自己免疫性溶血性貧血

執筆者:Evan M. Braunstein, MD, PhD, Johns Hopkins University School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 9月
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自己免疫性溶血性貧血は,37℃以上(温式抗体による溶血性貧血)または37℃未満(寒冷凝集素症)の温度で赤血球と反応する自己抗体により引き起こされる。溶血は通常血管外性である。直接抗グロブリン試験(直接クームス試験)により診断が確定され,原因が示唆されることがある。治療は原因に応じて異なり,コルチコステロイド,脾臓摘出,免疫グロブリン静注療法,免疫抑制薬,輸血の回避(生命を脅かす貧血の場合は除く),誘因(例,寒冷)の回避,薬剤の中止などがある。

溶血性貧血の概要も参照のこと。)

自己免疫性溶血性貧血の病因

自己免疫性溶血性貧血は赤血球に対する外因性障害によって生じる。

温式抗体による溶血性貧血

温式抗体による溶血性貧血は最も一般的な種類の自己免疫性溶血性貧血(AIHA)である;女性に多くみられる。一般に,温式抗体による溶血性貧血では,37℃以上の温度で自己抗体が反応する。自己免疫性溶血性貧血は以下に分類されることがある:

一部の薬物(例,αメチルドパ,レボドパ―温式抗体による溶血性貧血を引き起こす薬剤の表を参照)は,Rh抗原に対する自己抗体の産生を刺激する(自己免疫性溶血性貧血のαメチルドパ型)。他にも一過性のハプテン機序の一環として,抗菌薬赤血球膜複合体に対する自己抗体の産生を刺激する薬剤がある;ハプテンは安定であることもあれば(例,高用量ペニシリン,セファロスポリン系),不安定なこともある(例,キニジン,スルホンアミド系)。

温式抗体による溶血性貧血では,主に脾臓で溶血が生じ,この溶血は直接的な赤血球の溶解によるものではない。重度となることが多く,死に至ることもある。温式抗体による溶血性貧血では,自己抗体のほとんどがIgGである。ほとんどが汎凝集素であり,特異性に乏しい。

寒冷凝集素症

寒冷凝集素症(cold antibody diseaseとも呼ばれる)は,37℃未満の温度で反応する自己抗体により生じる。原因としては以下のものがある:

  • 特発性(通常はクローン性のB細胞に関連する)

  • 感染症,特にマイコプラズマ肺炎または伝染性単核球症(抗体はIまたはi抗原を標的としている)

  • リンパ増殖性疾患(抗体は通常,I抗原に対するもの)

感染症は急性の寒冷凝集素症を引き起こす傾向がある一方で,特発性の寒冷凝集素症(高齢成人で一般的な病型)は慢性となる傾向がある。溶血は主に肝臓および脾臓の血管外における単核食細胞系において生じる。貧血は通常軽度である(ヘモグロビン > 7.5g/dL[70.5g/L])。寒冷凝集素症でみられる自己抗体は通常IgMである。抗体の温度作動域(thermal amplitude)が抗体価より重要であり,自己抗体が赤血球と反応する温度が高いほど(すなわち正常体温に近づくほど),より重度の溶血が生じる。

発作性寒冷血色素尿症

発作性寒冷血色素尿症(PCH;ドナート-ランドシュタイナー症候群)は,寒冷凝集素症のまれな型である。PCHは小児により多い。寒冷への曝露により溶血が生じ,曝露が局所的(例,冷水を飲む,冷水で手を洗う)であっても生じることがある。低温でIgG抗体が赤血球上のP抗原と結合し,復温後に血管内溶血およびヘモグロビン尿を起こす。非特異的なウイルス性疾患の後,またはそれ以外に健康な患者で最も多く発生するが,先天性または後天性梅毒の患者に発生することもある。貧血の重症度および発症の速さは様々で,劇症型の場合もある。小児では,本症はしばしば自然治癒する。

表&コラム

自己免疫性溶血性貧血の症状と徴候

温式抗体による溶血性貧血の症状は,貧血に起因する傾向がある。本疾患が重度の場合,発熱,胸痛,失神,肝不全,または心不全を生じることがある。軽度の脾腫が典型的にみられる。

寒冷凝集素症は,急性または慢性の溶血性貧血として現れる。他の寒冷症の症状または徴候が現れることもある(例,肢端チアノーゼ,レイノー症候群,寒冷に伴う閉塞性変化)。

PCHの症状としては,背部および下肢の重度の疼痛,頭痛,嘔吐,下痢,暗褐色尿などがあるほか,肝脾腫がみられる場合もある。

自己免疫性溶血性貧血の診断

  • 末梢血塗抹標本,網状赤血球数,乳酸脱水素酵素(LDH)

  • 直接抗グロブリン試験

溶血性貧血(貧血および網状赤血球増多の存在により示唆される)がみられる場合は,全例で自己免疫性溶血性貧血を疑うべきである。末梢血塗抹検査では通常,微小球状赤血球がみられ,網状赤血球数が高値となり,破砕赤血球はわずかであるか一切みられず,血管外溶血が示唆される。臨床検査では典型的に,溶血が示唆される(例,LDHおよび間接ビリルビン高値)。極度の網状赤血球増多により,平均赤血球容積(MCV)が高値となることがある。網状赤血球数低値の状況での溶血性貧血は,まれながら起こることがあり,重症であることを示唆する。

自己免疫性溶血性貧血は,直接抗グロブリン試験(直接クームス試験)で自己抗体が検出されることで診断される。患者から採取した洗浄赤血球に抗グロブリン血清を添加する;凝集すれば赤血球に結合した免疫グロブリンまたは補体(C)の存在を示す。温式抗体による溶血性貧血では,ほぼ必ずIgGが存在し,C3(C3bおよびC3d)も同様に存在する。寒冷凝集素症では,C3が存在する一方で,IgGは通常認められない。この検査の自己免疫性溶血性貧血に対する感度は98%以上であるが,抗体濃度が非常に低い場合や,まれであるが自己抗体がIgAまたはIgMである場合には,偽陰性となることがある。温式抗体による溶血性貧血の症例のほとんどで,抗体は汎凝集素としてのみ同定されるIgGであり,これは抗体の抗原特異性が判定できないことを意味する。寒冷凝集素症では通常,抗体が赤血球表面上のI/i炭水化物抗原に対するIgMである。抗体価の測定は通常は可能であるが,常に疾患活動性と相関するわけではない。直接抗グロブリン試験(直接クームス試験)は自己免疫性溶血性貧血でなくとも陽性となる場合があるため,適切な臨床状況でのみ検査をオーダーすべきである。直接抗グロブリン試験での偽陽性は,臨床的に重要でない抗体の存在により生じる。

間接抗グロブリン試験(間接クームス試験)は,補完的な検査であり,患者の血漿に正常赤血球を混合し,このような抗体が血漿中に遊離していないかを判定する。間接抗グロブリン試験が陽性で直接抗グロブリン試験が陰性の場合は,一般に免疫性溶血よりも妊娠,過去の輸血,またはレクチン交差反応により生じた同種抗体を示す。健康供血者でも1万人に1人がクームス試験で陽性となるため,温式抗体が同定されても溶血とは断定できない。

直接抗グロブリン試験(直接クームス試験)

直接クームス試験は,赤血球に結合した抗体(IgG)または補体(C3)が赤血球膜上に存在するかどうかを判定するために用いられる。患者の赤血球にヒトIgGおよびC3に対する抗体を加えてインキュベートする。IgGまたはC3が赤血球膜に結合していれば,凝集が起き,陽性と判定する。陽性判定により,赤血球に対する自己抗体(患者が過去3カ月以内に輸血を受けていない場合),輸血された赤血球に対する同種抗体(通常は急性型または遅延型の溶血反応でみられる),または薬剤依存性もしくは薬剤誘発性の抗赤血球抗体の存在を示唆される。

間接抗グロブリン試験(間接クームス試験)

間接抗グロブリン試験(間接クームス試験)は,患者血清中の赤血球に対するIgG抗体を検出するために用いる。患者血清を赤血球試薬とともにインキュベートした後,クームス血清(ヒトIgGに対する抗体,すなわちヒト抗IgG抗体)を添加する。凝集が生じる場合は,赤血球に対するIgG抗体(自己抗体または同種抗体)が存在する。この試験は同種抗体に対する特異性を判定するためにも用いられる。

抗グロブリン試験で自己免疫性溶血性貧血が同定された場合は,温式抗体による溶血性貧血に関与している機序に加え,温式抗体による溶血性貧血と寒冷凝集素症を鑑別する検査を行うべきである。この判定は,多くの場合,直接抗グロブリン反応のパターンを観察することにより可能である。以下の3パターンの可能性がある:

  • 反応が抗IgG抗体で陽性,抗C3抗体で陰性である。このパターンは,特発性AIHAおよび薬物関連またはαメチルドパ型のAIHA(通常は温式抗体による溶血性貧血)で多くみられる。

  • 反応が抗IgG抗体および抗C3抗体で陽性である。このパターンは,全身性エリテマトーデス(SLE)および特発性AIHA(通常は温式抗体による溶血性貧血)の患者に多く,薬物関連のAIHA症例ではまれである。

  • 反応が抗C3抗体で陽性,抗IgG抗体で陰性である。このパターンは,寒冷凝集素症(抗体はほとんどの場合IgM)でみられる。低親和性IgG抗体型温式抗体による溶血性貧血,一部の薬剤関連の症例,およびPCHでもみられる。

その他の検査でAIHAの原因が示唆されることがあるが,確定的ではない。寒冷凝集素症では,末梢血塗抹標本で赤血球が凝集し,自動血算では平均赤血球容積増加とこのような凝集による疑似的なヘモグロビン低値がしばしばみられる;試験管を手で温めて再度計数すると,かなり正常値に近くなる。直接抗グロブリン試験が陽性となる温度によって,温式抗体による溶血性貧血と寒冷凝集素症を鑑別できることが多い;37℃以上の温度で陽性となる場合は,温式抗体による溶血性貧血を示す一方で,これより低い温度で陽性となる場合は,寒冷凝集素症を示す。

発作性寒冷血色素尿症(PCH)が疑われる場合は,PCHに対して特異度が高いドナート-ランドシュタイナー試験を実施すべきである。この試験では,補体結合を可能にするため患者血清を正常赤血球とともに4°Cで30分間インキュベートし,その後体温まで加温する。この試験中に赤血球の溶血がみられれば,PCHが示唆される。PCHの抗体は低温で補体と結合するため,直接抗グロブリン試験(直接クームス試験)ではC3抗体陽性およびIgG抗体陰性となる。しかし,PCHの抗体はP抗原に対するIgGである。

自己免疫性溶血性貧血の治療

  • 生命を脅かす重度の貧血に対しては,輸血

  • 薬物誘発性の温式抗体による溶血性貧血に対しては,薬剤の中止のほか,ときに免疫グロブリン静注療法

  • 特発性の温式抗体による溶血性貧血に対しては,コルチコステロイド,および難治例ではリツキシマブ,免疫グロブリン静注療法,または脾臓摘出

  • 寒冷凝集素症に対しては,寒冷刺激の回避および基礎疾患の治療

  • PCHに対しては,寒冷刺激の回避,免疫抑制薬,および該当する場合は梅毒の治療。小児では,本症はしばしば自然治癒する

生命を脅かす重度の貧血が生じ,症状のある患者に対しては,輸血が最重要の治療法である。この状況では,決して「適合する」製剤がないことを理由に輸血を差し控えてはならない。一般的に,過去に輸血を受けていない患者または妊娠したことがない患者は,ABO適合血液の溶血リスクが低い。輸血された赤血球が溶血を起こした場合でも,より根治的な治療法が実施できるようになるまで,輸血を行うことで救命につながる可能性がある。

治療法は溶血の具体的な機序により異なる。

温式抗体による溶血性貧血

薬物誘発性の温式抗体による溶血性貧血では,薬剤の中止により溶血速度が低下する。αメチルドパ型AIHAでは,通常3週間以内に溶血が消失する;ただし,抗グロブリン試験陽性が1年を超えて持続することがある。ハプテン媒介性のAIHAでは,起因薬物が血漿から除去されると溶血が消失する。二次治療としては,コルチコステロイドおよび/または免疫グロブリン静注療法が選択できる。

特発性の温式抗体によるAIHAでは,コルチコステロイド(例,プレドニゾン1mg/kg,経口,1日1回)が標準的な第1選択の治療法である。赤血球の数値が安定した時点で,溶血の検査所見(例,ヘモグロビンおよび網状赤血球数)をモニタリングしながらコルチコステロイドをゆっくりと漸減する。目標は,患者を完全にコルチコステロイドから離脱させるか,可能な限り低用量のコルチコステロイドで寛解を維持することである。患者の約3分の2がコルチコステロイド治療に反応する。コルチコステロイド中止後に再発した患者またはコルチコステロイドに反応しなかった患者では,通常は第2選択薬としてリツキシマブを用いる。

その他の治療法としては,追加の免疫抑制薬の使用および/または脾臓摘出がある。患者の約3分の1から半数は,脾臓摘出後に持続的な反応が得られる。

劇症性溶血の症例では,高用量でパルス投与するコルチコステロイドまたはシクロホスファミドによる免疫抑制療法を用いることがある。重度ではないがコントロール不良の溶血では,免疫グロブリン点滴により一時的なコントロールが得られている。

コルチコステロイドおよび脾臓摘出が無効であった患者では,免疫抑制薬(シクロスポリンなど)による長期管理で効果が得られている。

温式抗体による溶血性貧血における汎凝集素抗体の存在は,供血の交差適合試験を困難にする。さらに,輸血によって自己抗体に同種抗体が加わると,溶血を加速させる可能性がある。そのため,貧血が生命を脅かすほどではない場合は輸血を控えるべきであるが,重度の自己免疫性溶血性貧血患者では輸血を控えるべきではなく,特に網状赤血球数が低値の場合はなおさらである。

寒冷凝集素症

多くの症例で,症状を伴う貧血を予防するには,寒冷な環境その他の溶血の誘因を回避するだけで十分な可能性がある。

リンパ増殖性疾患に伴う症例では,治療は基礎疾患に対して行う。リツキシマブが一般的に使用され,リンパ増殖性疾患の治療に用いる化学療法レジメンが効果的となる可能性がある。

重症例では,プラズマフェレーシス(血漿交換)が効果的な一時的治療である。輸血ライン上の加温器で血液を温めて,控えめに輸血を施行すべきである。

脾臓摘出を行うメリットは通常ない。さらに免疫抑制薬の有効性はほんのわずかである。

発作性寒冷血色素尿症

発作性寒冷血色素尿症(PCH)の治療は,寒冷曝露を徹底的に避けることである。免疫抑制薬は効果が認められているが,使用は進行性または特発性症例の患者に限定すべきである。

脾臓摘出の価値はない。

随伴する梅毒を治療することで,PCHが治癒することもある。

自己免疫性溶血性貧血の要点

  • 自己免疫性溶血性貧血は,自己抗体が赤血球と反応する温度に基づいて,温式抗体による溶血性貧血と寒冷凝集素症に分類される。

  • 温式抗体による溶血性貧血では,溶血がより重度となる傾向があり,死に至ることもある。

  • 患者の赤血球に結合した免疫グロブリンおよび/または補体は,抗グロブリン血清を洗浄赤血球に添加した後に凝集が生じることにより実証される(直接抗グロブリン試験陽性)。

  • 直接抗グロブリン試験の反応パターンは,温式抗体による溶血性貧血と寒冷凝集素症の鑑別に役立つことがあり,ときに温式抗体による溶血性貧血の発症機序を同定することができる。

  • 治療は原因に対して行う(薬剤の中止,寒冷の回避,基礎疾患の治療など)。

  • 温式抗体による特発性の溶血性疾患に対する一次治療は,依然としてコルチコステロイドである。

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