HIV感染患者によくみられる悪性腫瘍

執筆者:Edward R. Cachay, MD, MAS, University of California, San Diego School of Medicine
レビュー/改訂 2021年 1月
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    HIV感染患者におけるAIDS指標がんは以下の通りである:

    その他に発生率または重症度が劇的に上昇するとみられるがんとして,以下のものがある:

    平滑筋肉腫は小児におけるHIV感染のまれな合併症である。また,他の一般的な悪性腫瘍(例,肺癌,頭頸部がん,子宮頸癌,肝細胞癌)の頻度が,HIV感染患者では一般集団と比べて数倍高くなっている。この事実は,少なくとも部分的には,HIV感染患者がこれらの悪性腫瘍を引き起こすウイルスまたは毒素へより多く曝露していることを反映している可能性があり,そのような例としては,肝細胞癌におけるB型およびC型肝炎ウイルス,子宮頸癌,肛門癌,陰茎癌および中咽頭癌におけるヒトパピローマウイルス,肺癌および頭頸部がんにおけるアルコールおよびタバコへの曝露などが挙げられる。

    ヒト免疫不全ウイルス[HIV]感染症も参照のこと。)

    非ホジキンリンパ腫

    HIV感染患者では非ホジキンリンパ腫の発生率が50~200倍高い。大半の症例がB細胞性で悪性度の高いアグレッシブリンパ腫である。診断時には,リンパ節外の部位が侵されているのが通常であり,具体的には骨髄および消化管の他,中枢神経系や体腔(例,胸腔,心膜倥,腹腔)など,HIV関連でない非ホジキンリンパ腫ではまれな部位がある。

    一般的な臨床像としては,急激に増大するリンパ節または節外腫瘤や全身症状(例,体重減少,盗汗,発熱)などがある。

    非ホジキンリンパ腫の診断は,生検と腫瘍細胞の病理組織学的および免疫化学的分析による。異常な血中リンパ球または予期せぬ血球減少は,骨髄浸潤を示唆し,その場合は骨髄生検が必須となる。腫瘍の病期診断には,髄液検査のほか,胸部,腹部,および腫瘍発生部位と疑われるその他の部位のCTまたはMRIが必要である。

    予後不良は以下の項目により予測される:

    • CD4陽性細胞数100/μL未満

    • 年齢35歳以上

    • 機能的状態(functional status)が低い

    • 骨髄浸潤

    • 日和見感染症の病歴

    • 悪性度の高い組織型

    非ホジキンリンパ腫の治療は,シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチン,プレドニゾン,エトポシドなどを含む様々なレジメンの多剤併用化学療法による。これらの薬剤に,静注のリツキシマブおよび抗CD20モノクローナル抗体を組み合わせ,また抗レトロウイルス療法(ART),抗菌薬および抗真菌薬の予防投与,ならびに血液成長因子による補助的治療を行う。重度の骨髄抑制がある場合,特に骨髄抑制作用のある抗腫瘍薬または抗レトロウイルス薬が併用される場合は,治療が制限されることがある。放射線療法により,大きな腫瘍を縮小させ,疼痛または出血をコントールできることがある。

    原発性中枢神経系リンパ腫

    CD4陽性細胞数が非常に低いHIV感染患者では,原発性中枢神経系リンパ腫の発生率が著しく上昇する。

    原発性中枢神経系リンパ腫は,中枢神経系組織に由来する中悪性度または高悪性度のB細胞から成る。これらのリンパ腫は全身に転移することはないが,予後は不良であり,生存期間の中央値は6カ月未満である。

    主症状としては,頭痛,痙攣発作,神経脱落症状(例,脳神経麻痺),精神状態の変化などがある。

    原発性中枢神経系リンパ腫の急性期治療では,コルチコステロイドによる脳浮腫の制御が必要である。全脳照射療法と抗腫瘍化学療法(高用量のメトトレキサート単剤投与,または他の化学療法薬もしくはリツキシマブとの併用)が一般的に用いられているが,いずれのレジメンにも厳密な評価は行われていない。ARTの観察研究およびリツキシマブの単独の臨床試験においては,生存率が改善されるようである。

    子宮頸癌

    HIV感染女性では,ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症の有病率が高く,発がん性のある亜型(16型,18型,31型,33型,35型,および39型)の持続感染により,頸部上皮内異形成(CIN)の発生率が最高60%と報告されているが,子宮頸癌の増加については証明されていない。しかしながら,子宮頸癌が発症する場合は,より広範で治癒も困難であり,治療後の再発率も高い。

    HIVに感染している女性で子宮頸癌の危険因子として確認されているものには以下の項目がある:

    • HPV 16型または18型による感染

    • CD4陽性細胞数が200/μL未満

    • 年齢34歳以上

    CINまたは子宮頸癌の管理は,HIV感染症があっても変わらない。進行状態をモニタリングする上では頻回にパパニコロウ検査を行うことが重要である。ARTによりHPV感染症の消失,およびCINの退縮が起こりうるが,悪性腫瘍に対する効果は不明である。

    肛門および外陰の扁平上皮癌

    肛門の扁平上皮癌腟の扁平上皮癌は,子宮頸癌と同じ型のHPVによって引き起こされ,HIV感染患者では通常より高い頻度で発生する。これらの患者における,肛門上皮内腫瘍および悪性腫瘍の発生率の増加は,高リスク行動(例,アナルセックスを受ける)およびHIVによる免疫抑制の両方が原因であると考えられる;ARTは進行のリスクを低下させる可能性がある。

    肛門異形成がよくみられ,扁平上皮癌は進行が非常に速い場合がある。

    治療としては,外科的摘出,放射線療法,マイトマイシンまたはシスプラチンとフルオロウラシルによる多剤併用化学療法などがある。

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