遺伝性出血性毛細血管拡張症

(Osler-Weber-Rendu症候群)

執筆者:David J. Kuter, MD, DPhil, Harvard Medical School
レビュー/改訂 2020年 5月
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遺伝性出血性毛細血管拡張症は,遺伝性の血管奇形疾患で,常染色体優性形質で遺伝し,男女を問わず発生する。

血管性の出血性疾患の概要も参照のこと。)

80%を超える患者が以下の遺伝子の1つに変異を有する(1):

  • 形質転換増殖因子β1(TGF-β1)および形質転換増殖因子β3の受容体をコードするエンドグリン(ENG)遺伝子

  • アクチビン受容体様キナーゼ(ALK1)をコードするACVRL1遺伝子

  • TGF-βシグナル伝達経路に関与するタンパク質のSMAD4をコードするMADH4遺伝子

総論の参考文献

  1. 1.Kritharis A, Al-Samkari H, Kuter D: Hereditary hemorrhagic telangiectasia: Diagnosis and management from the hematologist’s perspective.Haematologica 103: 1433–1443, 2018.doi: 10.3324/haematol.2018.193003.

症状と徴候

遺伝性出血性毛細血管拡張症の最も特徴的な病変は,顔面,唇,口腔および鼻粘膜,ならびに指趾先端にみられる赤から紫色の毛細血管拡張性の小さな病変である。同様の病変が消化管粘膜のいたる所にみられ,反復性の消化管出血をもたらすことがある。反復性の大量の鼻出血を来す場合がある。肺動静脈奇形(AVM)が認められる患者もいる。それらのAVMにより重大な右左短絡が形成され,呼吸困難,疲労,チアノーゼ,または赤血球増多を引き起こすことがある。ただし,脳膿瘍,一過性脳虚血発作,または感染性もしくは非感染性の塞栓によりもたらされた脳卒中がAVMの存在を示す最初の徴候となる場合もある。一部の家系では大脳または脊髄のAVMがみられ,それによりくも膜下出血痙攣発作,または対麻痺を起こすことがある。肝AVMは,肝不全と高拍出性心不全につながる場合がある。慢性鉄欠乏性貧血がよくみられる。

遺伝性出血性毛細血管拡張症の臨床像
遺伝性出血性毛細血管拡張症(Osler-Weber-Rendu症候群)
遺伝性出血性毛細血管拡張症(Osler-Weber-Rendu症候群)
この写真には,遺伝性出血性毛細血管拡張症に続発した多発性毛細血管拡張症の患者の顔面が写っている。

DR P. MARAZZI/SCIENCE PHOTO LIBRARY

遺伝性出血性毛細血管拡張症
遺伝性出血性毛細血管拡張症
遺伝性出血性毛細血管拡張症(Osler-Weber-Rendu症候群)は,皮膚,粘膜,および内臓の広範囲に毛細血管拡張と動静脈奇形が生じる常染色体優性遺伝疾患である。主に舌,唇,指先,口周囲,および体幹に丘疹状,点状,線状の毛細管拡張が生... さらに読む

By permission of the publisher. From Deitcher S.In Atlas of Clinical Hematology. Edited by JO Armitage. Philadelphia, Current Medicine, 2004.

手の毛細血管拡張
手の毛細血管拡張

DR P. MARAZZI/SCIENCE PHOTO LIBRARY

診断

  • 臨床的評価

  • ときに内視鏡検査または血管造影

  • ときに遺伝子検査

遺伝性出血性毛細血管拡張症の診断は,鼻出血と家族歴との関連において,顔面,口,鼻,指趾,および/または内部臓器にみられる特徴的な動静脈奇形の所見に基づく。Curaçaoの基準には以下が含まれる:

  • 繰り返す自発性の鼻出血

  • 典型的な部位における多発性の毛細血管拡張症

  • 確認された内臓動静脈奇形(例,肺,肝臓,脳,および脊椎)

  • 遺伝性出血性毛細血管拡張症を有する第1度近親者

遺伝性出血性毛細血管拡張症は,これらの基準のうち3つを満たせば確定,2つを満たせば可能性ありと判断される(1)。

ときに内視鏡検査または血管造影が必要である。多くの患者で鉄欠乏性貧血が認められることを除けば,臨床検査所見は通常は正常である。

非定型な特徴を有する一部の患者,または無症状の家族のスクリーニングでは,ENGACVRL1,およびMADH4変異の検査が役立つ場合がある。

スクリーニング

肺,肝臓,または脳の動静脈奇形の家族歴があれば,思春期に加え,青年期末期の時点で肺CT,肝CT,および大脳MRIによるスクリーニングが推奨される。

診断に関する参考文献

  1. 1.Shovlin CL, Guttmacher AE, Buscarini E, et al: Diagnostic criteria for hereditary hemorrhagic telangiectasia (Rendu-Osler-Weber syndrome).Am J Med Genet 91(1):66–67, 2000.doi: 10.1002/(sici)1096-8628(20000306)91:1<66::aid-ajmg12>3.0.co;2-p.

治療

  • ときに症候性動静脈奇形に対するレーザー焼灼術,外科的切除,または塞栓術

  • 鉄補充療法

  • 場合によって輸血

  • ときに抗線溶薬(例,アミノカプロン酸,トラネキサム酸)

  • ときに血管新生阻害薬(例,ベバシズマブ,ポマリドミド,サリドマイド)

ほとんどの患者に対する治療は支持療法であるが,アクセス可能な毛細血管拡張(例,鼻,または内視鏡が到達できる消化管内)であれば,レーザー焼灼術で治療可能である。動静脈奇形では,外科的切除またはコイル塞栓術により治療可能である。

頻回の輸血が必要になる場合があり,したがって,B型肝炎ワクチンによる予防接種が重要である。

頻回の粘膜出血で失われる鉄を補充するために,継続的な鉄補充療法が多くの患者で必要であり(鉄欠乏性貧血の治療を参照),また非経口鉄剤およびときにエリスロポエチンも多くの患者で必要である。

アミノカプロン酸またはトラネキサム酸などの線溶を阻害する薬剤による治療が有益な場合がある。

ベバシズマブ,ポマリドミド,サリドマイドなどの血管新生を阻害する薬剤による治療で,異常に成長する血管の数と密度を減らすことができる(1)。さらに,ベバシズマブが鼻出血および消化管出血の発生率を低下させることが最近示されている。

肺動静脈奇形による脳内への粒子状物質の奇異性塞栓を回避するため,全ての輸液をフィルターを通して投与する必要がある。

治療に関する参考文献

  1. 1.Al-Samkari H, Kritharis A,  Rodriguez-Lopez JM, Kuter D: Systemic bevacizumab for the treatment of chronic bleeding in hereditary haemorrhagic telangiectasia.J Intern Med 285(2):223–231, 2019.doi: 10.1111/joim.12832.Epub 2018 Oct 9.

要点

  • 鼻および消化管の毛細血管拡張では,重大な外出血が発生することがある。

  • 中枢神経系,肺,および肝臓の血管奇形から出血が起こることがあり,肝臓および肺の奇形により重大なシャント形成がみられる場合がある。

  • 到達可能な粘膜の毛細血管拡張および動静脈奇形であれば,レーザー焼灼術により治療可能である;その他の血管奇形に対しては,コイル塞栓術または外科的切除が必要になる場合がある。

  • 抗線溶薬および血管新生阻害薬は出血の発生率を低下させる可能性がある。

  • 慢性の失血のため,多くの患者が非経口鉄剤の投与を必要とする。

  • 肺動静脈奇形による脳内への粒子状物質の奇異性塞栓を回避するため,静注液は全てフィルターを通して投与すべきである。

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