ウィルムス腫瘍

(ウィルムス腫瘍;腎芽腫)

執筆者:Renee Gresh, DO, Nemours A.I. duPont Hospital for Children
レビュー/改訂 2019年 7月
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ウィルムス腫瘍とは,腎芽,間質,上皮の各成分で構成される腎臓の胎児性がんである。遺伝子異常が発生機序に関与するとみられているが,家系内の遺伝は症例のわずか1~2%を占めるに過ぎない。診断は超音波検査,腹部CT,またはMRIにより行われる。治療には外科的切除,化学療法,放射線療法が含まれる。

ウィルムス腫瘍は通常5歳未満の小児にみられるが,ときにより年長の小児にも,まれに成人にも発生する。ウィルムス腫瘍は,15歳未満の小児におけるがんの約6%を占める。同時性かつ両側性の腫瘍が症例の約5%にみられる。

一部の症例でWT1(ウィルムス腫瘍抑制遺伝子の1つ)の染色体欠失が同定されている。その他の関連性のある遺伝子異常としては,WT2(第2のウィルムス腫瘍抑制遺伝子)の欠失,16qおよび1pのヘテロ接合性の消失,WTX遺伝子の不活化などが挙げられる。

症例の約10%で他の先天異常,特に泌尿生殖器異常を認めるが,半身肥大(体が非対称)もみられる。WAGR症候群は,ウィルムス腫瘍(WT1欠失を伴うもの),虹彩欠損,泌尿生殖器奇形(例,腎低形成,嚢胞性疾患,尿道下裂,停留精巣),および知的障害が合併したものである。

症状と徴候

最も多くみられる所見は無痛性の触知可能な腹部腫瘤である。頻度の低い所見には腹痛,血尿,発熱,食欲不振,悪心,嘔吐などがある。血尿は顕微鏡的なこともあれば,肉眼的なこともある。高血圧が生じることがあり,その重症度は様々である。

診断

  • 腹部の超音波検査,CT,またはMRI

腹部超音波検査により腫瘤が嚢胞性か充実性か,および腎静脈あるいは大静脈に浸潤しているかどうかを判定する。腹部CTまたはMRIは,腫瘍の大きさおよび所属リンパ節,対側腎,または肝臓への転移の判定のために必要となる。肺転移の検索のため,初期の診断時に胸部CTが推奨される。

ウィルムス腫瘍の診断は典型的には画像検査の結果に基づいて推定的に行うため,診断時にほとんどの患者で生検ではなく,腎摘出術が施行される。生検を行うと腫瘍細胞が腹腔内に散布されるリスクがあり,それによりがんが播種して,比較的進行度の低い状態(限局例)からより強力な治療を要する状態(進行例)に変化するため,生検は行われない。

手術中に,病理学的および外科的病期診断用に所属リンパ節を切除する(米国国立がん研究所[National Cancer Institute]のStages of Wilms Tumorを参照)。

予後

ウィルムス腫瘍の予後は以下に依存する:

  • 組織型(予後良好型または予後不良型)

  • 診断時の病期

  • 患児の年齢(年齢が高いほうが不良な予後に関連)

ウィルムス腫瘍患児の予後は極めて良好である。病期が進行していない(腎臓に限局している)場合,治癒率は85~95%である。より進行した患児でも良好な結果が得られており,治癒率は60%(予後不良の組織型)から90%(予後良好の組織型)である。

がんが再発する可能性があり,典型的には診断後2年以内にみられる。再発例においても治癒が望める。最初に病期が低かった小児,放射線照射がなされなかった部位に腫瘍が再発する小児,発症から1年以上たって再発した小児,および初期治療の強度が低かった小児では,再発後の予後がより良好である。

治療

  • 手術および化学療法

  • 比較的高い病期/リスクの患児に対する放射線療法

片側ウィルムス腫瘍の初期治療は,一次的な外科的切除とそれに続くアジュバント化学療法である。腫瘍の小さい若年患者の一部では手術単独で治癒が得られる。化学療法薬の種類および治療期間は腫瘍の組織像および病期によって異なる。化学療法レジメンはリスク群に基づくが,通常はドキソルビシンを併用するまたは併用しないアクチノマイシンD + ビンクリスチンから成る。より進行性の高い腫瘍に対しては強化多剤併用化学療法レジメンが使用される。

腫瘍が非常に大きく切除不能であるか腫瘍が両側性に発生した患児は,化学療法を行ってから再評価の後に切除を行う治療法の適応である。

病期が進行しているか所属リンパ節転移がみられる患児には,放射線療法が行われる。

より詳細な情報

  1. Stages of Wilms Tumor (National Cancer Institute)

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