物質関連障害群には,脳内報酬系を直接活性化する薬物が関与する。報酬系が活性化されると,典型的には快感が生じるが,具体的にどのような快感が誘発されるかは,薬物に応じて広い幅がある。このような薬物は,薬理学的機序の差異(全く別とは言えない)に基づき10のクラスに分類される。該当する薬物クラスとしては以下のものがある:
カフェイン
吸入剤(揮発性炭化水素[例,塗料用シンナー,特定の接着剤])
オピオイド(例,フェンタニル,モルヒネ,オキシコドン)
鎮静薬,睡眠薬,抗不安薬(例,ロラゼパム,セコバルビタール)
その他(例,タンパク質同化ステロイド)
この分類は薬物が合法(例,アルコール,カフェイン),違法(例,幻覚剤),または処方により利用可能(例,モルヒネ,ロラゼパム)であるかどうかに基づくものではない。これらの薬物およびその作用に関する具体的な詳細は,本マニュアルの別の箇所で考察されている。
「麻薬」という用語は法令用語であり,俗称である。元は,この用語は昏睡(無感覚または昏迷)を引き起こす薬物,特にオピオイド薬(例,アヘン,アヘン誘導体)を指していた。しかしながら,この用語は現在全く一貫性のない形で使用されているため(例,米国政府は刺激薬のコカインを麻薬として分類している),科学的または医学的意味はほとんどない。
物質関連障害群の分類
物質関連障害群は典型的に以下のように分類される:
物質誘発性障害は薬物の直接的な影響に関するもので,典型的には以下のものがある:
物質使用障害は,物質の使用に関連する重大な問題を体験しているにもかかわらず,患者がその物質を使用し続ける病的な行動パターンをいう。脳内神経回路の変化などの生理学的臨床像が認められることもある。「嗜癖」,「乱用」,「依存」といった一般的用語は定義があまりに曖昧かつ多様であるため,系統的診断にはあまり有用ではない;「物質使用障害」はより包括的であり,否定的な意味合いが少ない。
10のクラスの薬物が物質使用障害を引き起こす可能性は様々である。その可能性は嗜癖傾向(addiction liability)と呼ばれており,以下の因子の組合せにより異なる:
投与経路
薬物が血液脳関門を通過し,報酬経路を刺激する速度
作用発現までの時間
耐性および/または離脱症状を誘発する能力
指定薬物
米国では,1970年の包括的薬物乱用防止・管理法(Comprehensive Drug Abuse Prevention and Control Act)とその後の改正により,特定の薬物クラス(規制物質―規制物質の例の表を参照)について身体的安全性と厳密な記録管理の保持を製薬業界に義務づけている。規制物質は,乱用の潜在的可能性,承認された医学的用途,そして医学的監督下で認められた安全性に基づいて5つの細目(またはクラス)に分けられる。この細目分類により物質の管理方法が決定される。
細目I:これらの物質は高い嗜癖傾向を有しており,医学的使用が承認されておらず,安全性も認められていないものである。これらは政府の認可した研究条件下でのみ使用可能である。
細目II~IV:これらの薬物は,細目IIから細目IVに進むにつれて嗜癖傾向が低くなる。これらは医学的使用が承認されている。これらの薬物の処方箋には,医師の連邦麻薬取締局(DEA)免許番号を明記する必要がある。
細目V:これらの物質は嗜癖傾向が最も低い。細目Vの一部の薬物には処方箋の必要がない。
州の細目は連邦の細目と異なる場合がある。