を開始する。脊髄髄膜瘤または脊椎披裂には,髄膜または脳室感染のリスクを低減するため,典型例では脳神経外科手術による修復を生後72時間以内に行う。病変が大きいか位置的に困難な場合は,十分な閉鎖を確実に得るために形成外科医へのコンサルテーションを行ってもよい。

水頭症には,新生児期にシャント術が必要になることがあり(水頭症の治療を参照),ときに背部の修復時に脳室シャントを挿入する。

注意深い腎機能のモニタリングが必要であり,尿路感染症は速やかに治療すべきである。膀胱出口部または尿管レベルでの閉塞性尿路疾患には,感染予防のために精力的な治療が必要となる。2~3歳の間,または膀胱尿管逆流を伴い膀胱内圧が上昇している場合はいつでも,清潔操作にて間欠的導尿を行い,定期的に膀胱を空にする。導尿により失禁が予防され,膀胱および腎臓の健康状態が維持される。

ほぼ同時に,食後に室内便器またはトイレに座らせて排便を促す。バランスのとれた食事を勧める;便軟化剤,緩下薬,またはその併用は,規則的な排便を促し,失禁を予防するのに役立つ(便失禁の治療を参照)。より年長の小児では,順行性洗腸(腹壁から結腸につながる瘻孔を通して液体を注入する)によって禁制が改善する可能性がある。この瘻孔はチューブ(例,胃瘻チューブ)により開存が維持される。

整形外科的治療は早期に開始すべきである。内反足がある場合はギブスを適用し,ギブス固定後にしばしば手術が必要となる。脱臼について股関節の検査も行う。さらに脊柱側弯症,病的骨折,褥瘡,筋力低下,および筋攣縮の発生について,モニタリングを行うべきである。

予防

受胎3カ月前から第1トリメスターまでの母体への葉酸補充(400~800µg,経口,1日1回)により,神経管閉鎖不全のリスクを低減することができる(神経系の先天異常の予防を参照)。

神経管閉鎖不全のリスクが高いと考えられる女性,すなわち神経管閉鎖不全の胎児または乳児を妊娠・出産した経験がある女性は,葉酸4mg(4000µg),経口,1日1回の補充を行うべきである。

要点

  • 二分脊椎は脊柱管の閉鎖不全が関与する病態で,ときに嚢状に突出した組織の中に髄膜(髄膜瘤),脊髄(脊髄瘤),またはその両方(脊髄髄膜瘤)が含まれていることがある。

  • しばしば水頭症を引き起こすキアリII型がよくみられる。

  • 葉酸欠乏は有意な危険因子であるが,その他の因子として,母体による特定の薬剤(例,バルプロ酸)の使用,母体糖尿病,ときに遺伝的要素なども挙げられる。

  • 異常が軽微な患児は無症状であるが,それ以外の場合は,典型的には病変より下位に様々な程度の麻痺および感覚障害が生じる。

  • 筋の神経支配が欠如すると,下肢の萎縮や骨格変形が生じる。

  • 胎児超音波検査および母体血清α-フェトプロテイン値により出生前スクリーニングを行う。

  • 脊椎病変を修復し,症候性水頭症にはシャントを設置し,必要に応じて筋骨格系および泌尿器系の異常を治療する。

  • 葉酸補充によりリスクを低減する。

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