脾腫とは,脾臓が異常に腫大した状態である。
(脾臓の概要も参照のこと。)
脾腫はほぼ常に,他の疾患による二次的なものである。脾腫の原因は無数にあるため,可能な分類法も多くある(脾腫の一般的な原因の表を参照)。温帯気候で最も一般的な原因は,以下のものである:
熱帯地域で最も一般的な原因は,以下のものである:
感染症(例,マラリア,内臓リーシュマニア症)
脾腫が巨大(肋骨下縁の8cm下方で脾臓が触知可能)になった場合,その原因は通常,慢性リンパ性白血病,非ホジキンリンパ腫,慢性骨髄性白血病,真性多血症,原発性骨髄線維症,ゴーシェ病,または有毛細胞白血病である。
脾腫により血球減少を来すことがあり,脾機能亢進症と呼ばれる。
脾腫の評価
病歴
認められる症状のほとんどは基礎疾患によるものである。ただし,腫大した脾臓が胃を圧迫することで,脾腫自体によって早期満腹感が引き起こされることもある。膨満感および左上腹部痛の可能性もある。突然かつ重度の疼痛は脾梗塞を示唆する。繰り返す感染症,貧血の症状,または出血の症状からは,血球減少症が示唆され,さらに脾機能亢進症の可能性もある。
身体診察
超音波検査で確認される脾臓腫大の診察による検出感度は,触診で60~70%,打診で60~80%である。正常な人で細身の場合,脾臓が触知可能なのは最大3%である。さらに,左上腹部に腫瘤が触知可能でも,例えば副腎腫などの,脾腫以外の問題を示している場合がある。
他に参考になる徴候としては,脾梗塞を示唆する脾臓の摩擦音と肩関節痛のほか,血流量の増加により生じうる心窩部または脾臓の血管雑音などもある。リンパ節腫脹から,リンパ増殖性疾患,感染症,または自己免疫疾患が示唆される場合がある。
検査
触診では不確かなために脾腫の確認が必要な場合,正確性および低コストにより超音波検査が選択すべき検査となる。CTおよびMRIでは,より詳細に臓器硬度が得られる場合がある。MRIは,門脈または脾静脈血栓症の検出に特に有用である。核医学検査は精度が高く,脾臓摘出後にしばしばみられる副脾組織を同定することができるが,これは手術時に見逃された脾髄の「作業肥大」によるものである。
具体的な原因が臨床的に示唆される場合は,適切な検査により確認すべきである。示唆される原因がない場合,早期の治療が感染の転帰に与える影響は,他のほとんどの脾腫の原因に与える影響よりも大きいため,潜在的な感染症の除外が最優先される。地理的に感染症の有病率が高い地域,または患者が罹患していると考えられる場合は,検査を徹底すべきである。血算,血液培養,骨髄検査,および骨髄培養を考慮すべきである。患者に重症感がみられず,脾腫によるもの以外の症状がなく,かつ感染症の危険因子を有していない場合,検査の範囲については議論があるものの,ほぼ確実に血算,末梢血塗抹標本,肝機能検査,および腹部CTが含まれる。リンパ腫が疑われる場合,フローサイトメトリーおよび免疫化学的検査(末梢血および/または骨髄における軽鎖測定など)が適応となる。脾臓辺縁帯のリンパ腫はまれであるが,しばしばC型肝炎に関連して発生する(ウイルスの根絶により効果的に治療できるため,検出することが重要である)。
特異的な末梢血所見から基礎疾患が示唆されることがある(例,慢性リンパ性白血病における小細胞リンパ球増多,T細胞顆粒リンパ球[TGL]過形成またはTGL白血病における大顆粒リンパ球増多,有毛細胞白血病における異型リンパ球,他の白血病における白血球増多および未熟白血球)。好塩基球,好酸球,有核赤血球,または涙滴赤血球が過剰な場合は,骨髄増殖性腫瘍が示唆される。血球減少症からは,脾機能亢進症が示唆される。球状赤血球症からは,脾機能亢進症または遺伝性球状赤血球症が示唆される。標的赤血球と球状赤血球は,異常ヘモグロビン症を示唆している可能性がある。
肝硬変を伴ううっ血性脾腫では,肝機能検査結果に広範な異常がみられる;血清アルカリホスファターゼ値のみが上昇している場合は,骨髄増殖性疾患,リンパ増殖性疾患,粟粒結核,および慢性真菌感染症(例,カンジダ症,ヒストプラズマ症)などの肝浸潤が示唆される。
無症状の患者でも,他に有用である可能性のある検査がある。血清タンパク質電気泳動で単クローン性免疫グロブリン血症または免疫グロブリン減少が同定された場合は,リンパ増殖性疾患またはアミロイドーシスが示唆され,びまん性の高ガンマグロブリン血症からは,慢性感染症(例,マラリア,内臓リーシュマニア症,ブルセラ症,結核),うっ血性脾腫を伴う肝硬変,サルコイドーシス,または結合組織疾患が示唆される。フローサイトメトリーにより,リンパ腫を示唆する少数の単クローン性リンパ球集団を同定することができる。血清尿酸値が高い場合は,骨髄増殖性疾患またはリンパ増殖性疾患が示唆される。白血球アルカリホスファターゼ(LAP)が高値の場合は,骨髄増殖性腫瘍が示唆され,低値の場合は,慢性骨髄性白血病が示唆される。
検査により脾腫以外の異常が認められなければ,6~12カ月間隔または新たな症状が発生したときに再検査すべきである。
脾腫の治療
基礎疾患の治療
治療は基礎疾患に対して行う。無症状の患者における脾臓の腫大は,重度の脾機能亢進症が認められない限り,それ自体に対する治療は必要ない。脾臓が触知可能または非常に大きい患者では,脾破裂のリスクを下げるため,場合によってはコンタクトスポーツを避けるべきである。
脾腫の要点
脾腫はほぼ常に,他の疾患による二次的なものである。
脾腫の病因を調べる検査をしても,直ちに明らかな原因がみつからない場合は,感染性の原因を除外することが重要である。
脾腫があるが無症状の患者は,治療を必要としないが,脾破裂のリスクを低減するため,コンタクトスポーツを避けるべきである。