グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損症

執筆者:Evan M. Braunstein, MD, PhD, Johns Hopkins University School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 9月
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グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損症は,黒人に多くみられるX連鎖性の酵素欠損症であり,急性疾患後または酸化性薬物(サリチル酸系,スルホンアミド系など)の摂取後に溶血を引き起こすことがある。診断はG6PDの測定に基づくが,急性溶血時には網状赤血球の存在によって(網状赤血球は老化した細胞と比較してG6PDが豊富)検査結果がしばしば偽陰性となる。治療は支持療法である。

溶血性貧血の概要も参照のこと。)

ヘキソースリン酸側路の障害であるG6PD欠損症は,最も一般的な赤血球代謝疾患である。G6PDの遺伝子はX染色体上に位置し,幅広い多様性(多型)を有するため,G6PD活性は正常から重度の欠損まで様々となる。病型はG6PD酵素の活性によりIからVに分類される。遺伝子がX連鎖であるため,男性の方が臨床的に有意な溶血を呈する可能性が高いものの,女性においてもホモ接合体,またはX染色体不活化の偏りがあり変異のあるX染色体の割合が高くなっているヘテロ接合体(モザイクを参照)に生じることがある。

この欠損症は,米国の黒人男性の約10%,黒人女性の10%未満に生じ,比較的頻度は低いが地中海人種の祖先をもつ人々(例,イタリア人,ギリシア人,アラブ人,スペイン・ポルトガル系ユダヤ人)およびアジアに祖先をもつ人々にも生じる。

G6PD欠損症の病態生理

G6PD欠損症があると,赤血球が酸化ストレスを受けやすくなるため,赤血球の寿命が短くなる。酸化ストレス(一般的には,発熱,急性のウイルスまたは細菌感染,および糖尿病性ケトアシドーシス)に続いて溶血が起こる。溶血は散発的で自然治癒するが,まれに酸化ストレスなしに慢性の持続的な溶血がみられることがある。

これより頻度は低いが,過酸化物を産生し,ヘモグロビンおよび赤血球膜の酸化を引き起こす薬剤や物質への曝露後に溶血がみられることもある。そのような薬物や物質としては,プリマキン,サリチル酸系,スルホンアミド系,ニトロフラン,フェナセチン,ナフタレン,一部のビタミンK誘導体,ジアフェニルスルホン,フェナゾピリジン,ナリジクス酸,メチレンブルー,一部の症例でのソラマメなどがある。溶血量はG6PD欠損症の程度および薬物の酸化能に依存する。

G6PD欠損症の症状と徴候

大半の症例では,溶血が起きる赤血球は25%未満であり,一過性の黄疸および暗色尿が生じる。一部の患者では背部痛および/または腹痛がみられる。ただし,G6PD欠損症の重症度がより高い場合,重度の溶血によりヘモグロビン尿および急性腎障害を生じることがある。

G6PD欠損症の診断

  • 末梢血塗抹標本

  • G6PDの測定

本症の診断は,急性溶血の所見がみられる患者(特に直接抗グロブリン試験陰性の溶血性貧血の男性)において考慮される(溶血性貧血の診断を参照)。溶血期に貧血,黄疸,および網状赤血球増多が生じる。

末梢血塗抹標本では,周縁を1カ所または数カ所噛み切られたように(幅1μm)見える赤血球(bite cellまたはblister cell)およびハインツ小体(変性したヘモグロビンの粒子で,特殊染色によってのみ識別できる)と呼ばれる封入体を有する赤血球がみられることがある。これらの赤血球は溶血エピソードの初期にみられることがあるが,脾臓が正常で,これらが取り除かれる患者では持続しない。

G6PDの活性を調べる検査が利用可能である。ただし,溶血エピソード中およびその直後では,老化した不完全な赤血球が破壊され,G6PDを多く含む網状赤血球が産生されるため,検査結果が偽陰性となることがある。そのため,急性事象から数週間後に再検査が必要となることがある。ポイントオブケア検査(医療現場で実施できる簡易な検査)など,スクリーニング検査がいくつか利用できる;陽性結果は定量検査で確定すべきである。

G6PD欠損症の治療

  • 誘因の回避,原因薬剤または物質の除去,および支持療法

急性溶血期の治療は支持療法である;まれに輸血を要する。溶血のきっかけとなる薬物または物質を避けるよう患者に指示する。

G6PD欠損症の要点

  • グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損症は,赤血球代謝の遺伝性疾患で最も頻度の高いものであり,誘因の存在下で溶血を引き起こすことがある。

  • 特定の民族集団(例,アフリカ系アメリカ人,地中海盆地に祖先をもつ人々,アジアに祖先をもつ人々)で発生率が高い。

  • 誘因としては,急性疾患(例,感染),薬物(例,サリチル酸系),酸化ストレスを引き起こす物質(例,ソラマメ)などがある。

  • 末梢血塗抹検査とG6PD検査を用いて診断するが,急性溶血期にはG6PD検査が偽陰性となる可能性があるため,初回のG6PD検査が陰性であっても,数週間後に再検査を行う。

  • 誘因を回避して溶血エピソードを制限する。

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