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糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)

執筆者:

Erika F. Brutsaert

, MD, New York Medical College

レビュー/改訂 2020年 9月
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糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)は糖尿病の急性代謝性合併症で,高血糖,高ケトン血症,および代謝性アシドーシスを特徴とする。高血糖は浸透圧利尿を引き起こし,体液と電解質の有意な減少をもたらす。DKAは主に1型糖尿病で生じる。悪心,嘔吐,および腹痛を引き起こし,脳浮腫,昏睡,および死亡に進展する恐れがある。DKAの診断は,高血糖の存在下で高ケトン血症およびアニオンギャップ増大を伴う代謝性アシドーシスを検出することによる。治療は循環血液量の増量,インスリン補充,および低カリウム血症の予防である。

糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)は1型糖尿病患者に最も多く,インスリン濃度が体の基礎代謝所要量に及ばなくなったときに発生する。少数の患者ではDKAが1型糖尿病の初発症状である。インスリン欠乏には,絶対的なもの(例,外因性インスリン投与の中断中)と相対的なもの(例,生理的ストレスが高じて通常のインスリン用量が代謝必要量に満たないとき)とがある。

DKAの誘因となりうる一般的な生理的ストレスには以下のものがある:

DKAの発生に関与する薬剤の例としては以下のものがある:

  • コルチコステロイド

  • サイアザイド系利尿薬

  • 交感神経刺激薬

  • ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬

DKAは2型糖尿病ではより頻度が低いが,異常な生理的ストレス下では生じうる。Ketosis-prone type 2 diabetesは,肥満患者にときに発生する2型糖尿病の亜型で,多くの場合アフリカ系(アフリカ系アメリカ人,アフロ-カリブ系を含む)の人に発生する。Ketosis-prone type 2 diabetes(Flatbush糖尿病と呼ばれることもある)の患者は,高血糖によるβ細胞機能の障害が著しいため,有意な高血糖の発生時にDKAになる可能性がより高い。SGLT2阻害薬は,1型糖尿病および2型糖尿病の両方でDKAの発生に関与していることが確認されている。妊婦およびSGLT2阻害薬を服用している患者では,他の原因によるDKAよりも低い血糖値でDKAが発生することがある。

DKAの病態生理

インスリンが欠乏すると,生体はブドウ糖の代わりにトリグリセリドおよびアミノ酸を代謝してエネルギーを得るようになる。脂肪分解が亢進するためグリセロールや遊離脂肪酸の血清中濃度は上昇し,同様に筋肉異化によるアラニン濃度も上昇する。グリセロールおよびアラニンは肝での糖新生の基質となり,インスリンが欠乏するとグルカゴンが過剰になり糖新生を刺激する。

グルカゴンはミトコンドリアにおける遊離脂肪酸からケトン体への変換も刺激する。正常ではインスリンがミトコンドリア基質への遊離脂肪酸誘導体の輸送を抑制するため,ケトン体生成が阻害されるが,インスリンがない場合にはケトン体生成が進行する。産生される主要なケト酸であるアセト酢酸およびβヒドロキシ酪酸は, 代謝性アシドーシス 代謝性アシドーシス 代謝性アシドーシスは重炭酸イオン(HCO3)の一次性の減少で,通常は二酸化炭素分圧(Pco2)の代償性の低下を伴う;pHは著明に低下するか,またはわずかに正常範囲を下回る。代謝性アシドーシスは,血清中の未測定陰イオンの有無に基づいて高アニオンギャップまたはアニオンギャップ正常に分類される。原因には,ケトン体および乳酸の蓄積,腎不全,薬物または毒素の摂取(高アニオンギャップ),消化管または腎からのHCO3... さらに読む を引き起こす強有機酸である。アセト酢酸の代謝に由来するアセトンは血清中に蓄積し,呼吸によって緩徐に処理される。

インスリン欠乏による高血糖は,浸透圧利尿を引き起こし,尿からの水分および電解質の著明な喪失につながる。尿中へのケトン体排泄により,ナトリウムおよびカリウムがさらに喪失される。血清ナトリウム値はナトリウム利尿によって低下するか,または大量の自由水の排泄によって上昇する。カリウムも大量に失われ,ときに24時間で300mEq(24時間で300mmol)を上回る。アシドーシスに反応して細胞外へとカリウムが移動するため,体内の総カリウム量が有意に欠乏しているにもかかわらず初期の血清カリウム値は通常正常か上昇している。インスリン療法はカリウムを細胞内に移動させるため,カリウム値は一般には治療中にさらに低下する。血清カリウム値のモニタリングおよび必要に応じた補充が行われなければ,生命を脅かす 低カリウム血症 低カリウム血症 低カリウム血症とは,体内の総カリウム貯蔵量の不足またはカリウムの細胞内への異常な移動によって血清カリウム濃度が3.5mEq/L(3.5mmol/L)未満となった状態である。最も頻度の高い原因は腎臓または消化管からの過剰喪失である。臨床的特徴としては筋力低下や多尿などがあり,重度の低カリウム血症では心臓の興奮性亢進が生じることがある。診断は血清学的検査による。治療はカリウム投与および原因の管理である。... さらに読む が生じる恐れがある。

DKAの症状と徴候

糖尿病性ケトアシドーシスの症状および徴候は, 高血糖の症状 症状と徴候 糖尿病はインスリン分泌障害および様々な程度の末梢インスリン抵抗性であり,高血糖をもたらす。初期症状は高血糖に関連し,多飲,過食,多尿,および霧視などがある。晩期合併症には,血管疾患,末梢神経障害,腎症,および易感染性などがある。診断は血漿血糖測定による。治療は食事療法,運動,および血糖値を低下させる薬剤により,薬剤にはインスリン,経口血糖... さらに読む に悪心,嘔吐,および―特に小児では―腹痛が加わったものである。嗜眠や傾眠は,より重度の代償不全の症状である。患者は脱水やアシドーシスによる低血圧および頻脈を呈する場合がある;アシデミアを代償するために,患者は速く深く呼吸をする(クスマウル呼吸)。呼気中のアセトンが原因で果物のような香りのする息を呈することもある。発熱はDKA自体の徴候ではなく,発熱が存在するならば基礎に感染症があることを意味する。適時に治療が行われなければ,DKAは昏睡や死亡へと進行する。

急性脳浮腫はDKA患者の約1%に生じる合併症であり,主に小児にみられ,より頻度は低いが青年や若年成人でも認められる。一部の患者では急性脳浮腫の前兆として頭痛および意識レベルの変動を認めることもあるが,呼吸停止が初発症状である患者もいる。原因は十分に解明されていないが,血清浸透圧のあまりに急速な低下または脳虚血と関連している可能性がある。これは,5歳未満の小児でDKAが糖尿病の初発症状であるときに起こる可能性が最も高い。受診時にBUN(血中尿素窒素)が極めて高く,PaCO2が極めて低い小児は最もリスクが高いと考えられる。低ナトリウム血症の是正の遅れとDKA治療中の重炭酸の使用は,付加的な危険因子となる。

DKAの診断

  • 動脈血pH

  • 血清ケトン体

  • アニオンギャップの算出

糖尿病性ケトアシドーシスが疑われる患者では,血清電解質,血中尿素窒素(BUN)およびクレアチニン,グルコース,ケトン体,ならびに浸透圧を測定すべきである。尿中のケトン体を検査すべきである。重篤な容態の患者およびケトン体が陽性の患者では,動脈血ガス測定を行うべきである。

DKAの診断は,高血糖の存在下で,動脈血pH < 7.30かつアニオンギャップ > 12( Professional.see page アニオンギャップの算出 アニオンギャップの算出 酸塩基平衡障害は,二酸化炭素分圧(Pco2)または血清中の重炭酸イオン(HCO3)濃度が病的に変化した状態であり,その結果,典型的には動脈血のpHが異常値を示す。 アシデミアは血清pHが7.35未満の状態である。 アルカレミアは血清pHが7.45を上回ることである。 アシドーシスは酸の蓄積またはアルカリの欠乏を引き起こす生理的過程を指す。 アルカローシスはアルカリの蓄積または酸の欠乏を引き起こす生理的過程を指す。 さらに読む )であり,血清中にケトン体を認めることによる。尿糖および尿ケトン体が強陽性のときにはDKAの診断が推定される。尿試験紙や一部の血清ケトン体検査では,アセト酢酸は検出されるが,通常主要なケト酸であるβ-ヒドロキシ酪酸は検出されないため,ケトーシスの程度が過小評価されることがある。

適切な検査(例,培養,画像検査)により誘因となる疾患の症状および徴候を探索すべきである。急性心筋梗塞のスクリーニングのため,成人には心電図検査を施行し,血清カリウム値の重症度を判断材料とする。

その他の検査値異常には,低ナトリウム血症,血清クレアチニン高値,および血漿浸透圧高値などがある。高血糖は希釈性低ナトリウム血症を引き起こすことがあるため,血清血糖値が100mg/dL(5.6mmol/L)を超える場合,100mg/dL(5.6mmol/L)の上昇毎に血清Naの測定値に1.6mEq/L(1.6mmol/L)を加算することで補正する。例えば,血清ナトリウムが124mEq/L(124mmol/L)で血糖値が600mg/dL(33.3mmol/L)の患者の場合,1.6 ×([600 100]/100)= 8mEq/L(8mmol/L)であり,これを124に加算すると血清ナトリウムの補正値は132mEq/L(132mmol/L)となる。アシドーシスが是正されると,血清カリウム値も低下する。初期カリウム値4.5mEq/L(4.5mmol/L)未満は著明なカリウム欠乏を示し,迅速なカリウム補充を要する。

DKAの予後

糖尿病性ケトアシドーシスによる全死亡率は1%未満であるが,高齢者や生命を脅かす他の病態がある患者では死亡率がより高くなる。入院時のショックまたは昏睡は予後不良を示す。主な死因は,循環虚脱,低カリウム血症,および感染症である。脳浮腫を伴う小児のうち約57%は完全に回復し,21%は神経学的後遺症を残し,21%は死亡する。

DKAの治療

  • 生理食塩水の静注

  • 低カリウム血症の是正

  • インスリンの静注(血清カリウム 3.3mEq/L[3.3mmol/L]である場合)

  • まれに,炭酸水素ナトリウムの静注(治療後1時間の時点でpH < 7の場合)

血管内容量の補充

血圧を上昇させ,糸球体の灌流を確保するため,血管内容量を速やかに回復させるべきである;血管内容量が一旦回復したら,残る体内総水分量の不足はより緩徐に,通常は約24時間かけて是正する。成人での初期の補液は,通常1~3Lの生理食塩水を急速静注後,生理食塩水を1L/時,または必要に応じてそれ以上の速度で静注し,血圧上昇,高血糖の是正,十分な尿量の確保を図る。糖尿病性ケトアシドーシスの成人では,通常初めの5時間で最低3Lの生理食塩水を必要とする。血圧が安定し十分な尿量が確保されれば,生理食塩水を0.45%食塩水に切り替える。血漿血糖値が200mg/dL(11.1mmol/L)未満に低下するときは,5%ブドウ糖を含む0.45%食塩水の静注に変更すべきである。

小児の場合,水分欠乏量は60~100mL/kg体重と推定される。 小児への維持輸液 維持必要量 脱水とは体内水分量が著しく欠乏している状態のことであり,程度は様々であるが電解質も欠乏している状態である。症状および徴候として,口渇,嗜眠,粘膜の乾燥,尿量の減少,および,脱水の程度が進行するにつれて,頻脈,低血圧,ショックなどが現れる。診断は病歴と身体診察に基づく。治療は,経口または静注での水分および電解質補充により行う。... さらに読む (進行中の喪失に対する)も行わなければならない。初期の輸液療法では生理食塩水(20mL/kg)を1~2時間かけて投与し,血圧が安定し尿量が十分になった時点で,引き続き0.45%食塩水を投与する。残存する水分欠乏量は36時間かけて補充すべきであり,通常,脱水の程度に応じて約2~4mL/kg/時の速度での輸液(維持輸液も含む)を必要とする。

高血糖およびアシドーシスの補正

高血糖の補正には,レギュラーインスリン0.1単位/kgをまず静注でボーラス投与し,次に生理食塩水に混注して0.1単位/kg/時で持続静注する。インスリンは血清カリウム値が3.3mEq/L(3.3mmol/L)以上になるまで控えるべきである。静注管にインスリンが吸収されることで作用にむらがでる恐れがあるが,これは静注管にインスリン液をあらかじめ流しておくことによって最小限に抑えられる。血漿血糖値が最初の1時間で50~75mg/dL(2.8~4.2mmol/L)低下しなければ,インスリンの用量を2倍にすべきである。小児には,ボーラス投与を併用または非併用で0.1単位/kg/時以上のインスリン持続静注を行うべきである。

十分量のインスリンが投与されれば,ケトン体は数時間以内に消失し始める。しかし,ケトン体のクリアランスは遅れることがあり,これはアシドーシスが消失するにつれてβ-ヒドロキシ酪酸がアセト酢酸(大半の病院の検査室で測定される「ケトン体」である)に変換されるためである。血清のpHおよび重炭酸濃度も迅速に改善するはずであるが,血清重炭酸濃度が正常値まで回復するには24時間かかる場合がある。初期の急速輸液を開始後約1時間が経過してもpHが7を下回っている場合,重炭酸投与によるpHの急速な是正が考慮されることもあるが,重炭酸は(主に小児の)急性脳浮腫を発生させることがあるため,ルーチンに使用すべきではない。使用する場合は,50~100mEq(50~100mmol)を30~60分かけて投与することでpHのわずかな上昇を試みるべきであり(目標pHは約7.1),投与後は動脈血pHおよび血清カリウムを繰り返し測定すべきである。

成人で血漿血糖値が200mg/dL未満(11.1mmol/L未満)になったときには,5%ブドウ糖を輸液に加えて低血糖のリスクを低減すべきである。それからインスリンを0.02~0.05単位/kg/時に減量するが,レギュラーインスリンの持続静注はアニオンギャップが減少し血液および尿のケトン体が持続的に陰性となるまでは継続すべきである。インスリン補充はその後レギュラーインスリン5~10単位,4~6時間毎の皮下投与に切り替える。患者の状態が安定し食事ができるようになれば,典型的なsplit-mixed法またはbasal-bolus療法によるインスリン投与レジメンを開始する。初回のインスリン皮下投与後もインスリン静注を1~4時間継続すべきである。小児では,インスリン皮下注射が開始されpHが7.3を上回るまで0.05単位/kg/時のインスリン静注を継続すべきである。

低カリウム血症の予防

低カリウム血症の予防では,血清カリウム値を4~5mEq/L(4~5mmol/L)に維持するために輸液1Lにつき20~30mEq(20~30mmol)のカリウム補充が必要である。血清カリウム値が3.3mEq/L(3.3mmol/L)未満であれば,インスリンを中止して,血清カリウム値が3.3mEq/L(3.3mmol/L)以上になるまでカリウムを40mEq/時で投与すべきである;血清カリウム値が5mEq/L(5mmol/L)を上回ればカリウムの補充を中止できる。

初期は血清カリウム濃度が正常または上昇していることがあるが,これは細胞内貯蔵カリウムがアシデミアに反応して細胞外に移動したことを反映しており,糖尿病性ケトアシドーシス患者のほぼ全員が有する真のカリウム欠乏を隠蔽している。インスリン補充により急速にカリウムが細胞内に移動するため,治療の初期段階ではカリウム濃度を1~2時間毎に確認すべきである。

その他の対策

DKAの治療中には低リン血症がしばしば発生するが,大半の症例において,リンの補充に便益があるかは不明である。適応がある場合(例,横紋筋融解症,溶血,または神経機能の悪化がみられる場合)は,リン酸カリウム(リン1~2mmol/kg)を6~12時間かけて静注できる。リン酸カリウムを投与した場合,血清カルシウム濃度は通常低下するため,モニタリングすべきである。

脳浮腫が疑われる際の治療は,過換気,コルチコステロイド,およびマンニトールであるが,こうした処置は呼吸停止発生後はしばしば無効である。

治療に関する参考文献

DKAの要点

  • 1型糖尿病患者では,急性の生理的ストレス因子(例,感染症,心筋梗塞)がアシドーシス,グルコースの中等度上昇,脱水,およびカリウムの重度喪失を誘発する恐れがある。

  • 急性脳浮腫はまれ(約1%)であるが致死的な合併症であり,主に小児にみられ,より頻度は低いが青年や若年成人でも生じる。

  • 高血糖の存在下で,動脈血pH < 7.30でアニオンギャップ > 12であり,血清中にケトン体を認めることにより診断する。

  • アシドーシスは通常輸液およびインスリンにより是正され,治療開始後1時間の時点で著明なアシドーシス(pHが7未満)が持続している場合にのみ,重炭酸の投与を考慮する。

  • 血清カリウムが3.3mEq/L(3.3mmol/L)以上になるまでインスリンは控える。

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