ビタミンA欠乏症

(レチノール欠乏症)

執筆者:Larry E. Johnson, MD, PhD, University of Arkansas for Medical Sciences
レビュー/改訂 2020年 11月
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ビタミンA欠乏症は,不十分な摂取,脂肪吸収不良,または肝疾患によって起こることがある。欠乏症により免疫および造血が障害され,発疹および典型的な眼への影響(例,眼球乾燥症,夜盲症)が生じる。診断は,典型的な眼所見およびビタミンA低値に基づく。治療はビタミンAの経口投与によるが,症状が重度であるか吸収不良が原因である場合は,静注で投与する。

ビタミンAは,網膜の光受容色素であるロドプシンの生成に必要である(ビタミンの供給源,機能,および作用の表を参照)。ビタミンAは,上皮組織の維持を助け,ライソゾームの安定性および糖タンパク質の合成に重要である。

プリフォームビタミンAの食物由来の供給源としては,魚の肝油,レバー,卵黄,バター,ビタミンA強化乳製品などがある。β‐カロテンおよび他のビタミン前駆物質であるカロテノイド(緑色葉野菜および黄色野菜,ニンジン,ならびに濃いまたは鮮やかな色の果物に含まれる)がビタミンAに変換される。カロテノイドは,野菜を調理するかまたは細かく砕いて,多少の脂肪(例,油)とともに摂取した場合に,よりよく吸収される。正常では,肝臓が体内のビタミンAの80~90%を貯蔵している。ビタミンAを利用するために,身体はビタミンAをプレアルブミン(トランスサイレチン)やレチノール結合タンパク質と結合させて循環系へ放出する。

レチノール活性当量(RAE)は,ビタミンA前駆物質であるカロテノイドのビタミンA活性がプリフォームビタミンAよりも低いために開発されたものであり,1μgレチノール = 3.33単位である。

合成ビタミン誘導体(レチノイド)の利用が皮膚科領域で増えつつある。一部の上皮性悪性腫瘍に対するβ‐カロテン,レチノール,およびレチノイドの防御的な役割の可能性について,研究が行われている。しかし,β‐カロテン補給後に特定のがんのリスクが増大する可能性がある。

ビタミンの概要も参照のこと。)

ビタミンA欠乏症の病因

原発性ビタミンA欠乏症は通常,以下によって起こる:

  • 食事における長期の欠如

これは南アジアや東アジアなど,米(β‐カロテンを欠く)を主食とする地域に特有のものである。原発性欠乏症による眼球乾燥症は,発展途上国の幼児が失明する一般的な原因である。

二次性ビタミンA欠乏症は以下に起因することがある:

  • ビタミンA前駆物質であるカロテノイドの生物学的利用能低下

  • ビタミンAの吸収,貯蔵,または輸送の阻害

セリアック病嚢胞性線維症膵機能不全十二指腸バイパス,慢性下痢胆管閉塞ジアルジア症,および肝硬変で,吸収または貯蔵が妨げられる可能性が高い。ビタミンA欠乏症は長期間のタンパク質-エネルギー低栄養でよくみられるが,これは食物にビタミンAが不足しているためのみならず,ビタミンAの貯蔵および輸送に障害が生じるためである。

ビタミンA欠乏症の症状と徴候

夜盲症に至ることのある眼の暗順応障害が,ビタミンA欠乏症の初期症状の1つである。眼球乾燥症(ほぼ特有の所見)が眼の角化により起こる。これは結膜および角膜の乾燥(乾燥症)と肥厚を伴う。上皮組織片および外気に曝された眼球結膜上の分泌物から成る表層性の泡状斑(ビトー斑)が出現する。進行した欠乏症では,角膜はもやがかかったようになり,びらんを生じることがあり,角膜の破壊(角膜軟化症)に至る可能性がある。

皮膚の角化ならびに気道,消化管,および尿路の粘膜の角化が起こることがある。皮膚の乾燥,鱗屑,および毛包の肥厚,ならびに気道感染が起こる可能性がある。

一般に免疫が損なわれる。

患者が若いほど,ビタミンA欠乏症の影響はより重度である。小児では,発育遅滞および感染症がよくみられる。重度のビタミンA欠乏症の小児では,死亡率が50%を超える可能性がある。

ビタミンA欠乏症の診断

  • 血清レチノール値,臨床的評価,およびビタミンAに対する反応

眼所見によりビタミンA欠乏症が示唆される。他の疾患(例,亜鉛欠乏症,網膜色素変性,重度の屈折異常,白内障,糖尿病網膜症)で暗順応が障害されることがある。暗順応が障害されている場合,杆状体暗点視野測定(rod scotometry)および網膜電図検査を行って,ビタミンA欠乏症が原因かどうか判定する。

レチノールの血清中濃度を測定する。正常範囲は,28~86μg/dL(1~3μmol/L)である。しかし,肝臓がビタミンAを多量に貯蔵しているため,濃度は欠乏症が進行した後にのみ減少する。また,急性感染症(レチノール結合タンパク質およびトランスサイレチン[プレアルブミンとも呼ばれる]の濃度を一時的に低下させる)によって濃度が低下することもある。

ビタミンAによる試験的治療が診断の確定に役立つことがある。

ビタミンA欠乏症の予防

食事には濃い緑色の葉野菜,濃いまたは鮮やかな色の果物(例,パパイヤ,オレンジ),ニンジン,および黄色野菜(例,カボチャ,パンプキン)を含めるべきである。ビタミンAを強化した牛乳やシリアル類,レバー,卵黄,および魚の肝油が役立つ。カロテノイドは,多少の食物脂肪とともに摂取するとよりよく吸収される。牛乳アレルギーを乳児に疑う場合,十分なビタミンAを人工栄養で与えるべきである。

発展途上国では,1~5歳の全ての小児に油状のレチノールパルミチン酸エステル200,000単位(60,000RAE[レチノール活性当量])を6カ月毎に経口にて予防的に補給することが推奨される;6カ月未満の乳児には50,000単位(15,000RAE)の単回投与,6~12カ月の乳児には100,000単位(30,000RAE)の単回投与が可能である。

ビタミンA欠乏症の治療

  • レチノールパルミチン酸エステル

食事によるビタミンA欠乏症は,従来より油状のレチノールパルミチン酸エステル60,000単位を1日1回2日間経口投与し,その後4500単位を1日1回経口投与して治療する。嘔吐または吸収不良がある場合,または眼球乾燥症の可能性がある場合は,6カ月未満の乳児には50,000単位,6~12カ月の乳児には100,000単位,または12カ月を超えた小児および成人には200,000単位を2日間投与し,少なくとも2週以上経過後に3度目の投与を行うべきである。麻疹の合併症のある乳児および小児に対して同じ用量が推奨される。

ビタミンA欠乏症は重度の麻疹の危険因子である;ビタミンAによる治療を行うことで,疾患の期間を短縮でき,症状の重症度および死亡リスクが下がる可能性がある。全ての麻疹の患児に,ビタミンAを24時間の間隔を置いて2回投与すること(生後12カ月未満の小児には100,000単位,生後12カ月を超える小児には200,000単位)が推奨されている(WHO: Measles Fact Sheetも参照)。

HIV陽性の母親から生まれた乳児には,生後48時間以内に50,000単位(15,000RAE)を投与すべきである。長期にわたる大量の連日投与は,特に乳児に対しては,中毒が生じる可能性があるため避ける必要がある。

妊婦または授乳婦に対しては,胎児または乳児に対する障害の可能性を避けるため,予防または治療用量は10,000単位(3000RAE)/日を超えてはならない。

ビタミンA欠乏症の要点

  • ビタミンA欠乏症は通常,米(β-カロテンを欠く)を主食とする地域で発生するような食事における欠乏に起因するが,ビタミンAの吸収,貯蔵,または輸送を阻害する疾患の結果生じることもある。

  • 眼所見には,夜間視力の障害(早期),結膜沈着物,角膜軟化症などがある。

  • 重度の欠乏症の小児では,成長が遅延し,感染症のリスクが増大する。

  • 眼所見および血清レチノール値に基づいて診断する。

  • レチノールパルミチン酸エステルにより治療する。

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