最もよく侵される器官系(例,肺,消化管,皮膚,肝臓,中枢神経系,粘膜)によってウイルス感染症を分類することは臨床的に有用であるが,一部の特定のウイルス性疾患(例,流行性耳下腺炎)は分類困難である。様々な特定のウイルスおよびそれらが引き起こす疾患については,本マニュアルの別の箇所でも考察されている。
(ウイルスの概要も参照のこと。)
呼吸器感染症
最も頻度の高いウイルス感染症は,おそらく上気道感染症である。呼吸器感染は,乳児,高齢者,および肺疾患または心疾患を有する患者では,重度の症状を引き起こす可能性がより高い。
呼吸器系ウイルスとしては,流行性インフルエンザウイルス(A型およびB型),H5N1およびH7N9 A型鳥インフルエンザウイルス,パラインフルエンザウイルス1~4型,アデノウイルス,RSウイルスA型およびB型,ヒトメタニューモウイルス,ライノウイルスなどが挙げられる( see table 主な呼吸器系ウイルスを参照)。
重症となりうる呼吸器感染症を引き起こすコロナウイルスがいくつか同定されている。2002年と2003年には,重症急性呼吸器症候群(SARS)のアウトブレイクが発生し,主に中国と香港で多数の死者を出した。2004年以降,SARSの症例は報告されていない。2012年に,新種のコロナウイルスである中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)がサウジアラビアで出現した;このウイルスは,重度の急性呼吸器疾患を引き起こし,ときに致死的となる。2019年には,急性で,ときに死に至る呼吸器疾患(COVID-19)を引き起こす別のコロナウイルス(SARS-CoV2)が中国の武漢で出現し,現在,世界中に拡大している。
呼吸器系ウイルスは,典型的には感染者の呼吸器から出た飛沫との接触によってヒトからヒトへ伝播する。
消化管感染症
胃腸炎は通常,ウイルスによって引き起こされ,糞口感染によりヒトからヒトに伝播する。
罹患する主要な年齢層はウイルスにより異なる:
ロタウイルス:小児
ノロウイルス:小児および成人
アストロウイルス:通常は乳児および幼児
アデノウイルス40型および41型:乳児
コロナウイルス様病原体:乳児
小児の間で(特に寒冷期に)地域的流行が起こることがある。
主な症状は嘔吐および下痢である。
推奨される特異的な治療法はないが,支持療法,特に水分補給が重要である。
大半の病原性株に効果的なロタウイルスワクチンが,乳児を対象とする推奨予防接種スケジュールに組み込まれている。手洗いおよび適切な公衆衛生処置が伝播予防に役立つ可能性がある。
発疹性感染症
肝感染症
少なくとも5種のウイルス(A型,B型,C型,D型,E型肝炎ウイルス)が肝炎を引き起こし,それぞれ特異的な病型の肝炎を引き起こす。D型肝炎ウイルスはB型肝炎の存在下でのみ感染することができる。感染した血液または体液との接触によって,またはA型およびE型肝炎(遺伝子型1および2)の場合は糞口感染によってヒトからヒトへ伝播する。
他にも疾患の過程で肝臓を侵すウイルスがある。よくみられる例は,サイトメガロウイルス,エプスタイン-バーウイルス,および黄熱ウイルスである。よりまれな例は,エコーウイルス,コクサッキーウイルス,単純ヘルペスウイルス,麻疹ウイルス,風疹ウイルス,および水痘ウイルスである。
神経系感染症
出血熱
一部のウイルスは発熱および出血傾向を引き起こす。(アルボウイルス,アレナウイルス,およびフィロウイルス感染症も参照のこと。)
蚊,ダニ,または感染した動物(例,齧歯類,サル,コウモリ)およびヒトとの接触によって伝播する。予防法は感染源を避けることである。
皮膚または粘膜感染症
一部のウイルスは,再発して慢性化することのある皮膚または粘膜病変を引き起こす。粘膜皮膚感染症は,単純ヘルペスウイルス感染症の最もよくみられる形態である。ヒトパピローマウイルスは疣贅を引き起こす;一部の亜型は子宮頸癌,その他の肛門性器癌,および中咽頭癌を引き起こす。
ヒトとヒトの接触で伝播する。
多臓器疾患
エンテロウイルスにはコクサッキーウイルスやエコーウイルスなどが含まれるが,これらはサイトメガロウイルスと同様,種々の多臓器症候群を引き起こすことがある( see table 多臓器疾患を引き起こす主なウイルス)。
糞口感染により伝播する。
非特異的熱性疾患
一部のウイルスは発熱,倦怠感,頭痛,筋肉痛などの非特異的症状を引き起こす。通常は媒介昆虫または媒介節足動物によって伝播する。(アルボウイルス,アレナウイルス,およびフィロウイルス感染症も参照のこと。)
リフトバレー熱は,まれに眼疾患,髄膜脳炎,または出血型(死亡率50%)に進行することがある。