Msd マニュアル

Please confirm that you are a health care professional

honeypot link

斜視

執筆者:

Leila M. Khazaeni

, MD, Loma Linda University School of Medicine

レビュー/改訂 2020年 6月
ここをクリックすると、 家庭版の同じトピックのページに移動します
本ページのリソース

斜視とは眼位の異常で,正常では平行になる注視時の視線に偏位が生じたものである。診断は,角膜光反射の観察や遮閉試験の実施など,臨床的に行う。治療には,眼帯および矯正レンズの装用による視力障害の是正,矯正レンズによる眼位矯正,外科的修復などがある。

分類

偏位の方向,偏位発生下の特異的な条件,および偏位が恒常性か間欠性かといったことに基づいて,斜視の種類がいくつか報告されている。この種類について記載するには,いくつかの用語を定義する必要がある:

  • 内(eso-):鼻側偏位

  • 外(exo-):耳側偏位

  • 上(hyper-):上方偏位

  • 下(hypo-):下方偏位

斜視(tropia)とは,両眼を開いた(つまり両眼視)状態で検出できる顕性の偏位である。斜視には恒常性のものも間欠性のものもあり,片眼性のものも両眼性のものもある。

斜位(phoria)とは,片眼を遮閉し単眼視の状態でのみ検出できる潜伏性の偏位である。脳が外眼筋により軽微な眼位異常を修正するため,斜位における偏位は潜伏性である。

共同性斜視では,どの方向を固視しても眼位異常の程度や角度が一定である。

非共同性斜視では,固視の方向によって眼位異常の程度や角度が変化する。

斜視における眼球偏位

両眼性斜視;ここでは左眼を示している。偏位方向は接頭辞の内(eso)-,外(exo)-,上(hyper)-,下(hypo)-で表す。偏位が視認可能な場合,接尾辞の-斜視(tropia)および-斜位(phoria)で表す。

斜視における眼球偏位

病因

ほとんどの斜視は以下によって起こる:

  • 屈折異常

  • 筋不均衡

斜視には乳児性のものも後天性のものもある。乳児性という用語(先天性ではなく)の方が好まれるが,これは出生時の真性斜視の存在はまれであり,乳児性という用語であれば生後6カ月以内に発症するものも含まれるためである。後天性という用語は,生後6カ月を過ぎてから発症するものを意味している。

乳児斜視の危険因子としては,家族歴(第1度または第2度近親者),遺伝性疾患(ダウン症候群 ダウン症候群(21トリソミー) ダウン症候群は21番染色体の異常であり, 知的障害,小頭症,低身長,および特徴的顔貌を引き起こす。診断は身体奇形と発達異常から示唆され,細胞遺伝学的検査によって確定される。管理方針は具体的な臨床像および奇形に応じて異なる。 ( 染色体異常症の概要も参照のこと。) 出生児における全体の発生率は約1/700であり,母体年齢が上がるにつれてリスクが徐々に増大する。母体年齢別の出生児におけるリスクは,20歳で1/2000,35歳で1/365,4... さらに読む ダウン症候群(21トリソミー) およびCrouzon症候群), 出生前の薬物曝露 出生前の薬物曝露 アルコールおよび違法薬物は,胎盤と発育中の胎児に有毒であり,先天性症候群や離脱症状を引き起こす可能性がある。処方薬も胎児に対する有害作用を有する可能性がある( Professional.see table 妊娠中に有害作用を示す主な薬物)。 胎児性アルコール症候群および 胎児への喫煙の影響は別の章で考察している。 子宮内で薬物に曝露した胎児(fetuses exposed to... さらに読む (アルコールを含む), 未熟性 早産児 在胎37週未満で出生した児は早産児とみなされる。 未熟性は出生時点での 在胎期間により定義される。かつては,体重2.5kg未満の新生児であればいずれも未熟児と呼ばれていた。早産児は小さい傾向にあるが,多くの体重2.5kg未満の乳児は成熟している場合や 過期産児および過熟児である場合,および 在胎不当過小である場合もあるため,この体重に基づいた定義は不適切である;このような新生児は外観も異なれば,抱える問題も異なる。... さらに読む または低出生体重, 先天性の眼異常 眼の先天異常 出生時から眼の欠損,変形,または不完全な発育がみられることがある。 ( 頭蓋顔面部および筋骨格系の先天異常に関する序論ならびに 先天性頭蓋顔面異常の概要も参照のこと。) 眼間開離は,両眼の間隔が広い状態であり,瞳孔間距離の延長によって定義され,前頭鼻異形成(正中顔面裂と脳奇形を伴う),頭蓋前頭鼻異形成( 頭蓋縫合早期癒合症を伴う),Aarskog症候群(四肢および性器奇形を伴う)など,いくつかの先天性症候群でみられる。... さらに読む 眼の先天異常 脳性麻痺 脳性麻痺症候群 脳性麻痺は,出生前の発育異常または周産期もしくは出生後の中枢神経系損傷に起因する,随意運動または姿勢制御の障害を特徴とする非進行性の症候群である。症状は2歳までに出現する。診断は臨床的に行う。治療法としては,理学療法,作業療法,装具,薬物療法またはボツリヌス毒素の注入,整形外科手術,バクロフェンの髄腔内投与,特定の症例における脊髄後根切断... さらに読む などがある。

後天性斜視は,急速に発現することも,徐々に発現することもある。後天性斜視の原因には, 屈折異常 屈折異常の概要 正視(正常な屈折)眼では,入射光は角膜および水晶体により網膜上に焦点を結び,鮮明な像が形成されて脳へ送られる。水晶体には弾性があり,若年者ほど弾性が強い。調節中は,像の焦点を正しく合わせるために毛様体筋が水晶体の形を調整する。屈折異常では,網膜上に鮮明な像を結ぶことができず,霧視を生じる(... さらに読む (高度遠視),腫瘍(例, 網膜芽細胞腫 網膜芽細胞腫 網膜芽細胞腫は,未熟な網膜から発生するがんである。症状および徴候には,白色瞳孔(瞳孔の白色反射)や斜視のほか,頻度は下がるが炎症や視覚障害などもある。診断は検眼鏡検査,および超音波検査,CTまたはMRIに基づく。小さながんまたは両眼性の場合の治療には,光凝固術,凍結療法,放射線療法がある。進行がんおよび一部の比較的大きいがんでは眼球摘出術を行う。がんの体積を減少させるため,また眼球外に進展したがんの治療のために,ときに化学療法が用いられ... さらに読む 網膜芽細胞腫 ),頭部外傷,神経疾患(例,脳性麻痺; 二分脊椎 二分脊椎 二分脊椎とは,脊柱の閉鎖に欠陥が生じた状態のことである。原因は不明であるが,妊娠中の葉酸低値によりリスクが増大する。無症状の患児もいるが,病変より下位に重度の神経機能障害を呈する患児もいる。開放性二分脊椎は,超音波検査による出生前診断が可能であり,母体血清中または羊水中α-フェトプロテイン濃度の高値からも示唆される。典型例では,出生後に背部に病変を見ることができる。通常,治療法は手術である。... さらに読む 第3脳神経 第3脳(動眼)神経の疾患 第3脳神経の疾患では,眼球運動,瞳孔機能,またはその両方が障害される。症状と徴候には,複視や眼瞼下垂,眼球内転,上方視,および下方視の麻痺などがある。瞳孔が侵されていれば,散瞳し,対光反射が障害される。瞳孔が侵されていて,反応がますます低下している場合は,可及的速やかに神経画像検査を施行してテント切痕ヘルニアの有無を確認する。 ( 神経眼科疾患および脳神経の疾患の概要も参照のこと。)... さらに読む 第4脳神経 第4脳(滑車)神経麻痺 第4脳神経麻痺は上斜筋を障害し,垂直注視麻痺(主に内転時)を引き起こす。 ( 神経眼科疾患および脳神経の疾患の概要も参照のこと。) 第4脳神経(滑車神経)麻痺はしばしば特発性である。同定されている原因は少ない。原因としては以下のものがある: 閉鎖性頭部損傷(一般的な原因であり,一側性または両側性の麻痺を引き起こす可能性がある) 小血管病による梗塞(例,糖尿病) さらに読む ,または 第6脳神経麻痺 第6脳(外転)神経麻痺 第6脳神経麻痺は外直筋を障害し,眼球外転を妨げる。患者が正面を見たとき,眼球はやや内転していることがある。麻痺は,神経梗塞,ウェルニッケ脳症,外傷,感染症,または頭蓋内圧亢進に続発することもあれば,特発性のこともある。原因の診断にはMRIならびに,しばしば腰椎穿刺および血管炎の評価を要する。 ( 神経眼科疾患および脳神経の疾患の概要も参照のこと。) 第6脳(外転)神経麻痺は以下に起因する:... さらに読む ),ウイルス感染(例, 脳炎 脳炎 脳炎は脳実質の炎症であり,ウイルスの直接侵襲に起因する。急性散在性脳脊髄炎は,ウイルスまたはその他の外来タンパク質に対する過敏反応によって脳および脊髄に炎症が生じる病態である。どちらの病態も通常はウイルスが誘因となる。症状としては,発熱,頭痛,精神状態変容などがあり,しばしば痙攣発作や局所神経脱落症状もみられる。診断には髄液検査と神経画像検査を要する。治療は支持療法のほか,原因によっては抗ウイルス薬を使用する。... さらに読む 髄膜炎 ウイルス性髄膜炎 ウイルス性髄膜炎は,急性細菌性髄膜炎より軽症となりやすい傾向がある。所見には,頭痛,発熱,項部硬直などがある。診断は髄液検査による。治療は,支持療法,単純ヘルペスの疑い例に対するアシクロビル,およびHIV感染症の疑い例に対する抗レトロウイルス薬による。 ( 髄膜炎の概要も参照のこと。) ウイルス性髄膜炎はときに無菌性髄膜炎と同義で用いられることがある。しかしながら,無菌性髄膜炎は通常,細菌(典型的には急性細菌性髄膜炎を引き起こす)以外の... さらに読む ),後天性の眼異常などがある。偏位の種類によって特異的な原因は異なる。

内斜視は一般に乳児性である。乳児内斜視は,融像の異常が原因として疑われるものの,特発性とされている。調節性内斜視は,後天性内斜視で頻度の高いもので,2~4歳の間に発現し,遠視と関連する。感覚性内斜視は,重度の視力障害(白内障,視神経異常,または腫瘍などの疾患に起因するもの)によって,眼位を維持しようとする脳の働きが干渉を受ける場合に発生する。

下斜視には制限性のものがあり,眼球運動への神経学的干渉ではなく,眼球の機械的な最大可動域の制限によって発生する。例えば,眼窩底または眼窩壁の吹き抜け骨折が原因で制限性の下斜視が起こる。頻度は低いものの, バセドウ眼症 乳児および小児における甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンの欠乏である。乳児の症状としては,哺乳不良や発育不全などがある;児童および青年の症状は成人の症状と類似するが,それらに加えて発育不全,思春期遅発,またはこの両方もみられる。診断は甲状腺機能の検査(例,血清サイロキシン,甲状腺刺激ホルモン)による。治療は甲状腺ホルモンの補充による。 ( 甲状腺機能の概要も参照のこと。) 乳児および幼児における甲状腺機能低下症は,先天性または後天性の場合がある。... さらに読む (甲状腺眼症)によって制限性の下斜視が発生することがある。その他のまれな原因として,第3脳神経麻痺およびBrown症候群(先天性または後天性の上斜筋腱の緊張および運動制限)がある。

症状と徴候

重度でない限り,斜位による症状はめったにみられない。斜位による症状がある場合は,典型的に眼精疲労がみられる。

斜視はときに症状を引き起こす。例えば,眼位異常に起因する脳における結像困難の代償および複視の減弱のために,斜頸が発生することがある。斜視患児にも正常で左右均等の視力を有する児もいる;しかし,混同および複視を回避するために偏位眼の像に皮質からの抑制が働く結果,斜視とともに高頻度で弱視となる。

診断

  • 小児健診時の身体診察および神経学的診察

  • 検査(例,角膜光反射試験,交互遮閉試験,遮閉-遮閉除去試験)

  • プリズム

斜視は小児健診における病歴聴取および眼科診察の際に発見されることがある。評価時には,弱視または斜視の家族歴について質問し,家族または養育者が注視の偏位に気づいている場合は,偏位が始まった時期,どのようなときにどのくらいの頻度で偏位が現れるか,固視する際に一方の眼のみを使用する傾向がないかについても質問すべきである。身体診察には視力,瞳孔反応,および外眼筋運動の程度についての評価を含めるべきである。白内障の徴候を検出するために細隙灯顕微鏡検査を施行し,構造異常の徴候や網膜芽細胞腫などの疾患の病変の徴候を検出するために眼底検査を実施する。神経学的診察(特に脳神経の検査)が重要である。

角膜光反射検査は良好なスクリーニング検査であるが,小さな偏位の検出に対する感度が特に高いわけではない。被験児に光を見せながらその瞳孔からの反射光(反射像)を観察する;正常であれば,反射像は左右対称に観察される(すなわち,各眼瞳孔上の同じ位置にくる)。外斜視眼では光の反射像が瞳孔中心よりも鼻側に寄り,一方の内斜視眼では反射像が瞳孔中心よりも耳側に寄る。熟練した人が操作する視力スクリーニング機器がリスクのある小児を同定するために用いられつつある。

遮閉試験を実施する場合は,まず被験児に1つの物体を固視するよう指示する。それから片眼の動きを観察しながら他眼を遮閉する。このとき眼位が正常であれば動きは全く検出されないが,それまで物体を固視していた方の眼が遮閉される毎に,遮閉されていない方の眼が固視達成のために移動する場合には,顕性斜視が存在する。この検査を対眼に対しても繰り返す。

遮閉試験のバリエーションである交互遮閉除去試験では,患児に1つの物体を固視するように指示し,その間に検者は遮閉と遮閉除去を右眼から左眼,その逆へと交互に行っていく。潜伏性斜視のある眼は,遮閉が除去されるときに眼位が変化する。外斜視では,遮蔽が除去されるときに遮閉されていた方の眼が固視のために内側に移動する;内斜視では,遮蔽が除去されるときに固視のために外側に移動する。偏位の測定を可能にするものとして,偏位眼が固視のために移動する必要がないようにプリズムを配置する方法がある。ここで偏位を引き起こさなかったプリズムの度数により,偏位の程度が定量でき,さらに視軸のずれの強度も測定可能になる。測定単位として眼科医が使用しているのが,プリズムジオプトリである。1プリズムジオプトリとは,1mの位置における1cmの視軸偏位である。

斜視は偽斜視と鑑別すべきであり,偽斜視とは,両眼とも良好な視力をもつが鼻梁が幅広いまたは内眼角贅皮が大きいため,側面からみた際に鼻側の白目部分の大半が覆い隠される小児にみられる内斜視の所見である。偽斜視の小児では角膜光反射試験および遮閉試験が正常である。

後天性脳神経麻痺の原因を同定するため,神経画像検査が必要な場合がある。また,特定の眼奇形には遺伝学的評価が有益なことがある。

予後

いずれ回復するとの憶測で,斜視を無視してはならない。斜視およびそれに伴う弱視が4~6歳までに治療されない場合,永続的な視力障害を来しうる;それより後に治療された小児はある程度治療に反応するが,視覚系成熟(典型的に8歳まで)後はほとんど反応しない。そのため,全ての小児は就学前に正式な視覚スクリーニングを受けるべきである。

治療

  • 合併する弱視に対する眼帯またはアトロピン点眼

  • コンタクトレンズまたは眼鏡(屈折異常の場合)

  • 視能訓練(輻輳不全のみの場合)

  • 手術による眼位矯正

斜視の治療の目標は,視力の均等化およびその後の眼位矯正である。 弱視の小児の治療 治療 弱視とは,視力発達過程における眼の不使用によって引き起こされる機能的な視力低下のことである。弱視の発見および治療が8歳までになされない場合,患眼の重度の視力障害に至ることがある。他に病因がなく,最大矯正視力に左右差が検出された場合に診断される。治療は原因に応じて異なる。 弱視は小児の約2~3%に発生し,通常は2歳未満で始まるが,約8歳未満... さらに読む では,弱視眼を視覚的優位とするために,視力のよい方の眼への眼帯装着またはアトロピン点眼などにより弱視眼の使用を促進する対策が必要である;弱視眼の視力改善は,両眼視の発達と術後の安定性について,より良好な予後をもたらす。しかしながら,眼帯では斜視の治療にならない。特に調節性内斜視の患児で,融像を妨げるほどに屈折異常が強度の場合は,ときに眼鏡またはコンタクトレンズが使用される。輻輳不全を伴う間欠性外斜視の矯正に視能訓練が助けになる。

一般に外科的修復は,手術以外の方法では十分な眼位矯正が達成できない場合に行われる。外科的修復は弛緩(後転)および引締(短縮)の手技で構成され,ほとんどの場合に水平直筋が含まれるほか,ほとんどの場合に両側に対して行われる。外科的修復は典型的には外来で実施される。眼位矯正の成功率は80%を超えることがある。最も頻度の高い合併症は,過剰矯正または矯正不足,および後年の斜視再発である。まれな合併症としては,感染症,過度の出血,視力障害などがある。

要点

  • 斜視とは眼位の異常である;小児の約3%に起こり,その約半数が一定の視力低下(弱視)を来す。

  • ほとんどの症例は屈折異常または筋力低下によって起こるが,ときに重篤な疾患(例,網膜芽細胞腫,脳神経麻痺)が関与している。

  • 斜視およびそれに伴う弱視が4~6歳までに治療されない場合,永続的な視力障害を来しうる;8歳を過ぎると,視覚系は治療に反応しないことが多い。

  • 身体診察によりほとんどの斜視を発見できる。

  • 治療は原因により異なるが,外眼筋手術がときに必要である。

ここをクリックすると、 家庭版の同じトピックのページに移動します
家庭版を見る
quiz link

Test your knowledge

Take a Quiz! 
ANDROID iOS
ANDROID iOS
ANDROID iOS
TOP