貧血の評価

執筆者:Evan M. Braunstein, MD, PhD, Johns Hopkins University School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 9月
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貧血では,赤血球の数が減少する(赤血球数,ヘマトクリット,または赤血球ヘモグロビン量で測定する)。男性では,貧血はヘモグロビン < 14g/dL(140g/L),ヘマトクリット < 42%(< 0.42),または赤血球数 < 450万/μL(< 4.5 × 1012/L)と定義されている。女性では,ヘモグロビン < 12g/dL(120g/L),ヘマトクリット < 37%(< 0.37),または赤血球数 < 400万/μL(< 4 × 10 12/L)で貧血とされる。乳児では,出生月数により正常値が異なるため,年齢相関表を使用する必要がある(週齢別のヘモグロビン値とヘマトクリット値の表を参照)。

貧血は診断名ではなく,基礎疾患の症候の1つである(貧血の病因を参照)。そのため,症状を伴わない軽度の貧血であっても,原疾患を診断して治療できるように検査すべきである。

貧血は通常,病歴および身体所見に基づいて疑われる。貧血のよくみられる症状および徴候としては以下のものがある:

  • 全身疲労

  • 筋力低下

  • 労作時呼吸困難

  • 蒼白

病歴聴取および身体診察に続いて,血算および末梢血塗抹検査などの臨床検査を行う。鑑別診断(および貧血の原因)は検査結果に基づきさらに絞り込むことができる。

パール&ピットフォール

  • 貧血は診断名ではなく,基礎疾患の症候の1つである。そのため,症状を伴わない軽度の貧血であっても,原疾患を診断して治療できるように検査すべきである。

病歴

病歴聴取では以下に注意を向けるべきである:

  • 個々の貧血の危険因子

  • 貧血自体の症状

  • 基礎疾患を反映する症状

貧血の危険因子

貧血には多くの危険因子がある。例えば,完全菜食主義者の食事はビタミンB12欠乏性貧血の素因となる一方で,アルコール依存症は葉酸欠乏性貧血のリスクを増大させる。異常ヘモグロビン症のいくつかは先天性であり,ある種の薬剤および感染症は溶血の素因となる。悪性腫瘍,リウマチ性疾患,および慢性炎症性疾患では,赤血球産生の抑制が生じることがある。

貧血の症状

貧血の症状は感度も特異度も高くないため,貧血の種類の鑑別に有用ではない。貧血の症状は,組織の低酸素に対する代償反応を反映しており,通常はヘモグロビン値が患者個人のベースライン値よりかなり下回った場合に発現する。心肺予備能が不十分な患者,またはあまりにも急速に貧血を発症した患者では,症状は概してより顕著である。

筋力低下,疲労,眠気,狭心症,失神,および労作時呼吸困難などの症状が貧血を示唆している可能性がある。また,回転性めまい,頭痛,拍動性耳鳴,無月経,性欲減退,および消化管症状が生じる場合もある。重度の組織低酸素症または循環血液量減少症の患者では,心不全またはショックを起こすことがある。

貧血の原因を示唆する症状

特定の症状から貧血の原因が示唆される場合がある。例えば,黒色便,鼻出血,血便,吐血,または過多月経は出血を示唆する。黄疸および暗色尿からは,肝疾患を認めない場合,溶血が示唆される。体重減少から悪性腫瘍が示唆されることもある。びまん性で重度の骨痛または胸痛から鎌状赤血球症が示唆されることがあり,手袋靴下型の感覚異常からビタミンB12欠乏症が示唆されることもある。

身体診察

徹底した身体診察が必要である。貧血自体の徴候は感度も特異度も高くない;それでも,重度の貧血で蒼白がよくみられる。

診断する上では,基礎疾患の徴候の方が貧血の徴候よりも的確である。便潜血陽性により消化管出血が同定される。急性出血から出血性ショック(例,低血圧,頻脈,蒼白,頻呼吸,発汗,錯乱)を来すことがある。黄疸から溶血が示唆される場合もある。溶血,異常ヘモグロビン症,結合組織病,骨髄増殖性疾患,感染症,または悪性腫瘍に伴って,脾腫を併発することがある。末梢神経障害からは,ビタミンB12欠乏症が示唆される。鈍的外傷患者における腹部膨隆からは,急性出血または脾破裂が示唆される。血小板減少症または血小板機能不全では点状出血がみられる。発熱または心雑音からは,感染性心内膜炎が示唆される。まれに,貧血により誘発された組織低酸素症に対する代償反応として,高拍出性心不全が発生する。

検査

  • 白血球および血小板を含めた血算

  • 赤血球指数および赤血球形態

  • 網状赤血球数

  • 末梢血塗抹標本

  • ときに骨髄穿刺および骨髄生検

臨床検査は,白血球数,血小板数,赤血球指数および赤血球形態(平均赤血球容積[MCV],平均赤血球ヘモグロビン量[MCH],平均赤血球ヘモグロビン濃度[MCHC],赤血球分布幅[RDW]),末梢血塗抹検査を含めた血算から開始する。網状赤血球数からは,骨髄がどの程度貧血を代償しているかが明らかになる。その後の検査は,血算の結果および臨床像に基づいて選択する。一般的な診断パターンを理解しておくことで,迅速な診断が可能となる(一般的な貧血の特徴の表を参照)。

表&コラム

血算および赤血球指数

自動血算器では,ヘモグロビン,赤血球数,白血球数,血小板数のほか,平均赤血球容積(MCV:赤血球の大きさの尺度)が直接測定される。ヘマトクリット(血液に占める赤血球の割合の尺度),平均赤血球ヘモグロビン量(MCH:個々の赤血球におけるヘモグロビン含有量の尺度),および平均赤血球ヘモグロビン濃度(個々の赤血球におけるヘモグロビン濃度の尺度)については,計算により求められる。

貧血の診断基準は以下の通りである:

  • 男性:ヘモグロビン < 14g/dL(140g/L),ヘマトクリット < 42%(< 0.42),または赤血球数 < 450万/μL(< 4.5 × 10 12/L)

  • 女性:ヘモグロビン < 12g/dL(120g/L),ヘマトクリット < 37%(< 0.37),または赤血球数 < 400万/μL(< 4 × 10 12/L)

乳児では,出生月数により正常値が異なるため,年齢相関表を使用する必要がある(週齢別のヘモグロビン値とヘマトクリット値の表を参照)。赤血球群は,MCVが80fL未満である場合は小球性と呼ばれ,100fLを超える場合は大球性と呼ばれる。ただし,網状赤血球も成熟赤血球より大きいため,網状赤血球数が多いとMCVが上昇する一方で,それは赤血球産生の変化を反映していない可能性がある。

自動血算器による測定法では,赤血球サイズのばらつきの程度も測定でき,赤血球分布幅(RDW)として表される。RDWが大きいことは,小球性貧血と大球性貧血の同時発生を示す唯一の徴候となることがあるため,このようなパターンでは,平均値を測定しているに過ぎないMCVが正常となる場合がある。低色素性という用語は,赤血球当たりのMCHが27pg未満,またはMCHCが30%未満である赤血球群を表す。MCHおよびMCHC値が正常な赤血球群は正色素性である。

赤血球指数は,貧血の機序を明らかにして,考えられる原因の数を絞り込むのに役立つ可能性がある。小球性の指数は,ヘムまたはグロビンの合成異常で認められる。最も一般的な原因は,鉄欠乏症,サラセミア,および関連するヘモグロビン合成障害である。慢性疾患に伴う貧血患者の一部では,MCVが小球性または境界域の小球性である。大球性の指数は,DNA合成障害(例,ビタミンB12もしくは葉酸の欠乏,またはヒドロキシカルバミドおよび葉酸拮抗薬のような化学療法薬によるものなど)で認められ,アルコール依存症では細胞膜異常により生じる。急性出血では,大きな幼若網状赤血球が放出されるため,短時間に大球性の指数が認められることがある。正球性の指数は,不十分なエリスロポエチン(EPO)産生またはEPOに対する反応性の低下に起因する貧血(hypoproliferative anemia)で認められる。出血すると,大きな網状赤血球の数が過剰でない限り,鉄欠乏症が発生する前に通常は正球性および正色素性貧血が認められる。

血液塗抹検査

末梢血塗抹標本は,赤血球産生過剰および溶血に対する感度が高い。この検査はまた,赤血球の構造変化,血小板減少,有核赤血球,または幼若顆粒球の検出に関しては,自動血算器より正確であり,自動血算器で検出できない他の異常(例,マラリアおよび他の寄生虫感染,赤血球または顆粒球の細胞内封入体)を検出できる。赤血球障害は,赤血球断片または破綻した細胞の一部(破砕赤血球)により同定される場合もあれば,卵円形の細胞(卵形赤血球)または球状の細胞に由来する著しい膜変化から証明される場合もある。標的赤血球(ヘモグロビンの円形斑が中央にある薄い赤血球)は,ヘモグロビンが不足した赤血球,または体積に比べ細胞膜量が過剰な赤血球(例,異常ヘモグロビン症または肝疾患に起因するもの)である。また,末梢血塗抹標本では,赤血球形状のばらつき(変形赤血球増多)および大きさのばらつき(赤血球大小不同)も明らかにできる。

網状赤血球数

網状赤血球数は,網状赤血球の割合(正常範囲:0.5~1.5%)または網状赤血球の絶対数(正常範囲:50,000~150,000/μL,または50~150 × 10 9/L)で表される。網状赤血球数は,骨髄の反応をうかがい知ることができ,貧血の原因としての赤血球産生低下と溶血亢進(赤血球破壊)の鑑別を容易にするため,貧血の評価において極めて重要な検査項目である。例えば,網状赤血球数の高値は,過剰産生(網状赤血球増多)を示すことから,貧血の存在下での網状赤血球増多では,赤血球崩壊が過剰なことが示唆される。貧血の存在下における網状赤血球数の低値は,赤血球産生低下を示す。

網状赤血球は血液を超生体染色法で染色した際に最も良好に可視化されるが,赤血球のレチクリンは幼弱な赤血球中にのみ存在するRNAで構成されているため,ライト染色を施した血液塗抹標本では青みがかった外観を呈し(多染性),これによりルーチンの血液塗抹標本での網状赤血球産生を大まかに推定することができる。

医学計算ツール(学習用)
医学計算ツール(学習用)

骨髄穿刺および骨髄生検

骨髄穿刺および骨髄生検により,赤血球前駆細胞を直接観察して評価できる。血球の成熟異常(成熟障害)の有無,ならびに鉄含量の値,分布,および細胞内パターンが評価可能である。骨髄穿刺および骨髄生検は,貧血の評価では通常は適応とならず,以下のいずれか1つがみとめられる場合にのみ施行される:

  • 原因不明の貧血

  • 複数の細胞系の異常(すなわち,貧血と血小板減少症または白血球減少症の併発)

  • 原発性の骨髄疾患の疑い(例,白血病,多発性骨髄腫,再生不良性貧血,骨髄異形成症候群,転移性の癌腫,骨髄線維症)

造血器腫瘍もしくはその他の腫瘍の場合,または赤血球前駆細胞の先天性障害(例,ファンコニ貧血)が疑われる場合は,骨髄穿刺検体で細胞遺伝学的および分子遺伝学解析が実施できる。リンパ増殖性または骨髄増殖性の状態が疑われる場合は,フローサイトメトリー法を用いて,細胞表面マーカーの判定が可能である。骨髄穿刺および骨髄生検は,難しい手技ではなく,重大な合併症リスクを生じることもない。これらの手技は安全で,血液疾患が疑われる場合に役立つ。通常は,両者を1つの手技として施行可能である。生検では,骨の十分深いところから採取する必要があるため,通常は後腸骨稜(または頻度は低いが前腸骨稜)から検体を採取する。

貧血の評価のための検査

血清ビリルビンおよび乳酸脱水素酵素(LDH)は,溶血と失血の鑑別に有用な場合があり,いずれも溶血では高値で,失血では正常である。疑われる貧血の原因によって,他の検査,例えばビタミンB12および葉酸値,鉄および鉄結合能の検査などを行う。他の検査については,特殊な貧血および出血性疾患で考察している。

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