不明熱(FUO)とは,直腸温で38.3℃(101°F)以上の発熱のうち,自然に軽快する一過性の疾患,急速に死に至る疾患,ならびに明確な局所の症候または一般的な検査(胸部X線,尿検査,血液培養など)の異常を示す疾患のいずれにも起因しないものである。
現在,不明熱は4つのカテゴリーに分類されている:
古典的不明熱:3日間の入院検査または3回以上の外来受診で原因が同定されない3週間を超える発熱
医療関連型不明熱(Healthcare-associated FUO):入院時に感染症の発症または潜伏がなかった急性期治療を受けている入院患者の発熱で,3日間の適切な評価後も診断が確定しない場合
免疫不全型不明熱(immune-deficient FUO):好中球減少症やその他の 免疫不全 免疫不全疾患の概要 免疫不全疾患では,感染症,自己免疫疾患,リンパ腫,その他のがんなど,様々な合併症がみられたり,そのような合併症が発生しやすくなったりする。原発性免疫不全症は遺伝性であり先天性となる可能性があり,続発性免疫不全症は後天性でありはるかに多くみられる。 免疫不全症の評価には病歴,身体診察,および免疫機能の検査が含まれる。どのような検査を行うかは... さらに読む 患者の発熱で,3日間の適切な評価後(48時間後の培養陰性を含む)も診断が確定しない場合
HIV関連型不明熱(HIV-related FUO): HIV ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症は,2つの類似したレトロウイルス(HIV-1およびHIV-2)のいずれかにより生じ,これらのウイルスはCD4陽性リンパ球を破壊し,細胞性免疫を障害することで,特定の感染症および悪性腫瘍のリスクを高める。初回感染時には,非特異的な熱性疾患を引き起こすことがある。その後に症候(免疫不全に関連するもの)が現れ... さらに読む 感染症が確定診断された外来患者における3週間を超える発熱またはHIV感染症が確定診断された入院患者における3日間を超える発熱で,適切な評価後も診断が確定しない場合
FUOの病因
感染症(25~50%)
結合組織疾患(10~20%)
腫瘍(5~35%)
その他(15~25%)
不明熱の原因で最も頻度が高いのは感染症である。HIV感染患者では,日和見感染症(例,結核,非定型抗酸菌症,播種性真菌感染症,サイトメガロウイルス感染症)を考慮すべきである。
よくみられる結合組織疾患には,全身性エリテマトーデス,関節リウマチ,巨細胞性動脈炎,血管炎,成人の若年性関節リウマチ(成人スチル病)などがある。
原因として最も多くみられる腫瘍は,リンパ腫,白血病,腎細胞癌,肝細胞癌,および転移性上皮悪性腫瘍である。しかしながら,腫瘍が不明熱の原因である頻度は減少してきており,その理由はおそらく,初期評価に広く用いられるようになった超音波検査やCTにより腫瘍が検出されやすくなったことによるものと考えられる。
その他の原因で重要なものとしては,薬物反応,深部静脈血栓症,反復性肺塞栓症,サルコイドーシス,炎症性腸疾患,詐熱などがある。
成人の約10%では,不明熱の原因は同定されない。
FUOの評価
不明熱のように難解な症例では,前医によって情報が完全または正確に収集されていると仮定することは通常,誤りである。医師は以前に患者が報告したことを把握して(矛盾点を解決して)おくべきであるが,以前に報告された病歴(例,家族歴,社会歴)の詳細をそのまま受け入れるべきではない。検討を怠ったことによる最初の誤りが入院中何日にもわたり多くの医師に引き継がれることで,非常に多くの不必要な検査が施行されることになる。最初に徹底的な評価を行った場合でさえ,繰り返し質問をすることで患者はしばしば新しい詳細を思い出すことがある。
逆に,以前の検査結果を無視してはならないし,以前と異なる結果が得られる可能性(例,患者の状態が変化したため,疾患の発生が緩徐であるため)を考慮することなく,検査を繰り返してはならない。
病歴
病歴聴取は,局所症状と原因を示唆する事実(例,旅行,職業,家族歴,媒介動物への曝露,食事歴)を明らかにすることを目的とする。
現病歴の聴取では,発熱の持続期間とパターン(例,間欠的,持続的)を対象に含めるべきである。2日毎に起こる発熱(三日熱)または3日毎に起こる発熱(四日熱)は,危険因子を有する患者ではマラリアを示唆している可能性があるが,発熱パターンは通常,不明熱の診断にとってほとんどまたは全く意義がない。局所の疼痛は,しばしば基礎疾患の部位(原因ではないが)を示唆する。まずは全身的な状態について尋ねた後,各部位の不快感について具体的に質問するべきである。
システムレビュー(review of systems)では,体重減少,食欲不振,疲労,盗汗,頭痛などの非特異的症状を対象に含めるべきである。同様に,結合組織疾患(例,筋肉痛,関節痛,発疹)および消化管疾患(例,下痢,脂肪便,腹部不快感)の症状も検索すべきである。
既往歴の聴取では,がんや結核,結合組織疾患,アルコール性肝硬変,炎症性腸疾患,リウマチ熱,甲状腺機能亢進症など,発熱を引き起こすことが知られている疾患を対象に含めるべきである。易感染状態(例,HIV感染症,がん,糖尿病などの疾患に起因するもの,免疫抑制薬に起因するもの),構造的心疾患,尿路異常,手術,医療器具の留置(例,静脈ライン,ペースメーカー,人工関節)といった感染の素因となる疾患または因子に留意すべきである。
薬歴の聴取には,発熱を引き起こすことが知られている具体的な薬剤に関する質問を含めるべきである。
社会歴の聴取では,注射薬物使用,高リスクの性行為(例,無防備な性行為,複数のパートナー),感染者との接触(例,結核),旅行,媒介動物または媒介昆虫およびダニへの曝露の可能性といった感染の危険因子に関する質問を含めるべきである。喫煙,飲酒,化学薬品への職業曝露など,がんの危険因子も同定すべきである。
家族歴の聴取には,遺伝性の発熱原因(例,家族性地中海熱)に関する質問を含めるべきである。
医療記録をチェックして,過去の検査結果(特に特定の疾患を効果的に除外できるもの)を確認する。
身体診察
患者の全般的な外観,特に悪液質,黄疸,および蒼白に注意する。
皮膚を徹底的に視診して,局所の発赤(感染部位を示唆する)および発疹(例,全身性エリテマトーデスの頬部皮疹)がないか確認する;視診には会陰と足を含めるべきであり,これらの部位で感染が生じやすい糖尿病患者では特に注意が必要である。指尖部にみられる有痛性の紅斑性皮下結節(オスラー結節),手掌または足底の圧痛のない出血斑(Janeway病変),点状出血,爪下線状出血など,心内膜炎の皮膚所見についても確認すべきである。
全身(特に脊椎,骨,関節,腹部,甲状腺の部分)を触診して,圧痛,腫脹,または臓器腫大がないか確認する;直腸指診と内診も行う。歯を打診して,圧痛(根尖膿瘍を示唆する)がないか確認する。触診中は,所属リンパ節腫脹と全身性リンパ節腫脹に注意する;例えば,リンパ腫のびまん性リンパ節腫脹とは対照的に,所属リンパ節腫脹はネコひっかき病に特徴的である。
心臓を聴診して,心雑音(細菌性心内膜炎を示唆する)や摩擦音(リウマチ性疾患または感染症に起因する心膜炎を示唆する)がないか確認する。
不明熱のある患者では,ときに重要な身体的異常が微妙であったり微妙に見えたりすることがあるため,原因を推測するには身体診察を繰り返し行う必要がある場合もある(例,新たなリンパ節腫脹,心雑音,発疹,または側頭動脈の小結節形成と弱い拍動の検出)。
警戒すべき事項(Red Flag)
以下は特に注意が必要である:
易感染状態
心雑音
留置器具(例,静脈ライン,ペースメーカー,人工関節)の存在
流行地域への最近の旅行
所見の解釈
病歴聴取と身体診察を徹底的に行った場合,以下のようなシナリオが典型的である:
より一般的には,評価では不明熱の様々な原因でみられる非特異的所見しか検出されないが,検査方針の決定に役立つ危険因子(例,流行地域への旅行,媒介動物,媒介昆虫やダニへの曝露)が同定される。ときには,あまり特異的でない危険因子から疾患の種類が示唆されることもあり,例えば,食欲不振を伴わない体重減少は,通常は食欲不振を引き起こすがんよりも,感染症とよく一致する。可能性のある原因をさらに検索すべきである。
最も困難なシナリオは,非特異的な所見しかみられず,危険因子がないか複数の危険因子があるため,論理的思考に基づく段階的な検査アプローチに頼らざるを得ない場合である。最初の検査で鑑別診断を絞りこみ,以降の検査方針を決定する。
検査
過去の検査結果(特に培養)を再検討する。一部の微生物では,培養で陽性になるまでに長期間を要する場合がある。
できるだけ多くの臨床情報を活用して検査項目を絞りこむ( Professional.see table 不明熱の主な原因 不明熱の主な原因 )。例えば,自宅に引きこもった生活を送っている高齢の頭痛患者では,ダニ媒介性感染症やマラリアの検査は行わないが,流行地域までハイキングに行った若年の旅行者では,これらの疾患を考慮すべきである。高齢患者では巨細胞性動脈炎の評価が必要であるが,比較的若年の患者には不要である。
特異的な検査に加えて,通常は以下の検査も施行すべきである:
血算と白血球分画
赤血球沈降速度
肝機能検査
一連の血液培養(理想的には抗菌薬療法の開始前)
HIV抗体検査,RNA濃度測定,およびポリメラーゼ連鎖反応検査
ツベルクリン検査またはインターフェロンγ遊離試験
これらの検査は,たとえ早期に行った場合でも,役立つ傾向を示しうる。
尿検査,尿培養,および胸部X線(通常は施行済み)は,所見から必要と判断される場合にのみ再び施行する。
評価により同定された異常領域から採取できる体液または材料を全て培養する(例,細菌,抗酸菌,真菌,ウイルス,適応に応じて栄養要求性が複雑な細菌)。ポリメラーゼ連鎖反応や血清抗体価(急性期および回復期)などの微生物に特異的な検査は,網羅的なアプローチではなく,基本的には臨床的な疑いに基づいて施行したときに役立つ。
抗核抗体(ANA)やリウマトイド因子(RF)などの血清学的検査を施行して,リウマチ性疾患をスクリーニングする。
画像検査は症状と徴候を参考にして行う。典型的には不快感のある領域を撮影すべきであり,例えば,背部痛の患者では脊椎MRI(感染や腫瘍の有無を確認する),腹痛患者では腹部CTを施行する。ただし,たとえ局所の症候を認めなくとも,リンパ節腫脹や不顕性の膿瘍の有無を確認するために胸部,腹部,および骨盤CTを考慮すべきである。
血液培養が陽性であるか,心雑音や末梢徴候から心内膜炎が示唆される場合は,心エコー検査を施行する。
一般に,CTは腹部または胸部に限局する異常を描出するのに有用である。
中枢神経系に関連する不明熱の原因の大半は,CTよりMRIの方が高感度で検出できるため,中枢神経系に関連する原因を考慮する場合はMRIを施行すべきである。
Duplex法による静脈の画像検査は深部静脈血栓症の同定に有用となりうる。
インジウム111標識顆粒球を使用する核医学検査は,一部の感染または炎症プロセスの部位を特定するのに役立つことがある。この検査法は診断にほとんど貢献しないと考えられているため,全般的に用いられなくなっているが,その診断率はCTより高いと示唆した報告もある。
陽電子放出断層撮影(PET)も発熱の病巣検出に有用となりうる。
生検が可能な組織(例,肝臓,骨髄,皮膚,胸膜,リンパ節,腸管,筋肉)に異常が疑われる場合は,生検が必要となることがある。生検標本は病理組織学的に評価するとともに,細菌,真菌,ウイルスおよび抗酸菌培養を行うか,分子生物学的(ポリメラーゼ連鎖反応)検査に供するべきである。筋生検または発疹部分の皮膚生検により血管炎を確定診断できる可能性がある。原因不明の赤沈亢進がみられる高齢患者では,両側の側頭動脈生検により巨細胞性動脈炎を確定診断できる可能性がある。
FUOの治療
不明熱の治療は原因疾患に照準を合わせて行う。解熱薬は発熱の持続期間を考慮しながら慎重に使用すべきである。
老年医学的重要事項:不明熱
高齢者における不明熱の原因は通常,一般集団のそれと同様であるが,高齢者では結合組織疾患が同定される頻度が比較的高い。最も一般的な原因は以下のものである:
FUOの要点
古典的不明熱とは,38℃以上の直腸温が3週間を超えて持続し,かつ3日間の入院検査または3回以上の外来受診で原因が同定されない場合である。
同定される原因は,感染症,結合組織疾患,腫瘍,その他に分類できる。
評価は,個人的な事情に基づく危険因子と可能性の高い原因を特に考慮しながら,病歴および身体診察での所見を総合して行うべきである。