脆弱X症候群

執筆者:Nina N. Powell-Hamilton, MD, Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University
レビュー/改訂 2020年 6月
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脆弱X症候群は,知的障害と行動障害につながるX染色体の遺伝学的異常である。診断は分子生物学的なDNA分析による。治療は対症療法である。

脆弱X症候群は知的障害の原因として最も頻度の高い病態であり,女児より男児で多くみられる。(男性における知的障害の原因で最も頻度が高いのはダウン症候群であり,これは遺伝学的異常の1つではあるが,ほとんどが散発例であり,遺伝により生じるものではない。)詳細な情報については,National Fragile X Foundationを参照のこと。

脆弱X症候群の症状は,X染色体上のFMR1遺伝子の異常によって引き起こされる。その異常とは不安定なトリプレットリピートの伸長であり,健常者ではCGGリピート数が54未満であるが,脆弱X症候群の個人では200を超える。CGGリピート数が55~200の個人は,前変異を有すると考えられ,その理由は,リピート数が増加すると,さらなる突然変異によって次世代で200を超えるリピートが起こる確率が上昇するためである。

脆弱X症候群は男性の約1/4000,女性の1/8000にみられる。前変異の方がより頻度が高い。典型的には女性の方が男性より障害の程度が低い。脆弱X症候群はX連鎖性の遺伝形式をとり,女性では常に臨床症状を引き起こすとは限らない。

かつては,核型の観察においてX染色体長腕末端部に圧縮があり,それに続いて細い糸状の遺伝物質が認められたことから,この症候群は染色体異常症の1つと考えられていた。しかしながら,この構造異常は現在の細胞遺伝学的方法を用いた場合には現れないことから,現在では脆弱X症候群は単一遺伝子疾患であって,染色体異常症ではないと考えられている。

症状と徴候

脆弱X症候群の個人では,身体的異常,認知障害,および行動異常がみられる。典型的な特徴として,突出した大きな耳,突出した顎と前額部,高口蓋,思春期以降の男児では大きな精巣などがある。関節が過伸展を呈することや,心疾患(僧帽弁逸脱症)が発症することもある。

認知機能の異常として,軽度から中等度の知的障害がみられる。固執的な発語および行動,アイコンタクト不良,社交不安など,自閉症の特徴がみられることがある。

前変異を有する女性では,早期卵巣不全がみられ,ときに30代中頃で閉経が起きる。FMR1前変異を有する男女は,脆弱X関連振戦/失調症候群(FXTAS)のリスクがあり,この疾患は歩行異常,企図振戦,後の知的障害,および精神医学的問題を伴う。

診断

  • DNA検査

脆弱X症候群は,顕著な家族歴がない限り,症状の重症度によっては学齢期または青年期まで疑われないことも多い。自閉症知的障害がある男児には,脆弱X症候群の検査を行うべきであり,特に母方に同様の疾患を有する近親者がいる場合には必要である。CGGリピート数の増加を検出するため,分子生物学的なDNA分析を行う。

次世代シークエンシング技術も参照のこと。)

治療

  • 支持療法

言語療法や作業療法などによる早期介入は,脆弱X症候群患児の能力を最大限に高める助けとなりうる。

一部の患児には精神刺激薬,抗うつ薬,および抗不安薬が有益である。

より詳細な情報

以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. National Fragile X Foundation: Provides advocacy, education, support, and public and professional awareness programs and services

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