過度の出血

執筆者:Joel L. Moake, MD, Baylor College of Medicine
レビュー/改訂 2020年 3月
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いくつかの異なった徴候および症状により,異常な出血または過度の出血が示唆される場合がある。原因不明の鼻血(鼻出血),過剰または長期の月経出血(過多月経)のほか,軽度の切創,歯磨き,デンタルフロス,または外傷後の長期の出血がみられることがある。また,点状出血(小さな皮内出血または粘膜出血),紫斑(点状出血より大きい粘膜または皮膚の出血部位),斑状出血(皮下出血),または毛細血管拡張(拡張した小血管が皮膚または粘膜上に認められるようになる)といった原因不明の皮膚病変がみられることもある。一部の重症(critically ill)患者では,血管穿刺または皮膚病変からの突然の出血に加え,これらの部位から,または消化管もしくは泌尿生殖器からの重度の出血がみられることがある。患者によっては,最初の徴候が,過度の出血を起こしやすいことを示す臨床検査値異常で,偶然に発見されることがある。

過度の出血の病因

過度の出血は,以下のいくつかの機序により生じることがある(過度の出血の主な原因の表を参照):

血小板疾患では,血小板数の異常がみられるか(典型的には過度の低下,しかしながら極端な過度の上昇に過度の出血が伴うこともある),血小板機能の低下がみられるか(しばしばアスピリンやP2Y12阻害薬[例,クロピドグレル],非ステロイド系抗炎症薬[NSAID]などの薬剤に起因する),血小板数の異常と血小板機能の低下の両方がみられることがある。凝固障害は,後天性または遺伝性のいずれもありうる。

全体として,過度の出血で最も一般的な原因は以下のものである:

  • 重度の血小板減少症

  • ワルファリンヘパリン,または直接作用型経口抗凝固薬(例,アピキサバン,エドキサバン,リバーロキサバン)による過度の抗凝固療法

  • 肝疾患(凝固因子の産生が不十分)

表&コラム

過度の出血の評価

病歴

現病歴の聴取では,出血部位,出血の量および持続時間,ならびに可能性のある誘発イベントと出血との関連を明らかにすべきである。

システムレビュー(review of systems)では,自発出血以外の部位からの出血について具体的に質問すべきである(例,紫斑ができやすいと訴える患者では,頻繁な鼻出血,歯磨き時の歯肉出血,黒色便,喀血,血便または血尿について質問すべきである)。腹痛および下痢(消化管疾患),関節痛(結合組織疾患),無月経とつわり(妊娠)など,考えられる原因の症状について尋ねるべきである。

既往歴の聴取では,特に以下のような血小板または凝固の異常に関連する既知の全身疾患を確認すべきである:

薬歴の聴取では,特にヘパリンワルファリン,P2Y12阻害薬,トロンビンや第Xa因子の直接作用型経口阻害薬(例,アピキサバン,エドキサバン,リバーロキサバン),アスピリン,およびNSAIDの使用について確認すべきである。ワルファリンの投与を受けている患者には,ワルファリンの代謝を障害することでその抗凝固作用を高める他の薬剤および食物(ハーブサプリメントを含む)の摂取についても尋ねるべきである。

身体診察

バイタルサインおよび全身所見から,循環血液量減少症(頻脈,低血圧,蒼白,発汗)または感染症(発熱,頻脈,敗血症を伴う低血圧)が示唆されることがある。

皮膚および粘膜(鼻,口腔,腟)を診察して,点状出血,紫斑,および毛細血管拡張について調べる。消化管出血は,直腸指診により同定できることが多い。深部組織における出血の徴候としては,運動時の圧痛および局所の腫脹,筋肉血腫に加え,頭蓋内出血では,錯乱,項部硬直,局所神経異常,またはこれら所見の合併がある。

アルコール乱用または肝疾患の特徴的所見は,腹水,脾腫(門脈圧亢進症に続発),および黄疸である。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見は特に注意が必要である:

所見の解釈

ワルファリンを服用している患者では,ワルファリンの不活化を妨げる可能性のある薬剤または食物を最近増量また追加した場合に,特に出血を起こす可能性が高い。過度の出血の家族歴が陽性の患者における顔面,口唇,口腔または鼻粘膜,および指趾の先端の毛細血管拡張は,遺伝性出血性毛細血管拡張症を示唆している可能性が高い。

皮膚および粘膜など表層部位からの出血からは,血小板の量的もしくは質的な障害,または血管障害(例,アミロイドーシス)が示唆される。

深部組織への出血(例,関節出血,筋肉血腫,後腹膜出血)からは,凝固障害(凝血異常)が示唆される。

過度の出血の家族歴からは,遺伝性凝固障害(例,血友病),質的な血小板疾患,一種のフォン・ヴィレブランド病(VWD),または遺伝性出血性毛細血管拡張症が示唆される。ただし,既知の家族歴がないことで遺伝性の止血障害を確実に除外することはできない。

妊娠中もしくは最近分娩した患者,ショック状態の患者,または重篤な感染症患者における出血からは,播種性血管内凝固症候群(DIC)が示唆される。

発熱および消化管症状を伴う患者における血性下痢および血小板減少症からは,溶血性尿毒症症候群(HUS)が示唆されるが,これは大腸菌(Escherichia coli)O157:H7(または志賀毒素様の毒素を産生するタイプの他のE. coli)による感染を伴うことが多い。

小児では,四肢伸側に触知可能な紫斑発疹がみられ,特に発熱,多発性関節痛,または消化管症状を伴う場合,IgA血管炎が示唆される。

アルコール乱用または肝疾患が既知の患者では,凝固障害,脾腫,または血小板減少症がみられることがある。

静注薬物乱用または無防備な性的曝露の既往がある患者は,HIV感染の可能性がある。

検査

ほとんどの患者で臨床検査が必要である(各段階別の止血に関する臨床検査の表を参照)。初期検査は以下のものである:

  • 血小板数を含む血算

  • 末梢血塗抹標本

  • プロトロンビン時間(PT)および部分トロンボプラスチン時間(PTT)

スクリーニング検査では,循環血中の血小板数および血漿中の凝固経路因子を含む止血の構成因子を評価する(血液凝固経路の図を参照)。出血性疾患で特に多く頻用されるスクリーニング検査は,血小板数,PT,およびPTTである。検査結果に異常があれば,通常は特異的な検査によって,どこに異常があるかを特定できる。フィブリン分解産物の濃度を測定することで,線溶のin vivo活性化(通常はDICにおける過剰な凝固に続発)を判断する。

プロトロンビン時間(PT)では,血液凝固の外因系および共通系経路(血漿中の第VII,第X,第V因子,プロトロンビン[第II因子],およびフィブリノーゲン)における異常をスクリーニングする。PTは,検査室の標準値に対する患者のPTの比率を表す国際標準化比(INR)を用いて報告される;INRにより,検査室間における試薬の違いが調整される。市販の試薬および計測機器は大きく異なるため,各検査室では,PTおよびPTTの正常範囲を独自に設定している;PTの典型的な正常範囲は10~13秒である。INRが1.5を超えるか,検査室の標準値よりPTが3秒以上延長している場合は,通常は異常であり,さらなる評価が必要となる。INRは,様々な後天性疾患(例,ビタミンK欠乏症,肝疾患,DIC)における凝固異常のスクリーニングに有益である。経口ビタミンK拮抗薬のワルファリンを用いた治療のモニタリングにも使用される。

部分トロンボプラスチン時間(PTT)では,血漿検体を用いて内因系および共通系経路の因子(プレカリクレイン,高分子キニノーゲン,第XII,第XI,第IX,第VIII,第X,第V因子,プロトロンビン[第II因子],フィブリノーゲン)における異常をスクリーニングする。PTTでは,第VII因子(PTにより測定)および第XIII因子(第XIII因子検査により測定)を除く全ての凝固因子の欠乏が判定される。典型的な正常範囲は28~34秒である。検査結果が正常であれば,検査した血漿中に経路中の全ての凝固因子が30%以上存在することを示す。ヘパリンはPTTを延長させるため,ヘパリン療法のモニタリングにPTTがしばしば用いられる。PTTを延長させる阻害因子としては,第VIII因子に対する自己抗体(血友病および循環抗凝固因子による凝固障害も参照)やループスアンチコアグラントなどがある。後者はタンパク質-リン脂質複合体に対する抗体であり,全身性エリテマトーデスやその他の自己免疫疾患(血栓性疾患も参照)を有する患者の血漿中にみられる。

PTまたはPTTの延長は,以下を反映している可能性がある:

  • 凝固因子の欠乏

  • 凝固経路の構成因子に対する阻害因子の存在(血中におけるトロンビンまたは第Xa因子を阻害する直接作用型経口抗凝固薬の存在を含む)

PTおよびPTTは,検査した凝固因子の1つ以上が約70%欠乏していない限り延長しない。時間延長が1つ以上の凝固因子の欠乏を反映するものか,阻害因子の存在を反映するかを判定するために,患者の血漿と正常な血漿を1:1の比率で混合した後に再検査を行う。この混合により全ての凝固因子が正常値の少なくとも50%含まれるため,混合により延長がほぼ完全に改善されない場合は,患者の血漿中に阻害因子が存在することが示唆される。

出血時間検査は,臨床的な意思決定において信頼するには,再現性が不十分である。

表&コラム

初期検査で正常であれば,多くの出血性疾患が除外される。主な例外は,VWDおよび遺伝性出血性毛細血管拡張症である。VWDはよくみられる疾患であり,付随する軽度の第VIII因子の欠乏は,PTTを延長するには不十分である場合が多い。初期検査の結果が正常であるが,出血の徴候または症状および家族歴を有する患者では,血漿フォン・ヴィレブランド因子(VWF)抗原,リストセチン補因子活性(VWFの大マルチマーの間接的な検査),VWFマルチマーのパターン,および第VIII因子濃度を測定することで,VWDについて検査すべきである。

血小板減少症が認められる場合は,末梢血塗抹標本により原因が示唆されることが多い(血小板減少性疾患の末梢血所見の表を参照)。血液塗抹標本で他の異常の所見を認めない場合は,HIV感染の検査を行うべきである。HIV検査が陰性で,妊娠しておらず,かつ血小板破壊を引き起こすことが知られている薬剤を服用していない場合,免疫性血小板減少症の可能性が高い。溶血の徴候(血液塗抹標本での破砕赤血球,ヘモグロビン値低下)がみられる場合,DIC血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)または溶血性尿毒症症候群(HUS)を疑うべきであるが,ときに他の溶血性疾患によりこれらの所見が認められることがある。HUSは出血性大腸炎の患者におこる。TTPおよびHUSでは,クームス試験が陰性である。血算および末梢血塗抹標本で他の血球減少症または異常白血球が認められた場合,複数の細胞系列に影響を及ぼす血液学的異常を疑うべきであり,診断には骨髄穿刺および骨髄生検が必要である。

血小板およびPTが正常でPTTが延長している場合血友病AまたはBが示唆される。第VIIIおよびIX因子の測定が適応となる。PTTを特異的に延長する阻害因子としては,第VIII因子に対する自己抗体およびタンパク質-リン脂質複合体に対する抗体(ループスアンチコアグラント)が挙げられる。正常な血漿と1:1の比率で混合してもPTT延長が是正されない場合は,これらの阻害因子のいずれかを疑う。

血小板およびPTTが正常でPTが延長している場合,第VII因子の欠乏が示唆される。先天的な第VII因子欠乏症はまれである;ただし,第VII因子の血漿中半減期は短いため,ワルファリン抗凝固療法を開始する患者や初期の肝疾患の患者では,第VII因子の濃度は他のビタミンK依存性の凝固因子よりも急速に低下する。凝固タンパク質が産生される主要な部位としては,肝類洞内皮細胞などの内皮細胞がある。肝類洞内皮細胞は,様々な肝疾患でしばしば損傷を受ける。

血小板減少症を伴うPTおよびPTTの延長では,特に産科合併症,敗血症,悪性腫瘍,またはショックを伴う場合にDICが示唆される。Dダイマー(またはフィブリン分解産物)濃度の上昇および連続検査における血漿フィブリノーゲン濃度の低下の所見により確定する。

血小板数が正常なPTまたはPTT延長は,肝疾患またはビタミンK欠乏症に併発する場合や,ワルファリン,未分画ヘパリン,またはトロンビンや第Xa因子を阻害する直接作用型経口抗凝固薬による抗凝固療法中に認められる。肝疾患は病歴から疑われ,血清アミノトランスフェラーゼおよびビリルビン高値の所見により診断確定となる;肝炎検査が推奨される。

出血性疾患の患者では,潜在性出血を検出するために,しばしば画像検査が必要になる。例えば,重度の頭痛,頭部損傷,または意識障害のある患者では,頭部CTを施行すべきである。腹痛または他に腹腔内出血もしくは後腹膜出血に一致する所見のある患者では,腹部CTが必要である。

過度の出血の治療

  • 基礎疾患を治療する。

治療は基礎疾患に対して行う。さらに,循環血液量減少を是正すべきである。未診断の凝固障害に起因する出血の即時治療では,診断が確定するまで,全ての凝固因子を含む新鮮凍結血漿を輸注すべきである。

過度の出血の要点

  • 敗血症,ショック,または妊娠もしくは分娩の合併症を認める患者では,播種性血管内凝固症候群を疑うべきである。

  • アスピリン,P2Y12阻害薬,または非ステロイド系抗炎症薬による軽度の血小板機能異常症がよくみられる。

  • 紫斑ができやすいが,その他の臨床症状がみられず臨床検査値が正常な場合は,良性であることが多い。

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