頸部腫瘤

執筆者:Marvin P. Fried, MD, Montefiore Medical Center, The University Hospital of Albert Einstein College of Medicine
レビュー/改訂 2020年 4月
意見 同じトピックページ はこちら

患者またはその家族が頸部腫瘤に気づくこともあれば,ルーチンの診察時に頸部腫瘤が発見されることもある。頸部腫瘤は,原因によって無痛である場合も,または有痛である場合もある。頸部腫瘤が無痛である場合,長い時間が経過してから患者が診察を受けている可能性がある。

頸部腫瘤の病因

頸部腫瘤の原因は,感染性,がん,および先天性の原因など,多数存在する(頸部腫瘤の主な原因の表を参照)。

表&コラム

若年患者における頸部腫瘤の最も一般的な原因としては,以下のものがある:

  • 反応性リンパ節炎

  • 原発性の細菌性のリンパ節感染症

  • 全身性感染症

反応性リンパ節炎は,中咽頭のいずれかの部位で起きたウイルスまたは細菌感染に反応して発生する。一次性の細菌性リンパ節感染症の例としては,ネコひっかき病,トキソプラズマ症,結核性リンパ節炎,放線菌症などがある。特定の全身性感染症(例,単核球症HIV結核)は,頸部リンパ節腫大(通常孤立性ではなく広汎性)を生じる。

先天性疾患が頸部腫瘤を引き起こす場合があり,典型的には長期間持続する。最も一般的なものは,甲状舌管嚢胞,鰓裂嚢胞,および類皮嚢胞または脂腺嚢腫である。

がんの腫瘤は高齢患者でより多くみられるが,若年患者に発生することもある。これらの腫瘤は,局所の原発腫瘍,または局所,領域,もしくは遠隔部位の原発がんからのリンパ節転移を意味する場合がある。鎖骨上三角の腫瘤の約60%は遠隔の原発部位からの転移である。頸部の他の部位では,悪性の頸部リンパ節腫脹の80%は,上気道または上部消化管に由来する。原発巣の可能性が高い部位は,舌の後部と側縁の境界部および口底であり,次いで上咽頭,口蓋扁桃,喉頭蓋の喉頭面,および梨状陥凹を含む下咽頭である。

甲状腺は,単純性(非中毒性)甲状腺腫亜急性甲状腺炎結節性甲状腺疾患,頻度は低いが甲状腺癌など,様々な疾患で腫大しうる。

顎下腺は,唾石で閉塞した場合,感染を起こした場合,またはがんを生じた場合に腫大する可能性がある。

頸部腫瘤の評価

病歴

現病歴の聴取では,腫瘤の存在期間および有痛であるか否かに注意すべきである。関連する重要な急性症状としては,咽頭痛,URIの症状,歯痛などがある。

システムレビュー(review of systems)では,嚥下困難または発声困難および慢性疾患の症状(例,発熱,体重減少,倦怠感)について尋ねるべきである。頸部への転移を引き起こしている領域および遠隔部位のがんは,ときに原発部位の器官系の症状(例,肺癌での咳嗽,食道癌での嚥下困難)を引き起こす。多くのがんが頸部に転移する可能性があるため,発生源の確認には,徹底したシステムレビュー(review of systems)が重要である。

既往歴の聴取では,既知のHIVまたは結核とそれらの危険因子について尋ねるべきである。飲酒または喫煙(特に嗅ぎタバコまたは噛みタバコ),不適合な歯科装置,および慢性の口腔カンジダ症など,がんの危険因子を評価する。不良な口腔衛生もリスクとなる場合がある。

身体診察

頸部腫瘤を触診して硬さ(すなわち,軟らかく波動があるか,弾性があるか,または硬いか)ならびに圧痛の有無および程度を究明する。腫瘤が自由に可動するか,または皮膚もしくは下部組織に固着しているようであるかについても究明する必要がある。

感染の徴候およびその他の視認可能な病変がないか,頭皮,耳,鼻腔,口腔,上咽頭,中咽頭,下咽頭,および喉頭を厳重に視診する。歯を打診して,歯根の感染の強い圧痛を検知する。腫瘤がないか舌根,口底,ならびに甲状腺および唾液腺を触診する。

腫瘤がないか乳房および前立腺を触診し,さらに腫脹がないか脾臓を触診する。便潜血がないか便を検査し,潜血があれば消化器癌が示唆される。

他のリンパ節を触診する(例,腋窩,鼠径部)。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見は特に注意が必要である:

  • 硬く,固着した腫瘤

  • 高齢患者

  • 中咽頭病変の存在(単純な咽頭炎または歯性感染症以外)

  • 持続性の嗄声または嚥下困難の既往

所見の解釈

頸部腫瘤の重要な鑑別因子(頸部腫瘤の主な原因の表を参照)としては,急性度,疼痛および圧痛,硬さおよび可動性などがある。

新たな腫瘤(すなわち,わずか数日で発生したもの),特にURIまたは咽頭炎の症状後のものは,良性の反応性リンパ節腫脹を示唆する。圧痛を伴う急性の腫瘤は,リンパ節炎または感染した類皮嚢胞を示唆する。

若年患者での慢性の腫瘤は,嚢胞を示唆する。高齢患者(特に危険因子を有する患者)における正中線以外の腫瘤は,他の原因が証明されない限り,がんとみなすべきである;正中線上の腫瘤は,甲状腺に起因する可能性が高い(良性または悪性)。

腫瘤の疼痛,圧痛,またはその両方は,炎症(特に感染性)を示唆するのに対し,無痛性腫瘤は嚢胞または腫瘍を示唆する。硬く,固着していて圧痛を伴わない腫瘤はがんを示唆するのに対し,弾性硬および可動性は,それ以外を示唆する。

全身性リンパ節腫脹および脾腫は伝染性単核球症またはリンパ網内系腫瘍を示唆する。全身性リンパ節腫脹は,単独でHIV感染を示唆している場合がある(特に危険因子を有する患者において)。

中咽頭の赤色および白色の粘膜斑(紅板症および白板症)は,頸部腫瘤の原因となる悪性病変である可能性がある。

甲状腺腫大または頸部の様々な部位に発生したがんのために,嚥下困難に気づく場合がある。発声困難は,喉頭または反回神経を侵すがんを示唆する。

検査

頸部腫瘤の性質が容易に明らかになる場合(例,最近の咽頭炎より引き起こされたリンパ節腫脹),または健康な若年患者に最近生じた圧痛を伴う腫脹で,他の所見がない場合,直ちに検査をする必要はない。しかしながら,患者は定期的に再診察する;腫瘤が消退しない場合は,さらなる評価が必要となる。

他の患者の大部分に対して,血算および胸部X線を行うべきである。特異的な原因を示唆する所見がみられる患者には,その疾患の検査も行うべきである(頸部腫瘤の主な原因の表を参照)。

診察により,2週間以内に消退が開始しない口腔内病変または上咽頭病変を発見した場合,検査にはその病変のCTまたはMRIおよび穿刺吸引生検を含める場合がある。

頭頸部がんの危険因子がなく,他に明らかな病変がない若年患者では,頸部腫瘤を生検することがある。

高齢患者(特にがんの危険因子を有する患者)には,まず原発部位を同定するためのさらなる検査を行うべきである;頸部腫瘤の生検では原発巣が不明なまま単に未分化型扁平上皮癌が判明することがある。このような患者では,喉頭直達鏡検査,気管支鏡検査,および食道鏡検査を行うとともに,疑われる部位全ての生検を施行すべきである。扁平上皮癌であることが同定された検体は,ヒトパピローマウイルス(HPV)の有無について検査すべきである。頭頸部および胸部CT,ならびにときに甲状腺シンチグラフィーを実施する。超音波検査は,小児では放射線曝露を避けるために望ましいとされ,成人では甲状腺の腫瘤が疑われる場合に用いられることがある。原発腫瘍が発見されなければ,頸部腫瘤の穿刺吸引細胞診を施行すべきであるが,これは分断された腫瘤を頸部に残さないため切開生検より望ましい。頸部腫瘤が悪性で原発腫瘍が確認されない場合,上咽頭,口蓋扁桃,および舌根のランダム生検を考慮すべきである。

頸部腫瘤の治療

頸部腫瘤の治療は原因に対して行う。

頸部腫瘤の要点

  • 若年患者における急性の頸部腫瘤は通常良性である。

  • 高齢患者における頸部腫瘤ではがんの懸念が生じる。

  • 中咽頭の徹底的な診察が重要である。

quizzes_lightbulb_red
Test your KnowledgeTake a Quiz!
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS