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ボツリヌス症

執筆者:

Larry M. Bush

, MD, FACP, Charles E. Schmidt College of Medicine, Florida Atlantic University;


Maria T. Vazquez-Pertejo

, MD, FACP, Wellington Regional Medical Center

レビュー/改訂 2019年 9月
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ボツリヌス症は,ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)の毒素による中毒であり,末梢神経が侵される。毒素を摂取,注射,または吸入すると,感染が成立せずともボツリヌス症を発症する可能性がある。症状は対称性で下行性の筋力低下と弛緩性麻痺を伴う対称性の脳神経麻痺であり,感覚障害はみられない。診断は臨床所見と検査室での毒素の同定による。治療は支持療法および抗毒素による。

C. botulinumは,ヒトに疾患を引き起こす複数のclostridium属細菌のうちの1種である。ボツリヌス症は生命を脅かすまれな疾患であり,ボツリヌス毒素が血行性に広がり,末梢神経終末でのアセチルコリンの放出を不可逆的に阻害することで発生する。ボツリヌス症は医学的な緊急事態であると同時に,ときに公衆衛生上の緊急事態となることもある。

ボツリヌス菌(C. botulinum)は8種類の神経毒素(A型からH型まで)を産生する。このうち5種類の毒素(A型,B型,E型,まれにF型およびH型)がヒトに疾患を引き起こす。ボツリヌス毒素は,胃酸およびタンパク質分解酵素による消化に抵抗性を示す高毒性のタンパク質である。米国で発生する食品を介したアウトブレイクの約50%はA型毒素に起因するものであり,次いでB型とE型が多くみられる。

A型毒素による疾患はミシシッピ川西部で,B型は東部諸州で,E型はアラスカおよび五大湖地域(E型中毒はしばしば魚および魚の加工品の摂取と関連する)で主に発生している。H型は知られている限りで最も強力な毒素である。

ボツリヌス症は,C. botulinumによって神経毒素がin vivoで産生されたとき,またはあらかじめ生成された神経毒素が外部から取り込まれたときに発生する。

in vivoで産生された毒素は以下の病態を引き起こす:

創傷性ボツリヌス症では,感染組織で神経毒素が産生される。

乳児ボツリヌス症および成人腸管定着ボツリヌス症では,芽胞が摂取され,神経毒素が消化管内で放出される。成人腸管定着ボツリヌス症は通常,免疫能が低下している成人にのみ発生する。

生成された神経毒素が体内に取り込まれた場合には,以下の病態が生じる:

  • 食餌性ボツリヌス症

  • 医原性ボツリヌス症

  • 吸入ボツリヌス症

食餌性ボツリヌス症:汚染食品中で産生された神経毒素が摂取されて発生する。

医原性ボツリヌス症:筋の過活動を軽減する治療法としてA型またはB型毒素が使用されているが,まれに美容目的での(ボツリヌス毒素の)注射後にボツリヌス症が発生することがある。

吸入ボツリヌス症:意図しない事故によって,あるいは生物兵器として意図的に,毒素がエアロゾル化されることがあるが,エアロゾル化した毒素が自然に発生することはない。

ボツリヌス菌(C. botulinum)の芽胞は熱耐性が高く,100℃で数時間の煮沸に耐えることができる。しかし,120℃で30分間の湿性温熱では死滅する。一方,毒素は熱で容易に破壊され,80℃で30分間の調理でボツリヌス症を予防できる。ボツリヌス菌(C. botulinum)は3℃の低温(すなわち冷蔵庫内で,例えば,真空パックされた魚介類の燻製の中)でもE型毒素を産生する可能性がある。

パール&ピットフォール

  • ボツリヌス菌(C. botulinum)は最低3℃の温度環境でE型毒素を産生することができるため,食品が汚染されている場合には,冷蔵庫での保存は予防法にならない。

毒素源

自家製の缶詰/瓶詰食品(特に酸性度の低いもの[pH > 4.5])が最も頻度の高い毒素源であるが,市販の調理済み食品もアウトブレイクの約10%に関与している。野菜(しかしトマトは通常原因とならない),魚,果物,および調味料が最も頻度の高い媒介物であるが,牛肉,乳製品,豚肉,鶏肉,その他の食品の関与も報告されている。海産物を介したアウトブレイクでは,その50%がE型によるものであり,残りはA型およびB型によるものである。近年では,缶詰/瓶詰以外の食品(例,アルミホイルに包まれたベイクドポテト,刻みニンニクのオイル漬け,パテサンドイッチ)による飲食店関連のアウトブレイクが発生している。

ときに,眼や皮膚の損傷部から毒素が吸収されることがあり,この場合は重篤な疾患が発生することがある。

ボツリヌス菌(C. botulinum)の芽胞は環境中に偏在しており,乳児ボツリヌス症のほとんどの症例が芽胞の摂取,典型的には蜂蜜の摂取によるものである。

滅菌されていない針で薬剤を注射したときにも,芽胞が体内に入ることがあり,創傷性ボツリヌス症となる可能性がある。汚染されたブラックタールヘロインを筋肉内または皮下に注射すること(skin popping)は,最もリスクの高い行為であり,ボツリヌス症やガス壊疽を引き起こす可能性がある。

ボツリヌス毒素が血中に入ると,どのようにして毒素が取り込まれたかにかかわらず,ボツリヌス症が発生する。

ボツリヌス症の症状と徴候

ボツリヌス症の一般的な症状および徴候としては以下のものがある:

  • 口腔乾燥

  • 霧視または複視

  • 眼瞼下垂

  • 言語不明瞭

  • 嚥下困難

対光反射が低下または消失する。嚥下困難から誤嚥性肺炎を来すことがある。これらの神経症状は両側対称性であることを特徴とし,脳神経に始まり,続いて下行性の筋力低下または麻痺が生じる。

感覚障害はなく,意識は通常清明なままである。

呼吸筋と四肢および体幹の筋肉において,筋力の低下が下行性に進行する。発熱はなく,同時に感染症がなければ脈拍は正常または緩徐を維持する。神経学的異常の出現後には便秘がよくみられる。

ボツリヌス症の主な合併症としては以下のものがある:

  • 横隔膜麻痺による呼吸不全

  • 肺感染症とその他の院内感染症

食餌性ボツリヌス症

潜伏期間は4時間から8日までと幅があるが,通常は毒素の摂取から18~36時間後に突然発症する。しばしば悪心,嘔吐,腹部痙攣,下痢が神経症状に先行してみられる。

創傷性ボツリヌス症

食餌性ボツリヌス症と同様の神経症状が現れるが,消化管症状はみられず,食品が原因であることを示唆する証拠もみられない。2週間以内の外傷または深い穿刺(特に違法薬物の注射による場合)の既往は本疾患を示唆する。

皮膚の破綻や違法薬物の自己注射に起因する皮膚膿瘍がないか徹底的に調べるべきである。

ボツリヌス症の診断

  • 毒素検査

  • ときに筋電図検査

ボツリヌス症は,ギラン-バレー症候群(Miller-Fisher型),ポリオ,脳卒中,重症筋無力症,ダニ麻痺症,ならびに重金属,クラーレまたはベラドンナアルカロイドによる中毒と混同されることがある。筋電図検査では,大半の症例で高頻度反復刺激に対する特徴的な増強反応が認められる。

食餌性ボツリヌス症では,神経筋障害のパターンと感染源となる可能性が高い食品の摂取が診断上の重要な手がかりとなる。同じ食品を摂取した2人以上の患者で同時発症がみられれば診断は容易となり,血清中または便中にボツリヌス菌(C. botulinum)を検出すれば診断確定となる。疑いのある食品中でボツリヌス菌毒素を検出することにより,感染源を同定する。

創傷性ボツリヌス症では,血清中での毒素の検出か,創傷検体の嫌気培養でのボツリヌス菌(C. botulinum)の分離によりボツリヌス症の診断が確定する。

毒素検査は特定の検査室でのみ行われるが,その所在地については,地域の保健当局または米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)を通して知ることができる。

ボツリヌス症の治療

  • 支持療法

  • ウマ7価抗毒素

最も生命を脅かすのは以下のものである:

  • 呼吸障害とその合併症

ボツリヌス症の患者は入院させ,肺活量の連続測定により注意深くモニタリングするべきである。進行性の麻痺のため,肺活量が減少するにつれて呼吸窮迫の徴候が見えにくくなる。呼吸障害には,挿管と機械的人工換気を常に行える集中治療室での管理が必要である。このような支持療法の改善により,死亡率は10%未満まで低下している。

  • カロリーおよび水分摂取の管理が簡易である

  • 腸蠕動を刺激する(それにより消化管からボツリヌス菌[C. botulinum]が除去される)

  • 乳児では母乳を投与できる

  • 静脈栄養でよくある感染や血管合併症を回避できる

創傷性ボツリヌス症の患者には,創部のデブリドマンとペニシリンやメトロニダゾールなどの抗菌薬の注射剤での投与が必要である。

抗毒素

米国では7価ウマボツリヌス抗毒素(HBAT[A型~G型])が使用可能になっており,以前の3価抗毒素に取って代わっている。抗毒素を投与しても,すでに神経筋接合部に結合した毒素を失活させることはできないため,すでに発生している神経学的異常を速やかに回復させることはできない。(最終的な回復は神経終末の再生に依存し,それには数週間から数カ月を要する。)しかしながら,抗毒素の投与により,さらなる進行を遅延ないし阻止できる可能性がある。創傷性ボツリヌス症患者では,抗毒素により合併症発生率および死亡率を低下させることができる。

抗毒素は臨床診断が得られ次第,可及的速やかに投与するべきであり,培養や薬毒物検査の結果を待つことで遅らせてはならない。抗毒素を症状の出現から72時間以上経過後に投与した場合,有益となる可能性は低くなる。

成人には7価抗毒素20mLまたは50mLバイアル1本を10倍に希釈して,ゆっくり点滴で投与する;乳児および小児では用量および点滴速度を調整する。抗毒素を必要とする患者は州の保健当局に全例報告しなければならず,その報告を受けて保健当局が唯一の供給機関であるCDCに抗毒素の提供を要請する;医療従事者が抗毒素をCDCから直接入手することはできない。

抗毒素はウマ血清由来であることから,アナフィラキシーまたは血清病のリスクがある。(注意事項については Professional.see page 薬物過敏症 薬物過敏症 薬物過敏症は薬物に対する免疫介在性の反応である。症状は軽度から重度まで様々で,発疹,アナフィラキシー,および血清病などがある。診断は臨床的に行う;ときに皮膚テストが有用である。治療は,薬物投与の中止,支持療法(例,抗ヒスタミン薬による),およびときに脱感作である。 ( アレルギー疾患およびアトピー性疾患の概要も参照のこと。) 薬物過敏症は,当該薬物および 薬物相互作用による問題から想定されうる毒性や有害作用とは異なる。... さらに読む ;治療については Professional.see page 治療 治療 アナフィラキシーは,急性で生命を脅かす可能性のあるIgE介在性のアレルギー反応で,すでに感作されている人が感作抗原に再び曝露した場合に発生する。症状としては,吸気性喘鳴,呼吸困難,呼気性喘鳴,低血圧などがある。診断は臨床的に行う。治療はアドレナリンによる。気管支攣縮および上気道浮腫では,β作動薬の吸入または注射,ときに気管挿管が必要になることがある。低血圧が持続する場合は,輸液およびときに昇圧薬が必要となる。... さらに読む 。)

HBATは1歳未満の乳児には推奨されない。乳児には抗ボツリヌスヒト免疫グロブリンが投与されるが,これはInfant Botulism Treatment and Prevention Program(IBTPPに電話[510-231-7600]するかIBTPPウェブサイトを参照)から入手できる。用量は50mg/kgの静注で,ゆっくり投与する。

ボツリヌス症の予防

ボツリヌス菌(C. botulinum)毒素は微量でも重篤な疾患を引き起こすことから,毒素の含有が疑われる材料には全て特別な取り扱いが必要である。業務としてボツリヌス菌(C. botulinum)またはその毒素を取り扱う人々を対象とする能動免疫法として,トキソイドが利用できる。検体の採取および取扱いに関する詳細については,州保健局またはCDCから情報を入手することができる。

缶詰/瓶詰作業での正しい手順の遵守と自家製缶詰/瓶詰食品の給仕前の十分な加熱が不可欠である。腐敗の形跡がある缶詰/瓶詰食品や膨張または漏出している缶詰/瓶詰食品は廃棄すべきである。

ボツリヌス症の要点

  • ボツリヌス症は,食品を媒介した毒素の摂取,クロストリジウム創傷感染症における毒素の産生,または乳児ではボツリヌス菌(C. botulinum)芽胞の摂取と腸管への定着によって発生することがある。

  • ボツリヌス症は,人工ボツリヌス毒素を治療または美容目的で注射したり,エアロゾル化されたものを吸入したりすることで発生する場合もある。

  • ボツリヌス毒素は末梢神経終末におけるアセチルコリンの放出を阻害し,脳神経から始まって両側対称性に下行性の筋力低下を引き起こす。

  • 感覚および精神状態は影響を受けない。

  • 毒素は加熱調理により破壊されるが,芽胞は破壊されない。

  • 診断には毒素検査を用いる。

  • 州衛生局を介して米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)から入手したウマ抗毒素を投与する。

ボツリヌス症についてのより詳細な情報

  • Infant Botulism Treatment and Prevention Program:ウェブサイトまたは510-231-7600へ電話

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