スティーブンス-ジョンソン症候群 (SJS) および中毒性表皮壊死融解症 (TEN)

執筆者:Julia Benedetti, MD, Harvard Medical School
レビュー/改訂 2020年 7月
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スティーブンス-ジョンソン症候群と中毒性表皮壊死融解症は,重度の皮膚過敏反応である。薬剤,特にサルファ剤,抗てんかん薬,および抗菌薬が最も頻度の高い原因である。斑が急速に拡大して融合し,表皮の水疱,壊死,および剥離へとつながる。診断は通常,当初の病変の外観と臨床的な症状群から明らかである。治療は支持療法であり,シクロスポリン,プラズマフェレーシスまたは免疫グロブリン静注療法,早期のコルチコステロイド療法,および腫瘍壊死因子α阻害薬が用いられている。死亡率は小児で7.5%,成人で20~25%にも及ぶが,早期に治療を行えば低下する傾向がある。

スティーブンス-ジョンソン症候群(SJS)と中毒性表皮壊死融解症(TEN)は,分布を除けば臨床的に類似している。一般的に受け入れられている定義の1つによれば,変化を認める領域が体表面積の10%未満であればSJS,30%を超えればTENとなり,病変部が体表面積の10~30%であれば,SJS/TENのオーバーラップとみなす。

これらの疾患は,百万人当たり1~5人の頻度で発生する。両疾患の発生率,重症度,またはその両方は,骨髄移植を受けた患者,Pneumocystis jiroveciiに感染したHIV感染患者,全身性エリテマトーデス患者,および慢性リウマチ性疾患の患者で高いことがある。

SJSおよびTENの病因

SJSの50%以上およびTENの最大95%の症例は,薬剤によって誘発されたものである。特に頻度の高い原因薬剤としては以下のものがある:

  • サルファ剤(例,コトリモキサゾール,サラゾスルファピリジン)

  • その他の抗菌薬(例,アミノペニシリン系[通常はアンピシリンまたはアモキシシリン],フルオロキノロン系,セファロスポリン系)

  • 抗てんかん薬(例,フェニトイン,カルバマゼピン,フェノバルビタール,バルプロ酸,ラモトリギン)

  • 非ステロイド系抗炎症薬(例,ピロキシカム,メロキシカム)

  • 抗レトロウイルス薬(例,ネビラピン)

  • その他の個々の薬剤(例,アロプリノール,クロルメザノン)

薬剤によるものではない症例の原因としては以下のものがある:

  • 感染症(大半が肺炎マイコプラズマ[Mycoplasma pneumoniae])

  • 予防接種

  • 移植片対宿主病

まれに原因を同定できないことがある。

SJSおよびTENの病態生理

スティーブンス-ジョンソン症候群および中毒性表皮壊死融解症の正確な発症機序は不明であるが,ある仮説によれば,一部の患者では薬物代謝の異常(例,反応性に富む代謝物が除去できない)により角化細胞内で薬物抗原に対するT細胞性の細胞傷害反応が惹起されると考えられている。水疱形成の重要な媒介因子としてCD8陽性T細胞が同定されている。

細胞傷害性T細胞とナチュラルキラー細胞から放出されるグラニュライシンが角化細胞の細胞死に何らかの役割を果たしている可能性が知見から示唆されており,水疱内の液体のグラニュライシン濃度が重症度と相関する。SJS/TEN患者ではインターロイキン15も増加することがことが示されており,また,インターロイキン15はグラニュライシンの産生を亢進させることが判明している。別の仮説では,Fas(アポトーシスを誘導する細胞表面受容体)とそのリガンド(特に単核球から放出されたFasリガンドの可溶型)との相互作用により細胞死および水疱形成が起きるとされている。またSJS/TENに対する遺伝的素因が示唆されている。

SJSおよびTENの症状と徴候

原因薬剤の開始から1~3週以内に,倦怠感,発熱,頭痛,咳嗽,角結膜炎といった前駆症状が出現する。その後,しばしば標的状の斑が通常は顔面,頸部,および体幹上部に突然出現する。それらの斑は同時に他の部位にも出現し,融合して大きな弛緩性水疱となり,1~3日かけて剥離する。爪および眉毛が表皮とともに脱落することもある。手掌および足底が侵されることもある。皮膚疼痛,粘膜疼痛,および眼痛がよくみられる。一部の例では,びまん性の紅斑が中毒性表皮壊死融解症で最初にみられる皮膚異常となる。

スティーブンス-ジョンソン症候群(SJS)
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この写真には,SJS患者の皮膚と眼および口腔粘膜に生じた紅斑性の発疹および水疱が写っている。
DR P. MARAZZI/SCIENCE PHOTO LIBRARY

中毒性表皮壊死融解症の重症例では,圧迫を加えた部分で表皮が大きなシート状に剥離し(ニコルスキー現象),疼痛を伴う滲出性の紅斑が生じた皮膚が露出する。最大90%の症例では,皮膚の剥離とともに,疼痛を伴う口腔内の痂皮およびびらん,角結膜炎,ならびに性器の問題(例,尿道炎,包茎,腟癒着)が生じる。気管支上皮も剥離することがあり,咳嗽,呼吸困難,肺炎,肺水腫,および低酸素血症を来す。糸球体腎炎および肝炎が発症することもある。

SJSおよびTENの診断

  • 臨床的評価

  • しばしば皮膚生検

診断はしばしば病変の外観と症状の急速な進行から明らかである。剥離した皮膚を組織学的に検査すれば,壊死を来した上皮が認められ,鑑別に有用な特徴となる。

スティーブンス-ジョンソン症候群(SJS)および早期中毒性表皮壊死融解症(TEN)の鑑別診断としては,多形紅斑,ウイルス性発疹,その他の薬疹などがあるが,SJS/TENは病態が進展し,著明な疼痛と皮膚の剥離を特徴とすることから,通常は臨床的に鑑別可能である。後期TENの鑑別診断としては以下のものがある:

小児では,TENは頻度が比較的低く,ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群との鑑別が必要である。ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群の特徴としては,粘膜病変がないこと,TENの危険因子(例,薬歴)がないこと,ブドウ球菌感染症の臨床的疑いがあることなどが通常みられる。

SJSおよびTENの予後

重症の中毒性表皮壊死融解症は広範な熱傷に類似する;急速に状態が悪化し,摂食や開眼ができない場合や,体液および電解質の大量の喪失を来す場合がある。感染,多臓器不全,および死亡のリスクが高い。早期に治療すれば,生存率は90%に達する。中毒性表皮壊死融解症の重症度スコア( see table 中毒性表皮壊死融解症の重症度スコア(Severity-of-Illness Score for Toxic Epidermal Necrolysis:SCORTEN))では,病院受診後最初の24時間に7つの独立した危険因子を系統的にスコア判定することにより,個々の患者の死亡率を推定する。

表&コラム

SJSおよびTENの治療

  • 支持療法

  • シクロスポリン

  • ときにコルチコステロイド,プラズマフェレーシス,免疫グロブリン静注療法(IVIG),または腫瘍壊死因子(TNF)α阻害薬

スティーブンス-ジョンソン症候群および中毒性表皮壊死融解症が早期に診断され,皮膚科入院病棟または集中治療室で治療されれば,治療は最もうまくいくが,重症例では熱傷ユニットでの治療が必要になる場合もある。眼病変が生じた患者には,眼科医へのコンサルテーションと特殊な眼科ケアが必須である。原因である可能性がある薬剤は直ちに中止すべきである。感染に対する曝露を最小限に抑えるために患者を隔離し,必要に応じて輸液,電解質,血液製剤,栄養補助剤の投与を行う。スキンケアとしては,細菌二次感染に対する迅速な治療と,重度熱傷に対するものと同じ連日の創傷ケアがある。予防を目的とする抗菌薬の全身投与については議論があり,しばしば避けられる。

スティーブンス-ジョンソン症候群および中毒性表皮壊死融解症に対する薬物治療については議論がある。シクロスポリン(3~5mg/kg,経口,1日1回)はCD8陽性細胞の機能を阻害するが,一部の例では活動性疾患の持続期間を2~3日短縮することが示されており,死亡率を低減できる可能性がある。コルチコステロイドの全身投与については依然として議論がある。感染症の発生率や敗血症がマスクされるリスクを高めることから,死亡率の上昇につながると多くの専門医が考えていた。しかしながら,早期のコルチコステロイド療法により治療成績が改善したことを示す報告もある。

プラズマフェレーシスは,反応性のある薬物代謝物や抗体を除去できるため,考慮してもよい。早期の高用量IVIG(2.7g/kg,3日間)では,抗体およびFasリガンドを阻害することができる。しかしながら,中毒性表皮壊死融解症に対する高用量IVIGについては一部の初期研究で注目すべき結果が得られているものの,その後に小さなコホートで実施された臨床試験で矛盾する結果が報告されており,後ろ向きの解析では,改善は示唆されず,むしろ予想より高い死亡率が示唆された(1)。

TNF-α阻害薬のインフリキシマブおよびエタネルセプトが炎症の軽減に役立つ可能性がある。

サリドマイドについても検討されてきたが,死亡率を上昇させるため,現在では禁忌となっている。

治療に関する参考文献

  1. 1.Kirchhof MG, Miliszewski MA, Sikora S, et al: Retrospective review of Stevens-Johnson syndrome/toxic epidermal necrolysis treatment comparing intravenous immunoglobulin with cyclosporine.J Am Acad Dermatol 71(5):941–947, 2014.doi: 10.1016/j.jaad.2014.07.016

SJSおよびTENの要点

  • スティーブンス-ジョンソン症候群(SJS)症例の50%以上と中毒性表皮壊死融解症(TEN)症例の最大95%では薬剤が原因であるが,感染,予防接種,および移植片対宿主病も原因となりうる。

  • 臨床的特徴(例,水疱に進行する標的状病変,眼および粘膜病変,ニコルスキー現象,シート状の表皮脱落)が決定的でない場合は,生検により確定診断を得る(壊死を来した上皮が認められる)。

  • 早期の治療により,本来は高い死亡率を低減できる場合が多い。

  • 軽症例を除き,SJS/TENは熱傷ユニットにおいて,集中的な支持療法により治療する。

  • 眼病変がある場合は,眼科医へのコンサルテーションを行う。

  • 重症例にはシクロスポリンのほか,ときにプラズマフェレーシスを考慮する。

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