小児の聴覚障害

執筆者:Udayan K. Shah, MD, Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University
レビュー/改訂 2020年 9月
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難聴の一般的な原因は,新生児では遺伝子異常,小児では耳の感染症および耳垢である。多くの症例がスクリーニングにより検出されるが,小児が音に反応しない場合または言語発達の遅滞がみられる場合は,難聴を疑うべきである。診断は通常,新生児では電気診断検査(誘発耳音響放射検査および聴性脳幹反応)により,小児では診察およびティンパノメトリーによる。不可逆的な難聴に対する治療として,補聴器または人工内耳などがある。

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米国では,スクリーニングを受けた乳児1000例当たり1.1例で永続的な難聴が発見される。平均では,小児の1.9%が「聴覚の問題」を報告している。聴覚障害は女児より男児でわずかに頻度が高く,平均の男女比は1.24:1である。

病因

新生児

新生児における難聴の最も一般的な原因は次のものである:

先天性CMV感染症は,米国で最も一般的な子宮内感染症である。CMV感染症は,出生時のすべての感音難聴の原因の21%を占めると考えられる。さらに,CMV感染は遅発性に難聴を引き起こすこともあるため,CMVは4歳時点で存在する感音難聴の原因の25%にものぼると考えられる。

表&コラム

新生児における難聴の危険因子として以下のものがある:

乳児および小児

乳児および小児で最も一般的な原因は以下のものである:

より年長の小児における他の原因として,頭部損傷,大きな音(大音響の音楽など),聴器毒性のある薬剤の使用(例,アミノグリコシド系,サイアザイド系薬剤),ウイルス感染症(例,流行性耳下腺炎),聴神経を侵す腫瘍または損傷,外耳道異物,およびまれに自己免疫疾患などがある。

小児における難聴の危険因子には,新生児における危険因子に加えて以下のものがある:

病因論に関する参考文献

  1. 1.Goderis J, De Leenheer E, Smets K, et al: Hearing loss and congenital CMV infection: A systematic review.Pediatrics 134(5):972–982, 2014.doi: 10.1542/peds.2014-1173

症状と徴候

難聴が高度の場合,乳児または小児は音に反応しないことがあるか,または発語もしくは言語理解が遅延することがある。難聴の重症度が比較的軽い場合,話しかけてくる人を断続的に無視することがある。患児は特定の状況では良好に発達しているように見えることがあるが,他の状況では問題がみられる場合がある。例えば,教室の背景雑音によって語音の弁別が困難になるため,学校でのみ聴力の問題を有することがある。

障害が認識されず治療されない場合,言語理解および発語が重篤に障害されうる。この障害によって,学校生活がうまくいかない(failure in school),友人によるからかい,社会的孤立,および情緒的な問題が生じうる。

診断

  • 電気診断検査(新生児)

  • 診察およびティンパノメトリー(小児)

生後3カ月前の乳児全例のスクリーニングがしばしば推奨され,ほとんどの州で法的に義務づけられている(1)。最初のスクリーニングは,手持ち式の機器から生じる微弱なクリック音を用いる誘発耳音響放射検査である。結果が異常または不明確な場合,聴性脳幹反応を検査する(睡眠中に行える);異常な結果は,1カ月後に再検査により確認すべきである。遺伝的原因が疑われる場合,遺伝子検査が可能である。

小児では他の方法も使用できる。言語発達および全般的発達を臨床的に評価する。耳を診察し,中耳滲出液をスクリーニングするため,様々な周波数に対する鼓膜の動きを検査する。生後6カ月から2歳までの小児では,音に対する反応を検査する。2歳以上の小児では,音声による単純な指示に従う能力を評価することができ,同様にイヤホンを用いて音に対する反応も評価できる。聞こえているが理解していないと思われるような神経認知障害がなければ,7歳以上の小児には聴性脳幹反応の評価を用いることができる。

病因を同定し予後の予測に役立てるため,画像検査がしばしば適応となる。神経学的診察が異常である場合,単語認識が不良である場合,および/または難聴が非対称性である場合などのほとんどの症例でガドリニウム造影MRIを行う。骨の異常が疑われる場合,CTを行う。

診断に関する参考文献

  1. 1.US Preventive Services Task Force: Universal screening for hearing loss in newborns: US Preventive Services Task Force recommendation statement.Pediatrics 122(1):143–148, 2008.doi: 10.1542/peds.2007-2210

治療

  • 不可逆的な難聴に対し補聴器または人工内耳

  • ときに非聴覚的な言語の教育

可逆的な原因および異常を治療する。

難聴が不可逆的な場合,通常は補聴器を使用できる。小児だけでなく乳児でも利用可能である。難聴が軽度または中等度であるか,片側のみである場合は,補聴器またはイヤホンを使用しうる。教室では,FM聴覚訓練器を使用できる。FM聴覚訓練器では,教師がマイクロホン(健側耳の補聴器に信号を送る)に向かって話す。

補聴器で管理できないほど難聴が重症である場合,人工内耳が必要になることがある。視覚に基づいた手話の教育など,言語発達を支援する治療も必要なことがある。

人工内耳(小児)
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人工内耳は,耳の後ろに装着するサウンドプロセッサから成り,これが頭皮に装着した送信機(円形)へ音声信号を送る。送信機は内耳の蝸牛に埋め込まれた電極に情報を送る。内耳から電気パルスが脳へと送られ,使用者が聞こえるようになる。
DR P. MARAZZI/SCIENCE PHOTO LIBRARY

要点

  • 難聴の一般的な原因は,新生児ではサイトメガロウイルス感染または遺伝子異常であり,乳児およびより年長の小児では耳垢堆積および中耳滲出液である。

  • 音に対する反応,または発語および言語の発達が異常である場合,難聴を疑う。

  • 乳児を難聴についてスクリーニングする(誘発耳音響放射検査から開始する)。

  • 診察およびティンパノメトリーの結果に基づいて診断する。

  • 必要に応じて,補聴器または人工内耳,および言語サポート(例,手話教育)により不可逆的な難聴を治療する。

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