周産期貧血

執筆者:Andrew W. Walter, MS, MD, Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University
レビュー/改訂 2020年 10月
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貧血とは,赤血球量またはヘモグロビンの減少であり,通常ヘモグロビンまたはヘマトクリットが年齢別平均値から2SD(標準偏差)以上低下した状態と定義される。ヘモグロビンまたはヘマトクリットがカットオフ値より高値であっても組織の酸素需要量を十分に満たさない場合,相対的貧血が存在すると考える専門家もいる。出生時に診断される血液疾患の中で最も頻度の高いものは,貧血および赤血球増多症である。( See also page 貧血の評価。出生前および周産期における赤血球産生の変化については周産期の生理で考察されている。)

新生児が成熟するに従ってヘモグロビンもヘマトクリットも急速に変化するため,正常下限値にも変化が生じる( see table 週齢別のヘモグロビン値とヘマトクリット値)。在胎期間,採血部位(毛細血管vs静脈),臍帯クランプ前の胎盤に対する新生児の位置(胎盤より低い位置であれば血液は新生児へ流入し,高い位置であれば血液は新生児から流出する),および臍帯クランプのタイミング(遅らせるほど新生児に多くの血液が流入する)などの変数も,結果に影響を与える。

表&コラム

病因

新生児の貧血の原因:

  • 生理的過程

  • 失血

  • 赤血球産生低下

  • 赤血球破壊の増加(溶血)

生理的貧血

生理的貧血が新生児期の貧血の最も一般的な原因である。正期産児および早期産児では,正常の生理学的過程として,出生後の想定される時期に,正球性正色素性貧血が生じることがしばしばある。一般に生理的貧血には,広範な評価および治療は必要ではない。

正期産児では,出生後の正常な呼吸に伴って起こる酸素化の増大が組織の酸素レベルに突然の上昇を引き起こし,エリスロポエチン産生および赤血球産生に対するネガティブフィードバックをもたらす。この赤血球産生の低下が,新生児の赤血球の短い寿命(成人の120日に対して90日)とともに,生後2~3カ月にわたるヘモグロビン濃度の低下を引き起こす(典型的なHbの最低値は9~11g/dL[90~110g/L])。Hbは,その後数週間変動なく安定した状態を保ち,生後4~6カ月頃に新たなエリスロポエチン刺激によって徐々に増加する。

生理的貧血は早期産児でより顕著であり,正期産児に比べ早期に発生し最低値も低い。本病態は未熟児貧血とも呼ばれる。正期産児での貧血と同様の機序によって,生後4~12週に早期産児に貧血が生じる。エリスロポエチンの産生低下,赤血球寿命の短縮(35~50日),急速な成長,および頻回の採血が,早期産児でHbの低下速度がより速く,最低値が低い(8~10g/dL[80~100g/L])一因となっている。未熟児貧血は在胎32週未満の乳児が最もよく罹患する。ほぼ全ての急性疾患の乳児および超早産児(在胎28週未満)は,最初の入院中に赤血球輸血を必要とする重度の貧血を発症する。

失血

貧血は出生前,周産期(分娩時)または出生後の出血によって生じることがある。新生児の血液の絶対量は少なく(例,早期産児90~105mL/kg;正期産児78~86mL/kg),このため,15~20mL程度の少量の急性失血でも貧血となる場合がある。慢性的な失血の場合は生理的な代償が可能であり,概して急性失血よりも臨床的に安定している。

出生前の出血は以下によって起こる可能性がある:

  • 胎児母体間出血

  • 双胎間輸血

  • 臍帯異常

  • 胎盤異常

  • 診断的処置

胎児母体間出血は通常自然に起こるが,母体外傷や羊水穿刺,外回転術,胎盤腫瘍などの結果として生じることもある。これは妊娠の約50%に生じるが,ほとんどの場合は喪失する血液量は極めて少なく(約2mL),30mL以上と定義される“大量”失血が起こるのは,妊娠1000例につき3例である。

双胎間輸血とは双胎間の不均等な血液分配であり,一卵性の1絨毛膜双胎妊娠の13~33%に生じる。重大な双胎間輸血が生じた場合,供血児が有意な貧血状態になり心不全を発症する一方,受血児は赤血球増多となり過粘稠度症候群を発症する。

臍帯異常には,臍帯卵膜付着,前置血管,または腹部もしくは胎盤の付着があり,出血の機序は(これはしばしば大量,急速で,生命を脅かすものである)臍帯血管の剪断または断裂による。

出血の原因となる重要な胎盤異常として,前置胎盤常位胎盤早期剥離の2つがある。

出血の原因となる診断手技には,羊水穿刺絨毛採取臍帯血採取などがある。

周産期の出血は以下により起こる可能性がある:

  • 急産(すなわち急速な自然娩出で,臍帯断裂による出血を起こす)

  • 産科事故(例,帝王切開中の胎盤切開,分娩外傷)

  • 凝固障害

吸引または鉗子分娩などの処置による頭血腫は通常,比較的無害であるが,帽状腱膜下の出血は急速に軟部組織内に広がり,貧血,低血圧,ショックおよび死に至る相当量の血液が失われる場合がある。頭蓋内出血の新生児では,貧血およびときに血行動態障害を起こすほど大量の血液が頭蓋内に出血しうる(身体に対して頭部の占める割合が低い,より年長の小児とは異なる;より年長の小児では頭蓋縫合が融合し頭蓋が拡張できないため,頭蓋内出血の量は制限され,その代わりに頭蓋内圧が上昇し出血を止める)。頻度は大幅に減少するが,分娩中の肝臓,脾臓,または副腎の破裂によっても内部出血が生じることがある。くも膜下出血および硬膜下出血に加えて,早期産児で最もよくみられる脳室内出血も,顕著に低いヘマトクリットをもたらすことがある。

新生児出血性疾患 see also page ビタミンK欠乏症)とは,正常分娩後数日以内に起こる出血であり,ビタミンK依存凝固因子(第II,VII,IX,X因子)の一過性の生理的欠乏によるものである。これらの凝固因子は胎盤移行が少なく,ビタミンKは腸内細菌によって合成されるため,最初は無菌状態の新生児の腸管ではほとんど産生されない。ビタミンK欠乏性出血には3つの型がある:

  • 早発型(Early:生後24時間)

  • 古典型(Classic:生後1週間)

  • 遅発型(Late:生後2~12週)

早発型は,母体側のビタミンKを阻害する薬剤(例,ある種の抗てんかん薬;イソニアジド;リファンピシン;ワルファリン;母体での長期にわたる広域抗菌薬の使用,これにより腸内細菌の定着が抑制される)使用により起こる。

古典型は出生後にビタミンK製剤の投与を受けていない新生児で起こる。

遅発型は,出生後ビタミンK製剤の投与を受けていない母乳のみで栄養されている新生児のみに起こる。出生後の0.5~1mgのビタミンK筋注により凝固因子が急速に活性化され,新生児出血性疾患が予防される。

生後数日間生じる出血のその他の原因として,他の凝固障害(例,血友病),敗血症による播種性血管内凝固症候群(DIC),または血管奇形が考えられる。

赤血球産生低下

赤血球産生低下

  • 先天性

  • 後天性

先天性の異常は極めてまれであるが,最も多くみられるのは以下のものである:

  • ダイアモンド-ブラックファン貧血

  • ファンコニ貧血

ダイアモンド-ブラックファン貧血は,骨髄中の赤血球前駆細胞の欠如,大球性赤血球,末梢血の網状赤血球の欠如がみられるが,他の血球細胞系には異常がみられないことを特徴とする。これは,しばしば(常にではないが),小頭症,口蓋裂,眼奇形,母指変形,および翼状頸を含む先天奇形の症候群の一部である。罹患新生児の最大25%が出生時に貧血を呈し,約10%の児が低出生体重である。この疾患は,幹細胞の分化の欠陥により引き起こされる一種のリボソーム病(ribosomopathy)であると考えられている。

ファンコニ貧血は,全造血細胞系の進行性破壊により大赤血球症および網状赤血球減少症を伴う骨髄不全症候群を引き起こす,骨髄前駆細胞の常染色体劣性遺伝疾患である。これは通常,新生児期を過ぎてから診断される。原因は,細胞による損傷DNAの修復や有害フリーラジカル(細胞を傷害する)の除去を妨げる遺伝子欠損にある。

他の先天性貧血にはまれな多臓器疾患であるPearson症候群がある;疾患にはミトコンドリアの障害が関与し,不応性鉄芽球性貧血,汎血球減少,ならびに肝,腎,膵の様々な機能不全または不全を引き起こす;また,先天性赤血球異形成貧血を引き起こし,無効または異常な赤血球産生および赤血球異常による溶血に起因する慢性貧血(典型的には大球性)を生じる。

後天性の異常は出生後に生じる。最も一般的な原因は以下のものである:

  • 感染症

  • 栄養の欠乏

感染症(例,マラリア風疹梅毒HIVサイトメガロウイルスアデノウイルス細菌性敗血症)は骨髄における赤血球産生を妨げることがある。先天性パルボウイルスB19感染症およびヒトヘルペスウイルス6型感染症では赤血球産生が低下することがある。

葉酸ビタミンE,およびビタミンB12の欠乏が生後数カ月の貧血の原因となることがあるが,出生時には通常,そのようなことはない。最も頻度が高い栄養障害である鉄欠乏の発生率は開発途上国で高く,食物の不足と,長期間母乳栄養のみを与えることがその原因である。鉄欠乏症は,母親が鉄不足の新生児および輸血を受けたことがなく,鉄が添加されていない人工乳を摂取する早産児に多くみられ,早産児では補充がない場合,生後第10~14週までに鉄貯蔵が枯渇する。

溶血

溶血は以下により起こる可能性がある:

  • 免疫性疾患

  • 赤血球膜異常症

  • 酵素欠乏症

  • 異常ヘモグロビン症

  • 感染症

いずれも高ビリルビン血症を引き起こす可能性があり,これにより黄疸および核黄疸が起こる場合がある。

免疫介在性の溶血は,母体の赤血球抗原と異なる表面抗原(最もよくみられるのはRhおよびABO血液抗原であるが,Kell,Duffyなど他の抗原も少数みられる)を有する胎児の赤血球が母体循環に入ることにより,胎児赤血球に対するIgG抗体の産生が刺激される場合に生じると考えられる。重症例で最も多いパターンは,Rh(D抗原)陰性の母親が過去のRh陽性胎児の妊娠中に胎児から母体への血液移行によりD抗原に感作され,その後Rh陽性胎児を妊娠することで,その妊娠中に母親が胎児血液に再曝露した際に胎児および新生児の溶血の原因となりうる母体のanamnestic IgG response(IgG既往応答)が促進されるというものである( see page 胎児赤芽球症)。比較的まれではあるが,妊娠早期の胎児母体間輸血がIgG反応を刺激することがあり,その妊娠に影響を及ぼす。子宮内での溶血は胎児水腫または胎児が死に至るほど重症となる場合がある。分娩後には,母体IgGの残存(半減期およそ28日)に伴う二次的な溶血の進行によって,顕著な貧血および高ビリルビン血症が生じることがある。感作を防ぐための抗RhDの予防的使用の普及により,影響を受けるのはRh陰性女性の妊娠の0.11%未満となっている。

パール&ピットフォール

  • まれではあるが,妊娠早期の胎児母体間輸血がIgG反応を刺激することがあり,その妊娠中に溶血が引き起こされる。

ABO血液型不適合も同様の機序により溶血を起こす。母親は食物や腸内菌叢に存在するA抗原およびB抗原と相同の抗原に感作される(そのため,感作に過去の妊娠を必要としない)。母親の血液型によっては,これらの外因性抗原が母体のIgM反応を誘発する。この反応は母親がB型の場合は抗A,母親がA型の場合は抗B,母親がO型の場合は両方である。これらのIgM抗体は胎盤を通過しない。しかしながら,不適合の胎児血液が母体循環に入ると,anamnestic IgG responseが起こり,それらのIgG型抗Aまたは抗B抗体は大量に胎盤を通過できるため,胎児の溶血を引き起こす。ABO血液型不適合では通常,IgG抗体の産生が起こる前に最初のIgM抗体が母体循環から胎児血球を少なくとも一部を排除し,胎児の赤血球膜上のABO抗原はRh抗原より少ないため,Rh不適合と比べて重症度は低くなる。

赤血球膜異常症は赤血球の形状および変形能を変化させ,脆弱性を高めるため,赤血球の早期破壊および/または循環からの早期除去の原因となる。最もよくみられる異常は遺伝性球状赤血球症および遺伝性楕円赤血球症である。

溶血を引き起こす酵素欠損症として,グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損症とピルビン酸キナーゼ欠損症が最もよくみられる。G6PD欠損症は,地中海,中東,アフリカ,およびアジア系でよくみられる伴性疾患で世界で4億人以上が罹患している。多くの亜型があり,軽度のものもあれば,重度のものもある。最も頻度の高い型はA-型であり,重症度は中等度である。G6PD欠損症はマラリアの予防につながると考えられており,マラリア流行地域ではアレル頻度が8%と推定されている。米国では,一部の州で新生児にG6PD欠損症のスクリーニング(DNA検査または酵素活性測定による)が行われている。ピルビン酸キナーゼ欠損症は欧州人集団,および米国ではペンシルベニア・ドイツ人【訳注:17世紀から18世紀にかけてドイツ語圏からアメリカ合衆国に移住した人々の子孫,いわゆるペンシルベニア・ダッチ】により多くみられる常染色体劣性遺伝疾患である。ピルビン酸キナーゼ欠損症はまれであり,白人2万人中約1人に発生する;この疾患に対する定期的なスクリーニングは米国では行われていない。

異常ヘモグロビン症は,グロビン鎖の欠損および構造異常が原因である。出生時,新生児のヘモグロビンの55~90%は胎児ヘモグロビン(Hb F)であり,これは2つのαグロビン鎖および2つのγグロビン鎖から構成されている(α2γ2)。出生後,γ鎖の産生が減少し(2~4歳までに2%未満まで),成人型ヘモグロビン(Hb A, α2β2)が優勢になるまでβ鎖の産生が増大する。αサラセミアはαグロビン鎖の産生が低下する遺伝性疾患で,貧血を引き起こす異常ヘモグロビン症のうち最も多くみられる。βサラセミアは遺伝性のβ鎖産生低下である。本来βグロビンは出生時には低値であるため,βサラセミアおよびβグロビン鎖の構造異常(例,Hb S[鎌状赤血球症],Hb C)は出生時には臨床的に明らかではなく,生後3~4カ月目に胎児ヘモグロビンが十分低い水準に低下し,β鎖に病的変異がある(鎌状赤血球症の場合)またはβ鎖の割合が低下している(βサラセミアの場合)のいずれかである成人ヘモグロビンに置換されるまで症状は現れない。

特定の細菌,ウイルス,真菌,および原虫(特にマラリア)による子宮内感染も溶血性貧血を誘発することがある。マラリアでは,マラリア原虫(Plasmodium)が赤血球に侵入して寄生し,最終的に赤血球を破裂させる。寄生された赤血球の免疫による破壊と寄生されていない細胞の過剰除去が起こる。関連する骨髄の赤血球形成異常によって,代償性の赤血球産生が不十分になる。血管内溶血,血管外の食作用,および赤血球形成異常の結果,貧血が起こりうる。

症状と徴候

周産期貧血の症状および徴候は原因にかかわらずほぼ同様であるが,重症度および貧血発症の速度によって様々である。新生児は概して蒼白を呈し,貧血が重症であれば頻呼吸,頻脈,ときに血流雑音が認められ,急性失血がある場合は低血圧を呈する。溶血には黄疸を伴うことがある。

評価

病歴

病歴の聴取では,母体因子(例,出血性素因,遺伝性赤血球障害,栄養欠乏,薬物),新生児貧血の原因となりうる遺伝性疾患の家族歴(例,αサラセミア,酵素欠損,赤血球膜異常症,赤芽球癆),産科的因子(例,感染,性器出血,産科的介入,分娩様式,失血,臍帯の処置および外観,胎盤の病理,胎児ジストレス,胎児の数)に焦点を合わせるべきである。

母体側の非特異的因子からさらなる手掛かりが得られる場合がある。両親に貧血の病歴がないか調べるべきである。脾臓摘出は溶血,赤血球膜異常症,または自己免疫性溶血の病歴の可能性を示唆し,胆嚢摘出は溶血による胆石の病歴を示すことがある。重要な新生児側の因子としては,出生時の在胎期間,発症日齢,性別,民族,民族などがある。

身体診察

頻脈および低血圧は急性かつ重大な失血を示唆する。黄疸は,全身性(Rh型もしくはABO血液型不適合またはG6PD欠損症による)または限局性(頭血腫中に封じられた血液の破壊による)の溶血を示唆する。肝脾腫は溶血,先天性感染,または心不全を示唆する。血腫,斑状出血,または点状出血は出血性素因を示唆する。先天奇形は骨髄不全症候群を示唆している場合がある。

検査

出生前に超音波検査で中大脳動脈の収縮期最大血流速度の上昇または胎児水腫(体の2カ所以上の部位[例,胸膜,腹膜,心膜]における異常かつ過剰な液貯留)が示されれば貧血が疑われ,また,心拡大,肝腫大,および脾腫が存在する場合もある。

出生後,貧血が疑われる場合は血算を行う;ヘモグロビン値およびヘマトクリット値が低ければ,最初の検査には以下を含める:

  • 網状赤血球数

  • 末梢血塗抹検査

貧血が急性の場合,緊急の介入が必要となることがある。

網状赤血球数が低値の場合(ヘモグロビンおよびヘマトクリットが低い場合,正常では上昇する),貧血は後天性または先天性骨髄機能障害によるものであり,以下により骨髄抑制の原因を評価すべきである:

  • 先天性感染(風疹,梅毒,HIV,サイトメガロウイルス,アデノウイルス,パルボウイルス,ヒトヘルペスウイルス6型)の抗体価またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査

  • 葉酸およびビタミンB12レベル

  • 鉄および銅レベル

これらの検査で貧血の原因が同定されない場合は,骨髄生検,赤血球産生の先天性障害検出のための遺伝学的検査,またはその両方が必要なこともある。

網状赤血球数が高値または正常である場合(骨髄の適切な反応を反映している),貧血は失血または溶血によるものである。明らかな失血がない場合,または末梢血塗抹標本で溶血の徴候が認められるか血清ビリルビンが高値(溶血とともに起こる)の場合,直接抗グロブリン試験(DAT[クームス試験])を行うべきである。

直接抗グロブリン試験が陽性の場合,貧血はRh,ABOまたはこれ以外の血液型不適合に伴う二次的なものである可能性が高い。DATは,Rh不適合では常に陽性である一方で,ABO血液型不適合では陰性のことがあるが,これは赤血球膜上のABO抗原がRh抗原よりも少ないためである。ABO血液型不適合による溶血が現にあってもDATは陰性になることがある;ただし,そのような患児では末梢血塗抹標本で微小球状赤血球を認めるはずであり,間接抗グロブリン(間接クームス)試験は通常陽性となる(なぜなら,この試験は血漿中の抗ABO抗体を同定するものであり,これは成人赤血球[成人赤血球には十分に識別可能なABO抗原が存在する]の存在下では陽性反応を示すためである)。

直接抗グロブリン試験が陰性の場合,赤血球の平均赤血球容積(MCV)が役立つことがあるが,通常は胎児の赤血球は成人の赤血球より大きいため,新生児のMCVを解釈するのは困難なことがある。ただし,顕著に低いMCVは,αサラセミアまたは(頻度は下がるが)慢性子宮内失血による鉄欠乏を示唆する;これらは赤血球分布幅(RDW)により鑑別できることがあり,RDWはサラセミアでは正常であるが鉄欠乏では上昇する場合が多い。MCVが正常または高値の場合は,末梢血塗抹標本が,膜異常症,微小血管症,播種性血管内凝固症候群,ビタミンE欠乏症,または異常ヘモグロビン症と一致する赤血球の形態異常を示すことがある。遺伝性球状赤血球症の患児では,しばしば平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)が上昇する。塗抹標本が正常であれば,失血,酵素欠損症,感染症を考慮し,胎児母体間出血の検査など,適切な検査を行うべきである。

胎児母体間出血は,母体血中の胎児赤血球を検査することによって診断できる。Kleihauer-Betkeの酸溶出法が最も頻繁に用いられる試験であるが,これ以外の試験には,蛍光抗体法,分別または混合凝集試験がある。Kleihauer-Betke法においては,pH3.5のクエン酸-リン酸緩衝液によって成人の赤血球からヘモグロビンが溶出されるが,胎児の赤血球からは溶出しない;このため,胎児赤血球はエオジンで染色されて光学顕微鏡で観察可能であるのに対して,成人赤血球は赤血球ゴーストとなって現れる。母親に異常ヘモグロビン症がある場合,Kleihauer-Betke法は有用ではない。

治療

周産期貧血の治療の必要性は,貧血の程度と随伴する病態により異なる。軽度の貧血がある以外は健康な正期産児および早期産児では一般に特異的治療を必要としない;治療は基礎疾患に照準を定めて行う。一部の患児は濃厚赤血球の輸血または交換輸血を必要とする。

輸血

輸血は重症貧血の治療に指示される。貧血による症状がある場合,または組織の酸素供給の減少が疑われる場合,輸血を考慮すべきである。輸血の決定は,症状,患児の日齢,および疾病の程度に基づいて行うべきである。ヘマトクリット低値でも無症状である患児もいれば比較的高値でも症状がある患児もいるため,ヘマトクリット単独を輸血の決定要因とすべきではない。

輸血時期の指針は様々であるが,一般に認められている組合せは生後4カ月未満の乳児に対する輸血ガイドラインの表に記載されている。

表&コラム

初回の輸血前に(それまでに実施されていなければ)ABO型およびRh型ならびに赤血球不規則抗体の有無について母体血および胎児血のスクリーニングを行うべきであり,さらに乳児赤血球のDATを行うべきである。

輸血用の血液は新生児のABOおよびRhグループと同じであるか適合するものとし,母体または新生児の血清に存在する全てのABOまたは赤血球抗体とも適合するものを用いるべきである。新生児はまれにしか赤血球抗体を産生しないため,輸血の必要性が持続する場合,繰り返しの抗体スクリーニングは通常,生後4カ月目までは必要ない。

輸血に使用する濃厚赤血球は,濾過(白血球除去)および放射線照射を行い,10~20mL/kgの一定分量で投与し,1人の供血者に由来するものとすべきである(同一の血液単位からの連続輸血により,受血者の曝露と輸血合併症が最小化される)。超早産児にはサイトメガロウイルス陰性供血者の血液を考慮すべきである。

交換輸血

交換輸血は,新生児の血液を一定分量で順次除去した上で濃厚赤血球を輸血するもので,血清ビリルビン高値の溶血性貧血の一部,心不全を伴う重症貧血の一部,および循環血液量が正常な慢性失血が適応となる。この処置は血漿中の抗体価およびビリルビン濃度を低下させ,体液過剰を最小限にする。

重篤な有害作用(例,血小板減少症;壊死性腸炎;低血糖;低カルシウム血症;ショック,肺水腫,またはその両方[体液バランスの変化が原因])がよくみられるため,この処置は経験豊富なスタッフによって施行されるべきである。交換輸血の開始時期に関する指針は様々であり,エビデンスに基づくものではない。

その他の治療法

遺伝子組換え型ヒトエリスロポエチンは,生後2週間における輸血の必要性を減少させることが示されていないこともあり,ルーチンには推奨されない。

鉄投与は失血例(例,出血性素因,消化管出血,頻回の瀉血による)に対して行う。経口鉄剤が望ましい。非経口鉄剤はまれにアナフィラキシーを引き起こすことがある。米国小児科学会(American Academy of Pediatric:AAP)は,母乳栄養児には生後4カ月から生後約6カ月で鉄分を含む固形食を導入するまで,鉄剤のシロップ(鉄元素1mg/kg)を毎日与えることを推奨している(1)。

比較的まれな原因による貧血の治療は疾患特異的である(例,ダイアモンド-ブラックファン貧血にはコルチコステロイド,B12欠乏症にはビタミンB12)。

治療に関する参考文献

  1. 1.Baker RD, Greer FR, Committee on Nutrition American Academy of Pediatrics: Clinical report―Diagnosis and prevention of iron deficiency and iron-deficiency anemia in infants and young children (0–3 years of age).Pediatrics 126(5):1040–1050, 2010.doi: 10.1542/peds.2010-2576

要点

  • 貧血とは,赤血球量またはヘモグロビンの減少であり,新生児では通常ヘモグロビンまたはヘマトクリットが年齢別平均値から2SD(標準偏差)以上低下した状態と定義される。

  • 新生児における貧血の原因としては,生理的過程,失血,赤血球産生の低下,および赤血球崩壊の増加がある。

  • 生理的貧血は新生児期における貧血の最も一般的な原因であり,一般には広範な評価および治療は必要ではない。

  • 貧血のある新生児は概して蒼白を呈し,貧血が重症であれば頻呼吸,頻脈,ときに血流雑音が認められる。

  • 治療の必要性は,貧血の程度と随伴する病態により異なる。

  • 軽度の貧血がある以外は健康な正期産児および早期産児では一般に特異的治療を必要としない;治療は基礎疾患に照準を定めて行う。

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