脾臓の概要

執筆者:Harry S. Jacob, MD, DHC, University of Minnesota Medical School
レビュー/改訂 2019年 12月
意見 同じトピックページ はこちら

    脾臓は,その構造と機能から,実質的に2つの臓器とみなすことができる:白脾髄は,動脈周囲のリンパ鞘と胚中心から構成され,免疫器官として機能する一方,赤脾髄は,マクロファージと顆粒球が内側を覆う血管腔(脾索および脾洞)によって構成され,食作用器官として機能する。

    白脾髄は,B細胞およびT細胞の産生および成熟の場所である。脾臓のB細胞は,感染防御のための可溶性抗体を産生するが,ある種の自己免疫疾患(例,免疫性血小板減少症[ITP],クームス試験陽性溶血性貧血)では,循環血成分を標的とする不適切な自己抗体が産生されることがある。

    赤脾髄では,抗体で覆われた細菌,老化赤血球,欠陥のある赤血球,および抗体で覆われた血球(ITPクームス試験陽性溶血性貧血,一部の好中球減少症などの免疫性血球減少症でみられる)が除去される。また赤脾髄は,特に白血球および血小板といった血液成分の貯蔵所としても機能する。

    一部の動物では,脾臓は重度の貧血時に収縮して赤血球の「自己血輸血」を行うことが可能であるが,ヒトでもこの「自己血輸血」が生じるかどうかは不明である。脾臓では,赤血球の選別および陥凹形成(pitting)の段階で,ハインツ小体(不溶性グロビンの凝集物),ハウエル-ジョリー小体(核の遺残物),核全体,奇形赤血球などの封入体が取り除かれる;そのため,脾臓摘出後または脾臓の機能低下時には,これらの封入体を含んだ赤血球および有棘赤血球(奇形赤血球の一種)が末梢循環に出現する。骨髄損傷(例,線維症または腫瘍転移によるもの)のために造血幹細胞が循環血中に放出され,それらが脾臓に再び定着できれば,成人の脾臓でも髄外造血が起きる場合がある(原発性骨髄線維症および骨髄異形成症候群も参照)。

    無脾症

    無脾症は,以下の原因により脾臓の機能が喪失した状態である:

    • 脾臓の先天性欠損

    • 脾臓の外科的切除(脾臓摘出)

    • 脾臓の機能的欠損

    先天性無脾症はまれな疾患である。本症を有する乳児には,しばしば先天性心疾患もみられる。

    外科的無脾症は,脾臓の物理的欠損である。他の点では健康であり外傷後に脾臓摘出を必要とする患者,または脾臓摘出を必要とする免疫もしくは血液疾患(例,免疫性血小板減少症脾機能亢進症遺伝性球状赤血球症)の患者に生じることがある。

    機能的無脾症は,様々な全身性疾患のために脾臓の機能が喪失した状態である。一般的な原因としては,鎌状赤血球症セリアック病アルコール性肝疾患などがある。直接的な血管傷害(例,脾梗塞,脾静脈血栓症)の後にも機能的無脾症が生じることがある。

    脾臓は抗体に覆われた細菌の除去だけでなく,液性免疫においても重要な役割を担うため,その原因を問わず無脾症は感染症のリスクを大きく高める。無脾症患者では,莢膜を有する微生物(主に肺炎球菌,ときにインフルエンザ菌b型[Hib]や髄膜炎菌の場合もある)による重症敗血症が特に生じやすい。バベシア症のリスクも高い。

    これらの感染症のリスクがあるため,予防接種が重要である。患者は肺炎球菌ワクチン髄膜炎菌ワクチン,およびHibワクチンの接種を受けるべきである。患者はインフルエンザワクチンと臨床状況に応じたその他のワクチンの接種も受けるべきである。しばしばペニシリンやアモキシシリンなどの抗菌薬が連日予防投与される(特に患者が小児と定期的に接触するとき)。予防的抗菌薬投与の適切な期間は不明である。発熱がみられる無脾症患者には,原因を評価しながら経験的な抗菌薬療法を行うべきである。

    quizzes_lightbulb_red
    Test your KnowledgeTake a Quiz!
    医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
    医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
    医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS