骨髄炎の病因
骨髄炎は以下によって生じる:
血液由来の微生物(血行性骨髄炎)
開放創(汚染された開放骨折または骨の手術による)
外傷,虚血,および異物が骨髄炎の素因となる。骨髄炎は,深い 褥瘡 褥瘡 褥瘡(pressure ulcer)とは,骨突出部と体外の硬い表面の間で軟部組織が圧迫された領域に生じる壊死および潰瘍である。持続的な機械的圧迫に摩擦,ずれ力,湿潤が組み合わさって生じる。危険因子としては,年齢65歳以上,循環および組織灌流の障害,体動不能,低栄養,感覚低下,失禁などがある。重症度としては,圧迫しても消退しない皮膚の紅斑か... さらに読む の下に生じることがある。
隣接する感染組織または開放創からの連続的な進展
骨髄炎の約80%は隣接する感染組織または開放創からの連続的な進展に起因するが,複数菌によることが多い。50%以上の患者で 黄色ブドウ球菌 ブドウ球菌感染症 ブドウ球菌はグラム陽性好気性細菌である。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は最も病原性が強く,典型的には皮膚感染症を引き起こすほか,ときに肺炎,心内膜炎,骨髄炎を引き起こすこともある。一般的には膿瘍形成につながる。一部の菌株は,胃腸炎,熱傷様皮膚症候群,および毒素性ショック症候群を引き起こす毒素を産生する。診断はグラム染色と培養による。治療には通常,ペニシリナーゼ抵抗性β-ラクタム系薬剤を使用する... さらに読む (メチシリン感受性株およびメチシリン耐性株を含む)がみられ,その他の一般的な細菌としては,レンサ球菌,グラム陰性腸内細菌,嫌気性細菌などがある。
隣接部位からの進展に起因する骨髄炎は,足(糖尿病 感染症 糖尿病患者における長年にわたるコントロール不良の高血糖は,複数の合併症をもたらすが,主なものは血管性の合併症であり,小径血管(微小血管性),大径血管(大血管性),またはその両方が侵される。 血管障害の発生機序としては,以下のものがある: 血清タンパク質および組織タンパク質の糖付加(終末糖化産物の形成を伴う) 超酸化物産生 血管透過性を亢進させ,内皮機能障害を引き起こすシグナル分子であるプロテインキナーゼCの活性化 さらに読む 患者または 末梢血管疾患 末梢動脈疾患 末梢動脈疾患(PAD)とは,虚血を引き起こす四肢(ほぼ常に下肢)の動脈硬化症である。軽度のPADは無症状のこともあれば,間欠性跛行を引き起こすこともあり,重度のPADは安静時痛とそれに随伴する皮膚萎縮,脱毛,チアノーゼ,虚血性潰瘍,壊疽を引き起こすことがある。診断は病歴聴取,身体診察,および足関節上腕血圧比の測定による。軽度のPADに対する治療法としては,危険因子の是正,運動,抗血小板薬,症状に応じたシロスタゾールや,ときにペントキシフ... さらに読む 患者),外傷および手術中に骨が穿通された部位,放射線療法によって損傷した部位,ならびに股関節および仙骨など褥瘡に隣接する骨によくみられる。副鼻腔,歯肉,または歯の感染が頭蓋に拡がることがある。
血行性に拡大する骨髄炎
血行性に拡大する骨髄炎は,通常は単一の微生物に起因する。小児ではグラム陽性細菌が最もよくみられ,通常は脛骨,大腿骨,または上腕骨の骨幹端を侵す。成人では,血行性に拡大する骨髄炎は通常脊椎を侵す。成人における危険因子は,高齢,衰弱, 血液透析 血液透析 血液透析では,患者の血液をポンプで血液透析器に送り込むが,透析器は中空糸でできた細管の束またはサンドイッチ状に平行に挟んだ半透膜シートで構成される2つの液体コンパートメントを有する。いずれの構造においても,第1のコンパートメントの血液は半透膜の片側に沿ってポンプで送られ,膜を隔てた他方では電解質輸液(透析液)が別個のコンパートメントで血液とは反対方向にポンプで送られる。(その他の腎代替療法[RRT]については,... さらに読む , 鎌状赤血球症 鎌状赤血球症 鎌状赤血球症( 異常ヘモグロビン症)は,ほぼ黒人だけに生じる慢性溶血性貧血である。ヘモグロビンS遺伝子がホモ接合性に遺伝することによって生じる。鎌状の赤血球は血管の閉塞を引き起こし,溶血を起こしやすいことから,重度の疼痛発作,臓器虚血,および他の全身性合併症につながる。急性増悪(クリーゼ)が頻繁に起こることがある。感染症,骨髄無形成,または肺病変(急性胸部症候群)を急性発症し,死に至ることがある。貧血がみられ,通常は末梢血塗抹標本で鎌状... さらに読む ,および注射薬物の使用である。一般的な感染微生物としては以下のものがある:
高齢である,衰弱している,または血液透析を受けている成人において:黄色ブドウ球菌(S. aureus)(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌[S. aureus][MRSA]が多い)およびグラム陰性腸内細菌
注射薬物使用者において:黄色ブドウ球菌(S. aureus), 緑膿菌 シュードモナス(Pseudomonas)および関連感染症 緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)とこの群のグラム陰性桿菌に属する他の菌種は日和見病原体であり,しばしば院内感染を引き起こす(特に人工呼吸器使用患者,熱傷患者,および好中球減少症または慢性衰弱のある患者において)。多くの部位に感染が起こり,通常は重症である。診断は培養による。抗菌薬の選択は起因菌により様々で,耐性がよくみられるため,感受性試験の結果に基づいて選択しなければならない。... さらに読む ,および Serratia Klebsiella,Enterobacter,およびSerratia属細菌による感染症 グラム陰性細菌であるKlebsiella, Enterobacter,およびSerratia属細菌は,互いに非常に近縁の腸内常在菌であり,正常宿主で感染症を引き起こすことはまれである。診断は培養による。治療は抗菌薬による。 Klebsiella,Enterobacter,およびSerratia属細菌による感染症は,院内感染として発生することが多く,主とし... さらに読む 属細菌
真菌および抗酸菌は血行性骨髄炎を引き起こすことがある(通常は易感染性患者または ヒストプラズマ症 ヒストプラズマ症 ヒストプラズマ症は,Histoplasma capsulatumにより引き起こされる肺および播種性感染症であり,しばしば慢性に経過し,無症状の初感染に続いて発症するのが通常である。症状は,肺炎症状または非特異的慢性疾患症状である。診断は,喀痰中もしくは組織中の菌の同定,または特異的な血清および尿中抗原検査による。治療が必要な場合は,アムホテリシンBまたはアゾール系薬剤を使用する。... さらに読む , ブラストミセス症 ブラストミセス症 ブラストミセス症は,二相性真菌であるBlastomyces dermatitidisの胞子を吸入することで発生する肺感染症であり,ときに真菌が血行性に拡大して肺外感染症を引き起こす。症状は肺炎によるものか,複数臓器(最も頻度が高いのは皮膚)への播種によるものである。診断は臨床所見,胸部X線,またはその両方により行い,検査室での真菌の同定により確定される。治療はイトラコナゾール,フルコナゾール,またはアムホテリシンBによる。... さらに読む ,もしくは コクシジオイデス症 コクシジオイデス症 コクシジオイデス症は,真菌のCoccidioides immitisおよびC. posadasiiが引き起こす肺または血行播種性感染症であり,通常は無症候性または自然に消退する良性の急性呼吸器感染症として生じる。これらの微生物は,ときに播種して他の組織に局所病変を形成する。症状がみられる場合は,下気道感染症か軽度の非特異的な播種性感染症を呈する。診断は臨床的および疫学的特徴から疑い,胸部X線,培養,および血清... さらに読む の流行地域に住む患者において)。脊椎が侵されることが多い。
骨髄炎の病態生理
骨髄炎は局所血管を閉塞する傾向があり,それが骨壊死および感染の局所的な拡がりをもたらす。骨皮質を通して感染が進展し骨膜下に拡がることがあり,皮膚を通して自然に排出されることがある皮下膿瘍の形成を伴う。
化膿性脊椎炎では,傍脊椎膿瘍または硬膜外膿瘍が発生することがある。
急性骨髄炎の治療が部分的にしか成功しない場合,軽度の慢性骨髄炎が発生する。
骨髄炎の症状と徴候
末梢骨の急性骨髄炎の患者は通常,体重減少,疲労,発熱,ならびに限局性の熱感,腫脹,発赤,および圧痛を経験する。
化膿性脊椎炎は,保存的治療に反応しない傍脊柱筋の攣縮を伴う限局性の背部痛および圧痛を引き起こす。より進行した例では,根性痛および四肢の脱力もしくはしびれを伴う脊髄または神経根の圧迫が引き起こされることがある。患者には発熱がないことが多い。
慢性骨髄炎は,間欠的な(数カ月から長年)骨痛,圧痛,および排膿を伴う瘻孔を生じる。
骨髄炎の診断
赤血球沈降速度またはC反応性タンパク(CRP)
X線,MRI,または放射性同位体による骨シンチグラフィー
骨,膿瘍,または両方の培養
(成人における化膿性脊椎炎の診断および治療に関する診療ガイドラインも参照のこと。)
限局性の末梢骨の痛み,発熱,および倦怠感がある患者または限局性で難治性の脊椎痛がある患者(特に 菌血症 菌血症 菌血症とは,血流中に細菌が存在する状態のことである。特定の組織感染を契機として,泌尿生殖器または静脈内にカテーテルを留置しているとき,あるいは歯科,消化管,泌尿生殖器,創傷などに対する処置を施行した後に,自然に発生する可能性がある。菌血症は心内膜炎などの転移性感染症を引き起こすことがある(特に心臓弁膜異常の患者で)。一過性の菌血症は無症状のことが多いが,発熱の原因となりうる。その他の症状の出現は通常,敗血症や敗血症性ショックなどのより重... さらに読む に対する最近の危険因子がある患者)では,急性骨髄炎が疑われる。
持続的な限局性の骨痛がある患者(特に危険因子を有する場合)では,慢性骨髄炎が疑われる。
骨髄炎が疑われる場合は,罹患骨の単純X線を行うだけでなく,血算および赤血球沈降速度(赤沈)またはC反応性タンパク(CRP)を測定すること。白血球増多,赤沈亢進,およびC反応性タンパク(CRP)高値は,骨髄炎の診断を裏付ける。しかし,赤沈およびC反応性タンパク(CRP)は関節リウマチなどの炎症性疾患で高値となることもあれば,病原性の低い病原体に起因する感染症では正常となることもある。したがって,これらの検査結果は,身体診察および画像検査の結果と関連させて考慮する必要がある。
X線では2~4週間後から異常がみられ,骨膜の隆起,骨破壊,軟部組織の腫脹のほか,脊椎では,椎体高の減少や感染が波及した隣接する椎間板腔の狭小化と椎間板上下の終板の破壊を認める。
X線では判断が難しい場合,または症状が急性である場合には,異常を特定して隣接する感染巣(例,傍脊椎膿瘍,硬膜外膿瘍)または感染した椎間関節を明らかにする上で,CTおよびMRIが現時点で選択すべき画像検査法である。
代わりに,テクネチウム99mを用いた放射性同位体による骨シンチグラフィーを行ってもよい。この骨シンチグラフィーは異常をX線よりも早い時期に示すが,感染,骨折,および腫瘍が区別されない。
インジウム111で標識した細胞を用いる白血球シンチグラフィーは骨シンチグラフィーでみられる感染部位をより正確に同定するために役立つことがある。
骨髄炎の至適な治療のために細菌学的診断が必要である;針穿刺または外科的切除による骨生検および膿瘍の穿刺吸引またはデブリドマンによって,培養および抗菌薬感受性試験に供する組織が得られる。瘻孔のドレナージからの培養では,必ずしも骨の病原体が明らかになるわけではない。生検および培養は,患者がショック状態または神経機能障害を呈していない限り,抗菌薬療法に先立ち行うべきである。
骨髄炎の治療
抗菌薬
膿瘍,全身症状,生じうる脊椎不安定性,または重度に壊死した骨に対する手術
抗菌薬
グラム陽性菌とグラム陰性菌の両方に対して効果がある抗菌薬を,培養を行った後に,培養および感受性試験の結果が得られるまで投与する。
急性の血行性骨髄炎に対しては,最初の抗菌薬療法に,ペニシリナーゼ抵抗性の半合成ペニシリン(例,ナフシリン[nafcillin]またはオキサシリン2gを4時間毎に静注)またはバンコマイシン1gの12時間毎の静注(地域でMRSAが蔓延している場合),および第3または第4世代セファロスポリン系薬剤(セフタジジム2gを8時間毎に静注またはセフェピム2gを12時間毎に静注など)を含めるべきである。
隣接する軟部組織の病巣から生じる慢性骨髄炎に対しては(特に糖尿病患者において),経験的な治療法はグラム陽性およびグラム陰性の好気性菌に加えて嫌気性菌に対して効果的なものでなければならない。アンピシリン/スルバクタム3gの6時間毎の静注またはピペラシリン/タゾバクタム3.375gの6時間毎の静注が一般的に用いられる;感染症が重症の場合またはMRSAが蔓延している場合はバンコマイシン1gの12時間毎の静注を追加する。抗菌薬は4~8週間,注射剤にて投与し,適切な培養の結果に合わせて調節する必要がある。
手術
何らかの全身所見(例,発熱,倦怠感,体重減少)が持続する場合または骨の広い領域が破壊されている場合,壊死組織に対し外科的なデブリドマンを行う。併存する傍脊椎膿瘍もしくは硬膜外膿瘍を排膿するため,または脊椎を安定させて外傷を予防するために手術も必要になることがある。大きな手術による欠損部を閉鎖するために皮膚移植または有茎移植が必要になることがある。広域抗菌薬を手術後3週間より長く継続すべきである。長期にわたる抗菌薬療法が必要になることがある。
骨髄炎の要点
ほとんどの骨髄炎は隣接部位からの進展または開放創に起因し,しばしば多菌性かつ/または黄色ブドウ球菌(S. aureus)を含む。
限局性の末梢骨の痛み,発熱,および倦怠感がある患者,または限局性で難治性の脊椎痛および圧痛がある患者(特に菌血症に対する最近の危険因子がある患者)では,骨髄炎を疑う。
X線上での骨髄炎の所見は発現するまでに通常は2週間以上かかるため,CTまたはMRIを行う。
最初は広域抗菌薬のレジメンで治療する。
最良の転帰を得るため,治療は骨組織の培養結果に基づいて行う。
骨髄炎についてのより詳細な情報
以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
2015 Infectious Diseases Society of America (IDSA) Clinical Practice Guidelines for the Diagnosis and Treatment of Native Vertebral Osteomyelitis (NVO) in Adults: Includes evidence and opinion-based recommendations for the diagnosis and management of patients with NVO treated with antimicrobial therapy, with or without surgical intervention
Schmitt SK.Osteomyelitis. Infect Dis Clin North Am 31(2):325-338, 2017.doi:10.1016/j.idc.2017.01.010