病気不安症は,重篤な疾患に罹患している,または罹患しつつあるという,とらわれと恐怖である。徹底的な医学的評価を行った上で安心させたにもかかわらず,恐怖および症状(あれば)が6カ月以上持続する場合に,診断が確定する。治療では,一貫した支持的な医師患者関係を確立する;認知行動療法とセロトニン再取り込み阻害薬が役立つことがある。
(身体化の概要も参照のこと。)
病気不安症(かつては心気症[hypochondriasis]と呼ばれていたが,この用語には蔑視的な意味も含まれうることから現在では使用されていない)は,多くの場合,成人期早期に発症し,男女間で同等に生じるようである。
患者の恐怖は,病的でない身体症状または正常な身体機能(例,腹鳴,腹部膨満および痙攣様の不快感,心拍の自覚,発汗)の誤解に由来することがある。
病気不安症の症状と徴候
病気不安症の患者は,自分は病気である,あるいは病気になろうとしているかもしれないという考えにとらわれているため,そうした病気不安によって社会的および職業的機能が損なわれたり,著しい苦痛が引き起こされたりする。患者は身体症状を有することもあれば,そうでないこともあるが,症状がある場合,患者の懸念は症状自体よりも,その症状がもちうる意味に対する心配の方が大きい。
自ら観察を繰り返す患者もいる(例,鏡で喉を見る,皮膚に病変がないか確認する)。患者は新たに生じた体性感覚に対し,すぐさま不安を覚える。頻繁に医療機関を受診する患者もいれば(医療を求める病型),医療を求めることがまれな患者もいる(医療を避ける病型)。
経過はしばしば慢性で,変動がみられる場合もあれば,一定している場合もある。回復する患者もいる。
病気不安症の診断
臨床的評価
病気不安症の診断は,以下を含むDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition(DSM-5)の基準に基づいて臨床的に行う:
患者に重篤な疾患の罹患または発症に関するとらわれが認められる。
身体症状はないか,あっても最小限である。
健康に関して強い不安を抱いており,個人的な健康問題について些細なことで警戒する。
健康状態を繰り返しチェックしているか,不適応的に受診の予約や来院を避けている。
6カ月以上にわたり病気に関するとらわれが認められるが,その期間中に恐れている具体的な病気が変化することがある。
うつ病または別の精神障害では十分に説明できない。
顕著な身体症状が認められ,かつ主要な懸念の対象が症状自体である患者は,身体症状症と診断される。
病気不安症の治療
ときにセロトニン再取り込み阻害薬または認知行動療法
思いやりがあり安心させてくれる医師と信頼関係を構築することが,患者にとって有益となりうる。症状が十分に軽減されない場合は,プライマリケア医による診療を継続しつつ,精神科医に紹介することが,患者にとって有益となりうる。
認知行動療法とともに,セロトニン再取り込み阻害薬による治療が役立つ場合がある。