乳幼児における潜在性菌血症および原因不明の発熱

執筆者:Geoffrey A. Weinberg, MD, Golisano Children’s Hospital
レビュー/改訂 2020年 3月
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潜在性菌血症とは,発熱があるものの明らかな感染巣がなく,元気そうに見える幼児の血流中で細菌が認められる状態である。診断は血液培養と病巣感染の除外による。治療は抗菌薬により入院または外来で行い,一部の患児には血液培養の結果を待たずに治療を開始する。

潜在性菌血症の原因,評価,および管理は小児の年齢および予防接種状況によって変わる。乳児および小児の発熱も参照のこと。

生後3~36カ月の小児

結合型ワクチンが普及する前は,局所的異常のない発熱性疾患(すなわち,原因不明の39℃以上の発熱)を有する生後3~36カ月の小児の約3~5%に潜在性菌血症が認められていた。対照的に,生後36カ月以降の菌血症の小児は,ほぼ全例が容態不良に見え,感染源が同定可能(すなわち非潜在性)であった。結合型ワクチンの定期接種が始まる前は,潜在性菌血症の大半(80%)が肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)によるものであった。インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)b型によるものの割合は低く(10%),髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)によるものはさらに少なかった(5%)。

潜在性菌血症が懸念されるのは,患児の約5~10%が重篤細菌感染症(serious bacterial infection:SBI)を発症するためである―典型的なSBIは敗血症髄膜炎,および尿路感染症(UTI)がみられる場合と定義されるが,化膿性関節炎骨髄炎もその範囲に含まれる。このような感染症は,菌血症の早期発見・早期治療により最小限に抑えられる可能性がある。重篤な病巣感染症に進行する可能性は,起因菌によって異なり,インフルエンザ菌(H. influenzae)b型の菌血症では7~25%であるが,肺炎球菌(S. pneumoniae)の菌血症では4~6%である。

現在米国と欧州では,乳児への肺炎球菌(S. pneumoniae)およびインフルエンザ菌(H. influenzae)b型に対する多糖体結合型ワクチンの定期接種により,インフルエンザ菌(H. influenzae)b型による感染症が排除され(99%超),侵襲性の肺炎球菌(S. pneumoniae)感染症が大幅に(全体で70%以上,ワクチン型で90%以上)減少した。そのためこの年齢群では,予防接種を受けていないまたは完全に受け終わっていない小児や,免疫不全の小児を除いて,潜在性菌血症はまれになっている。

生後3カ月未満の小児

対照的に,生後3カ月未満の発熱のある乳児は,月齢の高い乳児と比べて依然として重篤な細菌感染症(SBI)のリスクが非常に高い(約8~10%)。過去には,生後3カ月未満の幼若乳児におけるSBIは,B群β溶血性レンサ球菌(Streptococcus),肺炎球菌(S. pneumoniae),およびインフルエンザ菌(H. influenzae)b型によって引き起こされることの方が多かった。しかしながら,B群β溶血性レンサ球菌(Streptococcus)保菌妊婦への分娩中の化学予防(抗菌薬の予防投与)により,早発型(生後7日未満に発生する)B群レンサ球菌感染症は80%超減少した。加えて,結合型ワクチンの定期接種により,肺炎球菌(S. pneumoniae)やインフルエンザ菌(H. influenzae)b型に対する免疫をもった兄や姉で保菌が減少したため,これらの病原体によるSBIも同時に減少した(集団免疫)。

注意すべきこととしては,遅発型(生後7日以降に発生する)B群レンサ球菌感染症は,分娩中の化学予防によって防げないこと,また,UTIのようなその他の重篤な細菌性疾患(主に大腸菌[Escherichia coli]によるもの)およびまれに起こるSalmonella属による菌血症は,生後3カ月未満の乳児の身体診察で出所が明らかにならない発熱の原因として依然重要だということである。

症状と徴候

潜在性菌血症の主な症状は,39℃以上の発熱(生後3カ月未満の乳児では38℃以上)である。定義により,明らかな局所疾患(例,肺炎を示唆する咳嗽,呼吸困難,および肺の断続性ラ音;蜂窩織炎または化膿性関節炎を示唆する皮膚紅斑)を伴うものは除外される(潜在性ではないため)。重症感(toxic appearance)(例,元気のなさ,嗜眠,循環不良の徴候,チアノーゼ,著明な低換気または過換気)は敗血症または敗血症性ショックを示唆し,このような小児の菌血症も,潜在性菌血症または不明熱には分類されない。しかしながら,早期の敗血症は潜在性菌血症との鑑別が困難なことがある。

診断

  • 血液培養

  • 尿培養および尿検査

  • 血算および分画

  • ときに,年齢および臨床状況に応じた他の検査

菌血症の診断には血液培養が必要である;理想的には2つの検体を採取し(それぞれ別の部位から採取することで,皮膚汚染による偽陽性の問題を最小限に抑えられる),24時間以内に結果が出るようにすべきである。

検査方法とその選択に関する推奨事項は,年齢,体温,および臨床像により異なるが,その目標は,最小限の検査でSBIを同定することである。局所感染症を示唆する病歴または診察所見がある小児は,それに基づいて評価する。

可能な場合,原因が明らかでない発熱がみられる乳児の評価では,エンテロウイルスRSウイルス,およびインフルエンザウイルスの迅速診断検査が有用であり,これは,これらの検査で陽性と判定された乳児は,そのウイルスが原因で発熱を来しているのであって,SBIに対するそれ以上の検査はほとんどまたは全く必要ない可能性が高いためである。その他のウイルスに対する迅速診断検査もあるとはいえ,研究が不十分であるため,それらの結果を以てSBIの検査を変更することはできない。

SBIの乳児の血算では通常,白血球数の上昇がみられるが,白血球数が15,000/μL (> 15 × 109/L)を超える小児のうち菌血症であるのは約10%にすぎず,したがって特異度は低い。一部の臨床医は急性期反応物質(例,赤血球沈降速度,C反応性タンパク(CRP),ときにプロカルシトニンを併用)を診断に用いており,プロカルシトニン値の上昇は重篤な疾患に対する特異度がより高いと考えている臨床医もいる。生後3カ月未満の小児において,桿状核球数が1500/μLを超え(> 1.5 × 109/L),かつ白血球数が低値(< 5000/μL[5 × 109/L])または高値(> 15,000/μL[> 15 × 109/L])となる場合には,菌血症が示唆される。

生後3~36カ月の小児

重篤感または重症感(toxic appearance)のある発熱を呈する全ての乳児に対し,予防接種歴にかかわらず,徹底的な診察および臨床検査による評価を行う(血算と分画,血液培養,尿培養,腰椎穿刺に加え,ほとんどの症例では入院と経験的抗菌薬療法を行う)必要があることを肝に銘じておくべきである。この年齢群で予防接種を受けていない,予防接種を完全に受け終わっていない,または易感染性の乳児は,同年齢の他の小児に比べてSBIにかかりやすく,同様の徹底的な診察および検査によるSBIの評価ならびに経験的抗菌薬投与が必要となるのが一般的である。呼吸困難または酸素飽和度の低下がある小児では,胸部X線撮影も行うべきである。

予防接種を受けている生後3~36カ月の乳児または小児が元気そうに見える場合(非重症例),菌血症のリスクは皮膚汚染による血液培養の偽陽性率と同じかそれより低いことさえあるため,多くの専門医はこのような小児での血液培養を差し控えている。とはいえ,鏡検および尿培養を伴う尿検査こそ一般的に推奨されているが,それ以上の臨床検査(例,血算,胸部X線)は推奨されていない。このような小児の大部分はウイルス感染症であるが,元気そうに見える小児の極少数に初期のSBIの可能性があるため,保護者に進言して症状のモニタリング,解熱薬の投与,および24~48時間以内の医師とのフォローアップ(状況や保護者が信頼できるかどうかに応じて受診または電話相談)をさせる。状態が悪化するまたは解熱しない小児には,検査(例,血算と分画,血液培養,ときに胸部X線または腰椎穿刺)を行うべきである。

生後3カ月未満の小児

重症感(toxic appearance)または重篤感のある乳児に対し,予防接種歴にかかわらず,直ちに臨床的評価,血液,尿,および髄液の採取と培養,ならびに入院と経験的抗菌薬療法を行う。月齢の高い乳児とは異なり,生後3カ月未満の乳児では,臨床的に重症感(toxic appearance)がないからといって常に検査を延期できるわけではない。

この年齢群の小児の評価指針となるアルゴリズムが作成されている(例えば, see figure 発熱のある生後3カ月未満の乳児の評価および管理)。このアルゴリズムを使用するにあたり,多くの専門医は生後30日未満であること自体を高リスク因子とみなしている(それゆえルーチンに入院させて追加検査を行っている)一方,生後90日未満の乳児は全例に同じ基準を用いて管理してい専門医もいる。これらのアルゴリズムは,SBIに対する感度は高いものの,特異度は比較的低い。そこで,SBIの発生率は,発熱のある早期乳児の間でさえ比較的低いことを考慮すると,このアルゴリズムでは陰性適中率が高くなるが,陽性適中率が低くなるため( see page 検査の特性),このアルゴリズムは真のSBIまたは菌血症の小児を同定することより,むしろ待機的な治療が可能な(すなわち,SBIまたは菌血症が除外された)感染リスクの低い小児を同定するのにはるかに適していると言える。

発熱のある生後3カ月未満の乳児の評価および管理

hpf = 強拡大視野。

治療

  • 抗菌薬(経験的,培養の結果を待つ選択された患者および培養陽性の患者に対して)

  • 不快感に対して解熱薬

  • 十分な補液(発熱や食欲不振により水分喪失が増えているため);可能であれば経口,そうでなければ輸液による

血液培養による菌血症の確定診断前に抗菌薬の投与を受けた小児では,病巣感染発症が発生する可能性が低下するようであるが,データは一貫していない。しかしながら,菌血症の全体としての発生率が低いことから,仮に検査を受けた全例に経験的治療を行うとすれば,多くの患児が不必要な治療を受けることになる。上述のように,管理方針は年齢とその他の臨床因子によって異なってくる。

年齢にかかわらず,全例で24~48時間後に再診察を行う。そのとき,まだ治療を受けていない状況で発熱が持続するか血液または尿培養で陽性と判定された患児には,さらに培養を行うとともに,敗血症の可能性の評価と注射剤による抗菌薬療法を行うために入院させる。再診察時に局所感染症の新しい徴候が見つかれば,それに応じた評価および治療を行う。

生後3~36カ月の小児

体重に応じた用量の解熱薬を投与する。抗菌薬は培養が陽性とならない限り投与しない。尿路感染症があるが元気そうに見える小児には,小児のUTI用の経口抗菌薬を外来で処方する;それ以外の患児(例,より重症に見える)には,入院させて抗菌薬を静脈内投与する必要がある。

生後3カ月未満の小児

培養結果判明前の治療に関する一般的な原則( see figure 発熱のある生後3カ月未満の乳児の評価および管理)は,発熱はあるが重篤な細菌感染症がない可能性の高い大部分の乳児では,抗菌薬の使用を最小限に留め,抗菌薬を必要とする少数の患児には,速やかに投与するというものである。尿検査および尿培養から尿路感染症が示唆されるが,元気そうに見える小児には,小児のUTI用の経口抗菌薬を外来で処方する;それ以外の患児(例,より重症に見える)には,入院させて抗菌薬を静脈内投与する必要がある。

参考までに,生後1カ月未満の発熱のある乳児では,SBIの発生率が最も高いため,そのような全ての乳児は入院させ,念入りな診察と血液,尿,および髄液の培養を行い,培養結果が出るまで抗菌薬(例,セフトリアキソン)の静脈内投与を行っている施設もある。

要点

  • 生後36カ月未満の発熱のある乳幼児で,インフルエンザ菌(H. influenzae)b型および肺炎球菌結合型ワクチンの予防接種を受けており,元気そうに見えて明らかな感染巣がない場合,潜在性菌血症または重篤細菌感染症(serious bacterial infection:SBI-例,敗血症,髄膜炎)の可能性は低い。

  • 発熱のある選択された小児で潜在性菌血症を診断するには,血液培養(2つの異なる部位から2検体)を行う。

  • 発熱を伴うSBIの原因として現在最多のものは尿路感染症(UTI)であるため,生後36カ月未満の発熱のある全ての乳幼児に対し,尿検査および尿培養によりUTIの評価を行うべきである。

  • 重症感(toxic appearance)のある小児(またおそらくは生後1カ月未満の発熱のある全ての小児)には,血液および髄液培養と入院による経験的抗菌薬療法も必要である。

  • 39℃以上の発熱のある生後3~36カ月の小児で,適切な予防接種を受けている場合,元気そうに見えるのであれば尿培養以外の検査は適応とならない;それ以外の患児は,臨床所見やその他の状況に応じて,検査を行うべきである(例,時期に応じてインフルエンザウイルス,RSウイルス,エンテロウイルスの迅速診断検査)

  • 38℃以上の発熱のある生後3カ月未満の乳児では,元気そうに見えてもSBIを完全に除外できるわけではないため,この年齢群の全ての乳児に検査が適応となり,具体的には血算と分画,血液および尿培養のほか,可能であれば(現地の疫学情報と季節に応じて),インフルエンザウイルス,RSウイルス,エンテロウイルスの迅速診断検査を行うことがある。

  • 重症感のない,リスクの低い乳児は,抗菌薬による治療を行っていない場合,綿密なフォローアップが必要である。

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