難聴

執筆者:Lawrence R. Lustig, MD, Columbia University Medical Center and New York Presbyterian Hospital
レビュー/改訂 2020年 12月
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全世界で約5億人(世界人口の約8%)が難聴を有する(1)。米国では,10%以上の人に日常のコミュニケーションを損なうある程度の難聴があり,難聴は最も一般的な感覚器障害である。新生児の約800~1000人に1人には,出生時に高度から重度の難聴がある。その2~3倍で,それより軽度の難聴が出生時にみられる。小児期には,さらに1000人に2~3人の小児が中等度から高度の難聴を来す。青年には,過度の騒音への曝露,頭部外傷,またはその両方のリスクがある。高齢者は一般的に,進行性の聴力低下(老人性難聴)を経験するが,これは加齢,騒音曝露および遺伝因子に直接関連する。米国では約3千万人が損傷を与えるレベルの騒音に日常的に曝露していると推定されている。

幼児期に聴力低下があると,言語の理解力および表現力が生涯にわたって損なわれることがある。障害の程度は,以下によって決まる:

  • 難聴が生じた年齢

  • 難聴の性質(持続期間,影響を受けた周波数および程度)

  • 個々の小児の感受性(例,併存する視覚障害,知的障害,一次性の言語障害,および不適当な言語環境)

他の感覚障害,言語障害,または認知障害のある小児が最も深刻な影響を受ける。

突発性難聴の原因も参照のこと。)

総論の参考文献

  1. 1.Wilson BS, Tucci DL, Merson MH, et al.: Global hearing health care: new findings and perspectives.Lancet 390(10111):2503-15, 2017.doi: 10.1016/S0140-6736(17)31073-5

難聴の病態生理

難聴は,伝音性,感音性,またはその両方(混合難聴)に分類できる。

伝音難聴は,外耳道,鼓膜,または中耳の病変から二次的に発生する。これらの病変により,内耳への音の効果的な伝導が妨げられる。

感音難聴は,内耳(内耳性)または聴神経(第8脳神経)(後迷路性―内耳性難聴と後迷路性難聴の違いの表を参照)のいずれかの病変によって生じる。内耳性難聴はときに可逆的であり,生命に脅かすことはほとんどないため,この区別は重要である。後迷路性難聴は,回復可能なことはまれであり,生命を脅かす脳腫瘍(一般的には小脳橋角部腫瘍)に起因する場合もある。さらなる感音難聴の種類にauditory neuropathy spectrum disorder(聴覚神経障害スペクトラム障害)と呼ばれるものがあり,この場合は音を感知できるが信号が脳に正しく送られず,その原因は内有毛細胞または蝸牛内においてそれらを支配するニューロンの異常であると考えられている(1)。

混合難聴は,頭蓋骨または側頭骨の骨折の有無を問わない重度の頭部損傷,慢性感染症,もしくは多くの遺伝性疾患の1つにより引き起こされることがある。また,一過性の伝音難聴(一般的には中耳炎による)が感音難聴に重なって起こる場合にも,混合難聴が生じる。

表&コラム

病態生理に関する参考文献

  1. 1.Pham NS: The management of pediatric hearing loss caused by auditory neuropathy spectrum disorder.Curr Opin Otolaryngol Head Neck Surg 25(5):396-399, 2017.doi: 10.1097/MOO.0000000000000390

難聴の病因

難聴には以下の分類がある:

表&コラム

難聴の最も頻度の高い原因は,全体として以下の通りである:

  • 耳垢の蓄積

  • 騒音

  • 加齢

  • 感染(特に小児および若年成人)

表&コラム

耳垢(耳あか)の蓄積は,特に高齢者において,治療可能な伝音難聴の最も一般的な原因である。小児では,外耳道を閉塞する異物が,その存在およびその除去の際に不注意で起こる損傷を理由として,ときに問題となる。

騒音は,突発性または進行性の感音難聴を引き起こす場合がある。音響外傷では,単回の極端な騒音(例,近くでの銃撃または爆発)への曝露により難聴が起こる;耳鳴が起こる場合もある。この難聴は通常一時的である(ただし,爆風による損傷もある場合は除く;爆風による損傷は鼓膜,耳小骨,またはその両方を破壊する場合がある)。騒音性難聴の場合は,85デシベル(dB―サウンドレベルを参照)を超える騒音への慢性的な曝露により,徐々に難聴が進行する。難聴が確認できるようになる前でも,騒音曝露は聴覚ニューロンおよび有毛細胞と接続するシナプスの損傷につながりうるが,そうした損傷は「hidden hearing loss(隠された難聴)」や「synaptopathy」と呼ばれ,患者には騒々しい環境での聞き取りの困難および加齢に伴う難聴の加速がみられることがある(1)。騒音性難聴になりやすいかどうかは若干の個人差があるが,十分に大きい騒音に十分な時間曝されれば,ほぼ全ての人がいくらかの聴力を損なう。大きい騒音に繰り返し曝されると,最終的にはコルチ器の有毛細胞が失われる。典型的には,難聴は,初めに4kHzで発症し,音響曝露が続くにつれて,次第に低周波および高周波に波及する。感音難聴の他の大部分の原因とは異なり,騒音性難聴は8kHzの方が4kHzよりも軽度である場合がある。

加齢は,騒音曝露および遺伝因子とともに,進行性の聴力低下の一般的な危険因子である。加齢に伴う難聴を,老人性難聴と呼ぶ。老人性難聴は,感覚細胞(有毛細胞)および蝸牛神経節細胞の喪失の組合せに起因する。さらに,研究では早期の騒音曝露が加齢に伴う難聴を加速することが強く示唆されている。加齢に伴う難聴では,低周波よりも高周波が侵される。

急性中耳炎(AOM)は,軽度から中等度の一過性難聴(主に小児における)の一般的な原因である。しかし,無治療では,AOMの後遺症および慢性中耳炎(ならびに比較的まれな化膿性内耳炎)は,恒久的な難聴を引き起こす可能性があり,特に真珠腫が形成された場合にはその傾向が強い。

滲出性中耳炎(SOM)は,いくつかの機序で生じる。AOMのほぼ全てのエピソードは,その後に2~4週間のSOMが続く。SOMは,耳管機能障害(例,口蓋裂,上咽頭の良性もしくは悪性の腫瘍,または高所からの降下時もしくはスキューバダイビング中の急な浮上時に起こるような,外気圧の急激な変化に起因する)により引き起こされる場合もある。

自己免疫疾患は,あらゆる年齢で感音難聴を引き起こす可能性があり,その他の症候を引き起こす可能性もある。

聴器毒性を有する薬剤は,感音難聴を引き起こす可能性があり,その多くが前庭系への毒性も有する。

サウンドレベル

音の強さおよび音圧(音の大きさと相関する物理的な値)は,デシベル(dB)で測定される。dBは,2つの値を比較して算出する無名数であり,基準値に対する測定値の比の対数を,定数で乗じた値と定義される:

dB = k log(Vmeasured/Vref

慣習的に,音圧レベル(SPL)の基準値は,若年者の健康な耳が聞き取れる最小音量の1000Hzの音とされている*。音は,音圧(N/m2)または強さ(ワット/m2)で測定できる。

音の強さは音圧の2乗に等しいため,SPLの場合の定数(k)は20である;音の強さの場合の定数は10である。したがって,20dB上昇毎に,SPLは10倍上昇,音の強さは100倍上昇していることを示す。

下表のdBの値は,難聴のリスクのおおよその考え方を提示したものに過ぎない。一部はSPLのdB値(N/m2を参照)であり,その他はdBの最大値またはAスケール(ヒトの聴覚に最も危険な周波数に重点を置いた尺度)でのdB値である。

Db

0

ヒトの耳に聞こえる最小音量

30

ささやき声,静かな図書室

60

通常の会話,ミシン,タイプライター

90

芝刈り機,工具,トラックの往来(90dBを1日8時間が防護なしでの限界の曝露量である†)

100

チェーンソー,空気式ドリル,スノーモービル(1日2時間が防護なしでの限界の曝露量である)

115

サンドブラスト,大音量のロックコンサート,自動車のクラクション(1日15分が防護なしでの限界の曝露量である)

140

射撃音,ジェットエンジン(騒音は疼痛を引き起こし,短時間の曝露であっても未防護の耳を損傷する;聴覚保護具を使用しても損傷が生じる場合がある)

180

ロケットの発射台

*聴力検査では,ヒトの耳は異なる周波数に異なって反応するため,検査する周波数毎に基準値が変化する。聴力検査で報告される閾値ではこれを考慮する;正常な閾値は,実際の音圧レベル(SPL)を問わず,常に0dBである。

†これは義務化された連邦規格であるが,85dB超のサウンドレベルへの短時間の曝露を超える曝露に対しては,防護が推奨される。

病因論に関する参考文献

  1. 1.Liberman MC, Kujawa SG: Cochlear synaptopathy in acquired sensorineural hearing loss: manifestations and mechanisms.Hear Res 349:138-147, 2017.doi: 10.1016/j.heares.2017.01.003

難聴の評価

評価は,難聴の検出および定量,ならびに病因の特定(特に可逆的な原因)から成る。

スクリーニング

大半の成人およびより年長の小児は,突然難聴が発生した場合それに気づき,また,養育者は,新生児が生後数週間以内に声やその他の音に反応しなければ,その新生児が高度の難聴であると疑う可能性がある。しかしながら,乳児および幼児では進行性の難聴およびほぼ全ての難聴は,スクリーニングにより発見しなければならない。言語刺激により至適な言語発達を促せるように,小児のスクリーニングは出生時に開始すべきである。スクリーニングを行わなければ,高度の両側難聴が2歳まで認識されないことがあり,軽度から中等度の両側難聴または高度の片側難聴はしばしば小児が学齢期に至るまで認識されない。

高齢者は聴力の緩徐な低下に気づかない場合やそれが正常な加齢の結果と考える場合があるため,高齢者におけるスクリーニングを考慮すべきである。

難聴が疑われる場合はどんな時でも,専門家への紹介を検討すべきである。

病歴

現病歴の聴取では,難聴がどれくらいの期間認識されているか,どのように始まったか(例,進行性,急性),片側性か両側性か,および音に歪みがあるか(例,音楽が聞こえない,ぼやける,またはどんよりしている)または語音弁別に困難があるかに注意すべきである。患者には,急性イベント(例,頭部損傷,大きな騒音への曝露,気圧外傷[特にダイビングでの損傷],薬剤の開始)に続いて難聴が起きたかどうかを尋ねるべきである。重要な随伴症状としては,その他の耳科的症状(例,耳痛,耳鳴,耳漏),前庭症状(例,暗闇での見当識障害,回転性めまい),その他の神経症状(例,頭痛,顔面の筋力低下または非対称性,味覚異常,耳閉感)などがある。小児における重要な関連症状としては,発話または言語の発達遅延,視覚の変化,運動発達の遅延などがある。

システムレビュー(review of systems)では,聴覚の問題が患者の生活に及ぼす影響を探求すべきである。

既往歴の聴取では,中枢神経系の感染,繰り返す耳の感染,大音量の騒音への慢性的な曝露,頭部外傷,リウマチ性疾患(例,関節リウマチループス),および難聴の家族歴を含め,原因となりうる過去の疾患に注意すべきである。薬歴の聴取では,聴器毒性のある薬剤の現在または過去における使用状況について具体的に尋ねるべきである。幼児については,子宮内感染症または出生時の合併症の有無を確認するために,出生歴を調べるべきである。

身体診察

両耳および聴覚の診察ならびに神経学的診察に焦点を絞る。外耳を視診して,閉塞,感染,先天奇形,およびその他の病変がないか確認する。鼓膜を視診して,穿孔,分泌物漏出,中耳炎(鼓膜越しに中耳内の膿または貯留液が見える),および真珠腫がないか確認する。神経学的診察では,第2~第7脳神経,ならびに前庭機能および小脳機能に対する特別な注意が必要である;これらの領域での異常は,しばしば脳幹および小脳橋角部の腫瘍に伴って生じるためである。ウェーバー試験とリンネ試験では,伝音難聴と感音難聴を鑑別するために音叉を使用する。

ウェーバー試験では,振動している512Hzまたは1024Hzの音叉の幹を頭部正中線に当て,どちらの耳で音がより大きく聞こえるかを患者に答えさせる。片側性の伝音難聴では,患側の耳の方が音が大きく聞こえる。片側性の感音難聴においては,健側の耳の方が音が大きく聞こえるが,これは音叉が両側の内耳を等しく刺激し,患者がその刺激を健側耳で知覚するためである。

リンネ試験では,骨導による聴力と気導による聴力を比較する。骨導では外耳,中耳を経由しないため,内耳,第8脳神経,中枢聴覚路に異常がないことを検査する。振動する音叉の幹を,まず乳突部に当て(骨導),音が知覚されなくなったらすぐに音叉を乳突部から離し,まだ振動を続けている音叉の枝を耳介のそばに掲げる(気導)。正常な場合,音叉はもう一度聞こえ,気導が骨導よりすぐれていることを示す。25dBを超える伝音難聴では,この関係は逆転し,骨導の方が気導よりも音が大きい。感音難聴の場合は,気導および骨導ともに弱まるが,気導の方が音が大きいことに変わりはない。

警戒すべき事項(Red Flag)

特に注意が必要な所見は以下の通りである:

  • 片側性の感音難聴

  • 脳神経の異常(難聴以外)

  • 急速に悪化するか突発性の難聴

所見の解釈

難聴の主な原因(例,耳垢,損傷,騒音への重大な曝露,感染性の続発症,薬剤)の多くは,病歴聴取および診察の結果に基づいて容易に明らかになる(後天性難聴の原因の表を参照)。

明らかな原因が見つからない残る少数の患者では,関連する所見が診断において役立つ。局所的な神経学的異常のある患者には特別な注意が必要である。第5脳神経もしくは第7脳神経またはその両方は,しばしば第8脳神経を侵す腫瘍による影響を受けるため,顔面の感覚消失および噛み締める力の低下(第5脳神経)ならびに片側顔面の筋力低下および味覚異常(第7脳神経)は,その領域での病変を示す。自己免疫疾患(例,関節の腫脹または疼痛,眼の炎症)または腎機能障害の徴候は,これらの疾患が原因である可能性を示唆する。顎顔面の奇形は,遺伝的異常または発育異常を示唆している可能性がある。

発話や言語の発達が遅れている小児や学校生活に困難のある小児はすべて,難聴の評価を受けるべきである。知的障害,失語,および自閉症も考慮しなければならない。運動発達の遅れは前庭障害の徴候である場合があり,これはしばしば感音難聴と関連がある。

検査

検査としては以下のものがある:

  • 聴覚検査

  • ときにMRIまたはCT

聴覚検査は,難聴のある全ての人で必要である;これらの検査には通常以下のものがある:

  • 気導および骨導による純音閾値の測定

  • 語音聴取閾値

  • 語音弁別能

  • ティンパノメトリー

  • アブミ骨筋反射検査

これらの検査で得た情報は,その難聴が内耳性か後迷路性かをさらに確定的に鑑別する必要があるか否かの判断に役立つ。

純音聴力検査では,難聴の程度を定量する。オージオメータで,特定の周波数の音(純音)を様々な強さで出し,それぞれの周波数におけるその患者の聴力の閾値(知覚できる最小の音の大きさ)を測定する。それぞれの耳での聴力は,気導(イヤホンを使用)では125または250Hzから8000Hzまで,また骨導(乳様突起または額に当てた発振器を使用)では4kHzまで検査される。検査の結果はオージオグラムと呼ばれるグラフにプロットされるが(オージオグラムの図を参照),これは,各周波数における患者の聴力閾値と正常な聴力の差を示すものである。この差はdB単位で測定される。正常な閾値を0dB聴力レベル(Hl)とし,患者の閾値が25dB Hlを超える場合に難聴があるとみなされる。大きな検査音を必要とするような難聴の場合,片方の耳に提示した大きな音が,もう一方の耳に聞こえてしまうことがある。このような場合は,通常は狭帯域の雑音から成るマスキング音を非検側の耳に提示して,非検側の耳を隔離する。

語音聴力検査には,語音聴取閾値(SRT)および単語認識スコアが含まれる。SRTは,語音が認識される音の強さの尺度である。SRTの測定では,検者が患者に特定の音の強さで単語のリストを提示する。これらの単語は通常,「railroad」,「staircase」,「baseball」などのように,等しいアクセントの2音節(強強格)から成る。検者は,患者が単語の50%を正しく繰り返したときの音の強さを記録する。SRTは,日常会話の周波数(例,500,1000,2000Hz)における平均聴力レベルに近い。

単語認識スコアは,様々な語音あるいは音素を弁別する能力を検査する。これは,音声学上正しく調整された50個の単音節単語を,患者のSRTより35~40dB大きい強さで提示することにより測定する。単語のリストには,音素が日常英会話と同様の相対的出現頻度で含まれている。患者が正確に繰り返した単語の割合が検査スコアとなり,最適な聴き取り条件下で語音を理解する能力を示す。正常なスコアの範囲は90~100%である。単語認識スコアは,伝音難聴では音の強さのレベルが高くても正常であるが,感音難聴では全ての音の強さのレベルで低下する可能性がある。弁別能は,内耳性難聴よりも後迷路性難聴でさらに低い。完全な文の中での単語の理解に関する検査は,別の種類の認識検査であり,埋め込み型デバイス(補聴器による便益が不十分な場合)の候補者の評価にしばしば使用される。

ティンパノメトリーは,音のエネルギーに対する中耳のインピーダンスを測定するものであり,患者の努力を必要としない。一般的には小児における滲出性中耳炎のスクリーニングに用いられる。音源,マイクロホン,気圧調整器を内蔵したプローブを,気密性のシールを用いて外耳道に密着させて差し込む。外耳道内の気圧を変化させながら,プローブマイクロホンが鼓膜からの反射音を記録する。正常では,外耳道の気圧が大気圧に等しいときに,中耳のコンプライアンスが最大となる。異常なコンプライアンスのパターンは,特異的な解剖学的障害を示唆する。耳管閉塞や滲出性中耳炎がある場合,最大コンプライアンスは外耳道圧が陰圧のときに生じる。キヌタ骨長脚の壊死や転位などで耳小骨連鎖が離断した場合,中耳のコンプライアンスは過剰になる。耳硬化症におけるアブミ骨固着などで耳小骨連鎖が固着すると,コンプライアンスは正常かまたは減少することがある。

アブミ骨筋反射とは,大きな音に反応して生じるアブミ骨筋の収縮であり,これによって鼓膜のコンプライアンスを変化させ,中耳を音響外傷から保護する。音を提示し,鼓膜の動きで示される中耳のインピーダンスに変化が生じる音の強さを測定することで反射を検査する。反射の消失は,中耳の疾患または聴神経の腫瘍を示唆している可能性がある。伝音難聴があれば,アブミ骨筋反射が消失する。さらに,顔面神経がアブミ骨筋を支配しているため,顔面神経麻痺もこの反射を消失させる。

聴力が正常な患者の右耳のオージオグラム

右耳の正常なオージオグラム。縦の線は検査される周波数(125~8000Hz)を示す。横の線には,その音が聞こえると患者が答えた閾値を記録する。

正常な閾値は0dB +/ 10dBである。聴力閾値が20dB未満の患者は,平均以上の聴力をもつとみなされる。dBが大きくなるほど音は大きくなり,聴力は悪くなる。

「○」は右耳の気導を示す標準的な記号である;「X」は左耳の気導を示す標準的な記号である。「<」は右耳のマスキングなしの骨導を示す標準的な記号である;「>」は左耳のマスキングなしの骨導を示す標準的な記号である。

マスキングありとなしの両方の値が必要な理由は,片方の耳にもう一方の耳へ提示された音が聞こえていないことを確認するためである(もう一方の耳へ提示された音を聞いて偽の値が出ないように,片方の耳をマスキングする)。

高度な検査がときに必要とされる。神経学的診察で異常がみられる患者,または聴覚検査で語音弁別能の低値,非対称性の感音難聴,もしくはその合併が示された患者で病因が不明な場合には,小脳橋角部の病変を検出するためのガドリニウム造影頭部MRIが必要になる場合がある。

骨腫瘍または骨融解が疑われる場合にはCTを施行する。グロムス腫瘍などの血管異常が疑われる場合には,MRアンギオグラフィー(MRA)および静脈造影を施行する。

聴性脳幹反応は,表面電極を使用して,他の検査では反応を示せない人の音刺激に対する脳波の反応をモニタリングする。

蝸電図は,電極を鼓膜上または鼓膜を貫通して留置し,蝸牛および聴神経の活動を測定するものである。これは,浮動性めまいのある患者の評価およびモニタリングに使用でき,覚醒している患者で使用可能であり,手術中のモニタリングにおいて有用である。

耳音響放射検査では,通常は外耳道に置かれた音刺激に反応して蝸牛の外有毛細胞から生じる音を測定する。耳音響放射とは,要するに内耳の外有毛細胞の活性化によって起こる弱いエコーである。耳音響放射は,新生児および乳児の難聴のスクリーニングや,聴器毒性のある薬剤(例,ゲンタマイシン,シスプラチン)を服用している患者の聴力のモニタリングに使用される。

聴覚中枢の評価では,変質した,または歪んだ語音の弁別能,対側の耳に競合するメッセージを与えたときの弁別能,それぞれの耳に提示された不完全または部分的なメッセージを意味のあるメッセージに融合させる能力,両耳に同時に音刺激を与えたときの音源定位能力を測定する。この検査は,読字またはその他の学習上の問題がある小児,および聞こえてはいるが理解していないように思われる高齢者など,特定の患者で行うべきである。

難聴の小児では,難聴における多くの遺伝的原因は眼の異常を引き起こすため,追加の検査として眼科検査を含めるべきである。原因不明の難聴の小児では,QT延長症候群の有無を確認するために心電図検査も行うべきであり,さらに遺伝子検査も行うことがある。

難聴の治療

難聴の原因を同定し,治療すべきである。治療下にある疾患が重症であり,さらなる難聴のリスクを許容する必要がある場合を除き(通常,がんまたは重度の感染症),聴器毒性のある薬剤は中止するか,減量すべきである。薬物濃度のピーク値およびトラフ値に注意することが,リスクを最小化するために必須であり,すべての患者で注意を払うべきである。腎機能障害のある患者では,聴器毒性のリスクを最小限に抑えるため,薬物濃度のピーク値およびトラフ値に細心の注意を払いながら用量を調節する必要がある(例,アミノグリコシド系抗菌薬の投与に関する留意事項を参照)。アミノグリコシド系抗菌薬への感受性を高めるミトコンドリアの遺伝的異常がいくつかあり,それらを遺伝子スクリーニングで同定できる。

中耳の滲出液は,鼓膜切開術により排出可能であり,鼓膜チューブの挿入により再蓄積を予防できる。耳管または外耳道を閉塞する良性腫瘍(例,アデノイド肥大,鼻茸)および悪性腫瘍(例,上咽頭癌,副鼻腔癌)は切除できる。自己免疫疾患に起因する難聴は,コルチコステロイドに反応することがある。

鼓膜もしくは耳小骨の損傷または耳硬化症には,再建手術が必要になる場合がある。難聴を引き起こしている脳腫瘍では,一部の症例で腫瘍の切除または放射線照射を行い聴力を温存しうる。

難聴の原因の多くは治癒せず,治療では,補聴器を用いて,また高度から重度の難聴の場合は人工内耳により,難聴を補う。さらに,様々な対処機構(coping mechanism)が役立つ場合がある。

補聴器

補聴器による音量の増幅は,多くの人の助けとなる。補聴器は聴力を正常に回復させることはないが,コミュニケーションはかなり改善できる。増幅回路の進歩により,増幅される音はより自然な音質となっており,また聴き取りの環境(例,うるさい環境および複数の話者がいる環境)を考慮した,反応性に優れる「スマートな」増幅機能が備わっている。医師は補聴器の使用を勧め,耳の悪い人が補聴器をつけるのは目が悪い人が眼鏡を掛けるのと同じだという例えを用いるなどして,補聴器使用を依然として妨げている社会的な不名誉感を患者が克服できるよう手助けすべきである。補聴器使用のさらなる普及を制限する他の因子としては,費用や不快感などがある。

全ての補聴器には,位置は異なるものの,マイクロホン,増幅器,スピーカー,イヤホン,および音量調節器が備わっている。補聴器の選択および調整には,言語聴覚士が参加すべきである。

最良の機種を,その患者に特有の難聴のパターンに合わせて調整する。例えば,高周波の難聴が主である場合には,単純な増幅は有益ではなく,聞こえてくる不明瞭な発話の音が大きくなるだけの場合があり,このような場合には,通常,高周波を選択的に増幅する補聴器が必要である。一部の補聴器は,イヤモールドに穴があり,高周波の音波が通過しやすくなっている。また,オージオグラム上に示された難聴に,より正確に対応した増幅を可能にするため,複数の周波数チャンネルを備えたデジタル音声処理機能を備えているものもある。

補聴器使用者にとって,電話の使用が困難なことがある。一般的な補聴器は,耳を受話器にあてるとキーンという音を生じる。一部の補聴器はスイッチ付きの電話用コイルを備えており,スイッチでマイクロホンがオフになり,電話用コイルと電話機内のスピーカーの磁石が電磁的につながる。

中等度から高度の難聴には,耳介の後ろに取り付けて柔らかいチューブでイヤモールドと接続する,耳かけ型(イヤレベル型)補聴器が適切である。挿耳型補聴器は全てがイヤモールドの中に入っており,あまり目立つことなく外耳と外耳道の中に収まる;これは軽度から中等度の難聴に適切である。高周波に限定された軽度の難聴の場合は,外耳道が完全に開いている耳かけ型補聴器の装着が最も快適である。挿耳型補聴器は,外耳道にすっぽり入り,他の型の補聴器を拒否する多くの患者にとって,美容上受け入れやすいものであるが,一部の患者(特に高齢者)には操作が難しい。

CROS補聴器(contralateral routing of signals)は,片側性の高度難聴に対してときに用いられる;補聴器のマイクロホンを機能していない耳に装着し,音はコードまたは無線通信機によって,機能している耳に送られる。この装置により,装用者は機能していない耳の側からの音を聞くことができ,音の位置を同定する能力がある程度改善される。良聴耳にもいくぶんの難聴がある場合は,両耳用CROS(BiCROS)補聴器を用いて両側からの音を増幅できる。

箱型補聴器は重度難聴に適している。箱型補聴器はシャツのポケットや装着具に入れて身につけ,イヤーピース(レシーバー)にコードで接続されており,レシーバーはプラスチックの挿入具(イヤモールド)で外耳道にあてられる。

骨導補聴器は,外耳道閉鎖症や持続性の耳漏のように,イヤモールドやチューブを使用できないときに使用される。ゴムバンドを用い,通常は乳突部上で頭に発振器を当て,音が頭蓋骨を通じて蝸牛へ伝導される。骨導補聴器は,気導補聴器よりも多くの電力を必要とし,音を歪ませやすく,付け心地が悪い。一部の骨導補聴器(埋め込み型骨導補聴器[BAHA])は外科的に乳様突起に埋め込まれるため,ゴムバンドによる不快感および目立つことを回避できる。

人工内耳

高度の部類の難聴がある患者や,ある程度の残聴(生来のもの)はあるものの補聴器を使用しても連続的な発話に含まれる単語の半分以上が理解できない患者では,人工内耳が有益となる場合がある。手術の結果,残聴がいくらか失われることがある。しかしながら,たとえ残聴が失われたとしても,重度の難聴者においてさえ人工内耳により聴力が大幅に改善される可能性がある。

人工内耳は,蝸牛に埋め込まれた複数の電極を介して聴神経に直接電気信号を送る。体外のマイクロホンおよびプロセッサーが音波を電気パルスに変換し,それが体外誘導コイルから耳の後方上部の頭蓋骨内に埋め込まれた体内コイルへと,皮膚を通して電磁的に伝達される。体内コイルは,鼓室階に埋め込まれた電極に接続している。

人工内耳により,単語の抑揚および発話のリズムに関する情報が得られ,読話の助けとなる。大部分ではないにしても多くの人工内耳を埋め込んだ成人は,視覚的な手がかりなしで単語を弁別でき,電話での会話が可能である。人工内耳によって難聴者は環境音や警戒信号を聞き取り,弁別できるようになる。また,難聴者の声の調節を助け,難聴者の発話をより聞き取りやすいものにする。

人工内耳を使用した場合の転帰は様々であり,以下のようないくつかの因子に左右される。

  • 難聴の発症から人工内耳埋め込みまでの期間(短いほど転帰が良好)

  • 基礎にある難聴の原因

  • 蝸牛内における人工内耳の位置

脳幹インプラント

両側の聴神経が破壊された(例,両側性の側頭骨骨折または神経線維腫症による)患者または生まれつき蝸牛神経がない患者では人工内耳は選択肢とはならないが,このような患者では脳幹インプラントによりある程度聴力を回復できる;脳幹インプラントには電極が搭載されており,これらの電極は,人工内耳に使用される装置と同様の音声検出装置および音声処理装置に接続されている(ただし通常は人工内耳ほど良いものではない)。一般に,蝸牛神経のない状態で出生して脳幹インプラントの埋め込みを受けた小児は,前庭神経腫の切除後に埋め込みを受けた患者と比べて,より多くの聴力が回復する傾向がある。脳幹インプラントの成果は,読唇技能の補助から,読唇なしで言語を理解する能力(「open-set speech」の理解と呼ばれる)まで様々である。

補助的な戦略および技術

信号灯を備えた警報装置により,人はドアのベルが鳴っていること,火災報知器が鳴っていること,または乳児が泣いていることなどを知ることができる。赤外線信号またはFM電波信号を送信する特殊な音響装置は,映画館,教会,または競合する雑音のある場所での聞き取りに役立つ。多くのテレビ番組がクローズドキャプション(字幕)を提供している。電話でのコミュニケーション機器も利用できる。

読唇法または読話法は,音が聞こえるものの音の弁別が困難な人にとって,特に重要である。大部分の人は,たとえ正式な訓練を受けなくても,読唇法により有用な発話情報を得る。正常な聴力のある人でも,発話者が見えていれば,騒々しい場所での発話をより理解しやすい。この情報を利用するためには,聞き手が話者の口元を見ることができなければならない。医療従事者はこの問題に気を配り,聴力に障害のある人に話しかけるときには,常に適切な位置をとるべきである。話し手の唇の位置を観察することにより,話されている子音を認識でき,それにより,高周波の難聴がある患者の会話理解が改善される。読唇法は,コミュニケーションの最適化を目的とした,指導および監督下での練習のために,同境遇の同年輩者のグループが定期的に集まるような聴覚リハビリテーション講習で学習できる。

困難な状況を是正または回避することにより,聴き取りの環境をよりコントロールできる。例えば,レストランには,混雑していない,より静かな時間帯に行くとよいまた,外の音をある程度遮断するボックス席を希望することもできる。直接の会話では,自分の方に顔を向けて話すように頼むこともできる。電話での会話の最初に,聴力に障害があることを相手に伝えることもできる。会議では,磁気誘導ループ,赤外線,またはFMの技術を利用して,マイクロホンから患者の補聴器に音が送られる補聴システムの使用を話し手に依頼できる。

重度の難聴がある人は,しばしば手話を使ってコミュニケーションをとる。American Sign Language(ASL)が米国で最も一般的な手話である。視覚入力を利用するその他の言語的コミュニケーション方法には,Signed English,Signing Exact English,およびCued Speechなどがある。全世界には300を超える手話が存在すると推定されており,異なる国,文化,および村落にそれぞれ特有の形態の手話がある。

片側難聴

片側難聴(SSD)の患者には特別な困難がある。1対1の状況では,聴覚および発話の理解は比較的影響を受けない。しかし,騒々しい環境下または複雑な音響環境下(例,教室,パーティー,会議)では,片側難聴の患者は効果的に聴き取りおよびコミュニケーションを行うことができない。さらに,片方の耳からしか聞こえない患者は,音の発生源の位置を特定できない。「頭部陰影」効果とは,頭蓋骨が聞こえない側からの音が聞こえる耳に届くのを妨げることである。これは,聞こえる耳に届く音のエネルギーを最大で30dB喪失させうる(参考のため,市販の耳栓は聴力を22~32dB低下させるが,これとおよそ同等である)。多くの患者にとって,片側難聴は生活を変えるものであり,仕事および社会的に重大な障害につながる。

片側難聴の治療法としては,聞こえない側からの音を拾い,音のエネルギーを失うことなく聞こえる側の耳に伝達する,CROS(contralateral routing of signal)補聴器または埋め込み型骨導補聴器などがある。これらの技術により騒々しい環境下での聴き取りは改善するが,音源定位はできない。片側難聴の患者では,人工内耳の使用が増え,良好な成績を収めている(特に聞こえない耳に重度の耳鳴もある場合);人工内耳は音源定位も可能にすることが示されている。

小児における難聴の治療

難聴の小児の場合,原因の治療および補聴器の装用に加え,適切な治療法により,言語の発達を支援する必要がある。自然に言語を学ぶには言葉を聞かなければならないため,大部分の難聴児は特殊な訓練をしない限り言語が発達せず,訓練は難聴が判明した際すぐに始めるのが理想的である(流暢に手話を使う難聴の親に育てられた難聴児は例外)。難聴の乳児には何らかの形の言語情報を与えなければならない。例えば,人工内耳が使用できない場合は,視覚に頼る手話により,その後の口頭言語発達の基礎を築くことができる。しかし,小児にとって,音響刺激の統合,ならびに発話および言語の繊細かつ微妙な理解の発達を可能とするには,発話の音声(音素)を聞かせる以外に代わりとなる手段はない。

生後わずか1カ月の乳児で重度の両側難聴があり,補聴器でも便益が得られない場合には,人工内耳埋め込みの対象となる場合がある。人工内耳は,先天性または後天性の難聴がある小児の多くで,聴覚によるコミュニケーションを可能にするが,一般に,すでに言語が発達している小児の方がより効果的である。髄膜炎後に難聴になった小児では,最終的に内耳の骨化が生じ,それにより人工内耳の埋め込みが妨げられる;このような小児には,人工内耳を適切な位置に埋め込み,有効性を最大化するため,可能な限り早期に人工内耳を埋め込むべきである。腫瘍により聴神経が破壊された小児には,脳幹聴覚刺激電極の埋め込みが役立つことがある。人工内耳を埋め込んだ小児は,人工内耳を埋め込んでいない小児または人工内耳を埋め込んだ成人に比べて,髄膜炎のリスクが若干高くなる可能性がある。

片側難聴の小児には,教室におけるFM聴覚訓練器などの特殊なシステムの使用が許容されるべきである。これらのシステムでは,教師がマイクロホンに向かって話し,そこから小児の健側耳に装着した補聴器に信号が送られ,小児の騒々しい環境下で話を聞き取る力が著しく損なわれた状態が改善される。

難聴の予防

難聴の予防は,主に騒音曝露の時間と強さの制限である。大きな音への曝露が避けられない場合は,イヤープロテクタ(例,外耳道内のプラスチックの耳栓,または耳ごと覆うグリセリンで満たされたイヤーマフ)を装用する必要がある。米国労働省(Department of Labor)の労働安全衛生局(Occupational Safety and Health Administration:OSHA)およびその他の多くの国の同様の機関が,人が騒音に曝されても差し支えない時間の長さに関する基準を定めている(OSHA's occupational noise exposure standardsを参照)。騒音が大きいほど,許容できる曝露の時間は短い。

老年医学的重要事項

典型的には,高齢者は進行性の聴力低下(老人性難聴)を経験する。米国では,聴覚障害を有する人の40%が高齢者である。65歳以上の3分の1以上および75歳以上の半分以上に聴覚障害がみられ,聴覚障害はこの集団で最も一般的な感覚器障害である。それでもなお,高齢者の難聴は評価すべきであり,単純に加齢に原因を帰するべきではない;腫瘍,神経学的障害もしくは自己免疫疾患,または容易に是正可能な伝音難聴である可能性がある。また,最近の研究では,高齢者の難聴は認知症を促進しうることが強く示唆されており,難聴を適切に是正することにより認知症が軽減される可能性がある。

老人性難聴

老人性難聴は感音難聴であり,おそらくは,聴覚系の様々な構成要素における年齢関連の悪化および細胞死,ならびに騒音への慢性曝露による影響の合併に起因する。

通常,難聴は初期には最も高周波の音(18~20kHz)に現れ,次第に,より低周波の音にみられるようになる;通常,およそ55~65歳で(ときとしてより早い)重要な2~4kHzの範囲が障害され,臨床的に問題となる。高周波の聴力が失われることにより,会話の理解が著しく障害される。会話の音の大きさは普通に感じられても,特定の子音(例,C,D,K,P,S,T)が聞き取りにくくなる。子音は発話の認識において最も重要な音である。例えば,「shoe」,「blue」,「true」,「too」,または「new」が発話される場合,老人性難聴のある人の多くは「oo」の音を聞くことができるが,子音の区別ができないため,大部分はどの単語が発話されたかを認識するのが困難である。このように子音の区別ができないことで,老人性難聴の患者は話し手がもごもご話しているように感じる。話し手が大きな声で話そうとすると,通常は母音(周波数が低い)が強調されるため,言語認識はほとんど改善されない。会話の理解は,背景雑音があるときは特に困難である。

スクリーニング

高齢者の多くは難聴を訴えないため,高齢者にはスクリーニング手法がしばしば役立つ。1つの手法に,Hearing Handicap Inventory for the Elderly–Screening Versionがあり,以下を尋ねる:

  • 聴力に問題があるために,人と会ったときに気まずい思いをしますか。

  • 聴力に問題があるために,家族と話しているときに苛立ちを感じますか。

  • ささやき声が聞き取りにくいですか。

  • 聴力の問題によりハンディキャップを負っていると感じますか。

  • 聴力に問題があるために,友人,親類,隣人を訪ねたときに困りますか。

  • 聴力に問題があるために,礼拝に出席する頻度が希望より低くなっていますか。

  • 聴力に問題があるために,家族と口論になりますか。

  • 聴力に問題があるために,テレビやラジオの音が聞き取りにくいですか。

  • 聴力に問題があるために,私生活や社会生活が妨げられていると感じますか。

  • 聴力に問題があるために,親類や友人とレストランにいるときに困りますか。

「いいえ」を0点,「ときどき」を2点,「はい」を4点でスコアをつける。スコアが10を超える場合は,有意な聴覚障害が示唆され,フォローアップが必要である。

難聴の要点

  • 耳垢,遺伝性疾患,感染,加齢,および騒音への曝露が最も頻度の高い原因である。

  • 難聴のある全ての患者に聴覚検査を実施すべきである。

  • 脳神経の障害およびその他の神経脱落症状には注意すべきであり,画像検査が必要である。

難聴についてのより詳細な情報

以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. National Institute on Deafness and Other Communication Disorders: Information for patients and providers regarding hearing loss and other communication disorders, spanning functions of hearing, balance, taste, smell, voice, speech, and language

  2. Center for Disease Control and Prevention—Hearing Loss in Children: Information for parents about programs and services for children with hearing loss

  3. The National Institute for Occupational Safety and Health (NIOSH)—Noise and Hearing Loss Prevention: Reviews occupational regulations and standards, noise control strategies, and hearing protective devices, as well as hearing loss prevention programs, risk factors, and information for specific industries and occupations

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