経腸チューブ栄養

執筆者:David R. Thomas, MD, St. Louis University School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 7月
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消化管は機能しているものの,経口摂食できないまたはしたがらないため経口で十分な栄養素を摂取できない患者には,経腸チューブ栄養が適応となる。(栄養サポートの概要も参照のこと。)

静脈栄養と比較して,経腸栄養には以下の長所がある:

  • 消化管の構造と機能がよりよく維持される

  • 安価

  • おそらく合併症(特に感染症)がより少ない

経腸栄養の具体的な適応としては以下のものがある:

  • 長期にわたる食欲不振

  • 重度のタンパク質-エネルギー低栄養

  • 昏睡または意識障害

  • 肝不全

  • 頭部または頸部の外傷による経口摂取不能

  • 代謝ストレスを引き起こす重篤な疾患(例,熱傷)

その他の適応としては,重篤な疾患または低栄養の患者における外科手術のための術前腸管処置,腸管皮膚瘻の閉鎖,広範な腸管切除後または吸収不良を引き起こしうる疾患(例,クローン病)における小腸の腸管順応などが考えられる。

手技

経管栄養を必要とする期間が4~6週間以内であれば,シリコンまたはポリウレタン製の小口径で柔らかい経鼻胃管または経鼻腸管(例,経鼻十二指腸管)を通常は用いる。鼻腔の損傷または変形によって鼻腔への挿入が困難である場合は,経口胃管または経口腸管を留置することがある。

4~6週間を超える経管栄養には,通常は胃瘻チューブまたは空腸瘻チューブが必要になり,内視鏡的,外科的,またはX線透視下に留置する。いずれを選択するかは,医師の能力および患者の希望により決定する。

胃瘻チューブの禁忌のある患者(例,胃切除,空腸近位部の腸閉塞)には,空腸瘻チューブが有用である。しかし,空腸瘻チューブは,しばしば考えられているように,胃瘻チューブより気管気管支内への誤嚥のリスクが低いわけではない。空腸瘻チューブは抜去しやすく,通常は入院患者に限って用いる。

内視鏡下およびX線透視下での留置が利用できない,技術的に不可能,または安全でない(例,腸管がかぶさっているため)場合には,栄養チューブを外科的に留置する。開腹下または腹腔鏡下手術を使用できる。

栄養剤

経腸チューブによる栄養補給に一般的に用いられる液体栄養剤には,単一種類型および多種類型,またはその他の特別な調製の栄養剤がある。

単一種類型栄養剤は,タンパク質,脂肪,または炭水化物など1種類の栄養素を含む市販製品である。単一種類型栄養剤は,特異的な欠乏症を治療するため個々に用いることもあれば,栄養所要量を完全に満たすため,他の栄養剤と組み合わせて用いることもある。

多種類型栄養剤(ミキサーにかけた食物や,ミルクベースまたは乳糖を含まない市販栄養剤など)は購入可能であり,一般的に完全なバランス食である。経口または経管栄養では,単一種類型よりも多種類型が通常好まれる。入院患者では,乳糖を含まない栄養剤が最も一般的に用いられる多種類型栄養剤である。しかしながら,ミルクベースの栄養剤の方が乳糖を含まないものより味がよい傾向がある。乳糖不耐症患者の場合,ゆっくり持続注入することでミルクベースの栄養剤に耐えられることがある。

特別な調製の栄養剤としては,複合タンパク質の消化が困難である患者に用いる,加水分解タンパク質またはときにアミノ酸の栄養剤がある。しかし,これらの栄養剤は高価であり,通常は必要ではない。膵機能不全のほとんどの患者(酵素を投与した場合)および吸収不良のほとんどの患者は複合タンパク質を消化できる。その他の特別な調製の栄養剤(例,水分制限のある患者のための高カロリーで高タンパク質の栄養剤,便秘患者のための食物繊維の豊富な栄養剤)が役立つことがある。

投与

院内誤嚥性肺炎の発生を最小限に抑え,重力で食物の移動が促進されるようにするため,患者には経管栄養時とその後の1~2時間は30~45度の座位をとらせるべきである。

経管栄養は1日数回のボーラス投与か持続注入で投与する。ボーラス投与がより生理的であり,糖尿病患者で望ましいことがある。ボーラス投与で悪心が生じる場合は,持続注入が必要である。

ボーラス投与では,1日当たりの総量を4~6回に分け,注射器により経管注入するか,高い位置に上げたバッグから重力により注入する。投与後はチューブの詰まりを防止するために水で洗い流す。

経鼻胃管または経鼻十二指腸管による経管栄養は,最初は下痢を引き起こすことが多いため,通常は少量の希釈した製剤で開始し,耐容性に応じて増量する。ほとんどの栄養剤は1mL当たり0.5,1,または2kcalを含有している。高カロリー濃度の栄養剤(カロリー当たりの水分が少ない)は胃排出を低下させることがあり,そのため,より希釈された栄養剤を同じカロリー量で用いた場合よりも胃内残存物が多くなる可能性がある。最初は,1kcal/mLの市販栄養液を希釈せず50mL/時で与えるか,しばらく栄養補給していない場合には25mL/時で与える。通常,このような輸液剤では水分補給が十分ではない(特に嘔吐,下痢,発汗,または発熱により水分の喪失が増大している場合)。栄養チューブ経由または静注により,追加の水分をボーラス投与で補給する。数日後,カロリーおよび水分の需要を満たすため,必要に応じて速度または濃度を高めることがある。

空腸瘻チューブによる経管栄養では,さらに希釈し,より少量とする必要がある。投与は通常,濃度0.5kcal/mL以下,速度25mL/時で開始する。数日後,最終的にカロリーおよび水分の需要を満たすことを目的として,濃度および用量を増やすことができる。通常,耐えられる最大量は0.8kcal/mL,125mL/時(2400kcal/日を供給)である。

合併症

経腸チューブによる栄養補給の合併症はよくみられ,重篤になる可能性もある(経腸チューブ栄養の合併症の表を参照)。

表&コラム

経腸チューブ栄養の要点

  • 消化管は機能しているものの,経口摂取できないまたはしたがらないため経口では十分な栄養素を摂取できない患者では,経腸チューブ栄養を考慮する。

  • 経管栄養が4~6週間を超えると予測される場合,内視鏡的,外科的,もしくはX線透視下に留置する胃瘻チューブまたは空腸瘻チューブを考慮する。

  • 多種類型栄養剤が最も一般的に用いられ,通常は投与が最も容易な栄養剤である。

  • 院内誤嚥性肺炎の発生を最小限に抑え,重力で食物の移動が促進されるようにするため,経管栄養中とその後の1~2時間は患者を30~45度の座位に保つ。

  • 経管栄養の合併症(例,チューブ関連,栄養剤関連,誤嚥)がないか,定期的に患者を確認する。

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